ヤクザ警察アーシャちゃん 異世界に転生したらやりたい放題

竹丈岳

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いらっしゃいアリスちゃん

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 この国の生産力は徐々に上がりつつあるものの、やはり芳しくない。

 世界の列強国と比べて、この国の生産力は未だ十三位と低い。
 これでは自国の領土を守ることすらも叶わないだろう。

 いずれは、農業中心の経済から、重工業を中心とした経済に変えていかなければならないが、そのためには自動化や、分業を強化していかなくてはならない。
 そのためには教育が必要となる。

 今、この国では、教育の無償化を進めており、識字率も40%にまで伸びている。

 読み書きができればマニュアルも読めるし、マニュアルを作成することもできる。
 誰もが技術を習得していけるということになる。

 問題は、職人が人に教えることができないということだ。

 今まで、人に技術を教えたことがないせいで、見て覚えろという昔ながらのやり方に固執しきってしまっている。
 それもあってマニュアルの作成の進捗は遅れている。
 いずれは解決する予定だが、職人が頑固過ぎてあまりうまく進んでいないのが現状だ。

 マニュアル化が進めば、技術のない労働者でさえも兵器生産の従事者にできる。
 
 雇用状況とは別に、国民生活の水準を向上させるために孤児院への出資も行っているが、視察に出向いたところ、その金の使い道に困っているのが実態だった。
 

ーーーーー


 まだ、1年も経っていないというのに、院長の顔を見ただけで涙が溢れてしまった。
 久しぶりに帰ったこともあり、今までの緊張が一気に解れたようだ。

 私だって、幸せに生きられるなら悪いことなんてしたくはない。
 

 孤児たちと一緒に畑を耕す院長が、私を見つけて手を振ってきた。

「お久しぶりです。院長」

「見ない間に、また大きくなりましたね」

 院長がクワを畑に刺して、私に優しく微笑みを向ける。

「ただいま……」

「おや、泣くのですか? 全く、相変わらず赤ちゃんですね」

 院長が私を抱きしめる。

 血は繋がっていないとはいえ、院長は私をここまで育ててくれた母親なのだ。

 私だって人間の心くらいある。

「いえ、すみません。お話があるので、中へ入っても良いですか?」

「構いませんよ」

 院長は魔術で作った水で手を洗い、私を応接室に通した。
 温かいお茶を出してくれて、私はそっと呑み口に顔を近づける。
 が、あまりの熱さにまたそっと口を離す。

「ところで、手紙に記したように、出資金はどのように扱われていますか?」

 私の言葉に、院長が少し考える様子を見せた。

「食べ物を買ったり、衣服を買ったりすることが殆どです」

「お金は足りませんか?」

「いえ、一人当たりの計算では十分な額ですが、使い道に困るのです。小さいうちに贅沢させるわけにもいきませんし」

「それなら、学校に通わせてください。交通費としては足りるはずです」

「それが、いえ、女の子が強姦を受けそうになったのです。周りの子が先生に報告したおかげで、未然に防ぐことはできましたが、犯人はまだ教職に付いていますし、女の子は心に酷い傷を負っています。これ以上、通わせることはできないのです」

「痛ましい話です……。ですが、それなら、警備を強化します。もう、2度と同じことは繰り返させませんから、通わせてください」

「いえ、おそらく、私の見立てでは、無理でしょうね。孤児の立場は弱いので、また、教師からも強姦を受ける可能性はあるでしょう。そこまでして学校に通わせようとは思いません」

「それは、ありうるでしょう。しかし、職員は全て女性に変えます。その点は心配しないでください」

「しかし、そこまでして、教育をしなければならないのかというと、私は疑問を感じるのです。読み書きができるからといって良い仕事に就けるのですか? 畑仕事よりも効率が良く?」

「私の目的はこの世界から差別を無くすためです。少なくとも女性に対する差別をです。そのためには、小さいころから差別をしてはいけないと教育してかなければなりません。そのための学校です」

「なるほど。しかし、それでしたら、学校に通うメリットをもっと周知させる必要がありますね」

 院長はいつも私を見透かしたように見る。
 自分の至らないところも見透かして、私は少々居心地が悪くなってしまう。


「たしかにそうですね……」

「あなたは、才能のある子ですよ。頑張りなさい」

「はい。ありがとうございます。一応、卒業すれば最低でも工場で働けるように手配しており、一般的な仕事の平均よりも上の賃金を出せるようにしています。学校に通わせるようにしてください」

「分かりました。強姦を経験したあの子は可哀そうですが、説得してみましょう」

「お願いします。私からもその子と話をさせてください。私にも責任があります」

「分かりました。今、あの子は畑を肥やしているから呼んできましょう」


 そうして院長が呼んできて、現れたのは、私の見知った子の……、アリスだった!

「アリス!」

「アーシャ様!」

 お互いに抱き合い、確かめるように顔を合わせる。

「すまないアリス! 私が君たちを学校に通わせようとしたんだ!」

「いえ、私は大丈夫です!」

 アリスは平気なフリをしている。
 だが、そんなわけがないのだ。

「学校はもう安全だ。2度と起きないように警備も強化している。教員も女性に変える。だから、もう一度学校に通ってほしい!」

「あの、私は……、アーシャ様と同じ学校に通いたかったです……」

「そうだ。すまない。そういう約束だった。もう急いで魔法学校に転入できるように手配をする。今日は私の家に泊まりなさい。もう苦労はしなくて良いんだ」

「やっと……、やっと迎えに来てくれた……」

 アリスはその場に崩れてわんわんと泣き始める

 怖い思いをして今までアリスは必死に耐えていたのだ。
 私はアリスを抱き締めて、もらい泣きをしてしまう。


 けれども、これは悲しいという涙ではない。

 怒りの涙だ。



 
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