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戦車開発!
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それから俺は、城に戻ると、傭兵たちに金を払って解散させた。
新しく手に入れた領地である占領地域の反発を抑えるためにも、地域の統合は早い方が良いだろうと考えたのだ。
積極的に改革を進めてより良い暮らしになれば、占領への反発も多少なりとも減少するはずだ。
そうなれば反発していた地域が完全にこちらの国として同化してくれる。
「これからは占領地を拡大したい」
「ダメです。剣と血によって王座を得ることは可能ですが、その椅子に長く座ることはできないでしょう」
「その根拠は?」
「それが人の限界というものだからです」
伯爵に今後の打ち合わせに行ったつもりが、また戦争への打診を受けてしまった。俺としては武力での解決は最終手段にとっておきたかったのだが、今の伯爵は、俺という存在を手に入れたことで調子にのっているようだった。
しかし、残念ながら、永続的な世界国家を維持した国は一つたりとも存在しない。それは、領土が広くなればなるほど地方への統治が及ばず、簡単に反発されて独立され、そのまま政府転覆をされてしまうからだ。
「ならば、どうやって皇帝より与えられたこの国を守るつもりか?」
「皇帝ですか……?」
「そうだ。昔はここの地域は一つの国家であったが、国王が死んだことで分裂をした。それによって、領域を支配していた貴族が独自に領地として管理するようになり、それぞれの国の体となしたのだ。国王は死ぬ前に、より、強い者が継承するようにと言って死んだ。我は国王の意思を引き継ぎ、世界統一をすることが目標なのだ」
「ですが、誰が統一したところで世界統一は長くは続かないでしょう。人の支配はそれほど遠くにまでは及びません」
「どうにかならないか?」
「こればかりはどうにもなりません。人の限界です」
俺がそう言うと、伯爵は苦そうな顔をした。
「ならば、防衛だけで十分だ」
「でしたら……、正規軍の設立と兵器開発が重要でしょう。装備の力を最大限に使うには訓練が不可欠です。傭兵の一朝一夕の訓練では大した能力は出せません。技術開発のためには、世界中から能力のある者たちを雇った方が簡単でしょう。そのための資金はだせますが、一つ忠告をさせていただきます。領土が大きく成ればなるほど、抵抗する者たちが現れます。その鎮圧は簡単にはいきませんよ」
俺と伯爵はしばらく睨みあい、伯爵の方が先に折れて視線を逸らした。
「防衛だけで良いと言っている」
「分かりました」
「言っておくが、周辺諸国も軍事的強化を行っている。戦争の回避は不可能だぞ」
「私にはおそらく、戦争を一瞬で終わらせる方法があります。はっきり言って、興味が無いというのが正直なところです。この世界の戦争の仕組みを見る限り、簡単に終わらせられる話です」
「若気の至りか。大きなことを言って、後で引っ込められると思うなよ」
「いえ。私の戦争の技術はおそらく、この世界の400年ほど先に行っています。戦争というのは、私にとって、ただの人殺しでしかありませんよ」
俺は、この、ルネサンス前期あたりのこの世界で、戦争に終止符を打とうと、本格的に戦車開発に注力しようと考えたのだ。
敵に突破されない装甲と、射程距離、それに移動速度を持つ戦車は、自在に戦争の主導権をとれる最強の兵器なのである。既に、俺の中では戦車の構想がある程度完成しつつあったのです。
しかし、問題はエンジンの部分でした。当初は白魔法の物体移動で動かそうと考えていましたが、個人の資質に左右されてしまう機動力は、何一つとして意味はありません。
軍隊の移動というのは、その機能を維持するために、一番速度の遅い者に合わせる必要が出てきます。
だからこそ、エンジン部分の開発が重要なのでした。
移動が使える白魔法の人たちを徴収し、最低限の軍備はすぐに揃えられるだろう。が、しかし、軍事において大量の数を揃えられないというのは問題でしかありません。
そのために俺はカレンさんを呼びました。
「物体の移動ですか? それも鉄の塊を?」
「ええ。それを誰にでも使えるようにしたいのです」
「うーん。一応、誰にでも扱うというのはできないことはないですよ?」
