1 / 6
探し求めていた女性に出会えたそうです。
しおりを挟む
昼間の晴れやかな空の下、王都の端にある王立学園では、 卒業式が滞りなく行われ。
夜の星々が輝く頃、無事に卒業を迎えた事を祝して、舞踏会が開かれた。
卒業生達は、学園で過ごす最後の時間を満喫し、在校生は卒業生を祝うと同時に、自分達が祝われる側になる日を夢見、憧れる。
煌びやかな会場には優雅な音楽が流れ、それに合わせて、会場の中央では美しいドレス達が舞い、壁際では談笑に花を咲かせつつ、別れを惜しむ。
卒業生達にとって、今日という日が人生の大きな転換点となる日。
在校生にとっては、頼りになり、憧れであった先輩たちとの別れの日。
そんな大切な日に・・・突然、男性の大きな声が響き渡った。
「レイラ聞いてくれ、私は・・・私はようやく探し求めていた女性に出会えたのだ。」
端正な顔立ちの青年が、満面の笑みを浮かべ、目の前の少女に向かって声を張り上げている。
一方で、張り上げられた少女は、感情の抜け落ちた顔で、自分よりも背の高い青年の顔を見ていた。
この会場に、二人の事を知らない者はいない。
青年は、この国の第一王子であり王太子であるユドルフ・フィルベイム・アルケデス王子。
少女の方は、ユドルフ王子の婚約者であり、上位貴族である公爵家の令嬢、レイラ・リンジエル・ハシルデス公爵令嬢。
二人はその産まれ、その地位のおかげでとても有名であったが、それ以外の事でもとても有名だった。
「そうですか・・・それは、私と婚約破棄をしたいと言う事でしょうか?」
「何を言う。レイラは私にとってとても大切な人だ、婚約破棄などしない。」
「では、どうされるのでうか?」
「レイラには悪いと思うが、彼女を王宮に迎え入れたい。」
会場に居た者達は、ユドルフの言葉に一様に同じ言葉を思いついてしまった。
『馬鹿だ・・・』と。
王族、貴族、そのほとんどが政略結婚で、家と家との繋がりをより深める為に行われる。勿論それだけとは限らないけれど、様々な意図が絡みあい成立するのが婚約だ。そこに本人の意思が含まれていない事は多い。
だからこそ、暗黙の了解として、結婚後に愛人をもつ事を許されている。
しかし、愛人は愛人だ。隠されるべき者であり、例えそれが周知の事実であろうとも、それを口にする者はいない。ましてや大勢の前で『王宮に迎え入れたい。』などと宣言するなど、ありえない。
普通の婚約者ならば、怒るか泣き崩れた後、早々にその場を離れ両親に報告に行く事だろう。
けれど、レイラは怒りも泣きも、その場を離れる事もしなかった。
「ユドルフ様のおっしゃりたい事は、分かりましたわ。」
「そうか、さすがレイラだな。分かってくれて感謝するぞ、これで正式に王城へと迎えられる。」
まだレイラは、何も了承してはいない。言いたい事を理解したと言っただけ、認めたわけではない。
けれどユドルフは何故か目をキラキラと輝かせ、王城へ迎える気でいる。
隠すべき愛人を、王城へ迎えるなどありえない。ましてや、それを大勢の前で宣言するなど、自分が愚鈍だと言っている様なもの。
それに、愛人に対する暗黙の了解は結婚後、互いの間に跡取りとなる子供を儲けた後の話だ。
結婚前の婚約という関係の時に、愛人を迎えると宣言する事は、婚約者であるレイラを軽んじているとしか見えないだろう。
そして、それを聞いていた会場の者達は、あまりの出来事に一瞬押し黙り、次の瞬間には騒めきが広がっていく。
騒ぎだした会場で、当事者であるはずのレイラは、悲しむでも怒るでもなく真っ直ぐに立っていた。
「既に相手の方は了承されている、という事でよろしいからしら。」
「まだだ、しかし必ずや受け入れてくれると信じている。」
会場全体が、呆気に取られている。
大勢の前で、愛人を迎えると言っていたのだ、勿論相手の了解も取っているのだろうと、皆が思っていた。
静まり返る会場の中、ユドルフは辺りを見回しはじめる。
まるで何かを・・・誰かを探しているかの様に。
