現役DKアイドルと契約恋人〜超人気イケメンアイドルの正体は執着ストーカー?!

べーこ

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Cieloのインタビューをします!

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 握手会の後、明石編集長から呼び出された。何かやらかしたのかと不安になる。
 もしかして私が担当した記事に不備があったのだろうか? それともお局の機嫌を損ねて編集長に何かチクられた?

 有給であるが、会社に向かうために乗った電車の中ではずっとヤキモキしていた。

 私は小さな出版社の編集部で働いている。本が好きだった私にとっては憧れだった出版社での仕事。

 東京のありとあらゆる出版社に応募して唯一内定をもらえたのがここだった。
 だけど現実は厳しく、就職してからも色々なことに追われる日々だった。

 私が配属されたのは第一希望の漫画雑誌の編集部ではなく女性誌の編集部だった。

 仕事は忙しく、業務時間と給料は見合わない。世間一般では良い方だが、それでも残業時間全ての給料が支払われているわけではない。しかも女性だらけの世界で人間関係も決して良くない。
 しかも女性雑誌の編集部だけあってそこの部署の女性陣はキラキラキャリアウーマンだ。
 流行にアンテナを常に張って、最先端を駆けていく彼女らはとてもオシャレで逞しい。
 
 正直私とはタイプの合わない人間だ。というより学生時代の私は彼女らのような人間を遠くからカーストトップだなと眺めている側だったのだ。

 部署配属された瞬間に私のポジションは決まっていた。
 もちろん1番下っ端だ。
 休みの日でも容赦なく呼び出され、一番年下の私は自分の仕事をこなしながら、先輩方の雑用も引き受けているのだ。

「失礼します」

 ドキドキしながら編集長のいるデスクへ近づく。椅子には難しい顔をした編集長が座っていて、私をじっと見つめる。
 編集長の目つきは鋭く、睨まれているようでちょっと怖い。

「あのCieloがうちのリブラで独占インタビューを受けてくれる事になった! インタビューアーとライターが熊野という条件だ!」

 編集長はやる気に満ち溢れた目で私を見つめている。
 Cieloというトップアイドルがうちの弱小雑誌のリブラに載る。

 それはもうリブラの売り上げが約束されたようなものだ。

 リブラとはうちの出版社が販売している女性向けファッション雑誌だ。
 なお、他の大手雑誌に埋もれてしまっており、売れない事に定評のある悲しい雑誌である。

 ゲストも旬の有名人を滅多に呼べないのでターゲットである若い子にはなかなか売れないのだ。

 コアなファンからは大手にはない魅力があると評価されてはいるが何せ我が社で上位に入る不人気雑誌だ。

「えっ⁉︎ Cieloがうちに……」
「そうだ! あのCieloだぞ! 熊野お前何したんだ⁉︎ まさかCieloの弱み握ったとかか? まあいい!我が社はお前のインタビューと記事にかかっているんだ! いいか! 何が何でも成功させるんだ! 我が社の未来はお前にかかっている!」
「はっはい! 編集長! 一つ聞いても良いですか⁉︎」
「なんだ?」
「取材にはリーダーのコウ君も来ますか⁉︎」
「俺が知るわけないだろ!」

 編集長の怒号が響いた。
 だけど不安や緊張よりも生のコウ君が見られるという喜びと期待の方が大きかったのだ。


***

 ついにCieloのインタビューの日がやってきた。
 質問自体は編集の人と前もって打ち合わせしてリストにしてある。
 それに沿ってインタビューを進めていけばいい。しかし、このインタビューは絶対に成功させなくてはいけないというプレッシャーから頭のなかで何回もイメージトレーニングをする。

「熊野、時間だぞ! 行くぞ!」

 Cieloのインタビューという超大型案件は私だけではなく、編集長も同行している。
 スーツをビシッと着こなした編集長とともに現場へと向かう。

 インタビューをする現場はCieloが所属する芸能事務所『サンディアプロモーション』だ。

 サンディアプロモーションはここ十数年で急成長した芸能事務所だ。全国からタレントの卵を集めて育成している。ここに所属するタレントは成功している者が多く、今では憧れの芸能事務所でも上位にランクインしている。

 受付を済ませると応接室へと案内される。
 その道中も有名な芸能人がたくさん歩いていた。誰もが知る実力派俳優に、今雑誌を賑わしている超人気モデルの姿も見られた。

「こちらでお待ちください。もう少しでCieloが来ますので」

 そう言って応接室のソファーに座るよう案内された。受付の男性は失礼しますと言って去っていた。

 応接室は人気のある芸能事務所だけあってすごく立派だった。
 シックな色合いの壁面に、座り心地の良さそうな立派なソファが置かれている。
 テーブルはシックなブラウンで傷ひとつなくピカピカだ。
 壁には高そうな絵が飾られている。

