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BADエンドルート
帰る場所はない
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シオンの怒りを買ってから事態は悪化していくばかりだった。私はシオンに歩く力を奪われた。
私の足の機能はシオンの不思議な力で桃色の琥珀糖に変えられ、瓶に保管されている。
今の私はシオンの手を借りなければベッドから降りて歩くこともできない。
「桃さんがいい子にしていたら返してあげます。でもおいたしたらこれだけじゃ済まないですからね」
シオンは琥珀糖の入った瓶を見せびらかす。
中に入っている色とりどりのそれはシオンが私から奪ったものだ。
身体を動かすこと以外にもシオンは私から生気を奪った。
生気を奪われると身体が常に倦怠感に襲われて何もする気がなくなってしまう。
悪魔になったシオンが言うには人間の生気がシオンにとってのご飯——要するにエネルギー源らしい。
歩くことができない私は手を伸ばして見つめることしかできない。それは砂漠にいてオアシスが見えるのに辿り着けないようなものだ。
さらに自分の意にそぐわないことをすれば他の機能も奪われてしまうのだろう。
そして着せられる服も変わった。最初は可愛らしいデザインのワンピースだったが今ではランジェリーのような服しか着せてもらえない。
今日もピンク色のブラとショーツにレース素材のベビードールといった格好をさせられている。
上品なペールピンクのランジェリーは可愛らしいだけではなく着心地もいい。下着特有の締め付けもなく、サラッとした感じの着心地だ。
だけど下着しか着せてもらえないので私はここにいるしかできない。
シオンに可愛がられるだけの愛玩人形と私はなってしまった。
シオンがいない日はベッドから降りることもできない。
ベッドでできることといえば寝るか、用意された漫画や本を読むかくらいだ。
だけど監禁されていると本を読む元気もなく、家族のこと、仕事のこと、そしてこれからの事を考えて不安になる。
そのときガチャとドアを開く音がする。
開いたドアの向こうには私を監禁した悪魔がいた。
「ただいま。桃さん」
シオンは私の姿を目にすると嬉しそうに顔を綻ばせる。花が咲いたように笑うシオンは恋するとても純粋な男の子のように見える。
だけどやっている事は監禁と何ら変わりない。
「……」
私はこんなに苦しんでいるのに幸せそうに笑うシオンに腹が立ってくる。
せめてもの抵抗で私はシオンの挨拶を無視して、顔を合わせないようにうつ伏せになって枕に顔を埋める。
「ふーん。桃さん、俺のこと無視するんだ。いいよ。桃さんがそういうことするなら俺も手段選びませんので。今から桃さんのご実家にお邪魔して桃さんのご家族から桃さんに関する記憶全部食べちゃおうかな。そしたら桃さんのお父さんもお母さんもお兄さんも桃さんの存在を忘れてしまう。そうすると桃さんは本当に俺だけになっちゃいますね」
シオンの声が冷ややかなものへと変化する。声を荒げるわけじゃないけど平坦な淡々としたトーンで喋るのが逆に怖い。
「ごめんなさい! お願い! それはやめて。本当に私独りぼっちになっちゃう」
シオンの言葉に慌てた私はすぐに謝罪する。シオンなら冗談なんかではなく本当に実行するだろう。
家族に忘れられるなんてとてもではないが耐えられない。
「ごめんなさいって言えて偉いですね。でもこうやって泣きそうになって謝るくらいなら最初からやらなければいいと思いませんか?」
クスクスとシオンは冷笑を浮かべる。
そして私のいるベッドに腰掛けて私を抱き寄せる。
「ごめんなさい」
「まあいいや。ところで本題なんですけど俺の職業が職業だからせっかく桃さんと同棲しても全然時間が取れないじゃないですか」
「そうだね。それがどうしたの?」
シオンは現役高校生にしてトップアイドルのため恐ろしく多忙だ。私をここに連れ込んできてからも家を空けている時間の方が多い。
シオンは朝早く家を出て、夜遅くにいつも帰ってくる。私は寝ていて、シオンとコミュニケーションを取る機会はあまり多いとは言えなかった。
「仕事が仕事だから仕方ないんですが、せっかく桃さんと同棲してるのに一緒にいられないのって俺からしたら本末転倒なんですよ。だから桃さんとずっと一緒にいられる準備をしていたんです」
そう言ってシオンはどこからか琥珀糖の瓶を取り出す。
そこには私から奪ったであろう生気が色とりどりの琥珀糖となって詰まっている。
シオンがビンの蓋を開けると中の琥珀糖は宙へ浮かび上がる。
宙に浮かんだそれは無数の宝石が舞っているようでとても美しく現実離れした光景だった。
そしてそれはシオンの中へ吸い込まれていく。
シオンが何をしたいのかわからなくて私はその光景をぼうっと見つめている事しかできない。
「桃さんの生気のおかげで俺の魔力も強まりました。そのおかげでこんな事ができるようになりました」
シオンの手のひらの上には紫色の小さな宝石が浮かんでいる。そしてその宝石は光り輝いて人の形へと変化していく。
数秒もすると宝石はシオンに瓜二つの少年の姿になった。
「シオン……これは?」
「俺の分身ですよ。アイドルやってると桃さんと一緒にいる時間が取れないし、かと言って今から脱退するにも時間がかかるので分身にアイドル業やってもらう事にしました。俺と全く同じ能力、性格、振る舞いなのでバレる心配はありません。これで俺は桃さんとずーっと一緒にいられる。永遠に、未来永劫離さない」
身体の熱が引いていく。今までみたいにシオンのいない時間に物思いに耽ることもできなくなった。