会場にいる者達は、この場で告白する気なのかと驚愕し、それと同時に万が一にでも、自分達の愛する妻や恋人、娘達が巻き込まれる事の無い様に、男性達は自分の背や物陰へ女性達を隠す。
ユドルフとレイラの間に子供が出来た後であれば、どんな形でも王家と繋がりが持てる事に、喜ぶのだろうが、いかんせん状況が悪い。
この会場で、この空気の中で、ユドルフに『愛人になってほしい』と言われ、断ったとしてもユドルフの心を弄んだ悪女だと言われかねない。
それは、受け入れたとしても同じ事。どちらに転んでも、いい事は一つもない。
そうして、ユドルフの視界から女性達の姿が消える。
それでもユドルフは、目当ての相手を見つけたらしく、一点を見つめ、花が咲き誇る様な笑みを浮かべると、ゆっくりと視線の先へと歩きだした。
人々は少しでも巻き込まれるのは御免だと、ユドルフが一歩進むたび、息を殺し、目を合わさず、避けていく。
目の前に自然と道ができていく姿は、この様な状況でなければ、神々しく王位にふさわしい風格に見えた事だろう。
夜の星々が輝く頃、無事に卒業を迎えた事を祝して、舞踏会が開かれた。
卒業生達は、学園で過ごす最後の時間を満喫し、在校生は卒業生を祝うと同時に、自分達が祝われる側になる日を夢見、憧れる。
煌びやかな会場には優雅な音楽が流れ、それに合わせて、会場の中央では美しいドレス達が舞い、壁際では談笑に花を咲かせつつ、別れを惜しむ。
卒業生達にとって、今日という日が人生の大きな転換点となる日。
在校生にとっては、頼りになり、憧れであった先輩たちとの別れの日。
そんな大切な日に・・・突然、男性の大きな声が響き渡った。
「レイラ聞いてくれ、私は・・・私はようやく探し求めていた女性に出会えたのだ。」
端正な顔立ちの青年が、満面の笑みを浮かべ、目の前の少女に向かって声を張り上げている。
一方で、張り上げられた少女は、感情の抜け落ちた顔で、自分よりも背の高い青年の顔を見ていた。
この会場に、二人の事を知らない者はいない。
青年は、この国の第一王子であり王太子であるユドルフ・フィルベイム・アルケデス王子。
少女の方は、ユドルフ王子の婚約者であり、上位貴族である公爵家の令嬢、レイラ・リンジエル・ハシルデス公爵令嬢。
二人はその産まれ、その地位のおかげでとても有名であったが、それ以外の事でもとても有名だった。
「そうですか・・・それは、私と婚約破棄をしたいと言う事でしょうか?」
「何を言う。レイラは私にとってとても大切な人だ、婚約破棄などしない。」
「では、どうされるのでうか?」
「レイラには悪いと思うが、彼女を王宮に迎え入れたい。」
会場に居た者達は、ユドルフの言葉に一様に同じ言葉を思いついてしまった。
『馬鹿だ・・・』と。
王族、貴族、そのほとんどが政略結婚で、家と家との繋がりをより深める為に行われる。勿論それだけとは限らないけれど、様々な意図が絡みあい成立するのが婚約だ。そこに本人の意思が含まれていない事は多い。
だからこそ、暗黙の了解として、結婚後に愛人をもつ事を許されている。
しかし、愛人は愛人だ。隠されるべき者であり、例えそれが周知の事実であろうとも、それを口にする者はいない。ましてや大勢の前で『王宮に迎え入れたい。』などと宣言するなど、ありえない。
普通の婚約者ならば、怒るか泣き崩れた後、早々にその場を離れ両親に報告に行く事だろう。
けれど、レイラは怒りも泣きも、その場を離れる事もしなかった。
「ユドルフ様のおっしゃりたい事は、分かりましたわ。」
「そうか、さすがレイラだな。分かってくれて感謝するぞ、これで正式に王城へと迎えられる。」
まだレイラは、何も了承してはいない。言いたい事を理解したと言っただけ、認めたわけではない。
けれどユドルフは何故か目をキラキラと輝かせ、王城へ迎える気でいる。
隠すべき愛人を、王城へ迎えるなどありえない。ましてや、それを大勢の前で宣言するなど、自分が愚鈍だと言っている様なもの。
それに、愛人に対する暗黙の了解は結婚後、互いの間に跡取りとなる子供を儲けた後の話だ。
結婚前の婚約という関係の時に、愛人を迎えると宣言する事は、婚約者であるレイラを軽んじているとしか見えないだろう。
