59 / 76
アーシャの取引。そして、全てが終わり。
しおりを挟む
裁判が始まる三日前。
私は、アーシャは、村長と取引をしていた。
私はエリーチカを死なせたくない一心で、代わりとなる刑罰を提案してみたりと、この村での更正を提案し続けていた。
私とエリーチカがこの村を開発することで、見返りにエリーチカの罪が少しでも軽くなることはないかと聞くと、村長は意外にも乗り気で、私たちにとって有利な条件を提案してきた。
その条件というのが、二年でこの村の開発を終わらせるということだった。
村長の話を聞く限り、地面にある蛇頂石のせいで作物がうまく育たず、植物がしっかりと地面に根を張ってくれないそうだ。しかも雨が降らず、飢饉に近いものが続いていると言う。
村長は、私と取引を行うことで、大勢の食いぶちを確保するつもりのようだ。
相手の足元を見るようで申し訳ないが、裁判を延期するという条件で、効果的に、みんなが納得するような展開を打ち合わせていくことにした。
そして、裁判当日。
もはや、ただの八百長である裁判は、事前の打ち合わせ通りに事が運び、遅れてやってきた私が、この村の開発を提案して、それをエリーチカの更正とするものにした。
実際には多くが予定と食い違い、多くの者には不自然な展開にも見えたかもしれない。
だが、連日に渡る私の演説で、反対派は既にマイノリティーとなっていたこともあり、反対を申し出る者はいなかった。
多数派の前に、少数派は握り潰される。
しかし、こうして、物事は常に進んでいくのだ。
裁判が終わるころ、突然、エリーチカが逃げろと言った時には、私もびっくりした。が、突き飛ばされてから見た表情が真剣だったので、とりあえず言う通りにした。
武者を4体召喚し、周囲を警戒させる。
エリーチカの指示通りに真上に向かってナイフを投げつけると、大きな蛇が姿を表した。
私が周囲を見渡し、状況を探ろうとしている中、大蛇は武者の警戒をすり抜けていた。
大蛇は、エリーチカを咥えて振り回した。
飛び散る鮮血と、投げ出されたエリーチカの体が、周囲を凄惨な状況に変えた。
地面に、二度、三度とぶつかり、エリーチカの体は家屋にぶつかるまで転がり続けた。
私は駆け出し、エリーチカの体に追い付き、回復魔法をかける。
大丈夫か!? と声を掛けるよりも先に、状況は逼迫していて、大蛇は体をのたうち回らせ、村民たちを次々に押し潰していた。
4体の武者を使い、大蛇に斬りかからせ、安全を確保しようとする。
が、武者が斬りかかったところで、大蛇はさらに激しく暴れだした。
泣き叫ぶ声、恐怖に荒げる声。
この場所が更に地獄とかしていく。
私は全身全霊の魔力を使い、重力場を上空に向けることで大蛇を打ち上げることにした。
こうすれば、余計な被害は減らせるはずだ。
4体の武者に斬りかからせ、大蛇を輪切りに変える。
落ちてきた肉片を、重力場を使い、一点に寄せ集めて圧縮させる。
そうして一つの塊となって落ちてきた肉塊は、地面に落ちると、破裂したように音を立てて、地面に深く埋まった。
私はすぐさまエリーチカに声をかけ、安否を確認する。
体は元通りしたはずなのだが、見るからに息もしていない様子だ。
エリーチカの顎を少し上げて気道を確保し、唇を付けて呼気を送り、肺を膨らませること2回。
そのあと、胸部を圧迫し、30回ほど体重を乗せて、肺と心臓に向けて深く入れ込む。
実のところ、人工呼吸というものは、相手の肋骨を折ることにも繋がりやすく、その可能性は統計的に80%以上もある。
私は、そんな容赦など頭のすみに追いやって、ひたすら胸部を圧迫し、深度を深く保ち続ける。
実際、バリッと折れる肋骨の音が生々しく、それをますます折っていく感触は、エリーチカの胸の大きさも相まって、ひたすら、生き物に対してやっているという自覚をさせられた。
エリーチカが息を吹き替えし、私はすぐに回復魔法をかけた。
「エリーチカ!」
「アーシャ……?」
「良く生き返った! 他を治療しに行くからそこでじっとしてろよ!」
