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元魔女エリーチカ③
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父さんが呼び出した悪魔は、私を魔女にした。でも、それは別として、父さんは目的通りに悪魔から願いを叶えてもらった。
父さんは一年を期限として、命を差し出す代わりに、あらゆるものに対する永遠の快楽を申し出た。
暴食と、淫蕩と、人を殺すこと。あらゆる快楽を知り尽くしながら一年を過ぎた後、父さんは悪魔に従属することになった。
悪魔が倒された今、父さんはどうなっているのだろうかと、気になったことがある。
でも、今は、大口を開けて私の後ろにいる大蛇が、全てを分からせてくれた。
父さんは、大蛇になったまま、元の姿に戻れなかったのだ。
悪魔との契約による見返りは、律儀に魂の期限が過ぎた後も続いた。
父さんに快楽を与えるために、私を操る悪魔は、攫った女の子を大蛇の姿に変えて、いつでも交尾を楽しめるようにストックしていた。
それに、女の子が苦しむように、呪いも調整して印付けさせたのだ。
なんで、悪魔が父さんを大蛇にしたのか、今なら分かる気がする。
この地域では、蛇が水神様として祀られていた。その神に成りすまそうとして悪魔は父さんを蛇に変えたのだ。
悪魔の狙いまでは分からないけれど、何か大きなことを計画しているようだった。
たぶん、それは、新しく悪魔を呼ぶために、供物を捧げにくる子供たちを使って、乱交や殺人を行い、また、新しい悪魔を呼び寄せることにあったと思う。
でも、今は、そんなことよりも、私の後ろで大きく口を開いた大蛇が誰かを襲おうとしていることの方が重要だ。
誰も気づかないのは、きっと、父さんが自由に殺人を行うために悪魔から付与された、認知を操作する魔法のせいだろう。
私が叫んでみんなに逃げるように言っても、誰も気づいてはくれない。
誰もが私の声にびくっと体を震わせても、誰も何も無かったかのように裁判に戻り始める。
アーシャまでもが、気づいた様子がなく、裁判に戻り始める。
大蛇が、頭を上げて、アーシャを物色するように観察をしているのに、誰も気にも留めようとしない。
辺り一帯に大蛇の胴が、静かに伸び広がっていき、家の屋根や木々に体を乗せ、みんなを取り囲むように動いている。
この場にいる全員を、一人残さず捕食しようとしているのだろう。
大蛇はまだ、私のことを敵だとは認識していないらしく、私に認識阻害の魔法はかかっていない。
私だけが大蛇と戦える状況のようだ。
周囲を取り囲み終えた大蛇は、アーシャに大口を近付けていく。
「アーシャ! こっちに来て!」
「ん? どうした?」
ダメだ! 間に合わない! アーシャはこっちに来る気配がない。それよりも、アーシャが食べられてしまう方が早いだろう。
縄で縛られた体では、自由に動くことができない。幸いにも、移動のために足は動かせることはできるが、間に合うかどうかは怪しいところだ。
なので、
「父さん!」
私の言葉に一瞬だけ大蛇が怯んだ。その隙に私はアーシャに駆け寄った。
アーシャを突き飛ばすと、そのまま覆いかぶさる。
「見えないけど、周りに大蛇がいるの! 早く逃げて!」
私が一生懸命にそう言うと、アーシャはすぐさま察してくれて、スクロールから武者を四体呼び出して、背中合わせに周囲を警戒させた。
「見えるか? 大蛇が」
「見えません。気配の一つすらもありません」
武者の警戒を縫うように、大蛇はアーシャの頭上に位置を変えて大口を開ける。
「アーシャ! 真上!」
私の言葉を受けて、アーシャはナイフを作り出して、真上に投げつけた。
ナイフは、大蛇の上顎に突き刺さり、大蛇は一瞬だけ怯んだが、私を睨みつけると、容赦なく、私に噛みついてきた。
私の体は二本の牙に貫かれ、振り回される。
