現役DKアイドルと契約恋人〜超人気イケメンアイドルの正体は執着ストーカー?!

べーこ

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同僚とアイドルトーク

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「熊野いいなあ! インタビューどうだった⁉︎ 生シオン見れて羨ましいぜ」

 同僚の阿賀野君にせがまれてランチ休憩がてらこないだのインタビューについて話していた。
 阿賀野くんは男だけど男子アイドルが好きでその中でもシオンの大ファンらしい。

 推しているメンバーは違えど同じアイドルグループのファンなため話がめちゃくちゃ合うのだ。
 私が1番仲の良い異性と言ってもいい。

「すごいイケメンだったよ。でもやっぱり1番魅力的というかドキドキしたのはコウ君だけど」
「熊野はコウ推しだからな。良いなあ。俺もインタビュー行きたかったよ!」

 阿賀野君は営業部所属で書店営業担当だ。
 そのため普段は社内でプレゼンしたり、書店を回って我が社の本を置いてもらえるように交渉している。

「そういえば前のライブでコウ推しの女子をシオンが狩ろうとファンサしてプチ炎上したよな。でもいいなあ! 俺もシオンからファンサ貰いてえよ。ああ、俺もライブ行きてー! Cieloに会いたい!」

 私が参加したライブで私のペンライトを自分の色に変えるというシオンのファンサは賛否両論だったのだ。
 他担狩りしている暇があったら自分の担当にファンサしろという声と、あそこで1人だけ赤いペンライトだと浮くからシオンなりの配慮だったのではという声だ。

 そのファンサを受けたのが私だといった瞬間に阿賀野君から間違いなく質問攻めに会うのでその件は彼には内緒だ。

「阿賀野君ってめっちゃシオン推すよね。Cieloで男性人気高いのってコウ君じゃん」
「シオンって何でもできるし、ちょっとミステリアスな所がめっちゃ刺さる! 熊野こそなんでコウ推してるんだ? あっ、悪い意味じゃないぞ。女性人気はシオンがダントツで、次にソウマとスイが続く感じだろ?」

 確かにコウ君はCieloの中では人気が最下位だ。そもそもシオンの人気が異常なのだ。

 シオンが雑誌で表紙を飾ればその雑誌は売り切れて、電子書籍はサーバーが落ちると言われている。
 シオンがゲストで載った雑誌は普段の売り上げの倍になるとまで言われている。

 悲しいことにコウ君のグッズのレートはシオンの3分の1前後なのだ。

 
 実際に私がランダムブロマイドでシオンを引き当てた時にコウ君との交換をSNSで依頼したら秒でリプが来たのだ。さらに過去のコウ君のミニフォトまで付けるというあまりにも条件が良すぎる提案だった。

「しゃべって良いの⁉︎ 私がコウ君を語ると長いよ!」
「端的に纏めてくれ」

 興奮気味に語ろうとすると、阿賀野君にピシャリと短く話せと言われた。

「まず、アイドル活動にすごく真摯で愛を持ってやっている所。16年の長い下積みでも腐らずに頑張り続けてデビューを勝ち取ったところ。後は浮いた噂が一切ない所。16年芸能界で活動してるのにスキャンダル0で炎上もしないのは偉大だよ」

 Cieloはコウ君も含めてノースキャンダルを貫いているアイドルグループだ。その中でも芸歴16年ながら一切マスコミに撮られず、炎上騒ぎが一切ないコウ君は偉大だ。
 Cieloのクリーンなイメージは間違いなくコウ君が大きく貢献している。
 
「芸歴16年でノースキャンダルはすごいよな。今のアイドルってちょっとでもやらかしあったらすぐ燃えるからな。でもそれは他のメンバーだってそうじゃん。そりゃあコウほどはみんな芸歴長くないけど」
「でしょ」
「シオンはどうなんだ? 遊びたい盛りの年なのに浮いた話し一つないだろ」

