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可哀想な十一番目(2)
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十一歌を囲んでいた友達はみんな離れていった。みんなが十一歌を見てコソコソと何か喋る。十一歌が守ろうとした子も十一歌から目を逸らした。
あれからママも十一歌の顔を見てくれなくなった。十一歌が話しかけたら答えてくれるけど、目を合わせてくれない。パパは変わらず十一歌と接してくれるけど、ママのことを聞くと話しを逸らした。
十一歌は週に一度、大きな病院に通うようになった。お医者さんに色んな事を聞かれた。
「今日は何をしたの?」「学校は楽しい?」とか、毎回同じような質問をされ、それに答えるだけ。どこか具合が悪いわけではないのに、どうして毎週病院に通わなきゃいけないのか気になったけど、きっとパパは誤魔化すだろうし、ママに聞いてもまともに話してくれないだろうと思って聞かなかった。
そんな日々がしばらく続いた。
階段から落ちてしばらく入院していた悪い子が学校へ来た。顔や腕にガーゼをはっていたけど、元気そうだった。
悪い子はあの日の出来事をクラスのみんなに話し、噂をひろめた。その噂は十一歌を悪者扱いしたような話しだった。悪い子は孤立する十一歌を見て笑っていた。
噂は保護者の耳にまで届いた。そのせいで、ママは十一歌と一切口をきかなくなった。
ある日、パパと一緒にお出かけすることになった。久しぶりのお出かけで十一歌はすごく気分が良かった。
ママは一緒に行かなかったけど、家を出る時にお弁当を渡してくれた。そして、何も言わずぎゅっと抱きしめてくれた。すごく嬉しくて、車に乗ってからママが渡してくれたお弁当を大事に腕の中にしまっていた。
パパは遠くへ車を走らせた。
見たことがない場所だったけど、車から見える綺麗な景色をずっと眺めていた。
しばらくすると、車が止まった。
車が止まった場所のそばには教会のような白い建物が建っていた。
パパは十一歌を降ろすと、十一歌の手を握ってその建物の中へと入っていく。
「パパ、ここはどこなの?」
「今日から暮らす場所だよ」
建物は日当たりが良く、温かい場所だった。室内には十一歌と同い年ぐらいの子達が何人かいて、バタバタと走り回ったり、お人形で遊んだりしていた。
「あぁ、連絡を下さった方ですね」
奥から女性が現れた。
優しそうなおばさんは十一歌を見てニコッと笑いかけた。
「あなたね?こんにちは」
「こんにちは…」
「それではお父様、私が責任を持ってお預かりますね」
おばさんはパパにそう言った。
十一歌はおばさんが何を言っているのか分からなかった。
「パパ、この人誰なの?」
「この人は、みんなをお世話してくれる人だよ。今日からここで暮らすんだ」
「パパと私だけ?ママは?」
「ママはいないよ。パパも暮らさない」
「私は?私はここで暮らすの?」
「そうだよ」
「どうして?私、パパと一緒に帰るよ」
「…それは、出来ないんだ」
「なんで?ママね、お弁当作ってくれたの。お弁当まだ食べてないよ」
「うん。ここで食べるために作ってくれたんだよ」
「だよね。ママに美味しかったって言わないと」
パパは笑った。とても哀しそうに。
「……ごめんなぁ」
パパは十一歌の頭を優しく撫でた。
「パパ、泣いてるの?どこか痛いの?」
「痛くないよ。どこも痛くない」
「でも泣いてるよ」
「そうだね。なんでだろうね」
パパは笑いながら少し顔を伏せた。それからすぐに涙を拭って十一歌の顔を見ながら言った。
「これからここで暮らすんだ。パパとママとはしばらく会えない」
「どうして?」
「ママは……ママが今、どういう状態なのか分かるかな?」
「私のこと、怒ってる…?」
「そうだね……まだ、ママのなかで気持ちの整理がついていないんだ。だから、パパはママの気持ちを落ち着かせたいと思ってる」
「ママは、私のことをおかしいって言ってた。パパもそう思ってる?」
パパは黙った。一瞬黙って、それからまた喋り出した。
「それじゃあ、パパは行くね」
「お見送りする」
建物から出てパパが車へ戻る姿を見送る。
「パパ!」
「ん?」
「あのね、もし…私が学校で噂されてることでママを苦しめてるのなら、ママは悪くないよ!それに、あの噂は私を悪者扱いするために流してるだけだから、本当の悪者は私じゃないよって、ママに伝えて」
パパは何も言わず微笑んだ。
車に乗り込み、エンジンをかける。
車の窓を開けてくれた。
「パパ。私、ママが元気になるまで待ってるね。お弁当も食べるね」
十一歌の言葉に対してパパはこう言った。
「…ママの言う通りかもしれない」
「え?」
「やっぱり、おかしいよ」
パパはそう言い残して車を走らせた。
十一歌は呆然としながら遠くへ消えていくパパの車を眺めた。
パパもママも十一歌に同じことを言った。
「お父様とちゃんとお別れできた?」
おばさんは呆然としていた十一歌の横に並んで聞いた。
「中に入りましょうか。あなたのお部屋も案内しないとね」
