ヤクザ警察アーシャちゃん 異世界に転生したらやりたい放題

竹丈岳

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奴隷の2日目

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 彼女に解放されて1日が経った。

 いつもは太陽の光りも射さなかったこの広場も、なぜか今は明るく感じるようになった。
 みんなが白い服を着ているせいか、陰鬱だったこの場所も、少し色合いが出てきた気がする。

 みんな起きてきて、これから朝食だと言う彼女に連れられて、全員がテーブルに付いて、パンと牛乳とサラダを食べる。


 ところで、女の子の名前はアーシャと言うそうだ。

 運よく暇そうにしている彼女から名前を聞くことができて、僕の心は少し変な気持ちになった。


 彼女の名前を口にするだけで体が痺れて切なくないのだ。

 一緒にいたくてたまらなくて、今度は僕は、彼女に話しかける理由を探さなければならないと思い始めていた。


 理由もなしに何か適当に話しかけてしまえば、うざったくて、軽い気持ちで話しかけられていると思われるかもしれない。それが怖くて、彼女のことをちらちらと見ることの方が多いのだけど、彼女と話すタイミングをいつも伺っていた。


 彼女の横顔は、まるで、絵の中から飛び出してきたように欠点が無い。
 ふわふわの金色のくせ毛が非常に可愛らしくて、肌も透き通るように白い。
 顔立ちなんてまるで外国の人みたいに綺麗で、こんな人がこの世にいるなんて奇跡としか言いようがなかった。


 なんとか、理由をつけて話をするが、アーシャはそんな僕の心を見透かしたように、僕との距離を一気に詰めてくる。


「あの、アーシャ?」


「なんだい?」


「顔が近いですよ?」


「そうか? でも、これだけ近い方が君の顔が良く見える」


「あの、助けてくれてありがとうございます。僕はこれからどうしたらいいんでしょうか?」


「君が人を憎む理由は分かるよ。それに、例え、その犯人を勢い余って殺してしまっても、私は正当だと思うよ。だから、当面は犯人捜しに協力しよう」


「一緒に犯人を捜してくれるんですか?」


「ああそうだ。ところで、君の姿は一見して男の子ようだが、違うな、女の子だな。まるで少年のようで可愛らしいじゃないか。私の手もとに置いておきたいくらいだ。しかし、こんなことを言ったら二人に申し訳が立たないな、すまない、今のは忘れてくれ」


 アーシャが僕から離れようとして引き留める。


「犯人の顔は知っているんです。一緒に探してくれませんか?」


「それなら、話は早い」


 アーシャは何やら、大きな本を持ってきて、僕を連れて、母さんが殺された現場まで来た。


「あの……、これからどうするんです?」

 母さんが殺されたときのことを思い出して、吐きそうになる。
 それを必死に堪えていると、アーシャが僕の背中を擦ってきた。


「これを見なさい。この中に、貴族たちの似顔絵が全部載っている。少し前に、貴族を一斉検挙してね。犯罪履歴を残しておくためにこうして作っておいたんだ。この中から犯人を探すんだ」


 アーシャがそう言って渡す本は分厚くて、わざわざこの場所に連れてきたのは、僕に犯人の顔を強く思い出させるためなのだと思った。


「分かりました」


「気分が悪くなるのは申し訳ないが、こうでもしなければ、子供の君では証言に対する信憑性が低くなる。しかし、ここに来て君は犯人の顔を強く思い出したはずだ。仮に違ったとしても、総当りでいけば、いずれ、出会えるさ。それに、貴族自体、そう多くいない」


 気が遠くなりそうな作業も相まって、僕は一瞬だけだが気が遠くなりかけた。
 でも、父さんや、母さんの仇を討つために、根性を入れ直して現実とちゃんと戦う。


 アーシャは何やら、小鳥を使って手紙を届けようとしている。


「その鳥は?」


「マーラを呼ぶ。私の召喚獣だ。これは、伝書鳩みたいなものさ」


 アーシャの言う通り、少しして、マーラという女の子がやって来た。

 ここの地域では珍しく褐色で、髪の毛が黒く、目がくりくりしている。

 僕はその子に対して、何か煮え切らないものを感じた。

 僕が写真を見つけて、指差すと、アーシャから体を掴むよう言われ、言葉通りにそうすると、大きな鳥になって僕とマーラを背中に乗せて飛び上がった。
 空を飛んだから距離にかかる時間は殆どかかっていないけど、何度も違う貴族の家にたどり着いたから、結果的に時間としてはものすごくかかった。

