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大蛇の女の子のその正体

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 私とアデ先生が街に戻るころには、既に僅かながらに住民が戻っていた。

 女の子を抱き上げながら、大人の姿となっている私は、この子の母親の姿を探して声をかけ回っていた。

 しかし、そんな私よりも先に、母親の方が見つけてくれたようだ。

 母親らしき姿が目の前から駆け寄ってきて、我が子を心配するように涙を流した。

 そんな姿に……、私は……。


 漏れってしまった涙を指先でぬぐい、母親に子どもを受け渡し、家に向かわせると同時に、女の子に何があったのかたずねる。

「あの。ここらへんは、水神様に守られていて、この子は水神様の供物を与えに家を出たところで行方不明になったのです」

「水神とは、魔術の界層である、水神のことですか?」

「いいえ違います。魔都の方では信仰する神様が違うのです。ここでは、水にまつわる神様のことです」

「なるほど。では、水神様に供物を与える理由とは?」

「ここら一帯は、土中に石が多く作物の育ちにくい土地だったので、豊穣を祈願して水神様を祭っていたのです」

「それなら祭事など行わず、石を取り除けば良かっただけのでは?」

「いえ……。確か……。ここの土中にあるのは蛇頂石と言われるもので、蛇のような見た目をした石がおおいのです……。巨大な蛇頂石がいくつも産出され、この地下には巨大な蛇の巣があり、もっと巨大な何匹もの蛇を産める大蛇が眠っているとされたのです」

「なるほど。たしかにそういう信仰というのは前世でも耳にしました。土中に木炭が大量に眠っていて、そこから巨大な木があったという信仰が始まった。つまり、その石も似たようなものでしょう」

「前世?」

「なんでもありません。私は時々変なことを口走るので。ところで、私たちが調べたところ、その子は誰かに狙われて蛇にされたのかもしれません。誰かに狙われるような心当たりは?」

「いえ、ありません……」

 狙われているという言葉に母親が一転して表情を曇らせた。

 本当に心当たりがないのかは分からないが、狙われていれば、また襲われることもあるだろう。
 その時に、私が、捕まえれば良いのだ。

「それに、あるバーサーカーから聞いたところによると、大蛇が人間の女の子という情報がありました。他にも目撃した者がいるということでしょうか?」
 
「いえ、そんな話は聞いたこともありませんが……。そもそも、この子は蛇の姿をしていたのですか?」

 そう言う母親は、本当に娘が蛇になっていたことを知らないようだった。
 目撃者がいれば、自分の娘がどうなったかくらい耳にすることもあるだろうが、今はどうにも何か食い違った話をしているような気がする。

「ええそうです。確かにこの子は大蛇の姿をしていました。では、大蛇の正体がその子だということは知らなかったということですか?」

 私がそう聞くと、母親は顔をハッとさせた。

 私は母親の態度に疑問に思い、少しばかり口を閉じて考える。
らそんなことを考えているのかもしれないが。


「あなたは、かなり最初の方に街に戻ってきていましたよね? 大蛇がいて危険だとは思わなかったのですか?」

「この子が戻ってくる気がしたのです」

「虫の知らせというやつですか」

「そうかもしれません」

 いや、その言葉で納得はしきれない。私は勘というものは信じないようにしている。何か経験から脳が勝手に処理して答えを導きだすことはあるが、それはこの勘というものは当てはまらない。


 今、私が一番問題にしているのは、この子がなぜ狙われたのか、ということだ。
 犯人が捕まっていない以上、再び狙われる可能性がある。
 しばらくは放っておくつもりもない。

 
 それから、母親に食事にお呼ばれしたが断った。
 体の悪い娘がいる中で、大人数でけしかけるのも悪いと思ったのだ。
 それに、マーラがまたはしゃいで迷惑をかけないとも限らない。

 買い足した食糧を持ってキャンピングカーに戻ると、ジークリンテとアリスがマーラの相手をしてくれていた。


「ただいま」

「あっ、アーシャ様、おかえりなさいです」

「子どもたちをみていてくれたんだな。ありがとう」

「はい!!」

 アリスを抱き上げると、いつもより激しくキスを交わしてきた。

 一度、一緒に寝てしまってからは、アリスもスキンシップに遠慮というものがなくなった。

 好きなものは好きと直接言える、まあ、私にとっては安心する関係だ。


 日も暮れてきて、一旦、アデ先生と食事の準備をする。が、どうにも子どもたちは好き嫌いが多くていけない。


 ジークリンテもマーラも野菜を刻んでいるのを見て、嫌そうな顔をする。

 なるべく目立たないように小さく切ったり味付けも甘くしたりするのだが、それでも子どもたちは嫌なものは嫌らしい。

 私は根っからのイジワルな人間なので、逆に張り切ってどうにか食べさせようするが、二人とも死にそうな顔をする。


 食事が終わり、子どもたちが思い思いに遊んでいるなか、夜風にあたっていると、アデ先生がワイン瓶を抱えてやってきた。


「アデ先生も何か考え事か?」


「そりゃあ考えるって。今までの仕事を全部放り出して魔都に来たし、それに、あの子の呪いのことだって色々アーシャたんに振り回されてるもん」

「すまないな。私についてきたばかりに」

「自分で選んだんだから、まあ、後悔はしてないんだけどね」


「そうか……。あの……、ところでな、少しここに滞在しようと思う。またあの子が狙われるとも限らない。少しの間、様子を見てあげたいんだ」


「りょーかい」


 アデ先生がワイン瓶のコルクを空けて、そのまま直飲みをする。
 既に酔っぱらっていたようなのに、この飲みっぷりだと、酒に潰れるのも早いかもしれない。


「なあ、アデ先生? 子どもは男の子と女の子どっちがいい?」

「そうねえ、男の子が欲しいかな」

「意外だな。女の子じゃないのか?」

「もう、子供に手を出すのはアーシャたんで懲りたよ」

「それがいい」


 アデ先生がワインを一気に飲み干して地面に座り込む。
 どうやらアデ先生は、私のせいで相当なストレスを抱えていたようだ。
 早いところ、落ち着ける場所を見つけてあげるとしよう。

 アデ先生の隣に私も座り込む。
 そうすると、アデ先生がもたれかかってきて、少し重く感じた。
 

「ところでさ、ねえ? 子供なんて字酷いと思わない? 子を供えるなんて」

「そうだな。本当に酷い。私は、子どもだけは幸せになって欲しい。そう思って生きてるよ」


 夜空に浮かぶ小さな月のような星を見て、この世界には月が二つあるのだと改めて知る。

 二つ以上星がある場合に引力の関係がどうだとか、そんなことは今はあまりにも不躾だろう。

 ちらりと見れば、アデ先生も同じ月を見上げてうっとりとしている。


「さーて、冷えてきたし、私も酒が飲みたくなってきた。中へ戻ろう」

「だめよ。アーシャたんはまだ子供なんだから」


 普段よりも楽しそうなアデ先生が、私の腕を掴んで離さない。
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