奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅

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奴隷商人と皇太子

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俺は動くことのが好きだ。だが、残念ながら体を動かすだけではなく頭も使わなければならないこともある。

「ねぇ、もうヤダ。」
「では、次は馬車で他の貴族の方も乗られている際は…」

もう、泣きたくなる。ウィルはこちらの弱音を平気で無視して授業を進めていく。

自分が何もマナーも知らないのが悪いけど、色々と細かすぎる。

何で?何で数センチや微弱の角度でダメなの…もう、頭が痛い。

俺の1日の午前はウィルに色々とマナーなどを教えて貰っている。いや、俺が頼んだ訳じゃないけど、知識がなさすぎて強制的に教えるのが上手いウィルが先生として任命された。

「お、今の仕草は良いですね。」
「本当に?!」
「ええ、ではもう30回繰り返しましょう。」
「…悪魔。」

ボソッと呟いたつもりだが、ウィルの表情が強張ったことで「ヒッ」と小さく悲鳴が上がる。俺はあの4人の中では、ウィルが断然、怒ると怖いと思っている。だから、今も大人しく彼の言うことを聞いている。

それから2時間経つとようやく今日の授業が終わった。疲れてソファーに背中を預けるとウィルが冷たいカフェオレを出してくれる。

「本日もお疲れ様です。」
「うん、ウィルも毎日ありがとう。」
「いえいえ、それはこちらのセリフです。」
「何で、ウィルがお礼を言うのさ。」

可笑しくて笑うと、ウィルは白色の瞳を細める。

「それは可愛らしい方と2人で居られるのだから、感謝しますよ。」
「可愛らしくはないな。でも、ウィルのこと結構好きだから褒められるのは嬉しい。」

隣に立つ彼は苦笑を浮かべる。

「空杜さんは本当に素直ですね。そこがまた魅力の一つなんですけど。」

彼も隣に腰をかけてくると真っ白な髪がなびく。耳まで伸びた横髪の中から右耳を隠すように、一束の髪が伸びで縛られている。そして、耳の後ろからは、首元まで伸びた髪が外に向かって跳ねている。

ウィルの髪型は独特だった。前世でもこの世界でも初めて見る。どうやら、この髪型が優れた頭脳を持つ資格、博士号の象徴らしい。この世界でも数名しかいないそうだ。だから、ウィルは身体を使うよりは頭を使う仕事の方が多いらしい。

「でもさ、俺、まだ護衛らしいこと何もやってないんだけど。」
「あと、3日すれば嫌でも疲れますよ。」
「そんなに、舞踏会って忙しいの?」
「ええ、常に警戒しないといけないので。」

自分が午前中にマナーなどの授業を叩き込まれているのは、この舞踏会があることも原因だった。貴族が大勢集まるため、自分の行動が主人である玲於の評判にも繋がってしまうのだ。

「そういえば、俺ってまた仮面するの?」

玲於は、何故か皇族やウィル達以外の前だと仮面をするように命じてくる。それが、決まりなのかと思っていたら別にそうではないらしい。外に出た時に他の貴族の専属騎士は普通に顔を出していた。

「すると思いますよ。普通は顔を隠すことは相手に失礼に値しますが、…まあリアム以外に皇帝陛下と皇后陛下も許してますからね。」
「それって、本来ならダメなやつじゃん。」
「ええ、でも皇族が言ったら許されちゃうんですよね。」

それって、変な奴が皇族になったらヤバいじゃん。下手したら簡単に独裁者にもなれるじゃん。

怖っ…思わず身震いをしてしまう。すると、ウィルは楽しそうに笑う。

「何?」
「いや、空杜さんの感情が豊かになったのが嬉しくて。」
「豊かって言うか隠してないだけだよ?」
「ええ、分かっていますよ。それだけ、心を開いてくれたんだなって思って嬉しいんです。」

それだけで嬉しくなるものなのだろうか?まあ、感情を読み取りやすくなるから、考えて見ると確かに有難いかも…

「空杜さんが考えていること違います。」
「え?」
「何を考えているのかは、さすがに分かりませんけど、違うとは言い切れます。」

やっぱり、怖い…、えっ、何が違うの…

彼に答えを聞きたかったが、もうすぐ昼食の時間になるため行かなければならなかった。訓練や授業以外は玲於の傍を離れる訳には行かないから。だから、気になりながらも彼と別れることになった。

♦︎

ウィルは頬杖をついて笑う。

空杜は自分に関することになると、驚く程鈍くなることがある。鋭い観察力を持つ癖に、自分に寄せられる好意だけは気付かないのだ。仮面をするように命令されるのは、彼の優れた顔を隠すためであるのに。

まあ、リアムが嫉妬する相手が増えるのは困るので、俺もこの案は賛成だ。何なら、彼以外と会う時は仮面をして欲しいレベルだ。きっと、それは他の者も思っているが、皆んな空杜さんの自由を奪いたくないため口にしないのだろう。

だって、彼にはいつだって笑っていて欲しいから。

平気で自分を犠牲にしないで、もっと命を大切にして欲しい。だから、俺たちは空杜さんにだけは特別優しくする。
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