「それはどんな?」
「スクロールという布に祈りをかけて、いつでも使えるようにするというものですね」
実際、既にスクロールについては考えていましたが、これまでの調理などの経験からスクロールに長時間の使用は難しいと判断しています。
ですが、改めてスクロールの話しを聞くと、俺は試しに職人に依頼して、戦車の外装となるものを鉄で単純に作り上げ、履帯の代わりに車輪を付けさせて、試作機を作り上げてみました。
カレンさんが持ってきたスクロールをエンジンの上に敷いて使ってみると、戦車試作一号機はゆっくりと前進します。それでも、10メートルほど進んで止まってしまったため、これでは使い物にはならないでしょう。
カレンさん曰く、スクロールの質をどれだけ上げられるかは、祈りを込めた個人の資質によるところが大きいようです。
「スクロールを使い捨てにしない方法などはありませんか?」
「残念ながら存じ上げませんね」
「でしたら黒魔法の爆発でエンジンを動かしてみましょうか」
「うーん。安全でしょうか……」
次に俺は簡単なピストンエンジン部分を作り、内部で爆発を起こそうとしてみますが、これは、全くうまくいきませんでした。カレンさんの予想通り、魔法で爆発をさせる時の内部距離の調整が難しく、思わぬ場所で爆発させてしまい、危うく壊してしまうということが度々起きてしまいました。
「こうなると白魔法による移動が一番のようですね……。たしか、魔法は信仰を消費すると、言っていましたが、連続して扱うのに、何か弊害が出たりしますか? 長時間戦車を動かしたいので」
「まあ、毎日、欠かさず神様にお祈りをすれば信仰心も増えるので、そうすればスクロールに込められる祈りの量も増えますよ」
「では、一般的な信者と敬虔な信者の二人にやらせて実験してみましょうか」
それから俺はデータをとって差分を得るために、3千人を実験対象としました。
データを何度も取っていると、敬虔な信者の平均が3時間の連続使用に対し、一般的な信者の平均は1時間程度だと判明させることができました。
「とりあえず、今は乗員を増やして、交代で扱えるようにしましょうか。一応、砲塔の操作と移動の操作は同時に行えるみたいですし。しかし、対象が重くなれば重くなるほど持続可能な時間も短くなるようです」
まあ、これだけの実験も、石油が見つかれば、簡単にエンジンが作れてしまいます。エンジン自体の構造もそれほど難しいものではありません。それに、この時代であれば、重装甲でなくとも、軽戦車で戦えるはずです。
そして、さらに、研究を進めて分かったことは、移動の魔法にかかる信仰の消費が、完全に対象の重さに依存するということでした。
その研究結果のおかげで、物の重さを軽くして浮かせるという魔法を併用することで、戦車の移動時間を大幅に増やすことができたのです。
浮遊と移動の掛け合わせによる2枚のスクロール仕様で、およそ3時間の使用が可能になりました。
これなら、戦車の運用には支障はありません。
ただし、これにも弊害があって、反重力の魔法を使用している状態で砲弾を食らった場合、受けた砲弾の速度で吹き飛んでしまうということも判明しました。
なので、どうにか、重さを調整できないか研究をしたところ、同時に重さをかける魔法を使用し、調整することが可能だと判明しました。
緊急的に吹き飛んだ場合には、この重力をかける魔法で、そ以上の吹っ飛びを抑えることができるでしょう。
巡行中は反重力の魔法で戦車を浮かして、操縦者の負担を減らし、戦闘になれば反重力を解除する。この仕組みによって戦車開発の問題はある程度解決しました。
「これって兵器なんですよね? どんな名前を付けるんですか?」
「これは戦車ってやつです。今作っているのは2号戦車と呼ぶつもりです」
カレンさんが、感心した様子でその戦車を見ている。
「兵器に興味があるんですか?」
「ええ。私も戦ってきた身ですから」
これは意外にも俺の趣味とカレンさんの趣味が一致したようです。兵器が好きな女性だなんて珍しいことですね。
それからも、俺とカレンさんとの兵器開発は順調に進み、2号戦車である3人乗りの軽戦車を生産した。これを訓練用に回し、戦車運用のノウハウを貯めていくつもりだ。
今回作成した2号戦車の装甲は史実とは違い、初期から傾斜して、正面からの見かけ上の装甲を増やしている。これは、将来的な対戦車戦闘を想定したものでした。
