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悪魔狩り。

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 山に入り、一帯に魔力を伸ばしていく。

 放射性物質など、そう多くもないが、こうして足を動かさなくては何も進展などしない。

 魔法によって放射性物質を作り出す試みは先ほど失敗した。

 魔力を使っての作成は、同時に放射性物質は、魔力を散らすというもので、作成自体がパラドックスを抱えていた。

 しかし、じゃあ、こうして歩くだけでも簡単に見つかるはずもなく、仕方なく、動物を狩ったり、川を見つけて魚をとったりを繰り返す。

 自然界における被ばくは、基準値以下であれば問題にはならない。動物の必須元素であるカリウムは内部被ばくの代表例で、これを多めにとっていけば、まあ、なんとかなるかもしれない。

 ただ、カリウム程度の被ばくでは時間がかかることは確かで、クールー病の子供たちに食事を与えて、回復魔法をかけ続けたところで治療の終わりが何か月何年先になるかは分からない。

 私は子供たちの看護と介護に付きっ切りで手が離せないので、代わりに、私に寄ってくる魔族の男たちに頼み、放射性物質を探してもらうことにした。

 私が1日デートをしてやると言うと、誰もが張り切って探しに行くが、まあ、見つかることを願おう。


 一週間ほどが経って放射性物質が集まったのだが、結果的に思った以上の量が集まってしまい、デートにかかる時間の方が長くなってしまったという結末だ。


 クール―病の症状が緩和してきたようで、子供たちも少しづつ発話ができるようになってきた。が、やはり、共食いをしたことは、彼ら彼女らに大きな心の傷を残していたため、ストレスに弱く、攻撃的な行動が多く見られた。

 また、殺されていた子供たちの葬式にも出席していて、私の精神もかなり限界が来ている。


 民衆の前で、魔女を突き出すことも考えたが、まだ聞くことも終えていないので、それからにしよう。


「さて、洗いざらい全てをはなしてもらおうか」


「ひぎっ。いたいけど、ちょーきもちー」


 私はペンチを使い、魔女の歯を一本一本折り曲げていく。通常であれば、神経を直接弄るほどの痛みなのだが、さすがは、自分のことを被虐の魔女というだけのことはあり、このくらいの拷問では平気で笑っている。


「北朝鮮でもされている立派拷問なんだがな」

「次は何をしてくれるの?」

「痛みがダメなら頭を直接弄るさ」


 買ってきたお茶やコーヒーを魔女に煮詰めて飲ませ、カフェイン中毒にさせる。

 魔女の心臓の音が私の方にも聞こえるほどになったころ、魔女は一昼夜眠らずにいた。


「やだ。これ。なんかちょっとまずいかも」

「ちょっとどころじゃない。じき死んだ方がマシって思えるくらいまずくなる」


 マーラの能力もろくに効かない以上、拷問で聞き出すしかない。

 一週間ほどが経って、ようやく彼女もアカシジアの症状が出てきたようで、縛られた椅子が、ガタガタと動き始める。


「ねえ、この縄解いて。動かせて」

「秘密にしていること全てを吐いたら、どうにかしてやろう」


 私がそう言うと、途端に、魔女が大声を叫び始めた。

 さっきよりも大きく椅子をガタガタと鳴らし、縛られた椅子ごと倒れても、なお喚き散らしている。


「どんなに心の強いやつだって、直接脳が恐怖を感じれば、冷静ではいられなくなる。私に許しを請わない限り永遠にそれが続くぞ」


「やだ! 助けてよ! 痛いことならなんでもしていいからさ!」


「私が思うに、地獄とはこの世だ。この世の痛みも恐怖も、超えることはどこにもないし、地獄でできることはこの世でもできる」


 魔女は叫び続ける。カフェインのせいで、眠れることもないし、ノルアドレナリンのせいで、腹が減るどころでもない。
 体は休息が取れず、衰弱していく。


「殺して! 殺してよっ!」

「あの家でなにをやっていた?」

「子供の皮を剥いで、人形とか服とか装飾品とかいろんなの作ってたの!」

「余った肉はどうしていた?」

「腐ると家の中が汚れるから子供に食べさせてたの! 早く殺してよ!」

「なぜ、魔女になった?」

「分からないよ!」
 
「同情をしてほしいと言っていたじゃないか。もっと詳しく話せば殺してもらえるかもしれないぞ?」

「だって! みんなが私をいじめるんだもん! パパやお兄ちゃんの子供だって何人も産んだし! それで悪魔の生け贄にされて、それなのに悪魔は私を選んで魔女にしたんだもん!」

「私から酷を言わせてもらうが、それでも人なんて殺さず、慎ましやかに暮らすべきだったんじゃないのか?」

「エッチは好きなんだもん! 赤ちゃん殺されるのは嫌だけど、エッチは好きなんだもん! 魔女になったら欲望が止められないの! 私なんかよりも綺麗に生活して、そんな体が羨ましかったんだもん!」
 
