私の親友の正体は女装ヤンデレ美青年でした

べーこ

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親友は女装男子でした

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「舞ちゃん、ハッピーバースデー!これプレゼント!カナね、舞ちゃんのために選んだんだ。ほら、早く開けて」

 今日は親友である桐ヶ谷奏に私の誕生日を祝ってもらっていた。

 場所は私の家だ。私の部屋で奏と2人きりのバースデーをしている。

 奏から可愛らしいラッピングの袋を渡される。
 ピンク色に白いドットのラッピング用の袋に包まれ、茶色いリボンで可愛く結ばれている。

 私には似合わないなと思いつつ、せっかく奏からもらったものだから丁寧にリボンを解く。

 そして、袋からは今流行りのクマのゆるキャラのぬいぐるみと袋に入った可愛いクッキーが出てきた。

 このぬいぐるみは欲しいなと思っていたけど金銭面と個人的に恥ずかしくてずっと買えずにいたものだった。

 奏の目は感想を期待している。お人形さんのように大きくて明るいヘーゼル色の瞳がキラキラと輝いている。

「どう?気に入ってくれた?」
「ありがとう。すごく嬉しい。こういうの好きだけどほらキャラじゃないからさ。自分じゃ買えなかったから嬉しいよ。ありがとう!」
「どういたしまして!舞ちゃんの喜ぶ顔が見れて嬉しいなあ」

 そう言って奏は花が綻ぶように笑う。その笑顔はお姫様みたい。本当に私とは大違いだ。

 私は「舞」という女の子らしい名前とは裏腹に性格も見た目も全く女の子らしくなかった。

 まず身長は175cmと女にしては随分と大きい。悲しいことに洋服でレディースサイズだと大抵丈や袖が足りない。そのせいで服はほとんどメンズものを選んでいる。

 体型だって筋肉質で骨張っていて女の子らしさはあまりない。高校生や中学生の時は制服のスカートから覗く脚を見られて、「男みたいな脚だな」と言われる事は日常茶飯事だった。

 靴だって足が大きすぎて選択肢は少ない上にちょっとヒールのある靴を履くとあっという間に180cmを超えてしまう。

 更に顔立ちも女性らしくなく、街を歩けば男と間違われる。髪の毛を伸ばしても似合わない事はわかりきっていたので髪は短めにしている。

 その容姿から奏と家族以外はみんな私のことを名字の「塩野」もしくは「シオ」というあだなで呼ぶ。舞と呼ばれた記憶は殆どない。

 さらに特技は運動全般で苦手なものは家庭科などをはじめとした手先を使うものだった。

 そのせいか決まって言われるのは「男だったらよかったのに」

 私もそうだったらよかったのにと思う。だけど心は間違いなく女で実は可愛いものが大好きだ。
 似合わないから着ないけどふわふわとした女の子らしいワンピースやスカートといった洋服だって憧れるし着てみたい。

 一方で奏は私の憧れる女の子そのものだった。

 身長は奏も女の子にしては大きいと思う。だけど私みたいに大きすぎるわけじゃない。170cmは間違いなくない。多分165cmくらいだろう。それくらいだったら身長が高めの女の子で全然アリだろう。

 そして華奢な身体には女の子らしいワンピースがすごく似合っている。

 今日の服だって白いレースのふわふわでお嬢様みたいなワンピースにストロベリーレッドのカーディガンを羽織っている。
 カーディガンの赤い色がアクセントになっていてショートケーキみたいに甘やかで可愛いらしい雰囲気だ。

 大きい目に、緩くウェーブしているアッシュグレーの長い髪の毛、コーラル色のリップで彩ったツヤのある唇は整った顔と相まっておとぎ話のお姫様みたい。

 性格だってすごく気が利くし、優しい。ぶっきらぼうで鈍感な私とは全然違う。

 それこそ私の憧れだ。私がなりたいと思った女の子そのものだった。

 もし男だったら私は間違いなく彼女を好きになっているだろう。それだけ魅力的な子だった。

 だけど女としての「舞」は彼女の隣にいるのが辛い時もあった。

 同じ女なのに全く違う生き物に見えてしまう。それに私が好きになった男の人はみんな奏を好きになる。

 大学でも私に声をかける男は大体が奏狙いだ。私と仲良くなった男が口を揃えて言うのは「奏ちゃんってすごく可愛いよな。紹介してくれよ」といった言葉だ。

 私も彼女の10分の1でもいいからその可愛らしさが欲しかった。そうしたらもっと女の子らしくなれたのだろうか?
 ただの醜い嫉妬とないものねだりだ。こんな優しくて可愛い子に嫉妬する自分は最低だ。