移動に当たる車輪も履帯に履き替え、不整地での走破も可能にします。
そして、今度はこれを大型化し、より実践的な中戦車を作り上げることに全力を注ぎます。
車体を大型化し、乗員も4名を入れて全体の運用を更に楽にさせます。これで、敵に大型戦車が現れたとしても、一人ひとりが戦車内部で作業に集中できますし、大型化したことで性能バランスも良くなりました。次にこれを、俺は三号戦車と名前を付けました。
早速俺は、三号戦車を量産体制に入らせ、スクロールや乗員の育成のために、カレンさんの指導の下、育成マニュアルを作り上げました。
信者は一日3時間の祈りを捧げ、神によって定められた戒律を守る。白魔法の神は、常に供物を要求するようです。
そのため、俺は白魔法信者専用の礼拝施設を作り上げ、供物の提供などのシステム構築をしました。
あとは、砲塔の改良であったり、装甲の改良であったりと、まだ兵器としては完成をしていない状態ですが、先の戦争による戦列形態の歩兵相手であれば部類の強さを誇るでしょう。
幸い、この世界では既にマスケット銃が完成されており、砲弾の火薬に困ることはありません。
これで兵器開発を切り上げて、次に軍事ドクトリンの草案を作ろうとしますが、カレンさんが胸を押し付けてきて離れようとしてくれませんでした。
「丈様。これから食事はいかがでしょうか?」
「カレンさん。先に言っておきますけど、俺は性にだらしない性分ですので、誰か一人に満足することはありませんよ。それでも良ければ食事に付き合わせていただきますが、あなたの心を傷つけることになるかもしれません」
「ええ! 構いませんとも! ぜひ、妾にでも!」
「ええ……、そうですか……」
カレンさんに引っ張られるがまま、俺は渋々、食事に付き合うが、ここらへんは大衆向けの食堂しかなく、もてなせるような物もなかった。
それでも、カレンさんは乗り気のようだ。
「丈様。きっと私たちって同じ趣味を持っていると思うんですの。戦車を作っている時、私も丈様も、同じ目をしていました。きっと、私たち二人とも武器が好きなんですわ」
「たしかにそうかもしれません。ですが、俺は人を殺すことには積極的にはなれません。私にとって、戦争というものは、遊びで人を殺すようなものです。なにも難しいことはありませんでした。戦うことの意味が無いのです。私は兵器を使うことは好きではありません」
「それって、丈様が優しいからなのですね」
「いえ、そんなことはないです」
「また、謙遜して、そういうところが私は好きなのですわ」
そう言う、カレンさんは、いつもニコニコと笑っている。
俺は謙遜したつもりなど無いのに。
「俺のどこに惹かれたのですか?」
「それは、もう、語りつくせないほどですよ」
「でしたら、試しに付き合ってみますか? きっと幻滅してしまうでしょうが」
俺がそう言うと、カレンさんはハッと息を飲んだ様子を見せました。
「ええ。ぜひともお願いしますわ!」
それから料理を注文して、適当に話をしていると、どこから鍵つけてきたのか、モナちゃんが俺たちの机にまでやって来ていました。
「丈様。ごきげんよう!」
「ごきげんよう」
と俺が返すと、モナちゃんがカレンさんを睨みつけました。
「また、会いましたね。カレンさん。食べてばかりいないで少しはお痩せになったらいかがかしら?」
そう言うモナちゃんは、酷くいじわるな目をしていました。
「あら、丈様は、そんな私の体が良いそうですよ? 私、丈様の妾になったのですの」
カレンさんがそう言うと、モナちゃんが、キッと鋭く俺を睨んできました。
「丈様。私も妾にしてください!」
「ああ。良いですよ」
「私、何でもしますからお願いです……。へ?」
「言っておきますけど、俺は性にだらしない人間です。それで、心を傷つけることがあるかしれませんよ?」
というより、なんだか、もう、女性同士の喧嘩に疲れてきてしまっていたのです。
さっさと付き合って、それで幻滅してくれれば、俺を気が楽というものです。
「構いません!」
そう言ってモナちゃんは、とても勝ち誇った顔をしました。
「カレンさん。その、今まで申し訳ありませんでした」
「いえ、良いのですよ。折角ふたりして、妾になれたのですから」
そう言って、今度は二人は途端に仲良くなった様子でニコニコとし始めました。
