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ポリコレポリス魔法学校入学➁

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 トイレを済ませて教室に戻り、時間が来るまでぼーっとして待っていると、教室の扉を開けて担任らしき人が入ってきた。
 アデ先生だった。
 
 家での様子とは違い、教卓の前に立つアデ先生は物静かで知的な眼差しをしていた。
 黙っていれば美人。残念な美人というのはこういうことを言うのだろう。
 出席をとり、この学校の禁止事項を説明をしている姿は、やはり、教師としての在り方があった。

 途中、アデ先生が私に手をふって微笑んだ。

 そうすると、周りの男たちが自分に微笑みを向けられたと勘違いして沸き立った。

 相手にされたことでうんざりしている私だが、アデ先生のことは、私も美人だとは思っていた。私が何も知らない男だったら間違いなく自分のものにしたいと思っただろうが、ロリコンに子供を産ませるほどの危険は犯したくない。

 次に講堂に案内され、校長が食っちゃべるだけの入学式は早々に終わった。

 すると、さっそく授業の時間が始まった。
 授業内容として、この魔術学校では、前世の大学でのようにコマ制になっており、好きな授業を選択して出るという形式になっている。
 これから私が出るのは、召喚獣基礎単位だ。

 教本を持って教室を移動し、別の講堂に集まった。

 同い年がいないこともあり、友達も作らず、私は床に座って時間が来るのを待つことにしていた。

 チャイム鳴る頃、筋骨隆々の厳つい男がやってきた。教師用のローブを羽織っているが、ぴちぴちになったシャツを着た姿は、どちらかというと体育教師のようだった。それに、汗臭そうな人だった。

 この教師の名前はアレクサンダーというらしい。
 全員分の出席をとり終えると、魔法陣のある場所まで移動させ、私たちに召喚の儀式をしろと言った。


「いいか? 諸君。召喚獣は決して自我を持たない。召喚獣の姿かたちも能力も、決めるのは魔力の質と己の性格だ。健全な精神は健全な肉体に宿る通り、質の高い召喚獣を呼び出すなら肉体を鍛えることをお勧めする。さて、一番にやりたいものはいるか?」

 私は真っ先に手を上げるものの、無視をされてしまった。私が女だからというのも理由があるのだろう。

 周りが次々に召喚を行う中、女であり、最年少の私は最後に回された。

 虎や竜といった格好の良い召喚獣と生徒が戯れている中、私もようやく番がきて召喚の魔法陣に魔力を流すことになった。自分の限界まで流すことが通例だそうだが、流していく端から私の魔力が回復していくため、相当な時間がかかりそうだ。

 魔力を流すほどに魔法陣の輝きが強くなっていく。
 いつまでたっても流し終えないことに違和感を覚えたのか、教師が魔法陣を触り始めた。


「どうしました先生?」

「いや、いつまで経っても終わらないから、何か不具合が起きているのではないかと思ってな」


 魔力を流しすぎていることで、もはや眩しくて目も明けられないくらいに魔法陣が輝きだしたころ、教師も汗を滲ませて引きつった顔をしていた。


「あの、そろそろやめた方がいいでしょうか?」

「そうだな――」


 その時だった。魔法陣が大爆発を起こし、講堂が吹き飛んだのは。

 壁に叩きつけられ、私は声にならない悲鳴を漏らした。
 痛む体を抑えて、上体を起こす。
 埃と煙の巻き上がる中、視界はいっこうに晴れることはなかった。

 声を頼りに、アレクサンダーが生徒の安否を確認して回っている。

 動けない私は視界が晴れるまで長い間ずっとその場にいた。

 爆発に気付いた教師たち数名が講堂に集まり、事態の収拾を図ろうとしていたところ、煙が晴れてようやく辺りが見渡せるようになった。

 私は爆心地に小さな人影を見つけた。よおく目を凝らしてみると、五歳くらいの少女が瞼をこすって眠たげに目を萎めているようだった。

 その少女は質の良い紫色の服を着ており、この場所にしては珍しい褐色肌をしていた。


 私によって召喚されたであろうその五歳くらいの少女は、まだ眠たそうな目つきで私にジトっとした視線を向けてきた。
 そして、その少女は私の隣にまでくると、ゆっくりと座った。


「ママ。お腹減った」


 少女は私の袖を掴み、催促するように引っ張った。それに、少女は、私のことをママと呼んだ。


「た、食べ物か? 生憎だが、今は手持ちが無いんだ」

「そう。じゃあ眠るね……」


 そう言うと少女は私の膝を枕にして横になり寝息を立て始めた。

 いくら召喚獣だとはいえ、相手が子供の姿ということもあり、私は強く言うこともできず、困った顔をしてじっとその場で待機をすることにした。いずれ、教師がどうにかしてくれるだろうと思ったのだ。

 頭を撫でれば、本物の少女のように柔らかい。眠った姿は何とも愛らしい。
 黒髪の褐色肌ではあるが、私と似てくせ毛なこともあり、どことなく親近感を覚える。

 授業は一旦中止となり、生徒の全員が召喚獣との契約を破棄しようとしたところ、私の召喚した少女だけは姿を消すこともなく、寝息を立てていた。


「あの、アレクサンダー先生。この子消えないんですけど」

「本当か?」


 アレクサンダーが少女を持ち上げて何やら耳の裏を調べている。


「何をしているんですか?」

「召喚獣は耳の後ろに契約のシルシを付けるようにしてあるんだが、この子の契約を解除しようとしても中々上手くいかないんだ。それに、事故が原因で、通常よりもランクの低い召喚獣が生まれることもあるんだが、この子もそうらしい」

「事故が原因ですか……」


 召喚獣にはそれぞれランクがあり、1が最低で10が最大だ。ランクが高ければ高いほど能力も高いのだが、この子の耳の後ろには1と書かれている。

 まあ、はずれと言えばはずれなのだが、そう言って少女の姿を切り捨てるのも後ろめたさがある。

「私がこの子を預かっておくから君は医務室へ向かう準備をしなさい」

 アレクサンダーがそう言って、私から少女を剥ぎ取ろうとしたとき、少女は目をぱちりと開けて、私のもとに飛び降りてきた。

「やだ! ママのところにいる!」

「なんだ? 今、喋ったのか?」

「確かに喋りましたがどうかしましたか?」

「喋る召喚獣とは妙な……」

「ママ。お腹減った!」


 少女は私の服を掴み、涙を浮かべる。

 私が離れようとすると、少女は力いっぱいに引っ付いてこようとする。


「私は君のママじゃないんだが……」

「や! お腹空いた!」


 少女が泣き叫び、駄々をこね始める。

 あまりの五月蠅さに耐えかねて、私は少女を泣き止ませようと必死に宥めるが、一向に収まってくれない。


「ああ! 分かったから! 泣かないでくれ! 私はそういうのに弱いんだ……! 何が食べたい!? 少し早いが弁当を食べさせてやる!」


 私がそう言うと、少女はにっこりと笑って、私から頭を撫でられることを覚えた。


「アーシャ。召喚獣は一般的に喋ることはない。事故が原因でなんらかの作用が働いたのだろう。私でも分からないが、少しの間君が預かっておくか? その間に私が契約の解除ができないかどうか調べておく」

「分かりました……。これはもう、しょうがないですね」

「えへへ。ママだあいすき!」


 少女が満面の笑みを浮かべ私に抱き着いてくる。
 こんな屈託のない笑顔を見せられてしまうと、いくら私でも、拒否はしきれない。
 一貫性が無く、本当に私は情けない。


 
 
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