幸いなのは、心臓を貫かれたおかげで、一瞬で死ねたことだろう。
みんな。私なんかが生まれてごめんなさい。
父さんは一年を期限として、命を差し出す代わりに、あらゆるものに対する永遠の快楽を申し出た。
暴食と、淫蕩と、人を殺すこと。あらゆる快楽を知り尽くしながら一年を過ぎた後、父さんは悪魔に従属することになった。
悪魔が倒された今、父さんはどうなっているのだろうかと、気になったことがある。
でも、今は、大口を開けて私の後ろにいる大蛇が、全てを分からせてくれた。
父さんは、大蛇になったまま、元の姿に戻れなかったのだ。
悪魔との契約による見返りは、律儀に魂の期限が過ぎた後も続いた。
父さんに快楽を与えるために、私を操る悪魔は、攫った女の子を大蛇の姿に変えて、いつでも交尾を楽しめるようにストックしていた。
それに、女の子が苦しむように、呪いも調整して印付けさせたのだ。
なんで、悪魔が父さんを大蛇にしたのか、今なら分かる気がする。
この地域では、蛇が水神様として祀られていた。その神に成りすまそうとして悪魔は父さんを蛇に変えたのだ。
悪魔の狙いまでは分からないけれど、何か大きなことを計画しているようだった。
たぶん、それは、新しく悪魔を呼ぶために、供物を捧げにくる子供たちを使って、乱交や殺人を行い、また、新しい悪魔を呼び寄せることにあったと思う。
でも、今は、そんなことよりも、私の後ろで大きく口を開いた大蛇が誰かを襲おうとしていることの方が重要だ。
誰も気づかないのは、きっと、父さんが自由に殺人を行うために悪魔から付与された、認知を操作する魔法のせいだろう。
私が叫んでみんなに逃げるように言っても、誰も気づいてはくれない。
誰もが私の声にびくっと体を震わせても、誰も何も無かったかのように裁判に戻り始める。
アーシャまでもが、気づいた様子がなく、裁判に戻り始める。
大蛇が、頭を上げて、アーシャを物色するように観察をしているのに、誰も気にも留めようとしない。
辺り一帯に大蛇の胴が、静かに伸び広がっていき、家の屋根や木々に体を乗せ、みんなを取り囲むように動いている。
この場にいる全員を、一人残さず捕食しようとしているのだろう。
大蛇はまだ、私のことを敵だとは認識していないらしく、私に認識阻害の魔法はかかっていない。
私だけが大蛇と戦える状況のようだ。
周囲を取り囲み終えた大蛇は、アーシャに大口を近付けていく。
「アーシャ! こっちに来て!」
「ん? どうした?」
ダメだ! 間に合わない! アーシャはこっちに来る気配がない。それよりも、アーシャが食べられてしまう方が早いだろう。
縄で縛られた体では、自由に動くことができない。幸いにも、移動のために足は動かせることはできるが、間に合うかどうかは怪しいところだ。
なので、
「父さん!」
私の言葉に一瞬だけ大蛇が怯んだ。その隙に私はアーシャに駆け寄った。
アーシャを突き飛ばすと、そのまま覆いかぶさる。
「見えないけど、周りに大蛇がいるの! 早く逃げて!」
私が一生懸命にそう言うと、アーシャはすぐさま察してくれて、スクロールから武者を四体呼び出して、背中合わせに周囲を警戒させた。
「見えるか? 大蛇が」
「見えません。気配の一つすらもありません」
武者の警戒を縫うように、大蛇はアーシャの頭上に位置を変えて大口を開ける。
「アーシャ! 真上!」
私の言葉を受けて、アーシャはナイフを作り出して、真上に投げつけた。
ナイフは、大蛇の上顎に突き刺さり、大蛇は一瞬だけ怯んだが、私を睨みつけると、容赦なく、私に噛みついてきた。
私の体は二本の牙に貫かれ、振り回される。
幸いなのは、心臓を貫かれたおかげで、一瞬で死ねたことだろう。
みんな。私なんかが生まれてごめんなさい。
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