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東へと。それに修行。

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 舗装もされていない道を、私の運転するキャンピングカーは、ぐんぐんと進んでいく。

 日ごろから踏み倒され、剥き出しになった土の道は、進べき道を示すかのように一本だけが東に向かって伸びている。そのため、私は迷いなく進めべき方向を目指して行けている。

 
 しかし、私の運転も三時間は越えていることもあり、集中力の限界が来ていた。そろそろ休憩を挟もうかと考えいると、ちょうど、近くに綺麗な川辺も見つけたので、運動も兼ねてしばらくそこで休憩をすることにした。

 エンジンを切って、ハンドブレーキを引いて、みんなに休憩をしようと告げる。

 アデ先生が、小腹が空いたと言うので、食事を作ってもらっている間、私は日課の魔力の訓練に加え、肉体的な鍛錬も行うことにした。

 体がバキバキに固まって、お尻も痛いので、体の血行が悪くなっている。
 軽いストレッチをして、軽く筋トレで体を追い込んでから、水分補給と共に土を食べる。

 そんなことをしていると、アデ先生に見つかって奇異な目で見られた。


「アーシャたん。土を食べてるの?」


「大丈夫だ。ちゃんと煮沸消毒をしている」


「煮沸消毒? なんで土を食べてるの? お腹減ったの?」


「いや、土を食べると魔力の回復速度が上がるんだ」


「へえ……」


 私の言葉にアデ先生が見るからに引いている。


「アーシャたん。土を食べるって言うのはね、昔、土にいた虫にやられて死んだ神様がいるの。そういうことだから、みんな誰もやらないの。お腹すいたなら私が作ってあげるからね? 変なことはやっちゃだめよ」


「あれか? 虫って寄生虫のことか?」

 
 アデ先生はよく分からないといった顔をする。


 神が死んだということは、このおそろしい虫というものが存在するのだろう。だが、まあ、病気や虫については、警戒していたから私は無事だったのだろうが。煮沸消毒もしていたしな。

 おそらく、全て魔法で治すという概念が強いこの世界では、消毒などの予防という意識は少ないのかもしれない。そのせいで、誰も土を食さないのだろう。
 まあ、そんな話を聞いたからには、食べる土も畑などの食用に近い物をえらぶようにするが……。


 だが、待てよ。
 みんなが食べないとなれば、魔力の回復速度については私の一人勝ちということではないか?


 そんな、ちょっと危険な考えを頭の隅に起きつつ、体の鍛錬を終えて、魔力の練習をし始めると、今度はジークリンテが寄ってきた。


「アーシャ。どうしたの? 具合悪いの?」

「魔力量を増やす練習をしていたんだ。君もやるか?」

「うん」

「そうか。じゃあ、そこに座りなさい」


 ジークリンテに魔力の練習方法を教えて、いざ、一緒に瞑想を始めようとすると、今度はアリスがやって来た。

 アリスも混ぜて魔力の練習をするが、アリスは集中力がないらしく、体をそわそわ動かして、ついには止めてしまった。

 アリスはまだ子供だから仕方ないことだが、ジークリンテは才能があるようで、瞑想にどんどん入り込んでいく。

 十人十色。得意不得意があって良いことじゃないか。アリスもジークリンテも、私の誇らしい家族だ。


――――――


 国境を越えていくほど、魔物という存在を目にする機会が増えてきた。


 大抵の魔物は重力場で動きを封じる程度で済むのだが、あまりにも大きな相手となると、姿を隠して進んだ方が精神的にも楽に感じてきた。
 キャンピングカーに透過の魔法をかけるだけなので、音はどうしても消せず、魔物が音を頼りに、周囲を警戒しているのが唯一の不安だ。

 そんな魔物が群生する中を勢いよく突っ切るので、ちょっとしたアトラクション気分で私は楽しんでいた。
 だが、しかし、みんな後部座席で怯えていたようで、エンジンの音がする中で、みんな息すらも殺して待っていた。

 
 ようやく魔物の群れから抜け出ると、みんな疲れ切ったような顔をし始めた。


「アデ先生。あの魔物は何だったんだ?」

「あれはファイアドレイク。ワイバーンの一種で、口から火を吐いて敵を攻撃するの。ドラゴンに見た目は近いけど、ドラゴンという種族とは違くて、爬虫類からの派生なの。強力な魔力を受け続けて、進化したトカゲが、ファイアドレイクだとされているね」

「ドラゴンか一度戦ってみたいな」

「やめて……」

 私のつぶやきに、アデ先生が死んだような顔をする。

 なので、私も少し反省することにした。

 

