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現在
現在” 我慢します
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「違います、本当に違うんです・・・結婚式と、その後のパーティーが嫌なのです・・・。」
「は?」
ブライアンの反応は、当然だと思う。多くの女性にとって、結婚とその後に開かれるパーティーは、憧れであり、幼い頃より夢見ている女性も多い。
「私は、結婚式とその後のパーティーを、したくないのです。」
「俺との結婚式、と言う事か?」
「違います。人形の様に着飾られ、派手で盛大な会場で、大勢の来賓の方々に穴が空くほど見られる貴族の結婚式が嫌なのです。私は身内と友人達だけの穏やかな結婚式が良かったのです。」
「しかし・・・女性は、豪華な結婚式を夢見ているものだと聞いたが・・。」
「私にとっては、見世物にされる様な気分なのです。」
「だが既に、婚約を発表してから、社交界で皆に注目されていただろう?喜んでいる様には見えなかったが、別に嫌そうにも見えなかったぞ?」
「それは、反撃できますから良いのです。ですが結婚式はどうです?一方的に観察され続け、それに対して出来る事と言えば、優雅に、幸せそうに微笑む事だけです。」
友人や親戚の結婚式やパーティーに出た事は多々あるが、嫌な気分になる事は無かった。
けれど自分が花嫁として、皆の注目を浴びる事を思うと逃げ出したくなる。
人形の様に着飾られ注目を集め、微笑み続ける。しかも、笑みを崩そうものなら、何か結婚に不満があるのかと、疑いの眼差しを向けられるのだ。
「そんな事か・・・」
「そうんな事ではありません。私にとっては、重要な事なのです!」
「そんな事だろう。たった1日我慢すれば、一生俺と一緒に居られるのだぞ。」
「・・・だから私は、逃げずに我慢してここに居るのでしょう。誰でも良いから『結婚式は間違いでした。結婚式はせずとも、良い事になりましたので、今日はゆっくりとお休み下さい』と言ってくれるのを待ちながら。」
「エレノアは、俺の事が嫌いで結婚式をしたくない。訳では無いんだな。」
「そんなわけが無いでしょう。それなら、今すぐ全力で逃げています。」
「ならば、エレノア。騎士との結婚を選ぶほど嫌な結婚式を挙げるのは、誰と結婚する為か教えてくれないか?」
そんなの決まっている。言わなくても分かっているはずだ。それでも、先程までの不安そうな表情が、嬉しそうな表情に変わっているのを見ると、言葉にして、その表情が更に変わるのを見たいと思ってしまう。
「それは・・・ブライアンの為です・・・・。」
自分の頬が赤く染まるのを感じながらも、ブライアンの表情が変わるの待ったが、その表情はエレノアの期待に反して不敵な笑みへと変わっていく。
「ほう、俺の為?で、他にも言う事があるだろう?」
「他・・ですか?」
「俺はまだ、エレノアが逃げてしまわないか不安なんだ。だから俺の不安を消す事の出来る、魔法の言葉をくれないか?」
何を言えばいいか、分かっている。
分かっているからと言って、簡単に口に出来る言葉では無い。
気恥ずかしさから、ブライアンの顔を直視する事が出来ず視線をそらし、顔に熱が集まるのを感じながら、ボソリと呟く様に言葉を絞り出した。
「・・あ・・・愛してます・・・。」
「俺も愛しているよ。だから、今日だけは我慢してくれるね。」
エレノアが照れながら言った言葉を、ブライアンはさらりと返す。しかしその声には、喜びと愛しさが滲んでいる気がした。
「・・・はい。」
だから、エレノアは気恥ずかしさと喜びに頬を染め、ゆっくりと頷いた・・・
ゆっくりと頷いた・・・・のだが・・
その瞬間、パンパンと手を叩く音が響き渡る。
それは、互いの気持ちを確かめ合った事への、祝福の拍手では無い。むしろ甘ったるい雰囲気を消し去る合図。
「だそうだ。全員全力で準備だ!!」
ブライアンの大声が響き渡り、柱の陰からお揃いのメイド服に身を包んだ女性達が、わらわらと現れ、エレノアを取り囲む。
「だっ騙された。」
どうやら、女性達はブライアンの合図があるのを、ずっと柱の影から見ていたらしい。
つまり全ては、ブライアンの計画通りだったのだろう。女性達に半ば引きずられながら、連行されていくエレノアに、ブライアンは満面の笑みを向ける。
「嘘はついておらん、エレノアの事は本当に愛しているよ。だが、それはそれ、これはこれだ。結婚式を開き、国の内外にこの婚姻を周知させる事は王族の務め、嫌だから逃げるなど出来るわけが無いだろう。それとも何か?エレノアは、俺に嘘を言ったのか?俺の事を愛しているから、今日だけは我慢するのでは無かったのか?」
