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アーシャの取引。そして、全てが終わり。

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 裁判が始まる三日前。
 私は、アーシャは、村長と取引をしていた。

 私はエリーチカを死なせたくない一心で、代わりとなる刑罰を提案してみたりと、この村での更正を提案し続けていた。

 私とエリーチカがこの村を開発することで、見返りにエリーチカの罪が少しでも軽くなることはないかと聞くと、村長は意外にも乗り気で、私たちにとって有利な条件を提案してきた。


 その条件というのが、二年でこの村の開発を終わらせるということだった。

 村長の話を聞く限り、地面にある蛇頂石のせいで作物がうまく育たず、植物がしっかりと地面に根を張ってくれないそうだ。しかも雨が降らず、飢饉に近いものが続いていると言う。

 村長は、私と取引を行うことで、大勢の食いぶちを確保するつもりのようだ。

 相手の足元を見るようで申し訳ないが、裁判を延期するという条件で、効果的に、みんなが納得するような展開を打ち合わせていくことにした。


 そして、裁判当日。
 もはや、ただの八百長である裁判は、事前の打ち合わせ通りに事が運び、遅れてやってきた私が、この村の開発を提案して、それをエリーチカの更正とするものにした。

 実際には多くが予定と食い違い、多くの者には不自然な展開にも見えたかもしれない。
 だが、連日に渡る私の演説で、反対派は既にマイノリティーとなっていたこともあり、反対を申し出る者はいなかった。

 多数派の前に、少数派は握り潰される。

 しかし、こうして、物事は常に進んでいくのだ。


 裁判が終わるころ、突然、エリーチカが逃げろと言った時には、私もびっくりした。が、突き飛ばされてから見た表情が真剣だったので、とりあえず言う通りにした。

 武者を4体召喚し、周囲を警戒させる。

 エリーチカの指示通りに真上に向かってナイフを投げつけると、大きな蛇が姿を表した。


 私が周囲を見渡し、状況を探ろうとしている中、大蛇は武者の警戒をすり抜けていた。


 大蛇は、エリーチカを咥えて振り回した。
 飛び散る鮮血と、投げ出されたエリーチカの体が、周囲を凄惨な状況に変えた。

 地面に、二度、三度とぶつかり、エリーチカの体は家屋にぶつかるまで転がり続けた。
 私は駆け出し、エリーチカの体に追い付き、回復魔法をかける。


 大丈夫か!? と声を掛けるよりも先に、状況は逼迫していて、大蛇は体をのたうち回らせ、村民たちを次々に押し潰していた。

 4体の武者を使い、大蛇に斬りかからせ、安全を確保しようとする。
 が、武者が斬りかかったところで、大蛇はさらに激しく暴れだした。

 泣き叫ぶ声、恐怖に荒げる声。
 この場所が更に地獄とかしていく。

 
 私は全身全霊の魔力を使い、重力場を上空に向けることで大蛇を打ち上げることにした。
 こうすれば、余計な被害は減らせるはずだ。

 
 4体の武者に斬りかからせ、大蛇を輪切りに変える。

 落ちてきた肉片を、重力場を使い、一点に寄せ集めて圧縮させる。

 
 そうして一つの塊となって落ちてきた肉塊は、地面に落ちると、破裂したように音を立てて、地面に深く埋まった。

 
 私はすぐさまエリーチカに声をかけ、安否を確認する。
 体は元通りしたはずなのだが、見るからに息もしていない様子だ。

 エリーチカの顎を少し上げて気道を確保し、唇を付けて呼気を送り、肺を膨らませること2回。
 そのあと、胸部を圧迫し、30回ほど体重を乗せて、肺と心臓に向けて深く入れ込む。

 実のところ、人工呼吸というものは、相手の肋骨を折ることにも繋がりやすく、その可能性は統計的に80%以上もある。

 私は、そんな容赦など頭のすみに追いやって、ひたすら胸部を圧迫し、深度を深く保ち続ける。

 実際、バリッと折れる肋骨の音が生々しく、それをますます折っていく感触は、エリーチカの胸の大きさも相まって、ひたすら、生き物に対してやっているという自覚をさせられた。


 エリーチカが息を吹き替えし、私はすぐに回復魔法をかけた。


「エリーチカ!」

「アーシャ……?」

「良く生き返った! 他を治療しに行くからそこでじっとしてろよ!」


 私は回復魔法をかけるために負傷者を治しに行く。

 殆どは押し潰されてミンチ状になっていたりと、凄惨な状態となっていた。それに加え、体を治すことができるものと、できないものがあり、おそらくは、完全に死んでいるか、そうでないかに分けられている。

 死者数は全体で17にも及んだ。

 
─────


 広場の片付けを始めるため、エリーチカは一度牢屋に戻されることになった。

 肉片をかき集め、泣き崩れる家族の姿は見るに堪えず、誰も触れられない。
 
 中にはあの被害者の家族も……。

 私も片付けを手伝おうと、一度、アデ先生たちの様子を見に行くことにした。
 
 キャンピングカーの中で、アデ先生と子供たちが遊んでいる姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。離れていたようで問題は起きていないようだった。


「すまない。アデ先生。広場で大きな事件があった。また、片付けがあるから遅くなるだろう」

「私も行くよ」

「ありがとう。でも、子どもたちのことが心配だから留守番を頼みたい」

「分かった。任せて」


 そして、夜も深くなる。その頃にようやく広場の片付けを終え、寝る前にエリーチカの様子を見に行こうとする。が、私は唖然として止まった。


 あの、エリーチカが、首だけの姿となって床に飾られていたのだ。


 牢屋の中には、あの被害者の家族が、エリーチカの体をハンマーを使って、ぐちゃぐちゃにしていた。

 私は反射的に相手を押し飛ばし、エリーチカに回復魔法をかけた。が、体は完全に死んでおり、治ることはなかった。


「何をした!?」

「あの大蛇はこいつの父親だそうだ。こんな奴らに生きる価値なんてない。家族全員殺されたんだ」


 そう言う男の目は完全に虚ろで、また恨みのようなものをこめてハンマーを肉片に振り下ろした。

 近くにいたはずの見張りも頭部を殴られていた。

 見張りに回復の魔法をかけるが、生き返ることはなかった。
 

 エリーチカが死んで、気づくと私は男の首を締め上げていた。
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