俺はそんな二人の心の変化に付いていけず、困ってただ見ているだけでした。
「丈様。私、いつでも一緒にいられるように近くに住みたいのです。家を建ててくれませんか?」
新しく手に入れた領地である占領地域の反発を抑えるためにも、地域の統合は早い方が良いだろうと考えたのだ。
積極的に改革を進めてより良い暮らしになれば、占領への反発も多少なりとも減少するはずだ。
そうなれば反発していた地域が完全にこちらの国として同化してくれる。
「これからは占領地を拡大したい」
「ダメです。剣と血によって王座を得ることは可能ですが、その椅子に長く座ることはできないでしょう」
「その根拠は?」
「それが人の限界というものだからです」
伯爵に今後の打ち合わせに行ったつもりが、また戦争への打診を受けてしまった。俺としては武力での解決は最終手段にとっておきたかったのだが、今の伯爵は、俺という存在を手に入れたことで調子にのっているようだった。
しかし、残念ながら、永続的な世界国家を維持した国は一つたりとも存在しない。それは、領土が広くなればなるほど地方への統治が及ばず、簡単に反発されて独立され、そのまま政府転覆をされてしまうからだ。
「ならば、どうやって皇帝より与えられたこの国を守るつもりか?」
「皇帝ですか……?」
「そうだ。昔はここの地域は一つの国家であったが、国王が死んだことで分裂をした。それによって、領域を支配していた貴族が独自に領地として管理するようになり、それぞれの国の体となしたのだ。国王は死ぬ前に、より、強い者が継承するようにと言って死んだ。我は国王の意思を引き継ぎ、世界統一をすることが目標なのだ」
「ですが、誰が統一したところで世界統一は長くは続かないでしょう。人の支配はそれほど遠くにまでは及びません」
「どうにかならないか?」
「こればかりはどうにもなりません。人の限界です」
俺がそう言うと、伯爵は苦そうな顔をした。
「ならば、防衛だけで十分だ」
「でしたら……、正規軍の設立と兵器開発が重要でしょう。装備の力を最大限に使うには訓練が不可欠です。傭兵の一朝一夕の訓練では大した能力は出せません。技術開発のためには、世界中から能力のある者たちを雇った方が簡単でしょう。そのための資金はだせますが、一つ忠告をさせていただきます。領土が大きく成ればなるほど、抵抗する者たちが現れます。その鎮圧は簡単にはいきませんよ」
俺と伯爵はしばらく睨みあい、伯爵の方が先に折れて視線を逸らした。
「防衛だけで良いと言っている」
「分かりました」
「言っておくが、周辺諸国も軍事的強化を行っている。戦争の回避は不可能だぞ」
「私にはおそらく、戦争を一瞬で終わらせる方法があります。はっきり言って、興味が無いというのが正直なところです。この世界の戦争の仕組みを見る限り、簡単に終わらせられる話です」
「若気の至りか。大きなことを言って、後で引っ込められると思うなよ」
「いえ。私の戦争の技術はおそらく、この世界の400年ほど先に行っています。戦争というのは、私にとって、ただの人殺しでしかありませんよ」
俺は、この、ルネサンス前期あたりのこの世界で、戦争に終止符を打とうと、本格的に戦車開発に注力しようと考えたのだ。
敵に突破されない装甲と、射程距離、それに移動速度を持つ戦車は、自在に戦争の主導権をとれる最強の兵器なのである。既に、俺の中では戦車の構想がある程度完成しつつあったのです。
しかし、問題はエンジンの部分でした。当初は白魔法の物体移動で動かそうと考えていましたが、個人の資質に左右されてしまう機動力は、何一つとして意味はありません。
軍隊の移動というのは、その機能を維持するために、一番速度の遅い者に合わせる必要が出てきます。
だからこそ、エンジン部分の開発が重要なのでした。
移動が使える白魔法の人たちを徴収し、最低限の軍備はすぐに揃えられるだろう。が、しかし、軍事において大量の数を揃えられないというのは問題でしかありません。
そのために俺はカレンさんを呼びました。
「物体の移動ですか? それも鉄の塊を?」
「ええ。それを誰にでも使えるようにしたいのです」
「うーん。一応、誰にでも扱うというのはできないことはないですよ?」
「それはどんな?」
「スクロールという布に祈りをかけて、いつでも使えるようにするというものですね」
