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番外編
風邪の日の出来事(ヒロイン社会人)
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目が覚めると頭が重くたくて喉が痛い。そして身体が怠くて仕方がない。
「ほのか、顔赤いよ」
陽光君に指摘され体温を測るように言われた。
体温計は39.0℃という数字を示していた。間違いなく風邪である。
しかし悲しいことに社会人は休んでいられない。体調管理も仕事のうちで風邪なんかでは休んでは何を言われるかわかったものではない。
さらに締め切りがいくつか迫っているので尚更だ。
重たい身体にカツを入れて、ベッドから起き上がって身支度を整えようとする。
「仕事行かなくちゃ」
「何を言ってるの?体温計見た?39℃だよ。今日は安静にして休もう」
私の行動を陽光君がとめようとする。普段ならば彼のいう通りだ。逆の立場なら間違いなく同じことを言うだろう。
「だけど仕事が終わらない」
「じゃあ言い方を変えるね。こんな状態で仕事行っても周りに迷惑をかけるだけだよ。それに僕が行かせると思う?」
正論で突き返してくる。そして彼が指を鳴らす。すると身体に力が入らずベッドに縫い付けられたように動くことができない。
赤城陽光の得意技の1つである金縛りだ。幽霊になってから彼は何でもアリなので今更驚きもしない。
慣れたせいか怖いとも思わなくなっていた。慣れって怖い。
「ずるい。金縛りは反則だよ」
「とにかく今日は大人しく寝ている事。ほら、会社に電話しようか。ほのかができないなら僕がするよ」
「陽光君が電話したらホラー映画になるじゃない。私が電話する」
彼に促されて会社に休みますと欠勤の電話をする。彼の思い通りに事が進んでいる気がする。
電話が終わると陽光君の冷たい手が額に触れて撫でられる。
「いい子。ちゃーんとお休みの電話できたね」
彼の口ぶりはまるで幼い子供に言い聞かせるようだった。
陽光君は若干お兄ちゃん願望がある気がする。クールで怜悧な顔立ちと裏腹にかなり過保護で世話を焼きたがる。
「なんか馬鹿にされているみたい」
「そんなつもりはないよ。それで症状は?」
「症状?」
「ただの風邪じゃなかったらどうするの?症状によっては病院行かないといけないでしょ」
悪寒もしないし、節々が痛むこともない。本当に身体の怠さと喉の痛みしかないので風邪で間違いはないだろう。
「多分ただの風邪だと思う。鼻づまりがひどいのと喉が痛いだけ。あと頭も痛い」
「わかったよ。じゃあ今日は一日安静にしていようか。ほら、寝ていて。明日になって熱が下がらなかったら病院に行こうね」
陽光君の冷たい手で額をポンポンとされながら目を瞑った。
***
目を覚ますとすぐ近くに陽光君の顔があった。心配でずっと様子を見ていてくれていたみたいだ。
彼に時間をきくと既に正午を回っていた。午前中はずっと寝ていたみたいだ。
こうしてつきっきりで誰かに看病されるなんて何年ぶりだろうか。
今までは体調を崩しても1人でいることの方が多かった。両親は共働きで忙しかった。そうでない時は妹のあずさにかかりきりだった。
だからこうやって誰かがいるのは本当に滅多にない事だった。弱っている時に誰かがいてくれるだけで心強い。
「どう?楽になった?」
「朝と比べたら大分ね」
だけどそれでも頭はまだぼうっとしてモヤがかかっているようだった。
「そっか。良かった。食欲はある?」
「そこそこ……」
「わかった。食べたいものは?」
「あっさりしたものなら何でもいい」
じゃあ準備してくるね。あとゼリーとスポドリだけは買っておいたよ」
ベッドの脇に某清涼飲料水のボトルが置いてあった。多分私が寝ている間に用意したのだろう。だけど一体どうやって……? まあいいや。
「ありがとう」
「どういたしまして。ほら寝ていて。ご飯できたら持ってきてあげるから」
そして陽光君がキッチンに向かっていく。行かないで欲しい。苦しい時に1人は心細い。
「待って。もう少しだけ。もう少しだけそばにいて欲しい」
「ほのか、そんな事いきなり言わないで。嬉しくて困るから。でも君がそう言うならここにいるね」
陽光君のポーカーフェイスが崩れる。照れ臭そうに小さく笑う。
それから陽光君はただ側にいてくれた。喉が痛いのがわかっているのか話しかけてはこない。本当に側にいるだけだ。
「ねえ陽光君」
「なあに?」
「私ね、なんだかんだで貴方の事が好きよ。今日もこうやってつきっきりで看病してくれてとっても嬉しい」
普段ならば恥ずかしくて絶対に言えない言葉だ。でも今なら熱に浮かされた妄言として言うことができる。
実際に私はこの数年で陽光君にかなり絆されてしまっている。未だに彼に対する好きがどういったものなのかはよくわかっていない。恋愛の好きとは違うし、友情としての好きともまた違う。色々な意味での好きが混ざり合って言葉で言い表せない。
私の言葉を聞いた途端に陽光君の顔が耳まで真っ赤に染まる。彼の赤面なんて初めて見た気がする。そして手で顔を覆い隠してしまう。
