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残った頭の行方
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最初の方こそ、瓶の中身の揺れは、外の激しさによるものと思っていたが、調べてみるとどうにも下に敷いてある術式が揺れと同時に電気を発生させていたようだ。
瓶の中身を開けてまで中身を確かめることはしないが、魔法陣の仕組みを見るに、瓶の中に浮かぶ脳に電気信号を送っているようだった。
この、脳は生きている。そう感じさせられた。
とにかく、この瓶の正体までは分からないが、とにかく、この瓶については、しばらく安全な場所に置いておく必要があるだろう。
ナチュラルアースにより、硬い金属質の素材で、周りを大きく防護する。
鎖に繋がれた人間も、見るからに脳みそを鼻から抜かれてゾンビと化している。
前頭葉を切り取れば、このように無気力なゾンビも出来上がると聞いたことがある。
この脳を失った被害者たちに回復の魔術をかけたところで、残された脳がどのように復活するかすらも、もはや実験の領域でしかないがゆえ、私は下手に手を出すことを恐れていた。
自分を瓶の中に置いて、新しい自分がいるなど、考えるだけで、背筋に冷たいものが走ってくる感じがした。
私ともあろうものが、剥き出しの脳を見たショックで気分が悪くなってしまい、しばらく椅子に座って安静にしていた。
それから、1羽の小鳥が肩にとまってきて、私の耳元にサドの居場所を囁いてきたのは、20分も過ぎたあたりだった。
どうやら、武者たちはサドの居場所を掴んだものの、攻撃に苦戦して、未動きが取れなくなっているらしい。
私はそのことを聞いて、すぐに窓から飛び出し、大鷲の姿に自分を変えると、上空から風を切って、全速力でサドの元へと向かうことにした。
3分ほどもしないうちに、飛んでいると、遥か上空から見下ろす森の木々の中に、ポツンと大きな暗闇のような穴を見つけた。
どうやらサドは武者たちに囲まれて、重力場の魔術で応戦しているものの、退路が何一つなく、仕方なく、周囲に重力をかけて時間を稼いでいるようだ。
このまま武者たちだけでも押し切れたであろう。
「ごきげんよう。サド。降伏の準備はできたか?」
さっと、人の姿に変えて地上に降り立った私は、サドに向けてそう言い放った。
サド自身も、私を見て逃げ切ることは不可能だと悟ったのか、魔術を解いて両手を上げた。
「降伏だ」
そう言ったサドの両足を、私はすかさずショットガンで撃ち抜いた。
自身の両足が突然なくなって呆然としてる様子のサドに対し、更にショットガンを撃ち放つ。
右腕が吹き飛び、痛みに悶えるサドの頭を踏みつけて、今度は私は呪いの弾を込め直す。
「アーサーたち被害者を全て治せ!」
「できるから……! 降伏だ!」
「よろしい」
呪いを込めた弾丸を、降伏を叫ぶサドに撃ち込み、鳥の姿に変えさせた。
そうして無力になり、鳥の姿に変わったサドを操り、今度は私は、武者たちに撤退の命令を広げさせた。
私は、キャンピングカーに一旦戻ると、すぐにアデ先生に報告しようとした。
「アデ先生。今戻った。何も問題はなかったか?」
「私達は、身体的には大丈夫。でも、アーサー君はどうしても治せない」
「それなら大丈夫だ。その体にさせた張本人を連れきた。こいつなら治せるはずだ」
落ち着かない様子のアデ先生は、私と話す間もしきりに子どもたちのいるであろうキャンピングカーを見ていた。
私がサドの呪いを解くと、その場に現れた敵に対して、すぐさま警戒して身構えた。
「さっさと治せ」
私がそう言ってサドの背中を蹴り上げるが、両足が無いため、踏ん張ることもできずにその場に倒れた。
そんなサドに対してアデ先生は素早く距離をとる。
「脳の入った瓶が必要だ……。持ってきてくれ」
私は武者の一人に指示を出し、脳の入った瓶を持ってこさせる。
その間、サドが悪さをしないようにと地面に術式を焼き付ける。持ってきた瓶が届くころには、地面に焼き付けた呪いが機能して、サドは魔力すらも殆どが吸い上げられていた。
「脳の神経を繋ぐ。少し、魔力を戻してくれ」
「見たところ、頭蓋の容積と脳の量が足りないようだが、他はどうした?」
「残りの大部分は前頭葉で、完全に新しいものと変わっても人格には問題が起きない……。戻るだけだ」
「じゃあ、その手元にあるのは、いったいなんなんだ? なぜ、それだけを保存した?」
「これは頭頂葉の一部で、感覚を司る。異世界から来た人間の能力を解明するのに使ったんだ……」
「言っておくが、私も多少なりとも人体には詳しい。残りの頭頂葉はどこへやった? 大きさからして、あまりにも量が少ない」
「神の元にサンプルとして送った……。だが、人格を戻すには十分な量だ」