「本当、奏って可愛いな。私が男だったら絶対奏の事好きになってるよ」

 上機嫌な奏を見てつい本音がポロリとこぼれる。でも実際にすごく可憐で可愛らしい。

「本当?舞ちゃんにそう言われて嬉しいなあ。じゃあ付き合っちゃう? カナ、舞ちゃんの事だあいすき。ううん愛してる! 舞ちゃんと付き合いたい! ねっ、舞ちゃんとカナならお似合いだよ」

 そう言って奏は私に抱きついてくる。ふわりとフローラルの香水が香る。抱きしめる力が強くて苦しい。見かけによらず大分力があるみたいだ。

「奏、冗談はやめて。大体私たち女同士でしょ?」
「ふーん……じゃあ“男と女”だったらいいの?」

耳元でいつもよりワントーン低い声で囁く。いつもの高くて可愛らしい声ではない。
 どことなく剣呑な雰囲気にたじろいでしまう。今の奏の声には答えなくてはいけない圧があった。

「そりゃあもちろんだよ」
「舞、言質とったからね。うふふ。いい事教えてあげる。塩野舞の親友桐ヶ谷奏は男だよ」

 聞いたことのない少年の声が耳元で聞こえた。目の前にいるのは間違いなく奏だ。

「奏ふざけてるの?エイプリルフールは終わってるよ」
「本当だよ。確かめてみる?」

 奏は私を解放する。そして右手首をギュッと掴む。そして奏の股間に私の右手を持っていく。
 抵抗できずに為されるがままだった。そしてふわふわのスカート越しでもわかった。奏の股間には女子ではありえないふくらみが存在した。

「ひっ! 何これ!」
「わかった?塩野舞の親友の桐ヶ谷奏は男。俺と舞は男と女だ。なあ言ったとおり付き合ってくれるよな?」

 奏はニヤリと笑い唇を歪める。目だけは恋する少女のように輝いているけどその奥にはどこか仄暗い淀みが見える。

 突然の事についていけない。目の前の可愛い可愛い親友は実は男で……そして私の事が好き?そもそもなんだわざわざ女の子の格好をして私に近づいたのか?一体どういうことなのか全くもってわからない事だらけだ。

「舞はわかりやすいな。なんで女の格好しているんだって顔してる。いいよ、教えてやる。俺は欲張りなんだ。舞の親友のポジションも恋人のポジションも両方が欲しかったんだ。そしてそれは誰にも渡したくない。それに舞が男に対して少し苦手意識があるのも知ってた。多分男の姿だったら警戒すると思って女になってみたんだ。舞の理想そのものだっただろう?」

 奏の言っていることの半分も頭に入ってこない。しかもなんで私が男子が苦手なのを知っているのだろうか。
 私が男子の事が苦手なのは単純な理由だ。私を男女と言ってバカにする男が多かったのだ。
 だけどそれを話したことは奏には無かった。

「酷い!それだったら最初から女装しないで普通に近づけばよかったじゃない!奏とならどんな姿でも絶対友達になれたよ」
「馬鹿になんかしてないよ。じゃあもし俺が男の姿で近づいたら舞は友達になってくれた? いやきっと警戒して友達にすらしてくれなかった。舞と仲良くなりたくて頑張ったんだよ。本当はこんなふわふわした格好なんて大嫌いだ。スカート? 動きづらくてたまったもんじゃない。髪の毛もウィッグかぶってるけど邪魔くさくて仕方がない。だけど舞の親友っていうポジションを得るためならそれも我慢できた」

 奏の所作も男らしいものに変わる。女の子の中の女の子の奏は今や見る影もなかった。

「……」

 親友の言葉に呆然と立ち尽くす。

「俺たちって相性いいと思うんだ。カッコいい舞と可愛い俺。きっとお似合いのカップルだよ。もし舞が可愛くなりたいなら俺が全力でサポートしてやるよ」
「えっ?」
「好きな女の願いを叶えてあげたいのは当然だろう。でも可愛くなって他の男と付き合うのはナシな。そもそも他の男に惚れても無駄だよ。だって舞の好きになった男は全員俺が落とすから。今までもそうしてきたし。だから舞の恋人になれるのは俺だけだよ。安心しろ、絶対幸せにしてやるから」

 自信満々に微笑む奏は男の顔をしていた。きっと奏から私は逃げられないのだろう。
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