 しかし、初めてのインタビューで緊張しており、私はひたすら頭の中でインタビューの内容と流れをイメトレしていた。

 するとドアがガチャリと開く。

 入ってきたのはCieloのメンバー全員とマネージャーの男性だった。

 Cieloは全員びっくりするくらいのイケメン集団だった。彼らをテレビやライブで何度も見ているがやはり一般人にはない華やかさを全員が秘めている。
 みんな、テレビで見るよりも手足が長く、顔も小さくスタイルがいい。それに何よりも全員顔がいいのだ。
 ライブで見るのとはまた違った姿だ。

 何よりもあのコウ君がこんなに近くにいる。そして実物のコウくんはやっぱりすごいイケメンだった。

 きゃああと悲鳴が喉元まで上がってくる。
 普段ならば奇声をあげて限界オタクの姿を私は晒していただろう。

 だけど今回は仕事だ。明石編集長も私が何かやらかさないか目を光らせている。

「Cieloのマネージャーの間宮と申します。今日はよろしくお願いします」

 私と編集長は間宮さんと名刺を交換する。
 今日は30分のインタビューだ。

 緊張したインタビューであるが、思っている以上にスムーズに進んだ。
 メインのインタビュアーは私であるが、編集長のフォロー、何よりもCielo自身が全員取材慣れしているのもあってこちらが欲しい答えや意見を的確にくれるのだ。

 硬くなりすぎないように雰囲気作りにも気を使ってくれており、終始和やかにインタビューは進行している。

 そして内容はメンバーの宝物の話題になった。今はシオンに話題が振られている。

「知ってますか? シオンの宝物って男子高校生とは思えないほどめっちゃ可愛いんですよ」

 メンバーのスイがニヤリと笑い、シオンに目を向ける。

「ちょっとスイ君、恥ずかしいから言わないでよ!」
「いいじゃん。世間はギャップに弱いんだよ」
「そうだぞ。シオン、お前は完璧すぎるからスキを見せた方がいいと思う」

 スイの茶化しにソウマが乗っかる。

 シオンはメンバーの中でも最年少だ。どうしても発言権は弱いみたいで先輩の言うことに逆らえず少しだけ口を開いた。

「大切な人から貰ったクマのぬいぐるみ。子供の時に貰ったものなんですけど、今でも大事に持ってます。今は家で僕の帰りを待っててくれるとても可愛い子なんですよ」

 少しはにかんでそう言うシオンの姿はぬいぐるみを大事にしている事が伝わってきた。
 私も高校生の頃にあにまるファミリーというゆるキャラのぬいぐるみ集めにハマっていた事を思い出した。
 家を出た時に全て実家に置いてきてしまった。

「そうそう。俺何回かシオンの部屋に行ったことあるんやけど可愛いくまちゃんのぬいぐるみがあるんです」

 くまちゃん! コウくんって熊のことくまちゃんって言うんだ! かーわーいーい。
 しかも大阪出身だけあって関西弁がちょっと出るのもまたキュート!
 ちくしょう~。これが仕事じゃなければ今頃カメラで尊いコウ君の姿を撮影していたのにと思う。
 
 ちなみにCieloは未成年のシオンだけは事務所が所有する宿舎に住んでいるそうだ。
 研修生や年若いアイドルは宿舎に住み、そこでアイドルとしての技能を磨いていくのがサンディアプロモーションのやり方らしい。

 それからインタビューは何事もなく終わりを迎えた。

「本日はありがとうございました。記事が完成次第、送らせていただきます」

 Cieloのメンバーと間宮さんにお礼を言い、後日記事を送る旨を伝える。

「すみません。熊野さん、この後時間がございますでしょうか? よろしければ今後の仕事に繋がるお話を少しだけさせていただきたいのですが」

 間宮さんが部屋を出ようとする私と編集長を引き止める。
本来ならばこの後私も編集長もオフィスに戻ってお互い仕事がある。

「熊野ですか。大丈夫ですよ。熊野はこのまま帰す予定でしたので」

 編集長はニッコリと笑って返す。
 嘘だ! そして編集長の目は「いいから行ってこい」と訴えていた。
 上司である編集長に逆らう事はできず、私は、ハイとしか返事することができなかった。
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