 何せ、住所というものがそこまではっきりしておらず、僕が頼りないガイドをしたものだから、アーシャが迷ってしまったのだ。

 それに、マーラという知らない女の子が一緒だから、体感の時間はいつもよりも長く感じたのもあるだろう。


「あいつが犯人です」


「分かった。では、マーラ、出てきなさい」


「はーい!」

 僕が、犯人の貴族を指差すと、アーシャの言葉でマーラという女の子が前に出た。

 このマーラとかいう女の子はアーシャのことをお母さんと呼ぶ。
 なんでアーシャに付いてくるのか不思議だったけど、どうにも召喚獣のようだ。
 
 突如として現れた裸の女性が貴族に寄っていく。

 僕はアーシャから目を隠されたが、甘い嬌声が響くから何をしているのかは大体予想がついていた。


「さて、君はこの子の母親をレイプして殺したのか?」


「はい!」


 貴族が陶酔しきった様子で質問に答える。


「どうして殺した?」


「殺したかったから」


「今まで何回同じことをしてきた?」


「数えきれないくらい」


「他に共犯はいるのか?」


「弟と一緒にやりました!」


「弟はどこにいる?」


「この屋敷にいます!」


「後悔はしているのか?」


「してないです!」


「では、君たちは全ての権利を放棄しなさい。もちろん、お金も家も人間関係もだ」


「はい!」


 僕は目を疑った。なんの魔法だろか?


 普通じゃあり得ないくらいに貴族は従順で、家の中から、あらゆる権利書とお金を抱えて戻ってきた。それを僕に渡すと、裸になってどこかへ走って行った。


「さて、君には殺人なんてものは似合わない。悪いが止めさせてもらったよ。全てを失った今、あいつは死んだも同然だ。私を恨むなら結構だが、君はそんなことも忘れて幸せになるのが一番だ。その金も全部君のものにしなさい」


 今まで腹の中で煮えくり返っていたものが、行き場を無くして、僕は口をパクパクとさせていた。


「だが、その年で金や権利書の使い方なんてよくわからないだろう? 弟も同じようにしたら、ひとまず銀行に預けに行くとしようか」

 
 犯人たちに復讐し終えて、今は馬車に揺られて帰っていると、僕はまた一言も発せられなくなった。

 だって、こんな簡単に復讐が終わってしまうなんて。もっと痛めつけてやりたかったのに、実感もなく終わってしまった。
 こんな簡単にすんでしまえば父さんも母さんもきっと報われないだろう。
 そうだ、復讐をする相手はまだ、父さんを殺した犯人がいる。今度はそいつは痛めつけてやろう。


「あの、僕の父さんも殺されたんです。でも、その人のことは僕に殺させてください。お願いします」


 僕がそう言うと、しんと、静かになった気がした。さっきから馬車の音しかしていなかったけど、気まづい沈黙が流れた気がした。


「できれば、君の手で殺させてあげたいが、それはしたくない。人を一度殺してしまえば、きっと君は大きな後悔をする。簡単に人を殺せるのだと分かってしまえば、次に自分が殺されることも簡単に想像がついてしまうだろう。何か、切っ掛けがあれば自分は簡単に殺されてしまうとね。もちろん、母と父を失った君に言うのもおこがましいことだが、君にはこれ以上この記憶を引きずってもらいたくない」


 そう言う、アーシャは目を閉じたまま、僕の方を意図的に見ないようにしているようだった。

「でも、僕が殺さないといけないんです」


「やめておきなさい。あんな奴らの人生、殺すほどの価値もない。絞るだけ絞って、後は捨てて置けばいい。君には申し訳ないがね。私にやらさせてもらうよ」


 僕はまた黙る。


「……、君は将来なにになりたい?」


「……、将来のことなんて考えたくもないです。今までは復讐のことしか考えたことがありませんでしたから」


「だったら、学校に通いなさい。学校に行けば仕事も選べて沢山お金を稼げる。君のその苦しみも大人になれば忘れていく。将来を考えればそれが一番リスクが少ない」


「僕は忘れたくありません」


「そうか。なら私の横に来なさい」


 そう言って、アーシャが隣を叩く。


 僕が移動すると、アーシャが僕を抱きしめてきた。


「ひどい話だ。子供がこんなにも悪意に染まってしまうなんて。苦しいはずなのに必死に耐えている。見ていられないよ。よく頑張っているな。よしよし」


「あの、ぼくは……」


 なんだか、アーシャに抱きしめられると、今まで必死にとどめていたものが一気に決壊を起こして、僕は泣きたくてたまらなくなっていた。
 僕が頑張っていると理解してくれたのはアーシャだけだ。
 この人だけが今の僕の唯一の理解者なのだ。


