現役DKアイドルと契約恋人〜超人気イケメンアイドルの正体は執着ストーカー?!

べーこ

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桃の思い出

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 あれから自体は好転する事は無い。
 私はシオンの用意したマンションで広いリビングとお姫様のような寝室を行き来するだけの日々を過ごしていた。

 シオンは私を貴重な美術品か何かのように丁寧に扱う。
 朝は私より早く起きて美味しい朝食を用意してくれる。そして出かける時は優しく抱きしめて行ってきますの挨拶をする。
 シオンのオフの日は私をずっと後ろから抱きしめて離さないのだ。そして、可愛い、可愛いと甘い声でずっと囁き続ける。

 着慣れない高いワンピースを着せられ、高価なスキンケア用品を使いシオンの手で丁寧に手入れされた身体は今までで1番調子がいい。
 肌はツルツルの美肌になり、身体も軽く感じる。髪の毛もウルウルのツヤツヤで美容院に行った直後のようだ。

「桃さん、もっともっと素敵にしてあげるね」

 私のスキンケアを終えたシオンはうっとりと微笑む。その姿は高校生にしてはあまりにも妖艶でドキッとする。

 シオンが私に酷い事をしたのはマンションに連れてきた初日と玄関の鍵を開けようとパスワードの入力を失敗した日だけだった。

 シオンの機嫌を損ねれば不思議な力で能力を奪われてしまう。出来ることが出来なくなるのは恐ろしい。シオンのマンションで寝たきりの生活はごめんだ。

 シオンがいない間はDVDを見たり本を読んで過ごすことが多い。というよりもシオンは忙しくオフの日が珍しいくらいだ。
 だから1人で時間を潰すしかない。

 それにも飽きてきて今は時間を持て余している。
 社畜だった時はコウくんが出演している番組を録画して休みの日に一気にみていた。
 超人気アイドルであるCieloは様々な番組に引っ張りだこだったので番組を追うだけでも大変だった。
 そして時間を持て余してテレビを見るようになった事で気がついたのはシオンのCMの出演の多さだ。

 高校生という年齢ゆえに深夜番組には出演できないため意外と番組でお目にかかる事はできない。代わりに拘束時間が短いCMでメディアに出ていることが多いようだ。

 シオンはいないはずなのにずっと側にいるかのような錯覚に襲われる。常にシオンの姿を視界に入れている気さえしてくる。

 そして時間を持て余すようになった私はお姫様部屋のベッドに寝っ転がりながらでここに連れてこられた時のシオンの言葉を反芻していた。

『俺と桃さんって俺がアイドルになる前に1回出会っているんですよ』

 シオンの言葉が本当ならばどこかで一度出会っているはずだ。でもどこであったんだろう?もし昔から会っていたとしたらそれはシオンがデビューする前だろう。

 このお姫様部屋で一点だけ気になる点があった。
 ベッドのサイドチェストの上に置かれているピンク色の熊のぬいぐるみだ。
 ブサかわと言われる愛嬌のある顔立ちのクマは数年前に流行ったゆるキャラだ。名前はももくまだったはず。名前が似ているからという理由で私も昔集めていた。

 シオンの年代の子が持っているのはすごく珍しい。
 何よりも高級品で揃えられたであろう調度品の中に紛れ込んでいる安っぽいぬいぐるみはとても目立つのだ。
 
「あれ? これは……?もしかして」

 ぬいぐるみの首元にはピンクと黄緑の斜めストライプのリボンが巻き付けられていた。
 安っぽいサテン生地でできたリボンはももくまが元々つけていたものではない。
 このぬいぐるみとリボンを見た瞬間に数年前の記憶が蘇ってくる。
 このリボンは私がももくまに昔つけたものだ。
 そしてこのリボンをつけたぬいぐるみを持っているのは世界でただ1人だ。

***

 私が高校3年生の時だ。東京に上京する前の事だ。

 近所にはそれは可愛い女の子がいた。そんじょそこらの芸能界にいる女の子よりもずっと綺麗な顔をしていた。
 真っ黒な髪の毛を背中まで伸ばして、可愛らしいワンピースを身に包んだいいとこのお嬢様風の格好だったのを今でも覚えている。

 お嬢様のような繊細な仕立てのワンピースと近所の小学校指定の黄色いリュックがアンバランスで印象に残っていたのだ。

 ぱっちりとした大きな目に長いまつげ、陶器のように白い肌に薔薇色の頬、その女の子はお姫様みたいにとても可愛らしかった。
 そして鈴を転がしたような澄んだ声を持つ子だった。
 私は彼女の事をつーちゃんと呼んでいた。

