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誰もが罪から逃れることはできない。いずれ、誰もが罪と向き合うようになる。
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「殺されたら殺さないと気が済まないんだ。誰だってそうなんだ。あんたは俺を殺したくてたまらないんだろ? お前は口ばかりだ。大切な家族を殺されて、許せるやつなんていやしないんだ」
そう言う男の目は、嘲笑うような侮蔑を私に向けていた。
男の言葉を、私は一理どころか百理もあると感じていた。
しかし、私はそんなものは承知の上で、この世界に生きようとしているのだ。
「殺したくても殺さないさ。この世界は残酷だからな。私はこんな世界が大っ嫌いなんだ」
男を絞め落して、縄で拘束する。
エリーチカの死んで残った頭だけを、どうにかしてやりたくて拾い上げた。
悲しいことは確かだが、私から涙は出てこなかった。
こうなることも予想していたし、エリーチカはもう罪を追及されることも無い。
魔法で一気にエリーチカの死体を燃やした。
残った骨を、魔法で作った木の箱に容れ、私は懐に大事に抱えた。
エリーチカを殺した相手の男を、罪に問う気にはなれなかった。
罪を着せたとしても、誰も報われる気がしなかったのだ。
おかしなことに、返事もないエリーチカの遺骨の入った木箱に、私は語り掛けようとした。
「エリーチカ。君はどうしたい? どこにいたい? 君にもう罪はないのだから。幸せになっても良いんだよ。君は湖の傍の、花が咲いている場所が良いと言っていたね。そこへ埋めてあげるよ。だから、ちゃんと幸せになるんだよ」
私は思わず嗚咽を漏らした。そして、すぐに心を引き締め直した。
私はもうこの村の開発なんてする気も無いし、明日村長にこの村を出て行くと伝えよう。
でないと、私の方がどうにかなってしまいそうだ。
木箱を抱えたまま、私はアデ先生のところに帰ろうとする。が、外は真っ暗で、周りもろくに見えなくなっていた。
仕方がないので、魔法で松明を作って、道を照らしながら歩く。そうすると、木の後ろにうっすらと大きな影があるのが見えてきた。
襲われたりでもしたら嫌なので、少し警戒して距離を離そうとするが、大きな影は私の方に近づいてくる。
だんだんと距離を詰められ、とうとう姿が見えてきたが、どうにも相手は、あのバーサーカーのように見えた。
筋骨隆々の、それも若いバーサーカーのようだ。
そのバーサーカーが私に話しかけてくる。
「話があるんだ」
「なんの話だ?」
「エリーチカのことで」
「エリーチカは残念だが、もうここにはいないよ」
「おいらはエリーチカの兄なんだ」
「そうか」
「エリーチカを逃がしてやってほしい」
「すまないが、エリーチカは殺されたよ。被害者の家族からな」
バーサーカーは、私の言葉を聞くと、必死な態度から一転して、肩を落として視線を下にした。
どうにも、本当に傷ついているらしく、涙や鼻水まで流して、体を震わせている。
「君がエリーチカの兄なら、エリーチカのことを犯していたのだろう? 私は君のことを深く知りはしないが酷いやつだと思うよ」
「確かにおいらは、酷いやつだ。でも、父さんがあんなやつだから。しかたがなかったんだ」
「そうか。確かに子どもでは正しいことは判断できないだろう。しかし、エリーチカの遺骨を君には渡せない。この子がおそらく望むだろう場所に埋めようと思う。これがその箱だ」
曲がりなりにも相手は親族なのだから、一目見せてやろうとエリーチカの遺骨の入った木箱を見せた。が、バーサーカーはそんなことすら気づかない様子だった。
「あなたはきっとエリーチカのことを考えてる。だから、悪い嘘は言ってないと思う。エリーチカの望むようにしてくれ。でも、話しはそれだけじゃないんだ」
「そうか。夜も深いが聞くだけ聞かせてくれ。判断は明日になるかもしれないが」
「もうすぐ、ここに魔都の魔王がやってくる。エリーチカを捕らえに」
「その魔王とやらを見たのか?」
「見たと言っても、見たわけじゃなくて、おいらは悪魔と契約してこんな姿にされたけど、能力は引き継がれたから、自分に迫る危険だけは予知できるんだ。安全に過ごしたいと悪魔に願ったから」
「未来予知か。で、その魔王とやらが来て、何かあるのか? エリーチカはもういないぞ」
「それが、魔王はアーシャに興味を持つんだ。それで、アーシャは魔王と仲良くなって、戦争がおきるきっかけを作るんだ」
「どんなきっかけだ?」
「良くわからない。でも、魔王と同盟を組んで神様を殺す。それで、世界が巻き込まれて混乱が始まるんだ。だから、魔王に近づいちゃいけない」
「その戦争は、私の意思で動かすのか?」
「たぶん、そうだ」
「なら、話しはここまでだ。夜も深いし、私は眠い。話しは明日にしよう」
「分かった……」
