現役DKアイドルと契約恋人〜超人気イケメンアイドルの正体は執着ストーカー?!

べーこ

文字の大きさ
上 下
14 / 38

不穏な雲行き

しおりを挟む
 逃げるようにデートから帰ったあの日以来シオンとは会っていない。
 帰宅後は途中で帰った事への謝罪は一応した。シオンは身体大事にしてくださいねと普通通りに返してくれた。それ以来自分からシオンに連絡はしていない。シオンから連絡来ても仕事を理由に最低限の返信しかしていない。

 気まずいのはもちろんだが何よりも職場の環境が変わったことが大きい。

 事務室にある机に置いといたはずの書類が1枚足りない。今日中に提出しないといけないもので私は焦る。

「また書類が消えてる。どうしよう明日までに出さないといけないのに」

 このように書類を隠されるのは日常茶飯事になってきた。
 
 こうなったのはCieloのインタビューを担当してからだ。それ以来、私は周りから目の敵にされるようになった。特にキャリアコースを進んでいたお姉様たちからの攻撃が激しい。

 Cieloのインタビューという大仕事を私みたいなそそっかしい若手が担当したのが相当気に入らなかったようだ。

 定時直前に膨大な量の仕事を押し付けられるのは前からあったが今ではそれが日常茶飯事になっている。
 それ以外にも嫌がらせは日常的に行われている。

 仕事に必要な情報を共有してもらえないのは当たり前だし、会議の日程も教えて貰えない。
 何よりも1番くるのは Cieloの弱みを握って脅しているという根も葉もない噂を社内中に流されたことだ。
 そんな噂が流れた事によってみんな私を腫れものに触るようの態度になり、心無い社員からは陰で「弱み握って自分の実績にするとかサイテーだな」と口さがないことも言われるようになった。

 事なかれ主義の編集長は見て見ぬフリで私の労働環境はここ数日で最悪なものになった。

 そのせいで最近では終電に間に合えばいい方で、基本的に家に帰るのは午前様になっている。
 家はもう寝るのとシャワーを浴びるためだけに帰っているようなものだった。
 生活リズムも崩れて、食事も前より喉を通らなくなった。
 労働関係の悪化によって私は仕事でミスが多発するようになっていた。そしてそのミスでさらに社員に嫌われるという悪循環に陥っていた。

「熊野、なんか痩せたっつうかやつれてね?」

 周りが帰った中、必死で書類を片付けていると阿賀野君がパソコンをのぞいてくる。

「そうかな?」
「目のクマやべーし、顔色もなんか悪いぞ。あんな噂なんか気にすんなよ。熊野がCieloの弱み握ることなんて絶対にしない。俺は信じているよ」

 そう言って阿賀野君は缶コーヒーを私のデスクに置く。同期とはいえ部署が違う阿賀野君とは仕事上では関わりは少ない。
 それなのに阿賀野君は私に優しくしてくれる。

「ありがとう。少し元気出た」
「よかった。とにかく無理はするなよ」

 阿賀野君は仕事に戻ると言って去っていった。彼も書店営業のプレゼンが近くて忙しいらしい。

***

 家に戻るとシオンからLIMEが届いていた。

『お疲れ様です。桃さんは仕事どうですか? 忙しくしていないですか? 身体が資本ですので自分を大事にしてくださいね。辛い事あったら言ってくださいね。話しはいくらでも聞きますよ。なんなら会いに行きます」

 メッセージの後に可愛いスタンプでお疲れ様と送られてきた。

あのデート以来私は素っ気ない態度なのにシオンは変わらずに連絡をくれる。

 シオンの方こそ激務のはずだ。
 普段は都内有数の進学校で学業に励み、放課後はアイドルとして音楽番組に出演したり、ドラマに出演するなど飛ぶ鳥を落とす活躍だ。
 本来は私なんかに構っている暇なんか無いはずだ。それもドラマの役作りのためだけの関係性だ。こんなに優しくしてもらえるとは思っていなかった。

『ありがとう。私は大丈夫だよ。シオンの方こそドラマの撮影が佳境に入っていると聞いたよ。無理しないでね。ドラマ放送楽しみにしているよ』

 私もスタンプを送る。
 シオンは時々こうやって私の行動を見ているのかというタイミングで連絡をくれる。
 すごい偶然だ。誰かにこの気持ちを吐き出したいと思っていた。1人だとずっと考え込んで悪い方向に思考がいってしまう。
 だけど私の問題でシオンを心配させるわけにはいかないから質問には答えず、逆にこちらから質問をした。

 今のシオンは非常に順調だそうだ。
 間宮さんがいうにはドラマ撮影も順調らしい。この間電話でシオンのドラマ撮影の様子を報告されたのだ。

「シオンのドラマの撮影はとても上手くいっています。見るに耐えない酷い演技も改善されて、ちゃんと拓海を演じています。最初は契約恋人なんて役作りとはいえあまりにもリスキーなので反対しましたが、結果的にいい方向になって安心しています」

 それを聞いた瞬間に思ったのはよかったという安堵感よりもシオンとの別れが近いという寂しさだった。

 シオンのドラマ撮影は後3ヶ月くらいで終わるらしい。クランクアップが私とシオンの別れなのだ。恋人からアイドルとファンという関係に戻る。

 シオンは今まで通りにCieloとしてステージに立ち続けるだろうし、私は変わらずコウ君を推すのだろう。

 そして2度と私とシオンがプライベートで出会うことはなくなるのだ。

 思ってはいけないのに。シオンとの別れが寂しいなんて。
 でもシオンと話すのが楽しかった。一緒に出掛けてごはん食べる時間は居心地が良かった。

 社畜で友達も少ない私に定期的に連絡をくれるシオンの存在は気がつけば大きな支えになっていたのだ。シオンはいつの間にか私の心に入り込み、少しずつ私を浸食していったのだ。
 年下の、9歳も離れたアイドルの男の子に恋するなんてあまりにも馬鹿げている。

 ああ、ドラマの撮影が終わらなければいいのに。
 どうして私はこんな恋をしてしまったんだろう。

 起きていると碌でもない方向に物事を考えてしまう。それに全てをシオンに聞いてもらいたくなる。シオンの優しい言葉は今の私には麻薬のようなものだ。聴き心地のいい声で甘やかされたら私は本当にシオンを自分のものだけにしたくなる。
 アイドルはみんなのものではなくてはならない。誰か1人が独占していいものではないのだ。

 返信をした後はスマホのアラームをかけて、すぐシャワーを浴びて私は眠りについた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...