 アーシャに自分を委ねたくなって全身をアーシャに寄り掛からせる。


 すると、アーシャが僕を抱き寄せて膝の上に寝かせた。


 アーシャが僕を寝かしつけるようにお腹をぽんぽんと叩く。なぜだか、お母さんの膝の上に寝ているみたいだ。

 僕はそのうち寝てしまい、起きた時には、アーシャはお金や権利書は銀行に預けたと言う。そして、金庫の鍵を渡された。失くさないように紐を付けてもらって。

 テントに戻らされると、アーシャが優しそうに手を振って別れを告げる。


 僕は急に寂しくなってアーシャを引き留める。


「おいてかないで!」


「仕方のない子だな。よしよし」


 顔をますます綻ばせたアーシャが僕を抱きしめて頭を撫でてくれる。同い年くらいの女の子なのに、僕よりもずっと大人で、お母さんのように優しい。


「僕とずっと一緒にいてくれませんか?」


「ずっと一緒にいてあげよう。でも、その前にシャワーだ。土埃が体についていて気持ちが悪いだろう?」


 シャワーから出ると、アーシャが他の子たちと話している。

 僕は自分だけを見て欲しくて、アーシャの腕を揺らす。


「アーシャ。シャワーから出たよ」


「少し待ってくれ。この子たちの悩みを聞いている」


 少し待ってとは言われたけど、いくら待っても話が終わりそうにない。


 僕は不貞腐れてテントのベッドに潜る。


 しばらくしてアーシャが来て、ごめんごめんと謝る。


 僕は本心からアーシャのことを待っていたのに、わざと、退屈そうな態度をしてベッドから起き上がる。
 なぜだか、自分の本心を曝け出してしまうのが納得がいかなかったのだ。


「別に……」


「不貞腐れていたのか。可愛い奴だな。もうずいぶんと夜も更けてきたな。寝る前に何を話したい?」


「なんでも……」


「じゃあ、昔話をしてあげよう。題名は3匹のこぶただ」


 そうして、アーシャは昔話というものを話し出す。童話というものだそうだ。
 
 最初はなんてことのない話だと思っていたけど、聞いていると、いつの間にかのめり込むようになっていた。
 アーシャの話しは面白くて、僕は真剣に聞き入る。


 オオカミに家を壊されてしまうなんて、なんて可哀そうなこぶたたちなんだろう。

 こぶたはいったいどうなってしまうのか。心配で心配で続きが気になってしまう。


 藁の家が吹き飛ばされ、木の枝の家も壊され、とうとうレンガの家までやってきてしまったけど、レンガの家は強くて、オオカミは逃げていき、僕はようやくほっとすることができた。


「面白かったか?」


「面白かった」


「それは良かった。じゃあ、そろそろ眠る時間だ」


「まだ、話を聞かせて」


「だめだ。もう寝る時間だ」


「じゃあ、一緒に眠って」


 僕がそう言うと、アーシャの表情が一瞬硬くなった。


「すまないが、他にも仕事があるんだ」


 アーシャが出て行こうとするから僕は引き留める。
 母さんが教えてくれたように、跪いてすがる。


「一緒にいて……」


「うーむ……」


 アーシャが困った顔をしている。


「お願いです……」


「……、性欲というものは知っているか?」


「性欲ですか? 知っています」


「私は今、君に対してその感情を持ち合わせている。君にキスだってしたいし、色々なことをして遊びたくなっている」


 アーシャからそう言われ、僕の顔が一瞬で熱くなった。
 アーシャは僕のことが好きなんだ。


「僕もアーシャのことが好きです」


「だが、今の私には二人もの恋人がいる。二人とも大事だし、もちろん君も大事に思っている。君だけを好きになるといわけではないのだ」


 僕は知っている。今の僕の感情は切なさだ。


 アーシャには僕だけを見ていて欲しい。他に恋人がいると知ると、僕は心臓が締め付けられて辛くて仕方がなかった。


 アーシャの足に抱き着いて、母さんに教えられたように好きな相手を引き留めようとする。


「僕だけを好きになって欲しいよ」


「それはできないんだ」


「おねがいします……アーシャ様……」


「今日は一緒に寝てあげるからそれで我慢するんだ」


 アーシャが下着姿になって僕のベッドにもぐりこむ。


 アーシャは僕を抱きしめて、早々に眠ってしまったようだ。


 僕は我慢ができなくて、眠っているアーシャの頬にキスをする。


 途中何度か、アーシャが起きてしまったけど、何も言わず、僕の頭を抱き寄せてまた眠ってしまう。
 キスを拒むわけでもなく、僕にキスを返してくれるわけでもなく、すぐに眠ってしまう。


 母さんが言っていたように、優秀な男の人は沢山の女性を抱える。きっと、アーシャも優秀な人だから沢山の恋人を持っているのだろう。それは悲しいことだけど、それ以上に僕はアーシャのことが好きで好きでたまらなかった。


「ねえ、アーシャ起きてる?」


「君が眠るまで起きていてあげるよ。だから、心配せず眠りなさい」


「あのね。僕、アーシャのことが好きなんだ」


「知ってる」


「アーシャも僕のことが好きなんだよね?」


「そうだな。一目ぼれってやつさ」


「僕、考えたけど、アーシャの恋人になりたい」


「もう、眠る時間だ。ずっと起きてるとオオカミがやってきてたべられてしまうぞ」


 僕はそのことを聞いて怖くなった。嘘だと分かっていても、何か別の怖いものがやってくるような気になった。


「あのね、アーシャに色々な恋人がいて、悲しいけど、僕はそれでもアーシャと恋人になりたいんだ」


 僕がそう言うと、アーシャは初めて僕にキスを返してくれた。

 すると、アーシャはもぞもぞと動き出して、一瞬、体をびくっと動かしたかと思うと、そのまま眠ってしまった。

 


 


 


 
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