バーサーカーはまだ、何かを言いたげだったが、私はそれを無視してキャンピングカーに帰る。
さすがに眠すぎて頭も回らなくなってきている。もう、眠らないと、大事なことさえミスをしてしまう。
そう言う男の目は、嘲笑うような侮蔑を私に向けていた。
男の言葉を、私は一理どころか百理もあると感じていた。
しかし、私はそんなものは承知の上で、この世界に生きようとしているのだ。
「殺したくても殺さないさ。この世界は残酷だからな。私はこんな世界が大っ嫌いなんだ」
男を絞め落して、縄で拘束する。
エリーチカの死んで残った頭だけを、どうにかしてやりたくて拾い上げた。
悲しいことは確かだが、私から涙は出てこなかった。
こうなることも予想していたし、エリーチカはもう罪を追及されることも無い。
魔法で一気にエリーチカの死体を燃やした。
残った骨を、魔法で作った木の箱に容れ、私は懐に大事に抱えた。
エリーチカを殺した相手の男を、罪に問う気にはなれなかった。
罪を着せたとしても、誰も報われる気がしなかったのだ。
おかしなことに、返事もないエリーチカの遺骨の入った木箱に、私は語り掛けようとした。
「エリーチカ。君はどうしたい? どこにいたい? 君にもう罪はないのだから。幸せになっても良いんだよ。君は湖の傍の、花が咲いている場所が良いと言っていたね。そこへ埋めてあげるよ。だから、ちゃんと幸せになるんだよ」
私は思わず嗚咽を漏らした。そして、すぐに心を引き締め直した。
私はもうこの村の開発なんてする気も無いし、明日村長にこの村を出て行くと伝えよう。
でないと、私の方がどうにかなってしまいそうだ。
木箱を抱えたまま、私はアデ先生のところに帰ろうとする。が、外は真っ暗で、周りもろくに見えなくなっていた。
仕方がないので、魔法で松明を作って、道を照らしながら歩く。そうすると、木の後ろにうっすらと大きな影があるのが見えてきた。
襲われたりでもしたら嫌なので、少し警戒して距離を離そうとするが、大きな影は私の方に近づいてくる。
だんだんと距離を詰められ、とうとう姿が見えてきたが、どうにも相手は、あのバーサーカーのように見えた。
筋骨隆々の、それも若いバーサーカーのようだ。
そのバーサーカーが私に話しかけてくる。
「話があるんだ」
「なんの話だ?」
「エリーチカのことで」
「エリーチカは残念だが、もうここにはいないよ」
「おいらはエリーチカの兄なんだ」
「そうか」
「エリーチカを逃がしてやってほしい」
「すまないが、エリーチカは殺されたよ。被害者の家族からな」
バーサーカーは、私の言葉を聞くと、必死な態度から一転して、肩を落として視線を下にした。
どうにも、本当に傷ついているらしく、涙や鼻水まで流して、体を震わせている。
「君がエリーチカの兄なら、エリーチカのことを犯していたのだろう? 私は君のことを深く知りはしないが酷いやつだと思うよ」
「確かにおいらは、酷いやつだ。でも、父さんがあんなやつだから。しかたがなかったんだ」
「そうか。確かに子どもでは正しいことは判断できないだろう。しかし、エリーチカの遺骨を君には渡せない。この子がおそらく望むだろう場所に埋めようと思う。これがその箱だ」
曲がりなりにも相手は親族なのだから、一目見せてやろうとエリーチカの遺骨の入った木箱を見せた。が、バーサーカーはそんなことすら気づかない様子だった。
「あなたはきっとエリーチカのことを考えてる。だから、悪い嘘は言ってないと思う。エリーチカの望むようにしてくれ。でも、話しはそれだけじゃないんだ」
「そうか。夜も深いが聞くだけ聞かせてくれ。判断は明日になるかもしれないが」
「もうすぐ、ここに魔都の魔王がやってくる。エリーチカを捕らえに」
「その魔王とやらを見たのか?」
「見たと言っても、見たわけじゃなくて、おいらは悪魔と契約してこんな姿にされたけど、能力は引き継がれたから、自分に迫る危険だけは予知できるんだ。安全に過ごしたいと悪魔に願ったから」
「未来予知か。で、その魔王とやらが来て、何かあるのか? エリーチカはもういないぞ」
「それが、魔王はアーシャに興味を持つんだ。それで、アーシャは魔王と仲良くなって、戦争がおきるきっかけを作るんだ」
「どんなきっかけだ?」
「良くわからない。でも、魔王と同盟を組んで神様を殺す。それで、世界が巻き込まれて混乱が始まるんだ。だから、魔王に近づいちゃいけない」
「その戦争は、私の意思で動かすのか?」
「たぶん、そうだ」
「なら、話しはここまでだ。夜も深いし、私は眠い。話しは明日にしよう」
「分かった……」
バーサーカーはまだ、何かを言いたげだったが、私はそれを無視してキャンピングカーに帰る。
さすがに眠すぎて頭も回らなくなってきている。もう、眠らないと、大事なことさえミスをしてしまう。
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