【完結】間違いでしたと言われたい!!〜その傲慢な根性、叩き直してあげましょう〜

のんびり歩く

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彼の過去

初恋

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そうして、俺の食欲は更に増し、苛立ち、周りに当たり散らす様になった。
だから、俺の両親は縋る様な思いで、彼女のいる屋敷へ俺を向かわせたんだと思う。

彼女の家は伯爵家で、貴族階級で言えば、それほど高い家でもなかったのだが、どういう訳か、彼女の亡くなった祖母が、俺にとっての伯父である現国王と、俺の父の教育係をしていたらしく、その祖母の子供ならば、俺をどうにか出来ると思った様だ。

そして俺は、突然彼女の屋敷へと行く様に言われた。
最初断ったが、拒否権などあるはずも無く、“自ら王族だと名乗らない” という約束を無理矢理させられ、馬車に押し込められ・・・

そうして俺は、着いた先で彼女に出会った。
金色に近い薄いブラウンの長く艶やかな髪に、陶器の様に白く滑らかな肌。クリクリとした大きな目は、草木を思わせる鮮やかな緑色。
今は、そのどれもが愛おしくてたまらないのに、彼女に出会ったばかりの俺は、精神と眼球が腐敗していた為に、その美しさに気付けなかった。
しかも、彼女を貶め、彼女の大切な者を傷つけ、彼女の心も傷つけてしまった。
その事は今でも後悔している。しかし、あの出会いが無ければ今の俺はいないと言い切れる。


馬車に揺られ、彼女の屋敷に着くと、直ぐに部屋に通され、簡単に挨拶を交わし、彼女の両親は部屋を出て行ってしまった。
てっきり俺は、彼女の祖母の息子である、彼女の父親と話をするのだと思っていたのだが・・・
どんな行き違いがあったのか、彼女と・・・・エレノアと話をする事となった。

・・・・そして、俺は縛り上げられ、椅子になった・・・

今では俺が全面的に悪いと分かるが、当時の俺は、怒られるのは彼女であり、俺では無い。
俺にこんな事をすれば、酷い目にあうのは俺では無く彼女だと、本気で思っていた。

思っていたのに、椅子にされた俺を、誰も俺を助けようとはしなかった。椅子にしている彼女を、誰も怒らなかった。しかも、当然身分が上である俺を助け、娘を叱るだろうと思っていた、彼女の母親でさえ、俺を助けようとはしなかった。
それどころか、俺が王族だと言おうとしたのを、止められた・・・脅されたと言って良いほどの迫力で止められた。

更に彼女の母親は、彼女と俺を部屋に残し、使用人や護衛達を連れ、部屋から出て行ってしまった。
まだ幼いとはいえ、貴族という身分の婚約者でも無い男女が、部屋の中で二人っきりになっても良いはずがない。しかし、その時の俺はそんな事よりも、エレノアが恐ろしかった。

俺よりも圧倒的に強く、俺の言う事に従わず、この状況で笑顔を浮かべている、エレノアが恐ろしかった。

しかし、無情にも皆は出て行ってしまった。
そうして俺は・・・縄を解かれ・・・部屋の床に、両脛を押し付け座らせられた。その座り方を異国では、正座と言うらしい。
怒鳴って逃げ出す事も出来たかもしれないが、俺はエレノアの言葉通りに床に正座した。
それは、エレノアの事が恐ろしかったから、だけでは無い。
エレノアに対して、興味が湧いたからだ。決してエレノアに屈した訳では無い。

「姿勢が崩れています。背筋を伸ばしてください。」

「お前、俺にこんな事をして、許されると思っているのか?」

「思っていないですよ。ですが貴方とは、きちんとお話ししたいと思っています。ですから、何故あんな事をしたのか、話してもらえますか?」

エレノアが言っているのは、ソフィーという名のメイドに、紅茶をかけようとした事だ。
しかし、一つだけ弁解させて欲しい。
玄関ホールで出会った。何人も人を殺していそうなほど鋭い目をした男が、突然メイド服を着て、紅茶を出してきたら、それはパニックになって暴言も吐いても仕方がない事だと思う。
勿論、俺の傲慢さもあったが、あの発言の半分は、玄関ホールで出会った男と、紅茶を出したメイドが同一人物だと、勘違いした事からくるものだ。
しかし、当時の俺は、勘違いだと分かっても、それを認める事が出来なかった。謝る事が出来なかった。

「俺が偉いからだ、選ばれた人間だからだ。」

自信満々で言えば、彼女はフッと鼻で笑う。

「誰も助けてくれず、年下の女の子に正座をさせられているのに?」

そう言いながら、俺の足を指で突く。
途端に、えも言えない衝撃が全身を駆け巡った。

「ウギャァァ。」

痛いとも、痒いともつかない、ビリビリとした感覚。
こんな感覚は初めてだった。いや、椅子などに長時間座っていると、感じる事はあった。しかし、ここまで激しいものは初めてだった。
何とも言えないビリビリとした感覚に、身悶えしていると、エレノアがにっこりと、楽しそうに笑う。

「ほら、こんなに叫んでも誰も助けに来ない。」

確かにそうだ、こんなにも叫んでいるのだから、様子を見に来るくらいしても良いと思うのだが、誰一人、部屋の中に入ってくる気配が無い。

そうして俺は、それから数時間、エレノアの指に突かれ、身悶えしながら呻き、叫び、話をした。

エレノアは、俺の馬鹿な考えを一つ一つ丁寧に、 叩き潰し、俺のつまらない話もきちんと聞いてくれた。
初めてだった・・・俺の話をこんなにも長々と聞いてくれた者は。
初めてだった・・・俺に向かって、こんなにもハッキリと真っ直ぐに意見する者は。
初めてだった・・・こんな目に遭わせられたのは・・・
決して新たな何かに目覚めた訳では無い。無いが・・・うむ・・・

ともかく、帰る時刻になる頃には、エレノアは俺にとってかけがえのない人になっていた。
誰にも渡したくない人、側にいてほしい人。
だからこそ、プロポーズをした。
当時の、幼い俺が出来る精一杯のプロポーズを・・・瞬殺されたが。

「私は、家族を馬鹿にする様な人は嫌です。相手の気持ちを理解しようとしない人は嫌です。何の努力もせず、貴族という身分を振りかざす人は嫌です。最低限の礼儀作法も出来ない人は嫌です。そして何よりも、怠惰な体型で、自分よりも弱い男性は、絶対にお断りです。私は兄様の様に強く、賢く、礼儀正しい方の妻になるのです。怠惰なブタなどお断りです。」

エレノアの言葉が、俺の心に深く突き刺さった。当時の俺は、その全てに当てはまっていた、断られて当然の男だ。
普通の者ならば、ここで引き下がっていただろう。しかし、俺は引き下がらなかった。
何が何でもエレノアが欲しかった。

お陰で、エレノアから
「兄に勝てたなら妻になってあげます。」
という言葉をもらったのだ。

条件を満たせば、俺の妻になると言った。

子供の戯言などとは言わせない。
エレノアが俺の妻となってくれるのなら、どんな事でもするつもりだったし、したつもりだ。
ただそれは、俺の想像以上に長く、大変な日々だった。
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