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ポリコレポリス魔法学校入学①
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寝ぼけた目をこすり、カーテンを開けて、強い日差しに目を細める。
とうとう入学の日がやって来たのだ。
昨日は女児たちからお別れ会を受け、丸一日遊んだ。
魔術学校に通うためにアデ先生の家に止まり一夜を明かした私はこれからの期待に胸を膨らませて大きく体を伸ばした。
ところで……、
「ところで、なんで先生が私のベッドで寝ているんです?」
「えへへ」
「えへへじゃないです。出て行ってください」
寝起き早々にアデ先生をベッドから蹴落とし、朝ご飯の支度をする。
「冷蔵庫勝手に使いますけど良いですよね?」
「良いですよー。その代わりちゅーしてくださーい」
うざったく私の足に抱き着いてくるアデ先生の頭を踏みつけ、床とキスをさせる。
冷蔵庫を開けて、卵とソーセージを焼いていると、匂いを嗅ぎ付けたアデ先生がキッチンにまでやってきた。
「あれ? お皿二つあるけど、これってもしかして私の分?」
「そうですよ」
「あれ? アーシャちゃんってもしかして優しい子?」
「あなたが変態だから蹴っているだけで、普通の人相手にそんなことはしませんよ。それに、家に泊めてもらっているのですからね。ついでにやることは大した労力ではありません」
「ううう……。お母さん……。あたし……。ようやく結婚したよ……。こんなに可愛いお嫁さんができた……」
「勝手に結婚させないでくれ」
「えー。ねえねえ。ほんきで私と結婚考えてみない?」
「子供も作れないのに結婚なんて考えるか」
「え? 作れるよ?」
「は?」
「ちょっと体を弄れば男性器だって生やせるよ。じゃあいつ式上げる?」
「そもそも私はまだ子供だ。結婚して良い年ではない」
「でも、今9歳になったんでしょ? あと4年もすれば13歳だしもうすぐ結婚できる年じゃん!」
「まだ4年もある! というより、この国ではそんなに早く結婚するのか!」
「そうだよ。じゃないと早死とか多いからね」
私の前世でも、早死の多い地域では早い年で結婚して子供を作っていた記憶がある。
そうか。この国も早死が多いのか。
「それなら私はアリスと結婚する」
「じゃあ、私は愛人ってことで」
「アリスが承知しないだろう。いいから早く喰え。洗い物がしたいんだ」
支度を終えてアデ先生に手を引いてもらいながら登校する。今は指定された制服を着ているため、お気に入りの服ではないが、警棒だけは鞄の中に入れている。学校に上がってまでごっこ遊びに興じるつもりはないが、念のためというやつだ。
「それじゃあママは職員室に行くから、一人でもちゃんとやるのよ!!」
「誰がママだよ……」
さて、私は自分の教室を探し、時間が来るのを待つ。
私のような幼女は少なく、というかこの教室には全くいない。
聞き耳を立てれば、既にどいつが強いだの、あの子が可愛いだの、男たちがありきたりな話を始めていた。
女性は男性のために道を開け、沈黙に徹し、騒ぐことすらも許された雰囲気ではなかった。
時間があるから先にトイレを済ませようとして席を立つが、私の行く手を図体のでかい男が阻む。
「おい、ちびっ子。道の邪魔だぞ」
「こういう時はお互いに譲り合うものだよ」
「てめえ常識もないのか? こういう時は女がどくんだよ。歩行線を見ろや」
そうして指差す方向には女性が歩くべき境界線が敷かれている。
白色のラインで、廊下の端の端に寄せてあり、窮屈で随分と歩きづらそうだ。
女子生徒たちは身を寄せあって歩いている。
対照的に男性側は広く場所がとられており、廊下の真ん中を堂々と歩いている。
「やれやれ。ケツの穴が小さいな。退いてやるから早く通れ」
「ケツの穴……?」
私が道を譲っているというのに、男は眉間に皺を寄せて先へ行こうとはしなかった。
今の私は早くトイレに行きたいのだが。
「はやく行ったらどうだ? こっちは待っているんだぞ?」
「どういう意味だ?」
「どういう意味? ああ、器が小さいと言っているんだよ」
「おいクソガキ。舐めた口きいてんじゃねーぞ?」
16歳の男が私のような幼女にガンを飛ばしてきているのだ。あまりの小ささに私が笑ってしまうよ。
「私よりも弱いくせによく言う。一度本気で戦ってみるか?」
「ああ良いぜ。何でもありだな」
私の挑発に男が関節を鳴らして準備運動らしき動きを済ませている。普段の私なら人のひしめく通路で喧嘩などしたくもなかったが、今回ばかりは良い見せしめの機会となるだろう。
