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ヤクザ警察24時⑤

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 ハッと目を覚ますと、私は路地裏に運ばれていたようだ。

 周りにゴミが散らばりネズミが徘徊し、およそ、清潔さとかけ離れた場所に、私は寝かされていたようだ。そのおかげか、人も寄り付く印象がない。

 未だに頭がぼんやりとして、起きているのか寝ているのかさえ区別のつかない状態ではあるが、私の召喚獣は命令を遂行できたのだろう。

「すまない。起きた。ところで、あなたに名前はあるのか? これから呼ぶ時が大変だ」

「私は大衆のイメージから作られた存在。名前などありませんよ」

 私が起きたのを見て、武者が刀を納める

「イメージ?」

「この世界の東洋の者たちは私のように神速の使い手ですからな。そのようなイメージから私が召喚されたのでしょう。召喚獣とはイメージそのものですからな」

「東洋の人間はあなたのように強い者が多いのか。私の自信も無くなっていくな」

「ははッ。なんという謙遜。最高位である日神級の私を呼んだのですから実力は本物だというのに」

 武者は、鬼の面をカタカタと言わせて笑う。

「日神級? 召喚獣にもランク以外の分類があるというのか?」

「もちろんありますとも。日神級ともなれば喋ることはもちろん。自由意志を持ってして、疎通を図ることも可能ですからな。並みの術者では私を呼ぶことすらもできないでしょう」

「そうか。数字にばかり目がいっていたが、そうか。そういうことか。それなら少しは自信がつくというものだ」

「恐れ多くも私から一つ進言を。自信は慢心に変わりやすく、常に最悪の想定に対処できるようにすべきかと」

「そうだな。過度な評価は良くない。しかし、これからは反撃と行かせてもらはなくてはな」


 アレクサンダーの研究室に戻るが、やはり、既にもぬけの空だった。
 鳥かごに鳥の姿はなく、研究資料も無くなっていた。慌てていた様子が思い浮かぶほど、椅子や引き出しが投げ出されていた。

 しかし、私もここまでは想定していた。逃げたとなれば、不利な状況であるということを私に知らしめているようなものだ。
 奴を捕えるため、私は自分の姿を鳥に近づける。
 練習に慣れていないため、長時間の飛行は難しいが、短時間であれば滑空を繰り返して周りを見渡せるだろう。

 空高く飛び回り、逃げる奴の姿を大通りで見つける。手には大きな鞄を抱え、息を切らし、必死に逃げている様子があった。

 少し泳がせて、家に帰りついたところで目の前に降り立ち変身を解く。

 私は自分の服を素敵な中二服に変えて、鞄から警棒を取り出す。
 幼女の私が、素敵な笑みを振り撒いてあげているというのに、アレクサンダーは、私を見て、どこか怯えた様子で自分の荷物に引っ掛かって転んだ。

「どこへいかれるんですか? 先生?」

「くっ……!」

「おしおきの時間ですよ?」

 アレクサンダーがクロスボウのような物を取り出したので、重力場を強くして物ごと手を地面に叩きつける。

 それでも、しぶとく立ち上がろうとするので、私は姿を消す。

「クソッ! どこへ行った!?」

「教師が生徒に負けてちゃだめじゃないですか?」

 今度は後ろに回り込み、警棒でアレクサンダーの足をぶん殴る。
 転んだ拍子にアレクサンダーの腕が地面についてそのままへし折れたが、きにする必要もないだろう。

「ぐあっ!」

「生徒たちはどこへいます? 答えなさい」

 背中を踏みつけ、髪の毛を引っ張って頭を持ち上げ、警棒を首に引っ掛けると、そのまま強引に海老反りにさせる。

「だれが……! 言うものか……!」

「強情ですね。でも、強情な人は好きですよ? もっと叫んでください」

 アレクサンダーの背骨がミシミシと音を立てている。顔を真っ赤にして、私の体を掴もうと必死に腕を後ろに回そうとしているが手が届かないようだ。

「こんなことをしてただで済むと思うなよ!」

「おや? もう魔力切れですか。雑魚ですねえ。ところで、私も苦しい人生を送ってきましたから人の苦痛には敏感なんです。もっと苦痛を上げて私を楽しませてください」

 私は自分の体を成長させると、瀕死のアレクサンダーを引きずって、家に押し入り、風呂場に体を沈めさせた。

 衰弱したところで何度も持ち上げてアレクサンダーが息を吹き返すたびにまた沈める。
 それでも、口を割らないので、今度は煮詰めたコーヒーを漏斗で飲ませ続ける。

 コーヒー10杯も飲めばカフェインによる中毒症状が始まって心臓が異常な動きをしているころだろう。脳内物質であるセロトニンが低い体質であれば、このままアカシジアかパニック障害に至るはずだ。