そして、それを聞いていた会場の者達は、あまりの出来事に一瞬押し黙り、次の瞬間には騒めきが広がっていく。
騒ぎだした会場で、当事者であるはずのレイラは、悲しむでも怒るでもなく真っ直ぐに立っていた。
「既に相手の方は了承されている、という事でよろしいからしら。」
「まだだ、しかし必ずや受け入れてくれると信じている。」
会場全体が、呆気に取られている。
大勢の前で、愛人を迎えると言っていたのだ、勿論相手の了解も取っているのだろうと、皆が思っていた。
静まり返る会場の中、ユドルフは辺りを見回しはじめる。
まるで何かを・・・誰かを探しているかの様に。
会場にいる者達は、この場で告白する気なのかと驚愕し、それと同時に万が一にでも、自分達の愛する妻や恋人、娘達が巻き込まれる事の無い様に、男性達は自分の背や物陰へ女性達を隠す。
ユドルフとレイラの間に子供が出来た後であれば、どんな形でも王家と繋がりが持てる事に、喜ぶのだろうが、いかんせん状況が悪い。
この会場で、この空気の中で、ユドルフに『愛人になってほしい』と言われ、断ったとしてもユドルフの心を弄んだ悪女だと言われかねない。
それは、受け入れたとしても同じ事。どちらに転んでも、いい事は一つもない。
そうして、ユドルフの視界から女性達の姿が消える。
それでもユドルフは、目当ての相手を見つけたらしく、一点を見つめ、花が咲き誇る様な笑みを浮かべると、ゆっくりと視線の先へと歩きだした。
人々は少しでも巻き込まれるのは御免だと、ユドルフが一歩進むたび、息を殺し、目を合わさず、避けていく。
目の前に自然と道ができていく姿は、この様な状況でなければ、神々しく王位にふさわしい風格に見えた事だろう。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

[完結]裏切りの学園 〜親友・恋人・教師に葬られた学園マドンナの復讐
青空一夏
恋愛
高校時代、完璧な優等生であった七瀬凛(ななせ りん)は、親友・恋人・教師による壮絶な裏切りにより、人生を徹底的に破壊された。
彼女の家族は死に追いやられ、彼女自身も冤罪を着せられた挙げ句、刑務所に送られる。
「何もかも失った……」そう思った彼女だったが、獄中である人物の助けを受け、地獄から這い上がる。
数年後、凛は名前も身分も変え、復讐のために社会に舞い戻るのだが……
※全6話ぐらい。字数は一話あたり4000文字から5000文字です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト
待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。
不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった!
けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。
前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。
……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?!
♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
悪役令嬢エリザベス・フォン・グレイストーン
Y.Itoda
恋愛
悪役令嬢エリザベス・フォン・グレイストーンは、婚約者に裏切られた末、婚約破棄と共に家族からも見放される。
過去の栄光を失い、社会からの期待も失ってしまう。
でも、その状況が逆に新たな人生のスタートに⋯
かつての贅沢な生活から一変した、エリザベス。
地方の小さな村で一から再出発を決意する。
最後に、エリザベスが新しい生活で得たものとは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる