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魔女裁判開廷前
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罪には罰を。刑とは更生のプログラムである。
だが、もし、言われもない罪に刑を科せられたら、それは不当以外の何物でもない。
追い詰められた状況で、仕方なく人を殺したとして、値する刑は本当に本人の更生に関与するものだろうか?
貧困と犯罪は相関関係があり、貧しさのせいで教育を受けられないなど、お金が無かったりなど、犯罪とは、本人の資質だけでなく、環境が大きく関与している。
全ての人間が悟りを開いて生きることから欲を捨てれば、誰もが簡単に死ぬことができるだろう。
だが、しかし、悟りとは解脱に過ぎず、現世に生きることではない。
人間が欲を持つのは当然であり、それで苦しむのも当然である。
ならば、欲を否定することは、人間の存在自体の否定である。
抑えられない欲を抑えるのも人間だが、環境によって抑えることができない状況に追い込まれた時、例えば、それで命を取られると仮定した場合。生きるための欲を放棄しろというのは、人間の存在自体の否定である。
仮に、自分の命よりも大切なものがあれば、自分の命を賭す場合もあろうが、そんな大切なものが無いのも当然の人である。人が人を殺して生きるとは、当然だろう。善悪の価値を抜きにして考えれば、人として当然の行動ではないだろうか?
人の行動とは環境によって左右されるのだ。
「私は君を村に突き出すことにしたよ」
「ああよかった。ようやく死ねるのですね。でも、死ぬときは一瞬が良いわ。でも、きっと、辛い思いをして殺されるのでしょうね。私はそれほどのことをしたのですから」
鎖に繋がれた元魔女のエリーチカを前にして、私はそう言い放った。
「だが、私は君のことを全力で弁護しよう。被害者たちの気持ちも分かるが、もし、君をリンチにかけるようなことがあったら私が止める。それに、殺すとなれば、私が君を即死をさせる。君は死んだあと、幸せになれるそうだ」
「幸せですか?」
「どうにもそうらしい」
「神父さんみたいなことをおっしゃるのですね。でも、死んだ時くらい幸せになれなかったら、今までの辛さと帳尻が合いませんわ」
「君のことをもっと聞かせて欲しい。できれば、私は君に死んでほしくない。被害者たちが納得できるようなものがあれば、君を殺さないで済む」
─────
エリーチカがこれまでのことを話している間、私はマーラの能力で、本心を確かめようとしたのだが、どにも能力が発動しないらしく、エリーチカは悟りを開いているとマーラは言った。
おそらく、エリーチカは、生きることを放棄したのだろう。
それで、生存本能における性欲も無くなった。私の作った食事も自分から手を付けることはないし、本当に死を受け入れているのだろう。
アカシジアの後遺症はまだ残っているはずなのだが、私がエリーチカに同情する態度を示すたびに、エリーチカの症状も治まっていることから、おそらく、ドーパミンや、セロトニンなどといった、ノルアドレナリンをコントロールするものが脳内で放出されているのだ。
つまり、エリーチカは、私の同情を心の底から幸せに感じているということだ。
「それで、君は五歳の時から殴られて躾けられた?」
「はい。そうです。悪いことをしたら腕を出して、叩かれるのですけど、玩具で遊んでいたりしたら、殴られました。だから、もう、二度と遊ばないって誓わされました」
「酷いな。子供が遊ぶなんて当然じゃないか。だが、子供が遊ばないなんてできないだろう? そのたびに躾けられたのだな?」
「いえ、代わりにずっとエッチをしていました。エッチをしていれば他のことが忘れられて、楽しくもありましたから」
「それで、エッチに依存するようになったのか」
「でも、私はどんくさい子でしたから、一番怖かったのは、やっぱり殴られることでした。私が、笑っているのが耳障りだからと、お父さんがよく殴ってきたのですけど、ちゃんと拳を見ないと、どこを殴られるのか予想がつかなくて、不意打ちが一番苦しいから、怖い拳を、じっと見なくてはいけないのです」
そう語る魔女はカタカタと震えだし、そのころに殴られた時の記憶を思い出しているようだった。
「辛かったのだな。魔女になってからは何をしていた?」
「子供の皮を剥いだり、男の人にご飯をごちそうしてもらったり、それでも、やることが無くなれば場所を変えて、転々としていました」
「そうか。では、これまでに何人を殺した?」
「知覚操作の魔法で、私と会った記憶は全部消していたので、正確なところは決して分からないのですけど、百人以上は確実に殺しています」
「どうやって殺した?」
「最初は、魔法だったり斧で首を切り落として殺していたのですけど、それだと、傷が荒くて、縫合するのが大変で、それで、今は水に沈めて殺していました」
それまでを語る魔女は、気持ちを落した様子で、子供を殺していることを悔いている様子があった。そのことが、本当に合っているのかは分からないが、確かに、下がり気味なトーンは、何かの感情の変化を感じられた。
「今、村では子供経由から君の情報が出回り、村総出で君のことを探している。そこに、これから君を突き出すが、私は指一本たりとも、君を私刑に合わせることはさせない。私にできることといえば、君を弁護することと、裁判によって、君の死が最終的に望まれれば、私が痛みもなく君を殺してあげるということだ」
「これをどう言ったら良いか分からないですけど、複雑な感情です。嬉しくもあるような悲しくもあるような。それでいて、殺してくれた方が楽になれるのにという、色々な感情が入り混じっていて、よく分からないです」
「……。だろうな」
だが、もし、言われもない罪に刑を科せられたら、それは不当以外の何物でもない。
追い詰められた状況で、仕方なく人を殺したとして、値する刑は本当に本人の更生に関与するものだろうか?