私は回復魔法をかけるために負傷者を治しに行く。
殆どは押し潰されてミンチ状になっていたりと、凄惨な状態となっていた。それに加え、体を治すことができるものと、できないものがあり、おそらくは、完全に死んでいるか、そうでないかに分けられている。
死者数は全体で17にも及んだ。
─────
広場の片付けを始めるため、エリーチカは一度牢屋に戻されることになった。
肉片をかき集め、泣き崩れる家族の姿は見るに堪えず、誰も触れられない。
中にはあの被害者の家族も……。
私も片付けを手伝おうと、一度、アデ先生たちの様子を見に行くことにした。
キャンピングカーの中で、アデ先生と子供たちが遊んでいる姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。離れていたようで問題は起きていないようだった。
「すまない。アデ先生。広場で大きな事件があった。また、片付けがあるから遅くなるだろう」
「私も行くよ」
「ありがとう。でも、子どもたちのことが心配だから留守番を頼みたい」
「分かった。任せて」
そして、夜も深くなる。その頃にようやく広場の片付けを終え、寝る前にエリーチカの様子を見に行こうとする。が、私は唖然として止まった。
あの、エリーチカが、首だけの姿となって床に飾られていたのだ。
牢屋の中には、あの被害者の家族が、エリーチカの体をハンマーを使って、ぐちゃぐちゃにしていた。
私は反射的に相手を押し飛ばし、エリーチカに回復魔法をかけた。が、体は完全に死んでおり、治ることはなかった。
「何をした!?」
「あの大蛇はこいつの父親だそうだ。こんな奴らに生きる価値なんてない。家族全員殺されたんだ」
そう言う男の目は完全に虚ろで、また恨みのようなものをこめてハンマーを肉片に振り下ろした。
近くにいたはずの見張りも頭部を殴られていた。
見張りに回復の魔法をかけるが、生き返ることはなかった。
エリーチカが死んで、気づくと私は男の首を締め上げていた。
私は、アーシャは、村長と取引をしていた。
私はエリーチカを死なせたくない一心で、代わりとなる刑罰を提案してみたりと、この村での更正を提案し続けていた。
私とエリーチカがこの村を開発することで、見返りにエリーチカの罪が少しでも軽くなることはないかと聞くと、村長は意外にも乗り気で、私たちにとって有利な条件を提案してきた。
その条件というのが、二年でこの村の開発を終わらせるということだった。
村長の話を聞く限り、地面にある蛇頂石のせいで作物がうまく育たず、植物がしっかりと地面に根を張ってくれないそうだ。しかも雨が降らず、飢饉に近いものが続いていると言う。
村長は、私と取引を行うことで、大勢の食いぶちを確保するつもりのようだ。
相手の足元を見るようで申し訳ないが、裁判を延期するという条件で、効果的に、みんなが納得するような展開を打ち合わせていくことにした。
そして、裁判当日。
もはや、ただの八百長である裁判は、事前の打ち合わせ通りに事が運び、遅れてやってきた私が、この村の開発を提案して、それをエリーチカの更正とするものにした。
実際には多くが予定と食い違い、多くの者には不自然な展開にも見えたかもしれない。
だが、連日に渡る私の演説で、反対派は既にマイノリティーとなっていたこともあり、反対を申し出る者はいなかった。
多数派の前に、少数派は握り潰される。
しかし、こうして、物事は常に進んでいくのだ。
裁判が終わるころ、突然、エリーチカが逃げろと言った時には、私もびっくりした。が、突き飛ばされてから見た表情が真剣だったので、とりあえず言う通りにした。
武者を4体召喚し、周囲を警戒させる。
エリーチカの指示通りに真上に向かってナイフを投げつけると、大きな蛇が姿を表した。
私が周囲を見渡し、状況を探ろうとしている中、大蛇は武者の警戒をすり抜けていた。
大蛇は、エリーチカを咥えて振り回した。
飛び散る鮮血と、投げ出されたエリーチカの体が、周囲を凄惨な状況に変えた。