 つーちゃんが家の鍵を忘れたと言って近くにいた私に助けを求めてきたことから交流が始まったのだ。

 つーちゃんはいつも1人だった。これだけ可愛いのだから周りに人は集まってもおかしくはないから少し不思議だった。
 
 つーちゃんはすごく人懐っこい女の子だった。私を見かけるとお姉さんと呼びかけて嬉しそうに近寄ってくるのだ。

 天使のように愛らしい彼女に声をかけられると無視する事はできなかった。
 私とつーちゃんは時々誰もいない静かな公園で話すようになった。

「お姉さんの事だーいすき。だってお姉さんだけが優しくしてくれるもん」

 つーちゃんは公園のベンチに腰掛けてあどけない顔でニコニコと笑う。
 つーちゃんの置かれている環境はあまりいいものではないのだろう。それは彼女の話ぶりからして薄々と感づいていた。
 学校の友人の事を話そうとしないし、家のことも話そうとしない。学校はどう?と一度だけ聞いたことあるけどはぐらかされて終わったのだ。

 つーちゃんは要領が良いらしく、テストはいつも満点だった。テストで満点を取ると「見てー」と言って私に満点の解答用紙を見せてくれるのだ。

 本来ならば小学生の女の子と高校生の私が仲良くしているのはおかしいだろう。
 だけど学校に馴染めずに上手くいっていない私はつーちゃんと話していることが実は楽しかったのだ。
 私も入学した高校で軽いいじめに遭っており、実は孤立していたのだ。
 そんな私を「おねーさん、おねーさん」と慕ってくれる彼女の存在は大きかったのだ。

 だけど別れはあっという間にやってきた。
 私は無事に受験に成功して第一希望だった大学に合格したのだ。
 だけどその大学は東京にあり、この街を離れなくてはいけなかったのだ。
 やっとここから離れられると思うと嬉しかったのだ。
 つーちゃんにだけはそれを伝えなくてはいけないと思ったのだ。

 両親がいない日につーちゃんを家に招待した。

「お邪魔します」

 つーちゃんはニコニコと笑顔で私の部屋のベッドに腰掛けた。
 今日もつーちゃんは可愛い洋服を着ていた。相変わらず物凄い美少女だ。黒いワンピースと長い髪の毛も相まってお人形さんのようだ。

「あのね、つーちゃん話しがあるんだ」

 そして私は大学に無事に合格したこと、そして今年の春には引っ越して東京で暮らす事を話した。
 するとつーちゃんは目に大粒の涙を溜めて泣き始めてしまった。

「やだっ! 桃お姉ちゃん、東京行っちゃやだっ! またひとりぼっちになっちゃう。置いてかないで! ずっとここにいてよ」

 そして、私の身体に抱きついてきたのだ。

「ごめんね」
「いやだあああ。いい子にするから。ワガママも言わないから。なんでもするから行かないで!」
「ごめんね」

 そこらの小学生よりもしっかりしてつーちゃんがこんな風に泣くとは思ってなかったのだ。綺麗な顔をぐしゃぐしゃにして泣き続ける彼女を見ていられなくなった私は1つの方法を考えついた。

「じゃあこうしようか」

 私は部屋に飾ってあったピンク色のクマのぬいぐるみを持ってきた。これは私のお気に入りのぬいぐるみだ。流行りのゆるキャラでももくまというくまのキャラクターだ。
 それをつーちゃんの胸を押し付ける。

「このぬいぐるみを私だと思って。このぬいぐるみ、ももクマっていうの。私の名前にそっくりでしょ? だからこれを私だと思って」

 そしてアクセサリーとして私が持ってたリボンをぬいぐるみの首に巻き付ける。
 これで世界でたった一つのぬいぐるみになった。

「ありがとう。大事にするね」

 涙でぐしゃぐしゃの顔で笑ったつーちゃんはぬいぐるみをぎゅっと抱えている。

 私とつーちゃんの交流はこの日で最後になったのだ。

***

「シオンがつーちゃん??」

 故郷にいた時につーちゃんにあげたはずのぬいぐるみだった。
 そのぬいぐるみがシオンの部屋にあった。ということはシオンがつーちゃんなのか? それともつーちゃんがシオンにこのぬいぐるみをあげたのか?

 でもファンが古ぼけたぬいぐるみを推しにあげるだろうか。それにシオンは男の子だ。ぬいぐるみをプレゼントにチョイスするのは無理がある。
 そう考えると成長したつーちゃんがシオンにぬいぐるみをあげたという可能性は低いだろう。

 見れば見るほど私が昔あげたぬいぐるみにそっくりだ。

「桃さん、もしかして思い出してくれた?」

 聞き慣れた声がして振り返ると後ろには微笑むシオンがいた。

 

 
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