現役DKアイドルと契約恋人〜超人気イケメンアイドルの正体は執着ストーカー?!

べーこ

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シオンの過去2

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 お姉さんに再び会いたいと思った俺は行動に移すことにした。
 東京にいるお姉さんに会うには環境を変えなければどうにもならない。このままだと椿として、父の人形としてしか生きていけない。

 知恵をつけた俺は虐待の証拠をこっそりと集め、父から離れるように仕向けた。
 証拠を集めた俺は児童相談所に駆け込み、涙を流して父の所業を訴えた。
 もちろん話しは大分盛ったが、可愛らしい容姿である俺は同情を集める事に成功した。

 そしてついに父は捕まり、俺と引き離されたのだ。

 父から解放されて女装をする必要も無くなった。
 長くて鬱陶しかった髪の毛は襟足まで切った。女ものの洋服は全て捨てた。お姉さんが可愛いと褒めてくれた洋服だったけど、身体が成長していたから着られなかったし、あの頃の俺を消したかったのだ。

 父が追い求めた母の面影を俺は全て捨てた。椿から紫苑に俺は戻ったのだ。

 お姉さんがくれたぬいぐるみだけは肌身離さず持っていた。これだけは何があっても手放さなかった。

 俺は児童養護施設に引き取られて、そこで暮らすようになっていた。
 そこでの生活は悪いものではなかった。誰も暴力も振るわないし、嫌な事だって言われない。
 何よりも俺を知るものはそこにはいなかった。 

 俺は中学1年生になった。進学した事によって環境が変化した事によって俺を取り巻く状況も変わったのだ。

 進学してから俺はとても器用な人間だという事がわかった。
 少し勉強すればテストで満点は取れたし、スポーツはすぐにコツを掴んで結果を出す事ができた。
 成績は学年トップどころか全国でも上位10位以内だった。スポーツもずっと続けている同級生よりちょっと練習した俺の方が上手くできた。
 見学した部活動には熱い勧誘を受けたが部費を払う事ができずに全て断念した。それに興味も持てなかったのだ。
 ただ常に部活の助っ人を頼まれてはいた。

 何よりも俺の容姿は人を惹きつけるくらいには魅力的らしい。
 中学生になった瞬間に異性に好意を抱かれるようになった。クラスの男女から写真を撮ろうと言われ、言われるがままに応じていた。

 ある日、その写真がSNSにアップされるとバズったらしい。
 友達が紫苑すげえなって呆れたように笑っていたけど当事者の俺はあまり興味がなかったのだ。
 
 告白されるのは日常茶飯事。さらに俺と仲良くする事で生じるメリットに目をつけた同級生がわらわらと寄ってきた。
 そしてそれから俺は優等生の最上紫苑を演じるようになった。

 優等生というポジションは生きていくのに非常に重宝した。
 みんな俺の言うことは何でも信じるし、紫苑君と頼られ、慕われるのはとても気持ちがよかったのだ。
 そして学業なり、スポーツなりで結果を出すたびに浴びる賞賛の視線は嫌いではなかった。

 だけどそれは俺の心を満たす事はなかった。一瞬だけは誇らしくなるけれども満足はできない。
 美味しい料理をいくら食べてもお腹が満たされないような感覚だった。

 どれだけいい成績を取って誉められても、スポーツの大会で表彰台に登っても、たくさんの人に好かれても一瞬でその喜びは消える。

 何かが足りない。

 まるで心にぽっかりと大きな穴が空いているかのようだった。その穴から俺の満たされたという気持ちが抜けていっているみたいだ。

 どれだけ賞賛されても俺は満足出来なかった。

 何が足りないのか俺はわかりきっていた。たった1人の愛する人。俺の心を埋める事ができるのは桃さんだけだったのだ。

 彼女と離れてから俺は早すぎる初恋をしていた事に気がついた。
 そして初恋という浅くて朧げだけど覚めない夢の中に俺はまだいた。

 だけど桃さんはそこにはいない。だって東京の大学に通っている。
 桃さんはまた会えるよと言っていたがきっと会えないだろう。お姉さんが故郷に戻ってくる保証はない。東京は刺激的で楽しく、そして便利な所だと話で聞いた事がある。
 そして戻ってこなくなると聞いたこともある。でもそれは一理あると思う。
 だって東京にはなんでもあるのだ。東京を知ったらこんな辛気臭い街には戻ってこないと俺は思う。
 忘れらない思い出を俺に残して去っていくお姉さんはすごく残酷だ。

 そんな中2度目の人生のターニングポイントがやってきた。
 
「君がSNSに載っていた噂の超絶美形中学生か」

 中学の帰りに街を歩いていると見るからに上等なスーツを着た男の人が俺に声をかけてきた。

 男の人は俺を値踏みするかのような視線を向ける。その視線は商品を見定めるようで不快だった。

「君、芸能界に興味はないかい?」

 男は俺ににこやかな笑顔で誘いかける。

「芸能界?」
「そう、芸能界だ。君くらいに整っているなら通用するし、君には光るものがある。考えてくれ。連絡を待っているよ」

 男の人は俺に名刺を渡して去っていった。
 名刺に書かれていたのは誰もが知る超大手の芸能事務所サンディアプロモーションだった。

「待ってください! 芸能界に行けば東京に行けますか⁉︎ 有名になれますか」
「レッスンはすべて東京だから東京に引っ越してもらう必要もあるし、学校も変わる。親御さんとちゃんと相談してくれ。後、有名になれるかは君の努力と運次第だ。芸能界は煌びやかに見えるが過酷な生存競争の世界だ。夢破れて消えていく子を俺はたくさん見てきている」

 俺の決断は早かった。
 このスカウトが詐欺でないかどうかを確認した後で事務所に承諾の連絡をした。
 俺が芸能界で生きる道を選んだのは東京に行けるから。ただそれだけだった。

 話を聞く限り芸能界は目まぐるしく変化に富み、常に努力と実力が求められる厳しい世界ではあるがやりがいを感じた。
 何もかも上手く行っていた俺にとってアイドルは新たな挑戦だったのだ。

 何よりも東京に行けば街で偶然桃さんに会えるかもしれない。有名になれば、桃さんがファンとして俺に会いに来てくれるかもしれない。東京は人が多い。だから俺と桃さんが会える可能性は僅かだろう。それこそ砂漠に落ちたたった一粒のダイヤモンドを見つけるような確率だ。

 だけどそんな僅かな可能性に賭けてみたくなるほどに俺は桃さんに会いたかったのだ。
 
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