相手はかなりの筋肉質だ。手加減もなしに殴られれば、私は死ぬかもしれない。それも逆に興奮するというものだが、コイツは私の好みではない。
「仕方がない。ハンデだ。先行はくれてやろう」
「はっ! ガキ相手に魔術なんて必要ねーよ!」
ズボンのポケットに両手を突っ込んで、余裕を見せつけているところに、私の顔面に向かって拳が飛んでくる。
が、大したことではない。
魔術教本の内容は全て頭の中に叩き込んである。前世の私は致命的に顔が悪かった分、昔から努力家なのだ。
無詠唱で男の動きを拘束する。そのまま重力を強くして、男に頭を下げさせる。
「どうした木偶の坊? 何もしてこないのか?」
私は得意げな顔を向けてやった。
すると、男の額に汗が流れるのを見た。
「な……! クイックグラビ!」
奴は重力場を反転させて私の重力場を追いやった。
が、再び私は重力場をかけて押し倒す。
「まるで馬鹿の一つ覚えだな」
魔術の掛け合いにより、お互いに動くことができずにいた。このままいけば、魔力が先に尽きた方が負けるだろう。
相手は必死な様子だが、私は魔力を消費していく先から回復していく。
ミトラス学校指定の『魔術戦闘のすすめ』という教本によれば、一般的に魔力量に決定的な差があれば、重力系の魔術を敵にかけて、耐久勝負をしかければ負けることはないとされている。
教科書の内容など、世の中を舐め切った入学したてのクソガキは知らないだろうがな。
「クソッ!」
「いい加減負けを認めたらどうだ? でないと、このままお前の頭を踏みつけるぞ? 女に負けた男として入学早々に恥をかくか、このまま静かに私に謝罪して戦いをなかったことにするか、どちらかだぞ?」
「てめえ……! メスのくせに……!!!」
男子生徒が恨みがましく私を睨みつけてくる。
こうなることは運命だったのだ。
私はコイツの魔力量も名前も全てを事前に知っていた。種明かしをするならば、アデ先生に頼んで全生徒の個人情報を手に入れていたのだ。全校生徒の魔力量も回復速度も全て私の頭の中に入っている。
私ならではの強みだな。
私が頭を踏みつけようとすると、男子生徒が小さく謝罪をし始めた。が。
「誠意が足りないな。今後、二度と女性だからといって見下すことはないと誓え」
「分かりました……。本当にすみませんでした……」
「分かればよろしい」
私は振り上げた足を下ろして、満足してトイレに向かうとする。
が、卑怯にも、私の背後を狙ってきた。そのまま重力場で返り討ちにしてやると。鼻が折れた様子で逃げていった。
とうとう入学の日がやって来たのだ。
昨日は女児たちからお別れ会を受け、丸一日遊んだ。
魔術学校に通うためにアデ先生の家に止まり一夜を明かした私はこれからの期待に胸を膨らませて大きく体を伸ばした。
ところで……、
「ところで、なんで先生が私のベッドで寝ているんです?」
「えへへ」
「えへへじゃないです。出て行ってください」
寝起き早々にアデ先生をベッドから蹴落とし、朝ご飯の支度をする。
「冷蔵庫勝手に使いますけど良いですよね?」
「良いですよー。その代わりちゅーしてくださーい」
うざったく私の足に抱き着いてくるアデ先生の頭を踏みつけ、床とキスをさせる。
冷蔵庫を開けて、卵とソーセージを焼いていると、匂いを嗅ぎ付けたアデ先生がキッチンにまでやってきた。
「あれ? お皿二つあるけど、これってもしかして私の分?」
「そうですよ」
「あれ? アーシャちゃんってもしかして優しい子?」
「あなたが変態だから蹴っているだけで、普通の人相手にそんなことはしませんよ。それに、家に泊めてもらっているのですからね。ついでにやることは大した労力ではありません」
「ううう……。お母さん……。あたし……。ようやく結婚したよ……。こんなに可愛いお嫁さんができた……」
「勝手に結婚させないでくれ」
「えー。ねえねえ。ほんきで私と結婚考えてみない?」
「子供も作れないのに結婚なんて考えるか」
「え? 作れるよ?」
「は?」
「ちょっと体を弄れば男性器だって生やせるよ。じゃあいつ式上げる?」
「そもそも私はまだ子供だ。結婚して良い年ではない」
「でも、今9歳になったんでしょ? あと4年もすれば13歳だしもうすぐ結婚できる年じゃん!」
「まだ4年もある! というより、この国ではそんなに早く結婚するのか!」
「そうだよ。じゃないと早死とか多いからね」
私の前世でも、早死の多い地域では早い年で結婚して子供を作っていた記憶がある。
そうか。この国も早死が多いのか。
「それなら私はアリスと結婚する」
「じゃあ、私は愛人ってことで」
「アリスが承知しないだろう。いいから早く喰え。洗い物がしたいんだ」
