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重歯目さん
しおりを挟む私の状況を解説している、渋い男性の声。
私の勘違いに、気付いている人が・・・・・いや、まてよ。まだ私の恥ずかし過ぎる勘違いに気付いたとは限らない。そうだ、何を勘違いしたのか、まだはっきり言われてない。
大丈夫。大丈夫なはず。落ち着け、私。
「聖女?ああ、そう言えばすっかり忘れていた。」
え?勇者さん、私の事忘れていたんですか?
私が召喚された事、怒ってくれてたんじゃないんですか??
いいですよ、私なんてどうせその程度の存在ですよ。でも、助かったのは事実ですからちゃんとお礼は言いますよ。
一呼吸入れて、荒れ狂う自分の精神をなんとか宥め振り返ると。
そこに居たのは、絶世の美女でした・・・・勘違いしてごめんなさいいいいいぃぃぃぃぃ
勇者の『愛しい人』が、一瞬だけだとしても、自分の事だと勘違いしてしまって、ごめんなさいぃぃぃぃぃ
ああ、本当に溜息が出るほど美しい女性です。
本来耳があるはずの場所から伸びる真っ黒く小さな翼、そして翼とは対照的に真っ白で艶やかな髪、顔立ちは可愛いより、美しい。そして、その体型は女神の如く、豊かな胸にほっそりとしたウエストで、男性ならば・・・いや、女性であるはずの私でさえも、涎を垂らすほどの圧倒的な美!!
「聖女・・・涎が垂れてる。汚いぞ。」
涎??
そんなはずは・・・
と、思いつつ口元を拭うと、本当に涎が垂れていました。でもね、汚いって失礼だと思います。
事実ですけど、汚いまで言わなくても!!
ちなみ、汚いと言ったのは、勇者さんと美女さんの隣に立って・・・立って・・・あれ??誰もいない??
「下だ下。」
下?した下した??
「あれ?重歯目さん?」
そこに居たのは、もっふもふの毛に覆われた、真っ黒くて小さな兎さんこと、重歯目さんでした。
ちなみに、重歯目さんと言うのは私が付けた名前です。兎さんは喋りませんからね。可愛い名前を付けてあげようと一所懸命考えて、考えて、考えて、一周回って面倒になって、重歯目さんになりました。
兎は、重歯目ですからね、名前なんて分かりやすい方が良いに決まってます。
「重歯目さん、今日はこんな所に来てくれたんですか?あれ??今日は珍しく何も持ってないんですね?」
そう言いながら、真っ黒な兎さんこと重歯目さんを抱き上げると、もっふもふのお腹の毛に顔面を押し当てスリスリさせてもらいます。これが私と重歯目さんとの挨拶の仕方です。まあ、私が勝手にやっているのですが、重歯目さんは嫌がるでもなく、毎日来てくれるので、多分嫌がっていないはず。
「あっ・・・あの、聖女さん???えっと、その方とお知り合いなんですか?」
戸惑う美女さんの声が聞こえ、思わず重歯目さんのお腹から顔を上げると、何故だか勇者さんと、美女さんが青い顔をして、戸惑っています。
「その方???重歯目さん・・じゃなくて、この兎さんの事ですか?」
重歯目さんを抱き直して、二人に見える様にすると、二人は青い顔のままコクコクと、力強く頷きました。
「えっと、重歯目さんは、よく自分の身体より大きな袋に、目一杯食料や本や服を入れて、私の家に遊びに来てくれるんですよ。いったい何処から持って来てるのか分からなかったんですが、それが無いと生きていけなかったんで、あまり考えず使わせてもらっていたのですが・・・もしかして、勇者さん達の所から・・・。」
そうだとしたら、謝らなければ!
生きる為に食料を貰い、清潔さを保つ為に服を貰い、この世界の事を知る為に本を貰いました。それらは、私にとっては大切な物で、生きる為に必要な物で、重歯目さんには感謝をしてもしきれません。
ですが、その事で他の人に迷惑をかけていたのなら、全力で謝らなければ!
私は、重歯目さんをポイッと投げ、その場で思いっきり頭を下げました。
「ごめんなさい!」
「投げちゃダメェェェェ。」
「魔王様ああぁぁぁ。」
美女さんと勇者さんの、重なり合う絶叫と言う名のハーモニー
・・・あれ?今魔王様って言いました??何処に??
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