地面に、二度、三度とぶつかり、エリーチカの体は家屋にぶつかるまで転がり続けた。
私は駆け出し、エリーチカの体に追い付き、回復魔法をかける。
大丈夫か!? と声を掛けるよりも先に、状況は逼迫していて、大蛇は体をのたうち回らせ、村民たちを次々に押し潰していた。
4体の武者を使い、大蛇に斬りかからせ、安全を確保しようとする。
が、武者が斬りかかったところで、大蛇はさらに激しく暴れだした。
泣き叫ぶ声、恐怖に荒げる声。
この場所が更に地獄とかしていく。
私は全身全霊の魔力を使い、重力場を上空に向けることで大蛇を打ち上げることにした。
こうすれば、余計な被害は減らせるはずだ。
4体の武者に斬りかからせ、大蛇を輪切りに変える。
落ちてきた肉片を、重力場を使い、一点に寄せ集めて圧縮させる。
そうして一つの塊となって落ちてきた肉塊は、地面に落ちると、破裂したように音を立てて、地面に深く埋まった。
私はすぐさまエリーチカに声をかけ、安否を確認する。
体は元通りしたはずなのだが、見るからに息もしていない様子だ。
エリーチカの顎を少し上げて気道を確保し、唇を付けて呼気を送り、肺を膨らませること2回。
そのあと、胸部を圧迫し、30回ほど体重を乗せて、肺と心臓に向けて深く入れ込む。
実のところ、人工呼吸というものは、相手の肋骨を折ることにも繋がりやすく、その可能性は統計的に80%以上もある。
私は、そんな容赦など頭のすみに追いやって、ひたすら胸部を圧迫し、深度を深く保ち続ける。
実際、バリッと折れる肋骨の音が生々しく、それをますます折っていく感触は、エリーチカの胸の大きさも相まって、ひたすら、生き物に対してやっているという自覚をさせられた。
エリーチカが息を吹き替えし、私はすぐに回復魔法をかけた。
「エリーチカ!」
「アーシャ……?」
「良く生き返った! 他を治療しに行くからそこでじっとしてろよ!」
私は回復魔法をかけるために負傷者を治しに行く。
殆どは押し潰されてミンチ状になっていたりと、凄惨な状態となっていた。それに加え、体を治すことができるものと、できないものがあり、おそらくは、完全に死んでいるか、そうでないかに分けられている。
死者数は全体で17にも及んだ。
─────
広場の片付けを始めるため、エリーチカは一度牢屋に戻されることになった。
肉片をかき集め、泣き崩れる家族の姿は見るに堪えず、誰も触れられない。
中にはあの被害者の家族も……。
私も片付けを手伝おうと、一度、アデ先生たちの様子を見に行くことにした。
キャンピングカーの中で、アデ先生と子供たちが遊んでいる姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。離れていたようで問題は起きていないようだった。
「すまない。アデ先生。広場で大きな事件があった。また、片付けがあるから遅くなるだろう」
「私も行くよ」
「ありがとう。でも、子どもたちのことが心配だから留守番を頼みたい」
「分かった。任せて」
そして、夜も深くなる。その頃にようやく広場の片付けを終え、寝る前にエリーチカの様子を見に行こうとする。が、私は唖然として止まった。
あの、エリーチカが、首だけの姿となって床に飾られていたのだ。
牢屋の中には、あの被害者の家族が、エリーチカの体をハンマーを使って、ぐちゃぐちゃにしていた。
私は反射的に相手を押し飛ばし、エリーチカに回復魔法をかけた。が、体は完全に死んでおり、治ることはなかった。
「何をした!?」
「あの大蛇はこいつの父親だそうだ。こんな奴らに生きる価値なんてない。家族全員殺されたんだ」
そう言う男の目は完全に虚ろで、また恨みのようなものをこめてハンマーを肉片に振り下ろした。
近くにいたはずの見張りも頭部を殴られていた。
見張りに回復の魔法をかけるが、生き返ることはなかった。
エリーチカが死んで、気づくと私は男の首を締め上げていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる