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紫苑の独白
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「紫苑は本当にアイドル辞めてよかったの?」
桃さんはケーキ用のフルーツをカットしながら俺に問いかけてきた。
彼女は結婚してから時々俺にこう投げかけてくる。
「俺はアイドルCieloの『シオン』を守り切って、1人の男の紫苑として桃さんと一緒になれた。これは俺にとっての理想なんだよ」
この言葉に嘘一つない。俺のまず第一目標は桃さんと結ばれる事だ。なぜなら彼女のいる東京へ行くためにアイドルになったようなものだ。
しかしアイドル活動というのは思っているよりも大変で楽しかったのだ。
俺はアイドルという職業を気に入っていた。俺の考えるアイドルは理想の体現だ。アンテナを常に張りファンが求めるものを読み取って、その偶像を演じるのが俺流のアイドルだ。
もちろんアイドルの『シオン』は恋人なんかいない。『シオン』は理想の偶像だからだ。
だけど人間である紫苑は恋を諦めきれなかった。俺は恋を諦めたくなかったし、アイドルの『シオン』も守りたかったのだ。
だから桃さんと結ばれた時点でアイドルを卒業する事へ決めていたのだ。
そして無事に桃さんと結ばれた俺は芸能界を引退し、現在では総合商社に勤める普通のサラリーマンだ。
「まさか紫苑が会社勤めでしかも海外赴任するなんて思ってなかった。ヨーロッパの街は綺麗だけど言葉が通じなくてやっぱり不安かな」
「大丈夫だよ。俺がいるでしょ。マドリードの街は嫌い?」
俺はケーキに生クリームを塗りながら桃さんに聞き返す。
現在、海外赴任で俺たちはスペインで暮らしている。桃さんには内緒だがこれは俺が希望したものだ。
桃さんを独占したい俺は日本から離れて知らない地で頼れるのは俺だけにするためだ。
実際に桃さんは俺の根回しのせいで英語もスペイン語もロクに喋れるようにはなってない。
そんな桃さんが俺なしでこの街で生きていくのは難しいだろう。彼女は1人で買い物にすら行けないのだ。
でも俺は不安なのだ。
桃さんは移り気な人だ。再会した時にはコウくんに惹かれていた。それに会社の同僚である眼鏡をかけた男とも仲良くしていた。
そして男の方は間違いなく桃さんに恋していただろう。
俺たちは紆余曲折あって結婚して夫婦になった。だけどこの関係もずっと続くとは保証されない。
桃さんが違う男に恋する可能性もあるのだ。だから俺は言葉の通じない海外勤務を選択したのだ。
結婚という契約も現代では簡単に破棄できてしまう。だから桃さんを俺に依存させ、離婚など考えつかないようにするために海外赴任という選択をとった。
そもそも桃さんがいい人過ぎて不安になる。
本来ならば俺は許されない事をしたのだ。自分の想いが叶わないからって監禁した男を普通許せるはずがない。
それなのに桃さんは俺を許してくれたのだ。
桃さんと両想いなのがわかったのはラッキーだったが、警戒心がなさ過ぎる。
それに桃さんの優しさは俺はだけに向けられるわけではないのだ。
「嫌いじゃないよ。でも紫苑に迷惑かけてばかりだなって。私、未だにスペイン語どころか英語も喋れないから働けないし紫苑の負担になっているんじゃなかって」
「俺は頼られる方が好きですよ。こうやって俺の誕生日を祝ってくれるだけですごく嬉しいです。桃さんが俺の側にいてくれるのが1番俺にとっては幸せなんです」
「でもやっぱり悪いよ」
スポンジケーキが白いクリームで覆われて雪山のように見える。
我ながら完璧なナッペだ。まあ本職には敵わないだろうが。
「じゃあ桃さん、ケーキにフルーツ飾ってくれますか? こうやって桃さんと2人で誕生日を祝えるのが最高の幸せなんですよ」
「わかった」
俺は愛おしい彼女を手に入れた。桃さんは俺だけのものになったのだ。
桃さんはケーキ用のフルーツをカットしながら俺に問いかけてきた。
彼女は結婚してから時々俺にこう投げかけてくる。
「俺はアイドルCieloの『シオン』を守り切って、1人の男の紫苑として桃さんと一緒になれた。これは俺にとっての理想なんだよ」
この言葉に嘘一つない。俺のまず第一目標は桃さんと結ばれる事だ。なぜなら彼女のいる東京へ行くためにアイドルになったようなものだ。
しかしアイドル活動というのは思っているよりも大変で楽しかったのだ。
俺はアイドルという職業を気に入っていた。俺の考えるアイドルは理想の体現だ。アンテナを常に張りファンが求めるものを読み取って、その偶像を演じるのが俺流のアイドルだ。
もちろんアイドルの『シオン』は恋人なんかいない。『シオン』は理想の偶像だからだ。
だけど人間である紫苑は恋を諦めきれなかった。俺は恋を諦めたくなかったし、アイドルの『シオン』も守りたかったのだ。
だから桃さんと結ばれた時点でアイドルを卒業する事へ決めていたのだ。
そして無事に桃さんと結ばれた俺は芸能界を引退し、現在では総合商社に勤める普通のサラリーマンだ。
「まさか紫苑が会社勤めでしかも海外赴任するなんて思ってなかった。ヨーロッパの街は綺麗だけど言葉が通じなくてやっぱり不安かな」
「大丈夫だよ。俺がいるでしょ。マドリードの街は嫌い?」
俺はケーキに生クリームを塗りながら桃さんに聞き返す。
現在、海外赴任で俺たちはスペインで暮らしている。桃さんには内緒だがこれは俺が希望したものだ。
桃さんを独占したい俺は日本から離れて知らない地で頼れるのは俺だけにするためだ。
実際に桃さんは俺の根回しのせいで英語もスペイン語もロクに喋れるようにはなってない。
そんな桃さんが俺なしでこの街で生きていくのは難しいだろう。彼女は1人で買い物にすら行けないのだ。
でも俺は不安なのだ。
桃さんは移り気な人だ。再会した時にはコウくんに惹かれていた。それに会社の同僚である眼鏡をかけた男とも仲良くしていた。
そして男の方は間違いなく桃さんに恋していただろう。
俺たちは紆余曲折あって結婚して夫婦になった。だけどこの関係もずっと続くとは保証されない。
桃さんが違う男に恋する可能性もあるのだ。だから俺は言葉の通じない海外勤務を選択したのだ。
結婚という契約も現代では簡単に破棄できてしまう。だから桃さんを俺に依存させ、離婚など考えつかないようにするために海外赴任という選択をとった。
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本来ならば俺は許されない事をしたのだ。自分の想いが叶わないからって監禁した男を普通許せるはずがない。
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「嫌いじゃないよ。でも紫苑に迷惑かけてばかりだなって。私、未だにスペイン語どころか英語も喋れないから働けないし紫苑の負担になっているんじゃなかって」
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「じゃあ桃さん、ケーキにフルーツ飾ってくれますか? こうやって桃さんと2人で誕生日を祝えるのが最高の幸せなんですよ」
「わかった」
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