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転生美幼女②
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闇もなく、光もなく、私の自我が目覚めたのは、よちよち歩きを始めたころからだった。
気付くと私は孤児院で育てられていた。
抱きかかえられた私にミルク瓶をくれる初老の女性がそっと微笑むのが見える。
「あなたは美人さんね」
たまにシスターがやってきては私のおしめを変える。言葉の流れからしてこの初老の女性が院長であることが分かる。
多少なりとも腹が一杯になるほどではないが、ミルクを与えてもらい、大きくなった私は、少し歩けるようになると、自分の顔を確かめるべく鏡の前に立つことにした。
足腰に力を入れ、震える体をなんとか保ちつつ鏡の前に立つ。すると、そこには、なんとも美しい顔をした、この世のものとは思えないほどの愛らしい幼女を見た。
私は自身の頬に触れた。すると皮膚はもちもちで、癖の巻いた金髪の髪の毛が何とも可愛らしく、顔の回りに沿って伸びているのがまた愛らしく思ってしまう。
そして、私は服を着ていないせいで、下のつるつるの一本の筋を見てしまって、たまらない感情を抱いてしまった。
憧れであった女性に転生したことで、初めのうちは夢かとも思った。だが、5歳くらいの少年から蹴り飛ばされ、痛みから現実であることを強制的に理解させられた。
「おいお前! 女のくせに廊下の真ん中歩くんじゃない!」
相手は五歳児くらいだろうか、まだ赤ん坊の私を蹴るとは非常に人間らしからぬ行為だった。
私を殴った目つきの悪い少年は、私を乗り越えてどこかへと行ってしまう。
私は少年を横目に、吐きそうなほどの腹の痛みを抱えて倒れていた。
「誰か……、助けて……」
後で分かったことなのだが、この世界の女性には人権というものが存在しないらしい。
行き過ぎた男尊女卑に、私の屈辱は当然社会に向けられてしかるべきだろう。まるで、この世界は中世のようだ。
私はこの世界に生まれて間もないが、生きる目的というものを早々に持ち始めていた。
負けず嫌いの私にとって、未だに水車の動力で暮らしているような人間たちに見下されるのは、あまりに腹が立って仕方が無かったのだ。
私はまず初めに孤児院内の女性の地位を上げることを目標にした。女性が男性に勝てる分野が無いとは至極戯言だ。性別だけを理由に女性を見下せる要素などどこにもありはしない。
抑圧された環境下の女性の姿は見るに堪えない。たまにお祈りにくるシスターたちだって純潔とはうたっているものの、常に乱暴な男たちが取り巻いていた。まるで、子供の嘘のようだった。
私自身、男だったのだから、発散しきれない欲に溺れ、女性に対して乱暴にしてでも行為に及びたいと思ったことはいくつかある。しかし、私は、死んでも抗った。
それではダメなのだ。相手を傷つければ、いずれ、それが自分に返ってくるというもの。
この孤児院内での作業は基本的に畑仕事がメインだ。簡単な魔法というものを教えられ、食物の肥育を進めていく。
魔力の量が多ければ多いほど畑の才能があり、魔術師としての才能があることを示すものだった。
私も早々に畑作業を始めるが、周囲の子供の魔力の平均持続が30分ほどであるのに対して、私の魔力は3分にも満たなかった。これではまともな職業なありつくことはおろか、生きていくことすらもままならないだろうことを確実に示していた。
この世界では魔力の量こそが才能という認識らしく、手作業で畑仕事をする私に対して少年たちがあざ笑うかのように泥を投げつけてくる毎日が始まった。いじめに対して、周りが止めてくれることは決してなかったことに、私はまた悔しい思いをさせられた。
冷たい肥を浴びせられ、衝撃で口の中に入る。苦さと腐った臭いに何度も泣きそうになった。
けれども、諦める気にはならなかった。
私がこの世界で生きていくにしても、まずは知識が足りないことに気が付いた。院長に対してもっと知識を得たいという相談をしたところ、女である私には必要がないと言われた。
それでも知識を得たいと五月蠅く食い下がると、魔術の学校に通うことを勧められた。