実際、既にスクロールについては考えていましたが、これまでの調理などの経験からスクロールに長時間の使用は難しいと判断しています。
ですが、改めてスクロールの話しを聞くと、俺は試しに職人に依頼して、戦車の外装となるものを鉄で単純に作り上げ、履帯の代わりに車輪を付けさせて、試作機を作り上げてみました。
カレンさんが持ってきたスクロールをエンジンの上に敷いて使ってみると、戦車試作一号機はゆっくりと前進します。それでも、10メートルほど進んで止まってしまったため、これでは使い物にはならないでしょう。
カレンさん曰く、スクロールの質をどれだけ上げられるかは、祈りを込めた個人の資質によるところが大きいようです。
「スクロールを使い捨てにしない方法などはありませんか?」
「残念ながら存じ上げませんね」
「でしたら黒魔法の爆発でエンジンを動かしてみましょうか」
「うーん。安全でしょうか……」
次に俺は簡単なピストンエンジン部分を作り、内部で爆発を起こそうとしてみますが、これは、全くうまくいきませんでした。カレンさんの予想通り、魔法で爆発をさせる時の内部距離の調整が難しく、思わぬ場所で爆発させてしまい、危うく壊してしまうということが度々起きてしまいました。
「こうなると白魔法による移動が一番のようですね……。たしか、魔法は信仰を消費すると、言っていましたが、連続して扱うのに、何か弊害が出たりしますか? 長時間戦車を動かしたいので」
「まあ、毎日、欠かさず神様にお祈りをすれば信仰心も増えるので、そうすればスクロールに込められる祈りの量も増えますよ」
「では、一般的な信者と敬虔な信者の二人にやらせて実験してみましょうか」
それから俺はデータをとって差分を得るために、3千人を実験対象としました。
データを何度も取っていると、敬虔な信者の平均が3時間の連続使用に対し、一般的な信者の平均は1時間程度だと判明させることができました。
「とりあえず、今は乗員を増やして、交代で扱えるようにしましょうか。一応、砲塔の操作と移動の操作は同時に行えるみたいですし。しかし、対象が重くなれば重くなるほど持続可能な時間も短くなるようです」
まあ、これだけの実験も、石油が見つかれば、簡単にエンジンが作れてしまいます。エンジン自体の構造もそれほど難しいものではありません。それに、この時代であれば、重装甲でなくとも、軽戦車で戦えるはずです。
そして、さらに、研究を進めて分かったことは、移動の魔法にかかる信仰の消費が、完全に対象の重さに依存するということでした。
その研究結果のおかげで、物の重さを軽くして浮かせるという魔法を併用することで、戦車の移動時間を大幅に増やすことができたのです。
浮遊と移動の掛け合わせによる2枚のスクロール仕様で、およそ3時間の使用が可能になりました。
これなら、戦車の運用には支障はありません。
ただし、これにも弊害があって、反重力の魔法を使用している状態で砲弾を食らった場合、受けた砲弾の速度で吹き飛んでしまうということも判明しました。
なので、どうにか、重さを調整できないか研究をしたところ、同時に重さをかける魔法を使用し、調整することが可能だと判明しました。
緊急的に吹き飛んだ場合には、この重力をかける魔法で、そ以上の吹っ飛びを抑えることができるでしょう。
巡行中は反重力の魔法で戦車を浮かして、操縦者の負担を減らし、戦闘になれば反重力を解除する。この仕組みによって戦車開発の問題はある程度解決しました。
「これって兵器なんですよね? どんな名前を付けるんですか?」
「これは戦車ってやつです。今作っているのは2号戦車と呼ぶつもりです」
カレンさんが、感心した様子でその戦車を見ている。
「兵器に興味があるんですか?」
「ええ。私も戦ってきた身ですから」
これは意外にも俺の趣味とカレンさんの趣味が一致したようです。兵器が好きな女性だなんて珍しいことですね。
それからも、俺とカレンさんとの兵器開発は順調に進み、2号戦車である3人乗りの軽戦車を生産した。これを訓練用に回し、戦車運用のノウハウを貯めていくつもりだ。
今回作成した2号戦車の装甲は史実とは違い、初期から傾斜して、正面からの見かけ上の装甲を増やしている。これは、将来的な対戦車戦闘を想定したものでした。
移動に当たる車輪も履帯に履き替え、不整地での走破も可能にします。
そして、今度はこれを大型化し、より実践的な中戦車を作り上げることに全力を注ぎます。
