【完結】《馬鹿王子は、間違っています》その人は、さすがに無理だと思います!!

のんびり歩く

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間違っています

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最後まで言い切る前に、2人の横にバサリと布が投げ捨てられた。
どうやらサミュエラは、性別を疑われている事に我慢ができなくなったらしく、着ていたジャケットを脱ぎ捨て、ボタンを引きちぎりながらシャツまで脱ぎ捨て、怒りに目を真っ赤に染めている。
もちろん、その胸元に女性特有の膨らみは無く、鍛え上げられた筋肉質の身体があるだけだ。

卒業後の舞踏会という事で、ある程度は羽目を外しても大目に見られるが、上半身を未婚の女性の前で、しかも舞踏会という場で露出させるなど、この先の人生に関わる失態になる可能性もある。
それでも、性別を疑われるという、男の沽券に関わる自体に我慢ならなかったのだろう。

そんな、サミュエラの捨て身の覚悟を、ユドルフは見事に台無しにする。

「胸の大きさなど関係無い。」

静まる会場
唖然とした人々
完全に怒り狂い、目が血走っているサミュエラ

「俺は・・・俺は・・男だぁぁぁぁぁぁぁ。」

こだまするサミュエラの声に、会場の全員が同情した事だろう。
・・・ただ1人を除いて。

「大丈夫だ、何も心配・・・」

「殿下、黙って下さいませ。」

まだ口を開こうとするユドルフに、レイラが強引に割り込むと、ユドルフの投げ捨てたジャケットとシャツを拾い、サミュエラに差し出しながら、ユドルフにたずねる。

「殿下、一つ質問を。」

「何だ?」

「サミュエラ様に、既に決めた相手がおられた場合、どうされるおつもりですか?」

「それは・・・・その者が、こんなにもいじらしいサミュエラ嬢を守ってくれると言うのなら・・・仕方がない。」

ユドルフが、いじけた子供の様な物言いをしているが、サミュエラはホッとした顔をして少し気を抜くと、ようやくレイラの差し出している服に気付いたらしく、いそいそと着込む。
シャツのボタンが何個か飛んでいるが、それでも何とか見れる格好に戻ったサミュエラを見て、レイラが小さく頷く。

「ではサミュエラ様、既に心に決めたお相手がおられるなら、今この場ではっきりと、おっしゃった方がよろしいと思いますわ。」

「この、大勢の前でですか??」

「このまま、殿下の求めに応じますか?」

その言葉に、サミュエラの口から小さな悲鳴が漏れた。

「ヒィ・・・わ・・・分かりました・・・。」

青ざめた顔で意を決し、歩き出す姿に、会場中が同情の色に染まる。
告白せねば、殿下の愛人。
告白して、相手に断られたなら、皆の前で大恥をかく。
しかし、どちらがマシかと言われれば、間違い無く後者だろう。

サミュエラは、辺りを見回しながらゆっくりと歩き、1人の少女の前で足を止めた。
愛らしい顔立ちの少女は、下級貴族の娘ではあるものの、心優しく品行方正な少女として注目を集める少女だった。

「リオレット・・・・どうか私と結婚して下さい。」

サミュエラは、緊張しすぎて婚約をすっ飛ばしてしまった。

「あっ・・・いや・・・えっと・・こっ・・・婚約を。」

しどろもになりながら慌てて訂正する姿に、皆 振られるだとろうと思った。むしろ、男性陣は真剣に振られる事を願った。

男性陣が、サミュエラを応援する気を無くしていく中、サミュエラの目の前に立つリオレットの瞳は、キラキラと輝やき、大粒の涙を流しはじめた。

「・・け・・・結婚・・・・お受け・・・いたします・・・」

微かな声が、リオレットの口から漏れ出し、サミュエラの目が限界を越えて見開かれる。

「ほっ・・・本当に?」

「はい・・・ずっと・・ずっとお慕いしておりました・・。」

小さな声ではあるが、その声は確かに皆に届き、会場内は割れんばかりの拍手に包まれる。
内心振られてしまえと願っていた男達も、まさかの求婚成功に、自分の事の様に大喜びして歓声を上げ、会場内は舞踏会とは思えぬ異様な熱気に包まれる。
そして、その中心ではサミュエラとリオレットが固く抱き合っていた。

皆の注目は、抱き合う2人に注がれ、その側に居る王太子であるはずのユドルフや、その婚約者であるレイラには、誰も注目していない。

その事に、ユドルフは怒るでも無く、悲しむでも無く、むしろ楽しそうな表情でレイラの手を握ると、静かに会場を後にした。
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