けれども、通うための金は膨大で、まともな金額ではなかった。院長は遠回しに私に諦めろと言ったのだ。
それでも私は周りを見返すため、独学で魔力と魔術というものを研究すべく、人目を避けるにためにも山にこもるようになった。
どうにかして魔力量というものを増やせないか試すが、失敗が続く毎日が過ぎた。
そして、とある日、山にこもって食物肥育の練習をしていたところ、どうにも魔力が散って、使えなくなってしまう場所というものを見つけた。
どうやら、緑色に光る鉱石の傍では魔力が散ってしまうようだ。
いつの間にか私の興味は、魔力に関することよりもこの世界の自然というものに移っていた。
あの光る鉱石の正体はおそらくラジウムやウランなどの放射性物質なのだろう。あの光は見たことがある。魔力というものは、放射線と非常に相性が悪い様子だ。
この場所で実験を続けていれば、私も被爆して早々に死んでしまう可能性がある。
私は森での生活に、細心の注意を払うようになっていた。
そうした森での生活を続けているうちに、動物の生態にも詳しくなっていた。細心の注意を払うということは、多くのことに関心を向けるということだ。
動物の習性や毒のある植物。
普段から極限の生活をしていた私にとって、人間に荒らされていないこの森の中は、単純な原理で動き、人里と比べて非常に住み心地の良い場所に思えてきた。
木の上に住居を作り、腹が減れば私は虫や野草を採って食べていた。
中でも、ある野草を煎じたものを好んで飲んでいた。桃の香りのする甘いお茶で、暇さえあれば、一日中それを飲んでいた。
火を口から吐き出す小さな赤いトカゲを捕まえて、焚火を作ると、そこでお湯を沸かす。
孤児院から持ってきたコップに注ぐと、私はゆっくりとお茶を飲んで体を温めていた。
練習で魔力が無くなって疲れ切った私の体にそのお茶は非常に相性が良く、すぐに気力が戻るのだ。そのこともあり、私は腹を下すほどにお茶を飲み続けていた。
そうして毎日練習を重ねているうちに、場所によって魔力の回復速度が違うことに気が付くことができた。
動植物の繁殖の著しい場所では私の魔力は急速に回復し、そうでない場所ほど魔力の回復速度は遅くなっていたとうことに。
気付くと私は孤児院で育てられていた。
抱きかかえられた私にミルク瓶をくれる初老の女性がそっと微笑むのが見える。
「あなたは美人さんね」
たまにシスターがやってきては私のおしめを変える。言葉の流れからしてこの初老の女性が院長であることが分かる。
多少なりとも腹が一杯になるほどではないが、ミルクを与えてもらい、大きくなった私は、少し歩けるようになると、自分の顔を確かめるべく鏡の前に立つことにした。
足腰に力を入れ、震える体をなんとか保ちつつ鏡の前に立つ。すると、そこには、なんとも美しい顔をした、この世のものとは思えないほどの愛らしい幼女を見た。
私は自身の頬に触れた。すると皮膚はもちもちで、癖の巻いた金髪の髪の毛が何とも可愛らしく、顔の回りに沿って伸びているのがまた愛らしく思ってしまう。
そして、私は服を着ていないせいで、下のつるつるの一本の筋を見てしまって、たまらない感情を抱いてしまった。
憧れであった女性に転生したことで、初めのうちは夢かとも思った。だが、5歳くらいの少年から蹴り飛ばされ、痛みから現実であることを強制的に理解させられた。
「おいお前! 女のくせに廊下の真ん中歩くんじゃない!」
相手は五歳児くらいだろうか、まだ赤ん坊の私を蹴るとは非常に人間らしからぬ行為だった。
私を殴った目つきの悪い少年は、私を乗り越えてどこかへと行ってしまう。
私は少年を横目に、吐きそうなほどの腹の痛みを抱えて倒れていた。
「誰か……、助けて……」
後で分かったことなのだが、この世界の女性には人権というものが存在しないらしい。
行き過ぎた男尊女卑に、私の屈辱は当然社会に向けられてしかるべきだろう。まるで、この世界は中世のようだ。
私はこの世界に生まれて間もないが、生きる目的というものを早々に持ち始めていた。
負けず嫌いの私にとって、未だに水車の動力で暮らしているような人間たちに見下されるのは、あまりに腹が立って仕方が無かったのだ。