そう言っておばさんは十一歌の手を優しく引きながら建物の中へ戻った。
あれからママも十一歌の顔を見てくれなくなった。十一歌が話しかけたら答えてくれるけど、目を合わせてくれない。パパは変わらず十一歌と接してくれるけど、ママのことを聞くと話しを逸らした。
十一歌は週に一度、大きな病院に通うようになった。お医者さんに色んな事を聞かれた。
「今日は何をしたの?」「学校は楽しい?」とか、毎回同じような質問をされ、それに答えるだけ。どこか具合が悪いわけではないのに、どうして毎週病院に通わなきゃいけないのか気になったけど、きっとパパは誤魔化すだろうし、ママに聞いてもまともに話してくれないだろうと思って聞かなかった。
そんな日々がしばらく続いた。
階段から落ちてしばらく入院していた悪い子が学校へ来た。顔や腕にガーゼをはっていたけど、元気そうだった。
悪い子はあの日の出来事をクラスのみんなに話し、噂をひろめた。その噂は十一歌を悪者扱いしたような話しだった。悪い子は孤立する十一歌を見て笑っていた。
噂は保護者の耳にまで届いた。そのせいで、ママは十一歌と一切口をきかなくなった。
ある日、パパと一緒にお出かけすることになった。久しぶりのお出かけで十一歌はすごく気分が良かった。
ママは一緒に行かなかったけど、家を出る時にお弁当を渡してくれた。そして、何も言わずぎゅっと抱きしめてくれた。すごく嬉しくて、車に乗ってからママが渡してくれたお弁当を大事に腕の中にしまっていた。
パパは遠くへ車を走らせた。
見たことがない場所だったけど、車から見える綺麗な景色をずっと眺めていた。
しばらくすると、車が止まった。
車が止まった場所のそばには教会のような白い建物が建っていた。
パパは十一歌を降ろすと、十一歌の手を握ってその建物の中へと入っていく。
「パパ、ここはどこなの?」
「今日から暮らす場所だよ」
建物は日当たりが良く、温かい場所だった。室内には十一歌と同い年ぐらいの子達が何人かいて、バタバタと走り回ったり、お人形で遊んだりしていた。
「あぁ、連絡を下さった方ですね」
奥から女性が現れた。
優しそうなおばさんは十一歌を見てニコッと笑いかけた。
「あなたね?こんにちは」
「こんにちは…」
「それではお父様、私が責任を持ってお預かりますね」
おばさんはパパにそう言った。
十一歌はおばさんが何を言っているのか分からなかった。
「パパ、この人誰なの?」
「この人は、みんなをお世話してくれる人だよ。今日からここで暮らすんだ」
「パパと私だけ?ママは?」
「ママはいないよ。パパも暮らさない」
「私は?私はここで暮らすの?」
「そうだよ」
「どうして?私、パパと一緒に帰るよ」
「…それは、出来ないんだ」
「なんで?ママね、お弁当作ってくれたの。お弁当まだ食べてないよ」
「うん。ここで食べるために作ってくれたんだよ」
「だよね。ママに美味しかったって言わないと」
パパは笑った。とても哀しそうに。
「……ごめんなぁ」
パパは十一歌の頭を優しく撫でた。
「パパ、泣いてるの?どこか痛いの?」
「痛くないよ。どこも痛くない」
「でも泣いてるよ」
「そうだね。なんでだろうね」
パパは笑いながら少し顔を伏せた。それからすぐに涙を拭って十一歌の顔を見ながら言った。
「これからここで暮らすんだ。パパとママとはしばらく会えない」
「どうして?」
「ママは……ママが今、どういう状態なのか分かるかな?」
「私のこと、怒ってる…?」
「そうだね……まだ、ママのなかで気持ちの整理がついていないんだ。だから、パパはママの気持ちを落ち着かせたいと思ってる」
「ママは、私のことをおかしいって言ってた。パパもそう思ってる?」
パパは黙った。一瞬黙って、それからまた喋り出した。
「それじゃあ、パパは行くね」
「お見送りする」
建物から出てパパが車へ戻る姿を見送る。
「パパ!」
「ん?」
「あのね、もし…私が学校で噂されてることでママを苦しめてるのなら、ママは悪くないよ!それに、あの噂は私を悪者扱いするために流してるだけだから、本当の悪者は私じゃないよって、ママに伝えて」
パパは何も言わず微笑んだ。
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「パパ。私、ママが元気になるまで待ってるね。お弁当も食べるね」
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「え?」
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十一歌は呆然としながら遠くへ消えていくパパの車を眺めた。
パパもママも十一歌に同じことを言った。
「お父様とちゃんとお別れできた?」
おばさんは呆然としていた十一歌の横に並んで聞いた。
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そう言っておばさんは十一歌の手を優しく引きながら建物の中へ戻った。
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