現役DKアイドルと契約恋人〜超人気イケメンアイドルの正体は執着ストーカー?!

べーこ

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アイドルとの恋人生活始まりました

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 シオンと恋人契約を結んだ後は連絡先を交換した。LIMEだけではなく携帯の電話番号やメールアドレス、そして家の住所まで訊かれた。

 家の住所は前教えたよね?と訊いたら、アイシャドウ送ったときに事務所の方で個人情報として処分したそうだ。

 そしてシオンとの恋人契約は私とシオンと間宮さんの3人だけしか知らない極秘事項である。Cieloの他のメンバーにも知られてはいけないそうだ。
 間宮さん曰く「何処から情報が漏れるかわかりませんからね」との事だ。

 解散時に間宮さんに「熊野さん、絶対流出させないでくださいね。あと匂わせとかもやめてくださいね。シオンのイメージに関わるので」と念押しされた。

 さらにA4の紙に小さい文字でびっしりと埋め尽くされた長い契約書を同意させられた。
 内容はシオンの不利益になる事——主に流出、匂わせ、SNSでの情報公開などスキャンダルに繋がることをした場合には多額の賠償金を支払うと言う事だ。

 しかし、シオンの役作りが成功し、ドラマが人気になった場合は多額の報酬が支払われる事になった。

 それでシオンとの偽恋人生活はというと……。
 とにかく甘い。少女漫画のあるあるを全部鍋に入れて、そこから砂糖やメープルシロップで煮詰めているのかというくらいに甘いのだ。

 昼間は学生生活、夜は仕事と寝る暇もないほどに忙しいスーパーアイドルのシオンだから連絡も少ないとたかを括っていたがそんな事はなかった。

 おはようとおやすみのLIMEは毎日欠かさずに来る。そしてシオンの時間が合えばモーニングコールが来ることもある。

 今日も私の起床時間に合わせてスマートフォンの着信音が鳴る。

「桃さん、おはよう。今日もお仕事頑張ってね」

 スマートフォン越しに聞こえる落ち着きのある優しい声は歌っている時の甘やかな声とはまた違う。

「ありがとう。シオンこそお仕事と学校頑張ってね」
「ありがとうございます。桃さんのおかげですごく元気出ました。そう言えば今日の夜電話できますか? 僕、明日はオフなんです」

 嬉しいお誘いだが、今日は残業確定だ。家に着くのはおそらく早くて夜の10時くらいだろう。

「ごめんね。今日は残業の予定あるから夜遅くなるの。だからシオンはゆっくり休んで」
「じゃあ桃さんが仕事終わって家に帰るの待ってますね。家に着いたら連絡してください。そしたら僕から電話かけます。せっかく付き合っているんだから、お喋りを楽しみたいというのはわがままですか?」

 最後の言葉はちょっと甘える感じで母性本能をくすぐる。
 さすがスーパーアイドル。声色一つで女の子の心をギュッと掴むとは。

「いいの? 私多分遅くなるよ」
「大丈夫だよ。桃さんからの連絡待っています。また夜にお話ししましょうね」

 私の返事を待たずに、シオンは通話を切ってしまう。
 マジか。今日早く会社出られるといいな。

***

「くまもも、今日どうしたの? なんか用事あるの? コウ君の出る番組でもあるの?

 昼休みでみな休憩に入っている中で私だけが事務室でパソコンをいじっていた。
 一心不乱に仕事を進める私を見た同期の女の子が心配そうに声をかけてくる。
 私が髪を振り乱して脇目も振らずに仕事をする時は大体コウ君絡みなのだ。
 ちなみにくまももとは熊野桃という私の名前からもじったあだ名である。

「まあ、そんなところ」
「うちの会社残業が当たり前だしね。しかもあんたの部署って結構新人に仕事押し付けるから尚更帰れないよね」
「まあね。でも、お給料だけは悪くないけど」

 同期は頑張ってね~と手を振って去っていった。
 この調子なら定時は無理でも残業1時間くらいで帰れるペースで進んでいる。

「熊野さん、これお願いね」

 どさっと音を立てて机に置かれた書類の山。
 パソコンから目を離すとにこやかに笑う先輩がいた。

「えっ?」

 書類の山を見てつい漏れ出る本音。

「熊野さん余裕ありそうだしお願い。私ちょっと立て込んでて」

 断る間もなく先輩は去っていく。
 明らかに先輩の方が余裕ある。
 私は見たのだ。先輩がさっきまでトイレで化粧を直しながら合コンの予定だなんだと話し混んでいる姿を。
 だけどチキンな私は言い返すこともできなかった。

 さらに私がCieloのインタビューを担当してから今の先輩だけではなく周りからのあたりがキツくなった気がする。
 実際に超人気のアイドルのインタビューなんて大仕事もいい所だ。本来ならば私のような若輩者ではなくもっとキャリアを積んだ先輩たちの仕事のはずだ。

 さらに今の先輩はミーハーというか、芸能人と繋がりたくてこの会社に入社したと噂を聞くから私の存在は目の上のタンコブなのだろう。

 シオンに帰りが遅くなる旨を連絡する。

『シオンごめん、仕事立て込んでるの。会社出るのが22時くらいになりそう。だから通話は明日でもいい?』

 すぐに既読がついて連絡が返ってくる。

『家に帰ってからだとやっぱり大変ですか? 僕は桃さんとお話ししたいけど、疲れているならまた今度にしますか? 僕のこと気遣っているなら気にしないでください。桃さんが良ければ僕は何時でも待ちますよ』

 気遣いの文章と同時に可愛いピンクのクマをモチーフとしたゆるキャラのスタンプで大丈夫と送られてくる。
 シオンのスタンプは可愛い動物系のゆるキャラ系が多い。
 特にピンク系とクマのキャラクターのスタンプが多い。

 相当シオンに気をつかわせているなって反省する。
 実際にシオンが恋人と付き合うって感覚を知りたくて付き合ったのだが、お互いに多忙なので交流がLIMEでのメッセージのやり取りしかない。

 流石にそれではシオンも目的が果たせないだろう。

 仕方ない。今日はキリのいいところで帰るか。後は明日の私に任せればいい。
 そしてあわよくばシオンからコウくんの事を聞き出せないかと私は考えたのだ。

『会社出るの20:00頃だから通話は22:00からでもいい?』

 すると瞬時に既読マークがつき、『もちろんです。でも無理はしないでくださいね』とメッセージとスタンプが返ってきた。
 

 20:00直前に仕事が終わり、ボロボロの身体でオフィスを出る。外はすっかり日が沈んで、夜の闇に覆われている。だけど東京の町はビルの明かりやネオンライトで全然暗くはない。
 故郷の暗い夜空とは全然違う。私は大学進学を機に上京してそのまま東京で就職した。

 そういえば就職してから明るいうちに帰れた事はほとんどない気がするなあと思いながら帰路についていると後ろからぎゅっと抱きしめられる。
 そして耳元で「桃さん、お仕事お疲れ様」と今朝聞いたばかりの優しい声が聞こえた。
 そして温かいものがほっぺにくっつけられる。

 後ろを振り向くとそこには缶コーヒーを持ったパーカーのフードを被った男の子がいた。
 男の子がおもむろにフードを下ろすと見覚えのありすぎる顔が露わになる。
 そう、先ほどまで連絡を取り合っていたシオンだった。

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