 さすがシオン推しだ。グイグイと訊いてくる。しかも現在、シオンと契約恋人という秘密の関係のためできるだけ喋りたくない。
 バレると面倒な事になる。

「シオンかあ。シオンの場合は出来すぎててちょっと怖いかな。なんというか本当になんでも出来て漫画の登場人物みたいでしょ」
「確かにそれはあるかもな。アイドルとしては好きだけど隣にはゼッテーいて欲しくねえ。何やらせても完璧にこなすし、引き立て役にしかなれねーもんな。アイドルとしては最高に魅力的だけどな」
「でしょ。でも何よりも私がコウ君を推すきっかけになったのは夢を諦めない事を教えてくれたからかな」

 それは私が就職活動が上手くいかない時の事だった。
 大学4年生の秋、周りが既に就職活動を終えている中で私は1つも内定を貰えていなかった。
 出版業界に憧れていたから、それに関する会社を中心に受けていた。だけど出版業界は人気があり、その職に就くのは狭き門であった。
 酷い時には応募時にインターンシップにすら参加できずエントリーシートすら提出する権利をもらえなかった。

 故郷にいる家族から出版業界を諦めて、地元に帰ってくるように言われた。
 確かに私も就職活動に疲れていたし、地元の企業で就職するのも選択肢の一つだと思い始めていた。

 大学で落ち込んでいる私を見かねたのか、友人は私をライブに誘ったのだ。
 友人が誘ってくれたライブは研修生のライブだった。
 研修生のライブだけあって、事務所が所持する小さなライブハウスで行われるものだった。

 大手芸能事務所のサンディアプロモーションに所属するアイドルの卵である研修生が出演するライブはライブハウスをぎっしりと客で埋めていた。

 あまりの熱気に驚いて、友人に話しかける。

「研修生のライブだけどすごい人だね。なんかみんなうちわやペンライト持ってるし、もしかして私って場違い?」
「ここは研修生たちもすごく人気だからね~。しかも今日は関西の研修生が来ているから尚更だね」
「ふーん」

 最初は付き合いでの参加だったがライブが始まると私は夢中になってしまった。
 デビューを夢見る少年達が舞台で踊り歌い、パフォーマンスを見せる。

 笑顔を浮かべながら踊る彼らに私は元気付けられた。この中でデビューできるのはほんの一握りだ。それでも夢見て歌う彼らが眩しかった。

 特に、端っこで踊る茶髪の青年に目を奪われた。舞台に立っている研修生の中でも彼だけが年齢が上に見える。

 だけど真剣に、本気でパフォーマンスをする姿はとてもカッコよくて誰よりも素敵だと思ったのだ。
 私はライブ中でずっと彼に釘付けだった。上手くは言えないけれど惹かれるものがあった。彼が夜空で1番輝いている星のように見えたのだ。

「あの茶髪の男の子誰? 私たちと同い年くらい人⁉︎」

 ライブが終わった瞬間に私は友人を質問攻めにした。あの青年が気になって仕方がなかったのだ。

「多分桃が言ってるのはコウだね。関西の研修生で芸歴15年で実力はあるけどなかなかデビューできないんだよね」
「15年も! よくやるねえ」
「アイドルが好きだからデビュー諦めてないんだって」

 アイドルは狭き門なのは素人の私でもわかる。この舞台の上でみんなデビューを夢見て歌い、踊っている。
 彼らのパフォーマンスを見ていると元気が出る。私も頑張ろうと勇気づけられる。

 一生懸命なコウを見て、私ももう少しだけ頑張ってみるかと心が前向きになった。
 そしてその姿は私の心の奥深くまで刻み込まれたのだ。

「それからずっとコウを推してるってわけ?」
「そう! それに最後の賭けでここの入社試験受けたらまさかの内定もらえたし」

 そして私が社会人デビューした4月にコウ君もCieloとしてついに念願のメジャーデビューを果たしたのだ。

「そっか。よかったな。せっかくだから今日仕事終わったら飲みに行かね? 推しトークしようぜ」

 仕事終わりに私と阿賀野君は近くの居酒屋でお互いの推しを語り尽くしたのだ。
 
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