上 下
24 / 76

ヤクザ警察24時⑥

しおりを挟む
 クソガキどもの教育を終えて、アデ先生の仕事の終わりを待つため、私は今、研究室で一息ついているところだ。

 そうして待っていると、扉が開いてアデ先生が言葉を失った。

「お疲れ様。アデ先生」

「いや、アレクサンダー先生。何をしているんですか?」

「何をしているって、見ればわかるだろ? アレクサンダーにお茶くみをさせているんだ」

「いや、どうしてお茶くみなんかを?」

 アデ先生が目を丸くして、満身創痍のアレクサンダーに駆け寄る。

「こいつは私の奴隷となったのだ。おい! さっさとアデ先生にお茶をいれないか!」

「はい! かしこまりました!」

 アレクサンダーの頭を警棒で叩く。よろめくアレクサンダーにアデ先生が駆け寄ろうとするのを見て、私が警棒を突き出して静止させる。

 アレクサンダーは「どうぞ」と言ってお茶を渡し、「どうも……」と言ってアデ先生が受け取る。

「あの、どうして奴隷なんかに?」

「こいつが七不思議の正体なんだよ。んで、悪をさしてたところを私がとっちめたんだ」

「へえー……」

 アデ先生は未だ状況が飲み込めないといった様子だ。怪訝そうな目つきで、私とアレクサンダーを見ている。その視線は横に逸れて、正座をさせられている生徒に向けられる。

「ところで、その生徒たちは私の研究室で何をしているんです?」

「こいつらは行方不明となった生徒たちだ。だが、多くが盗みや殺人を犯すクソガキばかりだったからな。遺体の場所を自白させて警察に突き出してやった。残りはただのクソガキだ」

「じゃあ、早く親御さんに連絡しないと!」

「いや、私が既にした。だが、こいつらは家からも見放されるほどの素行の悪い奴らでな。代わりの子供もいるしで、行き場を失っているんだ。当分は、私が面倒をみる」

「面倒をみるって……、どうやって?」

「簡単なことだ。当分はアレクサンダーの家に住まわせて仕事をしてもらう。もちろん、監視は付ける。さて、この部屋の掃除も終わりだ。他の仕事を探しに行け」

 そう言って私が睨みつけると、元生徒たちが怯えた様子で出て行く。

 そんな中で、私好みのイケメンの襟を掴んで引き留める。

「お前は別だ」

「なんで俺だけ……」

 そう怠そうに呟くのは、少し疲れ切った顔をした少年だ。年も16で私の理想に近い。
 髪の毛が少し長く、前世で言えば、少しばかりヴィジュアル系の風貌をしている。

「お前が私好みだからだ。私の肩を揉め」

「そんな小っちゃいなりで肩を凝るもないだろ……」

「お前は馬鹿か? ただ単にお前に体を触ってもらうために言っているだけだ。それとも興奮してしまうからか? この変態め」

「誰が幼女に欲情なんてするか」

「それでいい。まともな奴は幼女に発情なんてしないからな。これはただの私の欲だ」

 イケメン、もとい、エイジャックスに肩を揉んでもらうと、それだけで気分も良くなる。顔のいい男か、幸せなやつだな。

「早く解放してくれ。罪だってなんだって認めるから」

 エイジャックスが、今にも死にそうな声でそう言う。

「ダメだ。お前は飢えから盗みに手を出したのだ。悪いのは国民に生活させられないこの国だ。お前がちゃんとした生活ができるようになるまでは手放さない。それに、殺人もしていないのだからそれほどお前は悪くない」

「えっと……、いいかしら?」

 そう言ったのはアデ先生で、恐る恐る手をあげる。

「どうしたアデ先生? 私に触れられないから嫉妬か? あとでちゃんと触らせてやる」

「いや、そうじゃなくて! いや、触りたいんだけど! 違くて! そこで膝をついているアレクサンダー先生はどうするの!? 警察は!?」

「こいつか? まあ、状況を整理すると、こいつはクソガキにしか手を出していないし、そのクソガキも全て私が元に戻したはずだ。本当のところは警察につきだしたかったんだが、まだアレクサンダーもクソガキも、使える手駒になりそうでな。私がこの国を変えるのに必要と判断したんだ」

「何に使うつもりなの……?」

 アデ先生は顔を引きつらせている。

「どうにもこいつはこの学校の校長と悪い繋がりがあるようだ。そして、その校長は警察の弱みを持っている。となれば、私が警察の弱みを握ることも可能だろう」

「ねえ、アーシャちゃん。いつか殺されるよ」

「それもまた人生だ。先のことなんて誰も知らん。さてアレク、校長の情報を全て話せ」

 私が睨みつけると、アレクは怯えた様子で縮こまる。

「はい……、校長は日曜日になると、夜な夜なパーティーを開いています。そこでは悪魔崇拝が行われ、十戒を破ることを目的としています。」

「十戒となるとあれか? モーセのやつか?」

「モーセは知りませんが、主に姦淫と殺人を繰り返しています」

「悪魔崇拝の典型的なパターンか。しかも警察との繋がりか。腐りきっているな。で? その悪魔崇拝をしてなんの意味がある? まさか、ただのパーティーなのか? 何かしら目的があるだろう?」

「校長は悪魔と契約して今の地位を得ました。元はスラムの出なのです。契約書には、一年の猶予と引き換えに権力を得ると記されています。悪魔の力を得るには契約書が無くてはなりません。契約書が失われたことが悪魔に知られれば、魂を奪われるのです。私がその契約書を持っています……」

「どのような経緯を持ってその契約書を持っているのかは今は聞かないでおこう。今はその情報だけでも十分だ。来なさいマーラ」

 大人しくお絵かきをして遊んでいるマーラを呼び寄せると、花咲く笑顔で私にかけてきた。
 そんなマーラを膝の上に乗せる。大人になった私から比べると、やはり、マーラの体は小さい。

「マーラの能力を使って校長と警察の弱みを握る。もはや、男社会のこの国で、私が乗っ取ったも同然なのだ。これまで辛抱したかいがあるというもの。さて、報復の時だ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...