 椅子に縛り付けられたアレクサンダーが体をよじり始める。

「私に何をした……!」

「おや? もしかして、体がそわそわしますか? 苦しくて辛くて、解放されるために死んでしまいたいと思いますか?」

「助けてくれ……! なんだこの変な感覚は!!」

「それはそれは……素晴らしい! それはおそらくアカシジアという症状です。カフェインの作用によってノルアドレナリンが大量に出たことによって、ドーパミンやセロトニンで制御しきれなくなった状態なんです。恐怖が凄いでしょう? どんな大男だってその症状には耐えられません。私も一度経験したことがあるから分かります。アカシジアはこの世の地獄です。なんだって恐怖そのものなんですから」

 アレクサンダーが子供のように泣き喚き始める。解離性の症状が出るまで追い詰められていた精神状態はセロトニンやドーパミンが低く維持されているはずだ。
 さらに、ナイフで切りつけ、痛みを神経に送ることで、セロトニンやドーパミンを消費させていく。

 暴れるせいで、縛り付けられた椅子ごとアレクサンダーは床に倒れる。
 頭を打ったようだが、そんなことに構う余裕すらもないようで、必死に助けを求めて叫んでいる。

「無駄です。今のこの部屋は何層にも重なる鉄の膜が覆っています。音が外に漏れることはありません。その苦しみから解放されたければ私に許しを請って、洗いざらい全てを話すことです」

「悪かった! 助けてくれ! 死にたくない!」

「良いでしょう。でも、その前に全てを話すことです」

「分かった話すから!」

 それからアレクサンダーは召喚獣となった生徒たちの行方を話していく。
 一つ何かを話すたびに、指を折って本当かどうか問いただすから、悲鳴が止むことはない。

 生徒たちはこの町の全体に解き放たれて私の監視の役目を追っていた。その鳥たちを集めて、私は召喚の解除を行っていく。

「研究室の隠し部屋から察するに、学校もなんらかの形でかかわっているのでしょう?」

「校長は私の研究を国に売って軍事利用するつもりだったんだ!」

「なるほど、いかにも三下が思いつきそうなことですね。しかし、どうやって警察の捜査を拒んだんですか? ろくに捜査もされていなかったようですが?」

「それは校長がやったことだ! 私は知らん! 早く治してくれ!」

「聞きたいことはそれくらいです。あとは、私の奴隷になりませんか? お茶くみ等の雑用に、財産の全てを私に対して共有する簡単なお仕事です。この条件が飲めれば治す方法を教えましょう」

「分かった!! なんでもするから!」

 アレクサンダーは、恐怖で頭が一杯だとでも言わんばかりに必死に私にそう訴えてくる。

「違うでしょう? 分かりました。アーシャ様でしょう?」

「わ……、分かりました……。アーシャ様」

「あと、素晴らしく美しいも」

「素晴らしく美しいアーシャ様……。お願いです。薬をください……」

「よろしい。では、治すための薬を調合してあげましょう」

 調子に乗った私は、次々にアレクサンダーに無理な要求をしていく。そんな要求が通るのも、このパニックの恐ろしいところだ。

 しかし、薬を調合するといっても、所詮はただの水だ。薬っぽく苦みを付け加えるために、そのへんでとってきた野草を少し煮詰めて飲ませる。

 薬と言って渡して飲ませると、アレクサンダーは少し落ち着いた様子を見せた。
 プラシーボ効果というやつなんだが、この症状にはある程度有効に働いてくれる。

 残念ながらアカシジアの症状に治す有効な薬は今までのところ無い。運動によってノルアドレナリンを消費する以外にないのだ。

「いつになったらこの症状は治まるんだ?」

「一日は無理でしょうね。軽くなるとしたら半日は必要です。それに、毎日運動は欠かさないようにしてください。じゃないとまた再発しますから」

「分か……、りました……」

「ちなみに、私を裏切ったらどうなるかわかっていますよね? またその地獄を味わうことになりますから」

「分かっている……」

「まっ、信じられないので、結局監視はおくんですがね」

 私がニヤニヤと笑っていると、アレクサンダーは煮え湯を飲まされたような顔で私に頭を下げる。

「私はこれからどうなるのだ……?」

「それはあなたの態度次第です。罪は償ってもらわないといけませんがね」

「くっ……」

 さて、後はこいつらだな。

 見渡せば、悪さばかりをしていたとされるクソガキが17人ほど倒れている。
 こいつらの更生も兼ねて私の元で働いてもらわねばならないし、とっとと起きてもらいたいのだが、十数分経っても起きる気配がない。

 水をかけて起こすと、ようやくクソガキどもが起き上がった。 
 いずれ、私がこの国の権力を握り差別をなくすためには沢山の手駒がが必要だからな。今のうちから教育しておきたい。

 クソガキの1人を蹴りつけ、挨拶をする。

「おはよう。クソガキども。教育の時間だ」
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