車体を大型化し、乗員も4名を入れて全体の運用を更に楽にさせます。これで、敵に大型戦車が現れたとしても、一人ひとりが戦車内部で作業に集中できますし、大型化したことで性能バランスも良くなりました。次にこれを、俺は三号戦車と名前を付けました。
早速俺は、三号戦車を量産体制に入らせ、スクロールや乗員の育成のために、カレンさんの指導の下、育成マニュアルを作り上げました。
信者は一日3時間の祈りを捧げ、神によって定められた戒律を守る。白魔法の神は、常に供物を要求するようです。
そのため、俺は白魔法信者専用の礼拝施設を作り上げ、供物の提供などのシステム構築をしました。
あとは、砲塔の改良であったり、装甲の改良であったりと、まだ兵器としては完成をしていない状態ですが、先の戦争による戦列形態の歩兵相手であれば部類の強さを誇るでしょう。
幸い、この世界では既にマスケット銃が完成されており、砲弾の火薬に困ることはありません。
これで兵器開発を切り上げて、次に軍事ドクトリンの草案を作ろうとしますが、カレンさんが胸を押し付けてきて離れようとしてくれませんでした。
「丈様。これから食事はいかがでしょうか?」
「カレンさん。先に言っておきますけど、俺は性にだらしない性分ですので、誰か一人に満足することはありませんよ。それでも良ければ食事に付き合わせていただきますが、あなたの心を傷つけることになるかもしれません」
「ええ! 構いませんとも! ぜひ、妾にでも!」
「ええ……、そうですか……」
カレンさんに引っ張られるがまま、俺は渋々、食事に付き合うが、ここらへんは大衆向けの食堂しかなく、もてなせるような物もなかった。
それでも、カレンさんは乗り気のようだ。
「丈様。きっと私たちって同じ趣味を持っていると思うんですの。戦車を作っている時、私も丈様も、同じ目をしていました。きっと、私たち二人とも武器が好きなんですわ」
「たしかにそうかもしれません。ですが、俺は人を殺すことには積極的にはなれません。私にとって、戦争というものは、遊びで人を殺すようなものです。なにも難しいことはありませんでした。戦うことの意味が無いのです。私は兵器を使うことは好きではありません」
「それって、丈様が優しいからなのですね」
「いえ、そんなことはないです」
「また、謙遜して、そういうところが私は好きなのですわ」
そう言う、カレンさんは、いつもニコニコと笑っている。
俺は謙遜したつもりなど無いのに。
「俺のどこに惹かれたのですか?」
「それは、もう、語りつくせないほどですよ」
「でしたら、試しに付き合ってみますか? きっと幻滅してしまうでしょうが」
俺がそう言うと、カレンさんはハッと息を飲んだ様子を見せました。
「ええ。ぜひともお願いしますわ!」
それから料理を注文して、適当に話をしていると、どこから鍵つけてきたのか、モナちゃんが俺たちの机にまでやって来ていました。
「丈様。ごきげんよう!」
「ごきげんよう」
と俺が返すと、モナちゃんがカレンさんを睨みつけました。
「また、会いましたね。カレンさん。食べてばかりいないで少しはお痩せになったらいかがかしら?」
そう言うモナちゃんは、酷くいじわるな目をしていました。
「あら、丈様は、そんな私の体が良いそうですよ? 私、丈様の妾になったのですの」
カレンさんがそう言うと、モナちゃんが、キッと鋭く俺を睨んできました。
「丈様。私も妾にしてください!」
「ああ。良いですよ」
「私、何でもしますからお願いです……。へ?」
「言っておきますけど、俺は性にだらしない人間です。それで、心を傷つけることがあるかしれませんよ?」
というより、なんだか、もう、女性同士の喧嘩に疲れてきてしまっていたのです。
さっさと付き合って、それで幻滅してくれれば、俺を気が楽というものです。
「構いません!」
そう言ってモナちゃんは、とても勝ち誇った顔をしました。
「カレンさん。その、今まで申し訳ありませんでした」
「いえ、良いのですよ。折角ふたりして、妾になれたのですから」
そう言って、今度は二人は途端に仲良くなった様子でニコニコとし始めました。
俺はそんな二人の心の変化に付いていけず、困ってただ見ているだけでした。
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