「今の僕を見ないで。多分今とても変な顔をしてるから。こんな時に好きって……卑怯すぎるでしょ」
そう小さく呟いた彼の姿は何よりも珍しいものだった。
「ほのか、顔赤いよ」
陽光君に指摘され体温を測るように言われた。
体温計は39.0℃という数字を示していた。間違いなく風邪である。
しかし悲しいことに社会人は休んでいられない。体調管理も仕事のうちで風邪なんかでは休んでは何を言われるかわかったものではない。
さらに締め切りがいくつか迫っているので尚更だ。
重たい身体にカツを入れて、ベッドから起き上がって身支度を整えようとする。
「仕事行かなくちゃ」
「何を言ってるの?体温計見た?39℃だよ。今日は安静にして休もう」
私の行動を陽光君がとめようとする。普段ならば彼のいう通りだ。逆の立場なら間違いなく同じことを言うだろう。
「だけど仕事が終わらない」
「じゃあ言い方を変えるね。こんな状態で仕事行っても周りに迷惑をかけるだけだよ。それに僕が行かせると思う?」
正論で突き返してくる。そして彼が指を鳴らす。すると身体に力が入らずベッドに縫い付けられたように動くことができない。
赤城陽光の得意技の1つである金縛りだ。幽霊になってから彼は何でもアリなので今更驚きもしない。
慣れたせいか怖いとも思わなくなっていた。慣れって怖い。
「ずるい。金縛りは反則だよ」
「とにかく今日は大人しく寝ている事。ほら、会社に電話しようか。ほのかができないなら僕がするよ」
「陽光君が電話したらホラー映画になるじゃない。私が電話する」
彼に促されて会社に休みますと欠勤の電話をする。彼の思い通りに事が進んでいる気がする。
電話が終わると陽光君の冷たい手が額に触れて撫でられる。
「いい子。ちゃーんとお休みの電話できたね」
彼の口ぶりはまるで幼い子供に言い聞かせるようだった。
陽光君は若干お兄ちゃん願望がある気がする。クールで怜悧な顔立ちと裏腹にかなり過保護で世話を焼きたがる。
「なんか馬鹿にされているみたい」
「そんなつもりはないよ。それで症状は?」
「症状?」
「ただの風邪じゃなかったらどうするの?症状によっては病院行かないといけないでしょ」
悪寒もしないし、節々が痛むこともない。本当に身体の怠さと喉の痛みしかないので風邪で間違いはないだろう。
「多分ただの風邪だと思う。鼻づまりがひどいのと喉が痛いだけ。あと頭も痛い」
「わかったよ。じゃあ今日は一日安静にしていようか。ほら、寝ていて。明日になって熱が下がらなかったら病院に行こうね」
陽光君の冷たい手で額をポンポンとされながら目を瞑った。
***
目を覚ますとすぐ近くに陽光君の顔があった。心配でずっと様子を見ていてくれていたみたいだ。
彼に時間をきくと既に正午を回っていた。午前中はずっと寝ていたみたいだ。
こうしてつきっきりで誰かに看病されるなんて何年ぶりだろうか。
今までは体調を崩しても1人でいることの方が多かった。両親は共働きで忙しかった。そうでない時は妹のあずさにかかりきりだった。
だからこうやって誰かがいるのは本当に滅多にない事だった。弱っている時に誰かがいてくれるだけで心強い。
「どう?楽になった?」
「朝と比べたら大分ね」
だけどそれでも頭はまだぼうっとしてモヤがかかっているようだった。
「そっか。良かった。食欲はある?」
「そこそこ……」
「わかった。食べたいものは?」
「あっさりしたものなら何でもいい」
じゃあ準備してくるね。あとゼリーとスポドリだけは買っておいたよ」
ベッドの脇に某清涼飲料水のボトルが置いてあった。多分私が寝ている間に用意したのだろう。だけど一体どうやって……? まあいいや。
「ありがとう」
「どういたしまして。ほら寝ていて。ご飯できたら持ってきてあげるから」
そして陽光君がキッチンに向かっていく。行かないで欲しい。苦しい時に1人は心細い。
「待って。もう少しだけ。もう少しだけそばにいて欲しい」
「ほのか、そんな事いきなり言わないで。嬉しくて困るから。でも君がそう言うならここにいるね」
陽光君のポーカーフェイスが崩れる。照れ臭そうに小さく笑う。
それから陽光君はただ側にいてくれた。喉が痛いのがわかっているのか話しかけてはこない。本当に側にいるだけだ。
「ねえ陽光君」
「なあに?」
「私ね、なんだかんだで貴方の事が好きよ。今日もこうやってつきっきりで看病してくれてとっても嬉しい」
普段ならば恥ずかしくて絶対に言えない言葉だ。でも今なら熱に浮かされた妄言として言うことができる。
実際に私はこの数年で陽光君にかなり絆されてしまっている。未だに彼に対する好きがどういったものなのかはよくわかっていない。恋愛の好きとは違うし、友情としての好きともまた違う。色々な意味での好きが混ざり合って言葉で言い表せない。
私の言葉を聞いた途端に陽光君の顔が耳まで真っ赤に染まる。彼の赤面なんて初めて見た気がする。そして手で顔を覆い隠してしまう。
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