「その言葉。信じやしないが。なら、今あるそれを繋いだら、隠していたことを全部話してもらうぞ。二度と舐めた真似ができないようにきっちりと尋問をするからな」
瓶の中身を開けてまで中身を確かめることはしないが、魔法陣の仕組みを見るに、瓶の中に浮かぶ脳に電気信号を送っているようだった。
この、脳は生きている。そう感じさせられた。
とにかく、この瓶の正体までは分からないが、とにかく、この瓶については、しばらく安全な場所に置いておく必要があるだろう。
ナチュラルアースにより、硬い金属質の素材で、周りを大きく防護する。
鎖に繋がれた人間も、見るからに脳みそを鼻から抜かれてゾンビと化している。
前頭葉を切り取れば、このように無気力なゾンビも出来上がると聞いたことがある。
この脳を失った被害者たちに回復の魔術をかけたところで、残された脳がどのように復活するかすらも、もはや実験の領域でしかないがゆえ、私は下手に手を出すことを恐れていた。
自分を瓶の中に置いて、新しい自分がいるなど、考えるだけで、背筋に冷たいものが走ってくる感じがした。
私ともあろうものが、剥き出しの脳を見たショックで気分が悪くなってしまい、しばらく椅子に座って安静にしていた。
それから、1羽の小鳥が肩にとまってきて、私の耳元にサドの居場所を囁いてきたのは、20分も過ぎたあたりだった。
どうやら、武者たちはサドの居場所を掴んだものの、攻撃に苦戦して、未動きが取れなくなっているらしい。
私はそのことを聞いて、すぐに窓から飛び出し、大鷲の姿に自分を変えると、上空から風を切って、全速力でサドの元へと向かうことにした。
3分ほどもしないうちに、飛んでいると、遥か上空から見下ろす森の木々の中に、ポツンと大きな暗闇のような穴を見つけた。
どうやらサドは武者たちに囲まれて、重力場の魔術で応戦しているものの、退路が何一つなく、仕方なく、周囲に重力をかけて時間を稼いでいるようだ。
このまま武者たちだけでも押し切れたであろう。
「ごきげんよう。サド。降伏の準備はできたか?」
さっと、人の姿に変えて地上に降り立った私は、サドに向けてそう言い放った。
サド自身も、私を見て逃げ切ることは不可能だと悟ったのか、魔術を解いて両手を上げた。
「降伏だ」
そう言ったサドの両足を、私はすかさずショットガンで撃ち抜いた。
自身の両足が突然なくなって呆然としてる様子のサドに対し、更にショットガンを撃ち放つ。
右腕が吹き飛び、痛みに悶えるサドの頭を踏みつけて、今度は私は呪いの弾を込め直す。
「アーサーたち被害者を全て治せ!」
「できるから……! 降伏だ!」
「よろしい」
呪いを込めた弾丸を、降伏を叫ぶサドに撃ち込み、鳥の姿に変えさせた。
そうして無力になり、鳥の姿に変わったサドを操り、今度は私は、武者たちに撤退の命令を広げさせた。
私は、キャンピングカーに一旦戻ると、すぐにアデ先生に報告しようとした。
「アデ先生。今戻った。何も問題はなかったか?」
「私達は、身体的には大丈夫。でも、アーサー君はどうしても治せない」
「それなら大丈夫だ。その体にさせた張本人を連れきた。こいつなら治せるはずだ」
落ち着かない様子のアデ先生は、私と話す間もしきりに子どもたちのいるであろうキャンピングカーを見ていた。
私がサドの呪いを解くと、その場に現れた敵に対して、すぐさま警戒して身構えた。
「さっさと治せ」
私がそう言ってサドの背中を蹴り上げるが、両足が無いため、踏ん張ることもできずにその場に倒れた。
そんなサドに対してアデ先生は素早く距離をとる。
「脳の入った瓶が必要だ……。持ってきてくれ」
私は武者の一人に指示を出し、脳の入った瓶を持ってこさせる。
その間、サドが悪さをしないようにと地面に術式を焼き付ける。持ってきた瓶が届くころには、地面に焼き付けた呪いが機能して、サドは魔力すらも殆どが吸い上げられていた。
「脳の神経を繋ぐ。少し、魔力を戻してくれ」
「見たところ、頭蓋の容積と脳の量が足りないようだが、他はどうした?」
「残りの大部分は前頭葉で、完全に新しいものと変わっても人格には問題が起きない……。戻るだけだ」
「じゃあ、その手元にあるのは、いったいなんなんだ? なぜ、それだけを保存した?」
「これは頭頂葉の一部で、感覚を司る。異世界から来た人間の能力を解明するのに使ったんだ……」
「言っておくが、私も多少なりとも人体には詳しい。残りの頭頂葉はどこへやった? 大きさからして、あまりにも量が少ない」
「神の元にサンプルとして送った……。だが、人格を戻すには十分な量だ」
「その言葉。信じやしないが。なら、今あるそれを繋いだら、隠していたことを全部話してもらうぞ。二度と舐めた真似ができないようにきっちりと尋問をするからな」
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