私はまず初めに孤児院内の女性の地位を上げることを目標にした。女性が男性に勝てる分野が無いとは至極戯言だ。性別だけを理由に女性を見下せる要素などどこにもありはしない。
抑圧された環境下の女性の姿は見るに堪えない。たまにお祈りにくるシスターたちだって純潔とはうたっているものの、常に乱暴な男たちが取り巻いていた。まるで、子供の嘘のようだった。
私自身、男だったのだから、発散しきれない欲に溺れ、女性に対して乱暴にしてでも行為に及びたいと思ったことはいくつかある。しかし、私は、死んでも抗った。
それではダメなのだ。相手を傷つければ、いずれ、それが自分に返ってくるというもの。
この孤児院内での作業は基本的に畑仕事がメインだ。簡単な魔法というものを教えられ、食物の肥育を進めていく。
魔力の量が多ければ多いほど畑の才能があり、魔術師としての才能があることを示すものだった。
私も早々に畑作業を始めるが、周囲の子供の魔力の平均持続が30分ほどであるのに対して、私の魔力は3分にも満たなかった。これではまともな職業なありつくことはおろか、生きていくことすらもままならないだろうことを確実に示していた。
この世界では魔力の量こそが才能という認識らしく、手作業で畑仕事をする私に対して少年たちがあざ笑うかのように泥を投げつけてくる毎日が始まった。いじめに対して、周りが止めてくれることは決してなかったことに、私はまた悔しい思いをさせられた。
冷たい肥を浴びせられ、衝撃で口の中に入る。苦さと腐った臭いに何度も泣きそうになった。
けれども、諦める気にはならなかった。
私がこの世界で生きていくにしても、まずは知識が足りないことに気が付いた。院長に対してもっと知識を得たいという相談をしたところ、女である私には必要がないと言われた。
それでも知識を得たいと五月蠅く食い下がると、魔術の学校に通うことを勧められた。
けれども、通うための金は膨大で、まともな金額ではなかった。院長は遠回しに私に諦めろと言ったのだ。
それでも私は周りを見返すため、独学で魔力と魔術というものを研究すべく、人目を避けるにためにも山にこもるようになった。
どうにかして魔力量というものを増やせないか試すが、失敗が続く毎日が過ぎた。
そして、とある日、山にこもって食物肥育の練習をしていたところ、どうにも魔力が散って、使えなくなってしまう場所というものを見つけた。
どうやら、緑色に光る鉱石の傍では魔力が散ってしまうようだ。
いつの間にか私の興味は、魔力に関することよりもこの世界の自然というものに移っていた。
あの光る鉱石の正体はおそらくラジウムやウランなどの放射性物質なのだろう。あの光は見たことがある。魔力というものは、放射線と非常に相性が悪い様子だ。
この場所で実験を続けていれば、私も被爆して早々に死んでしまう可能性がある。
私は森での生活に、細心の注意を払うようになっていた。
そうした森での生活を続けているうちに、動物の生態にも詳しくなっていた。細心の注意を払うということは、多くのことに関心を向けるということだ。
動物の習性や毒のある植物。
普段から極限の生活をしていた私にとって、人間に荒らされていないこの森の中は、単純な原理で動き、人里と比べて非常に住み心地の良い場所に思えてきた。
木の上に住居を作り、腹が減れば私は虫や野草を採って食べていた。
中でも、ある野草を煎じたものを好んで飲んでいた。桃の香りのする甘いお茶で、暇さえあれば、一日中それを飲んでいた。
火を口から吐き出す小さな赤いトカゲを捕まえて、焚火を作ると、そこでお湯を沸かす。
孤児院から持ってきたコップに注ぐと、私はゆっくりとお茶を飲んで体を温めていた。
練習で魔力が無くなって疲れ切った私の体にそのお茶は非常に相性が良く、すぐに気力が戻るのだ。そのこともあり、私は腹を下すほどにお茶を飲み続けていた。
そうして毎日練習を重ねているうちに、場所によって魔力の回復速度が違うことに気が付くことができた。
動植物の繁殖の著しい場所では私の魔力は急速に回復し、そうでない場所ほど魔力の回復速度は遅くなっていたとうことに。
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