 
 魔女は今も、殺してと叫び続けて、自分で自分の頭を床に打ち付けているが、私は困ってしまった。

 この話が本当であれば、殺してやるのもしのびなく、かといって、殺さないことも許しておけず、


「魔女をやめる方法は無いのか?」

「私にとりついた悪魔を殺せば魔女じゃなくなるよ。ねえ、殺してよ……、こんなに涙も流して、こんなに私は可哀想なんだよ……? なんで誰も私に同情してくれないの?」


 たしかに魔女は涙を流している。元より、鼻水やらで顔はぐちゃぐちゃだが、今の魔女はたしかに涙を流している。

 涙は女の武器とも言うべきなのかもしれないが、なぜ、地獄なんてものがあるのか、私には分からない。


「悪魔を殺してから考える。今はまだ準備をさせてくれ」


 魔女を小鳥にしてから、召喚のスクロールに魔力を貯めていく。

 そして、2日がかりで召喚したのは、あの時、悪魔ベルフェーゴールを倒してくれた、あの召喚獣だ。

 呼び出した召喚獣は、黒い喪服姿のドレスを着て、顔には表情が分からないように黒いベールをかけている姿だ。
 解れそうなドレスがなんとも妖艶だ。


「ようやく、私を呼び出したか。忘れるというのは、良いことではないぞ」

「申し訳ない」

「まあ、こうして私を呼び出したんだ。暇であるし、少しなら相手をしてやろう。まずは、これを全部覚えろ」


 そう言って召喚獣は杖を振って、積み上げられた本の束を呼び出した。

 言われて、背表紙を見ると、どうにも、語学や、数術、神学といった教科書の束だと分かる。

 私にかかればこのくらい、理解する必要がなければ覚えることくらいは簡単だ。

 ざっと、目を通してから、パラパラとページをめくり、全体を写真のように覚えてから次の本に変える。


「なんだ? ちゃんと読んでいるのか?」

「先に覚えている。私のやり方では、理解するのは後回しなんだ」


 喪服姿の召喚獣が、私にそういった不満と心配をぶつけてくる。

 しかし、この方が何倍も効率的なのだ。

 ただ、面倒くさがって読んでいるふりをしているわけではないのだ。


「さて、語学は覚えた。体はまだ覚えていないから流暢には喋れないが、なんとなくはいけるぞ」

「そうか? では……」


 本を閉じて、彼女の、英語やスペイン語に似た言葉を聞き取り、言葉を返していく。

 翻訳をすると、自分の信念を教えろとか、好きなものや嫌いなものなど、私に関する質問ばかりだが、妙に私に気があるような質問ばかりだ。


「中々見込みがあるな。この分なら課題をもっと追加しても良いだろう。それと、私に話しかける時は、敬意をもった言い方にしろ。いいな?」

「分かりました」

「では、早速次の課題だが暗記はひとまず切り上げて、私をお前の家に招待しろ」

「は?」


 思わぬ彼女の発言に、私から変な声が出た。
 それを相手は快く思っていないらしく、私の腕を杖でぴしっと叩いてきた。


「私に対して敬意を払え馬鹿者。お前の家を見てやろうと言うのだ」


「分かりました……?」


 随分と腑に落ちない要求をされたが、まあ、招待をするくらいは良いだろう。
 アデ先生たちに紹介をするときに、また、女を作ってきたと思われるかもしれないが、そこの誤解はちゃんと解かなければ。