支度を終えてアデ先生に手を引いてもらいながら登校する。今は指定された制服を着ているため、お気に入りの服ではないが、警棒だけは鞄の中に入れている。学校に上がってまでごっこ遊びに興じるつもりはないが、念のためというやつだ。
「それじゃあママは職員室に行くから、一人でもちゃんとやるのよ!!」
「誰がママだよ……」
さて、私は自分の教室を探し、時間が来るのを待つ。
私のような幼女は少なく、というかこの教室には全くいない。
聞き耳を立てれば、既にどいつが強いだの、あの子が可愛いだの、男たちがありきたりな話を始めていた。
女性は男性のために道を開け、沈黙に徹し、騒ぐことすらも許された雰囲気ではなかった。
時間があるから先にトイレを済ませようとして席を立つが、私の行く手を図体のでかい男が阻む。
「おい、ちびっ子。道の邪魔だぞ」
「こういう時はお互いに譲り合うものだよ」
「てめえ常識もないのか? こういう時は女がどくんだよ。歩行線を見ろや」
そうして指差す方向には女性が歩くべき境界線が敷かれている。
白色のラインで、廊下の端の端に寄せてあり、窮屈で随分と歩きづらそうだ。
女子生徒たちは身を寄せあって歩いている。
対照的に男性側は広く場所がとられており、廊下の真ん中を堂々と歩いている。
「やれやれ。ケツの穴が小さいな。退いてやるから早く通れ」
「ケツの穴……?」
私が道を譲っているというのに、男は眉間に皺を寄せて先へ行こうとはしなかった。
今の私は早くトイレに行きたいのだが。
「はやく行ったらどうだ? こっちは待っているんだぞ?」
「どういう意味だ?」
「どういう意味? ああ、器が小さいと言っているんだよ」
「おいクソガキ。舐めた口きいてんじゃねーぞ?」
16歳の男が私のような幼女にガンを飛ばしてきているのだ。あまりの小ささに私が笑ってしまうよ。
「私よりも弱いくせによく言う。一度本気で戦ってみるか?」
「ああ良いぜ。何でもありだな」
私の挑発に男が関節を鳴らして準備運動らしき動きを済ませている。普段の私なら人のひしめく通路で喧嘩などしたくもなかったが、今回ばかりは良い見せしめの機会となるだろう。
相手はかなりの筋肉質だ。手加減もなしに殴られれば、私は死ぬかもしれない。それも逆に興奮するというものだが、コイツは私の好みではない。
「仕方がない。ハンデだ。先行はくれてやろう」
「はっ! ガキ相手に魔術なんて必要ねーよ!」
ズボンのポケットに両手を突っ込んで、余裕を見せつけているところに、私の顔面に向かって拳が飛んでくる。
が、大したことではない。
魔術教本の内容は全て頭の中に叩き込んである。前世の私は致命的に顔が悪かった分、昔から努力家なのだ。
無詠唱で男の動きを拘束する。そのまま重力を強くして、男に頭を下げさせる。
「どうした木偶の坊? 何もしてこないのか?」
私は得意げな顔を向けてやった。
すると、男の額に汗が流れるのを見た。
「な……! クイックグラビ!」
奴は重力場を反転させて私の重力場を追いやった。
が、再び私は重力場をかけて押し倒す。
「まるで馬鹿の一つ覚えだな」
魔術の掛け合いにより、お互いに動くことができずにいた。このままいけば、魔力が先に尽きた方が負けるだろう。
相手は必死な様子だが、私は魔力を消費していく先から回復していく。
ミトラス学校指定の『魔術戦闘のすすめ』という教本によれば、一般的に魔力量に決定的な差があれば、重力系の魔術を敵にかけて、耐久勝負をしかければ負けることはないとされている。
教科書の内容など、世の中を舐め切った入学したてのクソガキは知らないだろうがな。
「クソッ!」
「いい加減負けを認めたらどうだ? でないと、このままお前の頭を踏みつけるぞ? 女に負けた男として入学早々に恥をかくか、このまま静かに私に謝罪して戦いをなかったことにするか、どちらかだぞ?」
「てめえ……! メスのくせに……!!!」
男子生徒が恨みがましく私を睨みつけてくる。
こうなることは運命だったのだ。
私はコイツの魔力量も名前も全てを事前に知っていた。種明かしをするならば、アデ先生に頼んで全生徒の個人情報を手に入れていたのだ。全校生徒の魔力量も回復速度も全て私の頭の中に入っている。
私ならではの強みだな。
私が頭を踏みつけようとすると、男子生徒が小さく謝罪をし始めた。が。
「誠意が足りないな。今後、二度と女性だからといって見下すことはないと誓え」
「分かりました……。本当にすみませんでした……」
「分かればよろしい」
私は振り上げた足を下ろして、満足してトイレに向かうとする。
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