貧困と犯罪は相関関係があり、貧しさのせいで教育を受けられないなど、お金が無かったりなど、犯罪とは、本人の資質だけでなく、環境が大きく関与している。
全ての人間が悟りを開いて生きることから欲を捨てれば、誰もが簡単に死ぬことができるだろう。
だが、しかし、悟りとは解脱に過ぎず、現世に生きることではない。
人間が欲を持つのは当然であり、それで苦しむのも当然である。
ならば、欲を否定することは、人間の存在自体の否定である。
抑えられない欲を抑えるのも人間だが、環境によって抑えることができない状況に追い込まれた時、例えば、それで命を取られると仮定した場合。生きるための欲を放棄しろというのは、人間の存在自体の否定である。
仮に、自分の命よりも大切なものがあれば、自分の命を賭す場合もあろうが、そんな大切なものが無いのも当然の人である。人が人を殺して生きるとは、当然だろう。善悪の価値を抜きにして考えれば、人として当然の行動ではないだろうか?
人の行動とは環境によって左右されるのだ。
「私は君を村に突き出すことにしたよ」
「ああよかった。ようやく死ねるのですね。でも、死ぬときは一瞬が良いわ。でも、きっと、辛い思いをして殺されるのでしょうね。私はそれほどのことをしたのですから」
鎖に繋がれた元魔女のエリーチカを前にして、私はそう言い放った。
「だが、私は君のことを全力で弁護しよう。被害者たちの気持ちも分かるが、もし、君をリンチにかけるようなことがあったら私が止める。それに、殺すとなれば、私が君を即死をさせる。君は死んだあと、幸せになれるそうだ」
「幸せですか?」
「どうにもそうらしい」
「神父さんみたいなことをおっしゃるのですね。でも、死んだ時くらい幸せになれなかったら、今までの辛さと帳尻が合いませんわ」
「君のことをもっと聞かせて欲しい。できれば、私は君に死んでほしくない。被害者たちが納得できるようなものがあれば、君を殺さないで済む」
─────
エリーチカがこれまでのことを話している間、私はマーラの能力で、本心を確かめようとしたのだが、どにも能力が発動しないらしく、エリーチカは悟りを開いているとマーラは言った。
おそらく、エリーチカは、生きることを放棄したのだろう。
それで、生存本能における性欲も無くなった。私の作った食事も自分から手を付けることはないし、本当に死を受け入れているのだろう。
アカシジアの後遺症はまだ残っているはずなのだが、私がエリーチカに同情する態度を示すたびに、エリーチカの症状も治まっていることから、おそらく、ドーパミンや、セロトニンなどといった、ノルアドレナリンをコントロールするものが脳内で放出されているのだ。
つまり、エリーチカは、私の同情を心の底から幸せに感じているということだ。
「それで、君は五歳の時から殴られて躾けられた?」
「はい。そうです。悪いことをしたら腕を出して、叩かれるのですけど、玩具で遊んでいたりしたら、殴られました。だから、もう、二度と遊ばないって誓わされました」
「酷いな。子供が遊ぶなんて当然じゃないか。だが、子供が遊ばないなんてできないだろう? そのたびに躾けられたのだな?」
「いえ、代わりにずっとエッチをしていました。エッチをしていれば他のことが忘れられて、楽しくもありましたから」
「それで、エッチに依存するようになったのか」
「でも、私はどんくさい子でしたから、一番怖かったのは、やっぱり殴られることでした。私が、笑っているのが耳障りだからと、お父さんがよく殴ってきたのですけど、ちゃんと拳を見ないと、どこを殴られるのか予想がつかなくて、不意打ちが一番苦しいから、怖い拳を、じっと見なくてはいけないのです」
そう語る魔女はカタカタと震えだし、そのころに殴られた時の記憶を思い出しているようだった。
「辛かったのだな。魔女になってからは何をしていた?」
「子供の皮を剥いだり、男の人にご飯をごちそうしてもらったり、それでも、やることが無くなれば場所を変えて、転々としていました」
「そうか。では、これまでに何人を殺した?」
「知覚操作の魔法で、私と会った記憶は全部消していたので、正確なところは決して分からないのですけど、百人以上は確実に殺しています」
「どうやって殺した?」
「最初は、魔法だったり斧で首を切り落として殺していたのですけど、それだと、傷が荒くて、縫合するのが大変で、それで、今は水に沈めて殺していました」
それまでを語る魔女は、気持ちを落した様子で、子供を殺していることを悔いている様子があった。そのことが、本当に合っているのかは分からないが、確かに、下がり気味なトーンは、何かの感情の変化を感じられた。
「今、村では子供経由から君の情報が出回り、村総出で君のことを探している。そこに、これから君を突き出すが、私は指一本たりとも、君を私刑に合わせることはさせない。私にできることといえば、君を弁護することと、裁判によって、君の死が最終的に望まれれば、私が痛みもなく君を殺してあげるということだ」
「これをどう言ったら良いか分からないですけど、複雑な感情です。嬉しくもあるような悲しくもあるような。それでいて、殺してくれた方が楽になれるのにという、色々な感情が入り混じっていて、よく分からないです」
「……。だろうな」
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