四六時中シオンと共に過ごす。それはシオンから身も心も逃げられないのだ。帰る場所を失い、シオンに愛されて生きるしかないのだ。
私の足の機能はシオンの不思議な力で桃色の琥珀糖に変えられ、瓶に保管されている。
今の私はシオンの手を借りなければベッドから降りて歩くこともできない。
「桃さんがいい子にしていたら返してあげます。でもおいたしたらこれだけじゃ済まないですからね」
シオンは琥珀糖の入った瓶を見せびらかす。
中に入っている色とりどりのそれはシオンが私から奪ったものだ。
身体を動かすこと以外にもシオンは私から生気を奪った。
生気を奪われると身体が常に倦怠感に襲われて何もする気がなくなってしまう。
悪魔になったシオンが言うには人間の生気がシオンにとってのご飯——要するにエネルギー源らしい。
歩くことができない私は手を伸ばして見つめることしかできない。それは砂漠にいてオアシスが見えるのに辿り着けないようなものだ。
さらに自分の意にそぐわないことをすれば他の機能も奪われてしまうのだろう。
そして着せられる服も変わった。最初は可愛らしいデザインのワンピースだったが今ではランジェリーのような服しか着せてもらえない。
今日もピンク色のブラとショーツにレース素材のベビードールといった格好をさせられている。
上品なペールピンクのランジェリーは可愛らしいだけではなく着心地もいい。下着特有の締め付けもなく、サラッとした感じの着心地だ。
だけど下着しか着せてもらえないので私はここにいるしかできない。
シオンに可愛がられるだけの愛玩人形と私はなってしまった。
シオンがいない日はベッドから降りることもできない。
ベッドでできることといえば寝るか、用意された漫画や本を読むかくらいだ。
だけど監禁されていると本を読む元気もなく、家族のこと、仕事のこと、そしてこれからの事を考えて不安になる。
そのときガチャとドアを開く音がする。
開いたドアの向こうには私を監禁した悪魔がいた。
「ただいま。桃さん」
シオンは私の姿を目にすると嬉しそうに顔を綻ばせる。花が咲いたように笑うシオンは恋するとても純粋な男の子のように見える。
だけどやっている事は監禁と何ら変わりない。
「……」
私はこんなに苦しんでいるのに幸せそうに笑うシオンに腹が立ってくる。
せめてもの抵抗で私はシオンの挨拶を無視して、顔を合わせないようにうつ伏せになって枕に顔を埋める。
「ふーん。桃さん、俺のこと無視するんだ。いいよ。桃さんがそういうことするなら俺も手段選びませんので。今から桃さんのご実家にお邪魔して桃さんのご家族から桃さんに関する記憶全部食べちゃおうかな。そしたら桃さんのお父さんもお母さんもお兄さんも桃さんの存在を忘れてしまう。そうすると桃さんは本当に俺だけになっちゃいますね」
シオンの声が冷ややかなものへと変化する。声を荒げるわけじゃないけど平坦な淡々としたトーンで喋るのが逆に怖い。
「ごめんなさい! お願い! それはやめて。本当に私独りぼっちになっちゃう」
シオンの言葉に慌てた私はすぐに謝罪する。シオンなら冗談なんかではなく本当に実行するだろう。
家族に忘れられるなんてとてもではないが耐えられない。
「ごめんなさいって言えて偉いですね。でもこうやって泣きそうになって謝るくらいなら最初からやらなければいいと思いませんか?」
クスクスとシオンは冷笑を浮かべる。
そして私のいるベッドに腰掛けて私を抱き寄せる。
「ごめんなさい」
「まあいいや。ところで本題なんですけど俺の職業が職業だからせっかく桃さんと同棲しても全然時間が取れないじゃないですか」
「そうだね。それがどうしたの?」
シオンは現役高校生にしてトップアイドルのため恐ろしく多忙だ。私をここに連れ込んできてからも家を空けている時間の方が多い。
シオンは朝早く家を出て、夜遅くにいつも帰ってくる。私は寝ていて、シオンとコミュニケーションを取る機会はあまり多いとは言えなかった。
「仕事が仕事だから仕方ないんですが、せっかく桃さんと同棲してるのに一緒にいられないのって俺からしたら本末転倒なんですよ。だから桃さんとずっと一緒にいられる準備をしていたんです」
そう言ってシオンはどこからか琥珀糖の瓶を取り出す。
そこには私から奪ったであろう生気が色とりどりの琥珀糖となって詰まっている。
シオンがビンの蓋を開けると中の琥珀糖は宙へ浮かび上がる。
宙に浮かんだそれは無数の宝石が舞っているようでとても美しく現実離れした光景だった。
そしてそれはシオンの中へ吸い込まれていく。
シオンが何をしたいのかわからなくて私はその光景をぼうっと見つめている事しかできない。
「桃さんの生気のおかげで俺の魔力も強まりました。そのおかげでこんな事ができるようになりました」
シオンの手のひらの上には紫色の小さな宝石が浮かんでいる。そしてその宝石は光り輝いて人の形へと変化していく。
数秒もすると宝石はシオンに瓜二つの少年の姿になった。
「シオン……これは?」
「俺の分身ですよ。アイドルやってると桃さんと一緒にいる時間が取れないし、かと言って今から脱退するにも時間がかかるので分身にアイドル業やってもらう事にしました。俺と全く同じ能力、性格、振る舞いなのでバレる心配はありません。これで俺は桃さんとずーっと一緒にいられる。永遠に、未来永劫離さない」
身体の熱が引いていく。今までみたいにシオンのいない時間に物思いに耽ることもできなくなった。
四六時中シオンと共に過ごす。それはシオンから身も心も逃げられないのだ。帰る場所を失い、シオンに愛されて生きるしかないのだ。
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