ーーーーー


「なんだ? この家は?」


 私のキャンピングカーを見て、彼女がそう言った。


「今は旅をしている身なので、このような家なのです。これに乗れば移動もできますから便利ですよ」


「ふむ……」


 彼女は何かを言いたげで、私ばかりを見てきた。
 もちろん、表情や視線など分かるはずもなく私が当惑していると、


「お前の名前はなんだ?」

「私はアーシャですが」

「私のことは女王と呼べ。いいな?」

「分かりました」

 
 女王はぐいぐいとキャンピングカーに乗り込もうとする。私が静止させることも効かず、車内はドレスのせいで一気に閉塞感を増した。


「誰!?」


 子供たちを抱えて遊んでいたアデ先生が、驚いたように立ち上がって身構える。


「すまないアデ先生。私が呼び出した召喚獣だ。また、すぐに悪魔を倒してもらうためにも。呼び出したんだが、約束を履行するためにもこうして要求を聞いているんだ」


「まあ、アーシャちゃんがいるなら大丈夫だとは思うけど、先に言って欲しいなって。びっくりしちゃうから」

「すまない。止めたんだが入ってきてしまって」


 女王が車内を見回す。


「ふむ。つまらんな。もっと良い家にすんでいるものだとばかり思っていたんだが、期待はずれだ」

「……」

「そう文句のある顔をするな。悪魔を倒したいのだろう? それなら先にそっちを倒してやろう」

「ありがとうございます」

「悪魔はどちらに?」


 そう女王から聞かれたので、私は肩に乗っている小鳥を指差した。


「この小鳥が魔女で、悪魔を倒してこの子から魔女であることを取り除きたいのです」

「よかろう」

 
 女王が素早く杖を振るうと、小鳥が元の魔女の姿に変わった。
 魔女は土の上に横たわった状態で泣きじゃくり続けている。

 さらに、女王が杖を振るうと、魔女から紫色の煙のようなものが蒸発していった。


「終わったぞ」

「ありがとうございます」


 私が、あまりにも呆気ないなと思っていると、また、女王が私の顔をじっと向いてきた。 


「だが、コイツから悪魔を取り払ったところで、どうするつもりだ?」

「この子も被害者みたいなのです。この子が本当はいい子であれば、少しは、罰みたいなものも軽くしてやろうかと思って、それを確かめるためです」

「そうか。ならば、その元魔女が死んだとき、私が面倒を見てやろう。本当にその言葉通りであれば、私が冥福を授けよう。だから、安心して殺すが良い」

「殺すかはまだ決めていませんよ」

「だが、見たところ、その魔女は人間の線引きで言うところの、やってはいけないことをしたのだろう? 殺されるということもありうる。そうなったときに、お前の心持を少しでも軽くしてやろうと言っている」

「具体的に、冥福とはなんですか?」

「死後の幸福。つまりは、楽園か地獄か。楽園であれば全ての欲求が満たされる。地獄であれば、苦痛で満たされる」

「……」

「では、私の仕事の一端はここで終わりだ。また、課題を渡すから必ず呼び出すように。分かったな?」

「はい」


 そう言って女王は消えた。

 しくしくと泣いて、石に頭を打ち付けて自害しようとしている元魔女を介抱し、私は回復魔法をかける。

 今の魔女には、魔力が使えないように、呪いを刻み付けておいてある。だから、抵抗してくることはないが、必死に私を殺してと頼んでくるのが少しいたたまれなかった。


─────


 それから一週間。

 クール―病の子供たちは喋ることも歩けることもできるようになった。が、その反面、今度は人を喰ったという精神的なケアに私は追われていた。

 最後の二人も、無事に親が迎えてくれて、なんとか日常に戻りつつあるが、元魔女は違う。これから、村人たちに殺されるかもしれないのだ。

 ようやくアカシジアも治ってきたが、この元魔女は本当はいい子のようだ。それもあって、ますますこの元魔女あを村人に突き出すのが心苦しくなってきていた。


「アーシャさん。私なんかのためにそんなに頭を悩ませてくれてありがとうございます。私、生まれて初めて同情されて、幸せでいっぱいです。これで死ねるなら私は十分長生きしてこれたと思えます。だから、殺してください。それが周りのためでもあります」

「君は見たところ、まだ16といったところだな。魔女になる前はどうやって生活をしてきたんだ?」

「お父さんとお兄ちゃんの相手をしつつ、赤ちゃんのお世話をしたり、ふいごのお仕事をしたりしていました。でも、働きすぎと、栄養失調で、母乳も出なくなって赤ちゃんが死んじゃって。それで、今度は売春をして楽にお金を稼ごうとしたら、それが見つかってお兄ちゃんに殴られて、それから──」

「母親は死んだのか?」

「いえ。私が犯されているのを見て、家出をしました」

「じゃあ、父親と兄は、なぜ、お前が栄養失調になるまで働かせていたんだ? 働いていなかったのか?」

「たぶん、私をいじめるのが好きだったんでしょう。赤ちゃんをいじめた時には、激しく私を犯してきましたし、いつもよりもエッチの時間が長かったような気がします」

「赤ん坊をいじめるか。気が狂っているな」

「赤ちゃんのお尻を犯して、泣いているのに、止めてくれなくて、私が止めると、今度は私を犯して女の子を産まそうとしてきました」

「赤ん坊なんかに入るのか?」

「入るみたいです。それで、一人死んじゃって。また、犯して、私と赤ちゃんも消費するように、お父さんとお兄ちゃんは使っていました」

「それは辛かったな」

「辛かったと言っても、正直なところ、それが気持ちいいと思う気持ちはありました。獣のように犯されていると、自分が弱く思えてそれで何度も気持ちよくなって。でも、赤ちゃんを殺されるのは本当に嫌でした」


 そう語っていく元魔女は、今度は涙一つ流す話し続けている。
 逆に、この気持ちを知って、それでも、これから殺されることを知って、それなのに、辛いはずが無いのだ。

 今のこの子は、同情を買うために涙を使わず、今は涙を耐えて、むしろ、それどころか、落ち着いたように笑って平気な素振りをしている。これが、これから死ぬかもしれない人間の思う気持ちだろうか?

 この、元魔女は涙を耐えている。つまり、それが、真実で、逆にそれがどうしようもなく可哀そうで、私の方が涙を流してしまいそうになる。

 だが、こんなことで涙を流しては、私も、誰も、この世界ではまだ生きられないのだ。


「君の名前は?」

「私ですか? 私はたしか、エリーチカってよばれていた気がします」

「そうか。君の名前は一生忘れないよ」


 村に突き出すか、匿うか、そのどちらかは、まだ決めていない。
 


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