ーーーーーー



 国境を超え、魔都の領域にはいってから1か月、結構な長旅になってきてはいるが、ようやく最初の街が見えてきた。


 補給も兼ねて、街に入ろうとするが、中世のようなレンガの街並みが見えてきて、なんだか、ゲームの世界に入ったような非現実的な感覚に陥りそうになった。


 街の中には人間が殆どいない。いるのは、尻尾と翼の生えた悪魔と言われる種族。それに、バーサーカーと言われる体の大きい種族が沢山いる。


 悪魔の特徴は悪戯好きなところにあり、近寄らない方が得策だと本で読んだことがある。

 バーサーカーは、見た目こそ厳ついが、内面は非常に穏やかで、話が通じる相手だ。
 しかし、一たび怒らせてしまえば手が付けられなくなるので、どのみち近づかない方が得策だと聞いたことがある。


 悪魔やバーサーカーの着ている毛皮から露出した筋肉は、アリスやジークリンテにとっては恐怖でしかない。

 二人の私の服を掴む手の力が一段と強くなったのを感じたので、二人を寄せて、いつでも守れる体勢を作っておく。

 マーラは、アデ先生に腕を引かれているので、おそらく大丈夫だろう。
 それよりも、何かの表紙でマーラが迷子にならないかの方が心配だ。

 私がみんなを引き連れて歩いていると、サキュバスやインキュバス、それにバーサーカーに囲まれ始めた。

「ねえ、こんなところに人間なんて珍しいね。どこへ行くの?」

「今、新しい香水のテスターを探してるの。少しどうかしら?」

「あの……、おいらと……」


 囲まれてなんと歩きづらいことか。自分が人気であることは嬉しいのだが、アリスやジークリンテには楽しいものではない。
 適当に断ろうとするが、寄ってくる口の数が、なにせ多すぎる。

 バーサーカーは口数自体が少ないのか、何を言おうとしているのか分からないので軽く相手をすることもないが。まあ、言いたいことはなんとなく分かるが、何か要領を得た聞き方をしてこないので、断ることもできないでいたのが正直なところだ。


「すまないが、食料品を買い足したいのだが、案内してくれないだろうか?」

 私がそう言うと、インキュバスたちが一斉に手をあげた。

「あっ! 俺に付いてきてください!」

「じゃあ、案内をしてもらおうか」

 一人の見た目の良いインキュバスに連れられて行くのだが、これは……、
 俗に言う細マッチョってやつか? 露出の多い服で、ほぼ半裸だ。

 栄養失調で必要な筋肉さえも削がれているのに、これを私の世界では細マッチョと例えていた。
 しかし、私にはそんな人間の考えが分からず、性欲がピクリとも動かないので、中々に安心してついて行けている。


 小さな店で食料品を買い足している間もインキュバスたちが私を口説こうと顔を褒めてくる。
 まあ、少しなら相手をしてやっても良いかと考えたころ、マーラがトイレに行きたいというので、連れていくことにした。

 マーラがお母さんと言い、私に子供がいると分かった途端に、インキュバスたちが離れていく。

 残ったバーサーカーが、いつまでも後ろを付いてくるので、止めてくれないかと言おうとしたところ、


「ここらへんは、危ない。おいらが守る」


「いや、ありがたいが大丈夫だ──」
 

 途端に、大きな地鳴りが私の言葉を遮った。


「逃げろ。蛇がくる」


「蛇?」


 地鳴りが響いたかと思うと、住民たちが一斉にどこかへ向かって逃げ出した。
 さっきまで私を口説いていたインキュバスたちも、脇目もふらずにひた走っている。


 そんな光景に、私も危険を感じ、家族の姿を透過させようとするが、途中で止めた。

 私の知る蛇が相手であれば、熱源だけでこちらを捉えられてしまうからだ。


 マーラのトイレのこともあり、みんなでキャンピングカーに引き返そうかとしていると、森の隙間からひっそりと舌を出す蛇を私は見つけた。


 私たちの体の何十倍はあろう大蛇に睨まれ、私以外がカエルのように固まってしまっている。


 あの大蛇が敵かどうかは分からないが、先に、攻撃を仕掛けてくる前に重力場で押しとどめることにした。

 重力場を仕掛け、それでも口を開けたところ、何か液体のような物を飛ばしてきたので、今度は土壁で防御をする。
 毒液かもしれないので、触れないよう、遠距離魔法のクイックバーンで大蛇の顔を焼いて怯ませる。


 すると、軽く焼かれただけで、大蛇は暴れをして森に引き返していってくれた。

 木々が倒されていくので、どこへ逃げていくのかが分かる。

 もう二度と大蛇が来ないよう追撃しようとするが、側にいたバーサーカーが思いっきり叫んで私を止めた。


「殺しちゃだめだ! その子は人間の女の子なんだ!」
 

「なっ!? 人間!?」
 
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