結婚式は今日であり、あと数時間後まで迫っていた。
それなのに、エレノアはドレスを着付ける最中に、城の中庭まで逃げ出していたのだ。
「それは・・・。」
「まあ嫌いなものは仕方がないな・・・それならば、皆の視線が気にならない様にこんな物を付けるのはどうだ?」
どこから取り出したのか、透けるように薄く白い、大きな布がふわりと風に揺れる。布の端を細やかで美しい刺繍が囲い、溜息が出そうなほどに美しい。
「これは??」
「ベールだ。こうやって被せれば、エレノアからは見えるが、客からはエレノアの顔が見えなくなる。遠い異国では、邪悪なものから花嫁を守るために、身に付けるらしいぞ。」
頭からスッポリとベールを被せられ、視界が薄っすらと白く染まる。
「なんて素晴らしい!!!これがあるなら、私、結婚式に出ます。」
美しいベールに気を取られているエレノアは気付かなかった。
見えないだけで、根本的な解決にはなっていない事を・・・
そして、ずっとベールを被ったままではいられない事を・・・
誓いのキスの後・・・
「あの、ブライアン様?ベール元に戻して下さい。」
「戻す訳が無いだろう。花嫁の顔が見えない結婚式などありえん。」
「でも・・・。」
「ずっとつけて良いなど、言っておらん。」
「騙された!!」
「何とでも言え、まだパレードに、パーティーが残っている。途中退場など出来ないからな。」
「うう・・・誰か、この結婚は間違いでしたと・・。」
「言って良いのか?」
「良くない。」
「なら我慢だな。」
「うぅぅ・・・はい。」
その日、花嫁は国中の人々に祝福され、嬉しさに、終始涙を流しながら喜んでいたそうだ。
「違うのに・・・羞恥心で、泣いていたのに・・・みんな、勝手に勘違いして・・・。」
「皆が喜んでくれたのだから、良かったではないか。なんなら、もう一度やるか?」
「いや!!絶対嫌!!!」
「は?」
ブライアンの反応は、当然だと思う。多くの女性にとって、結婚とその後に開かれるパーティーは、憧れであり、幼い頃より夢見ている女性も多い。
「私は、結婚式とその後のパーティーを、したくないのです。」
「俺との結婚式、と言う事か?」
「違います。人形の様に着飾られ、派手で盛大な会場で、大勢の来賓の方々に穴が空くほど見られる貴族の結婚式が嫌なのです。私は身内と友人達だけの穏やかな結婚式が良かったのです。」
「しかし・・・女性は、豪華な結婚式を夢見ているものだと聞いたが・・。」
「私にとっては、見世物にされる様な気分なのです。」
「だが既に、婚約を発表してから、社交界で皆に注目されていただろう?喜んでいる様には見えなかったが、別に嫌そうにも見えなかったぞ?」
「それは、反撃できますから良いのです。ですが結婚式はどうです?一方的に観察され続け、それに対して出来る事と言えば、優雅に、幸せそうに微笑む事だけです。」
友人や親戚の結婚式やパーティーに出た事は多々あるが、嫌な気分になる事は無かった。
けれど自分が花嫁として、皆の注目を浴びる事を思うと逃げ出したくなる。
人形の様に着飾られ注目を集め、微笑み続ける。しかも、笑みを崩そうものなら、何か結婚に不満があるのかと、疑いの眼差しを向けられるのだ。
「そんな事か・・・」
「そうんな事ではありません。私にとっては、重要な事なのです!」
「そんな事だろう。たった1日我慢すれば、一生俺と一緒に居られるのだぞ。」
「・・・だから私は、逃げずに我慢してここに居るのでしょう。誰でも良いから『結婚式は間違いでした。結婚式はせずとも、良い事になりましたので、今日はゆっくりとお休み下さい』と言ってくれるのを待ちながら。」
「エレノアは、俺の事が嫌いで結婚式をしたくない。訳では無いんだな。」
「そんなわけが無いでしょう。それなら、今すぐ全力で逃げています。」
「ならば、エレノア。騎士との結婚を選ぶほど嫌な結婚式を挙げるのは、誰と結婚する為か教えてくれないか?」
そんなの決まっている。言わなくても分かっているはずだ。それでも、先程までの不安そうな表情が、嬉しそうな表情に変わっているのを見ると、言葉にして、その表情が更に変わるのを見たいと思ってしまう。
「それは・・・ブライアンの為です・・・・。」
自分の頬が赤く染まるのを感じながらも、ブライアンの表情が変わるの待ったが、その表情はエレノアの期待に反して不敵な笑みへと変わっていく。
「ほう、俺の為?で、他にも言う事があるだろう?」
「他・・ですか?」
「俺はまだ、エレノアが逃げてしまわないか不安なんだ。だから俺の不安を消す事の出来る、魔法の言葉をくれないか?」
何を言えばいいか、分かっている。
分かっているからと言って、簡単に口に出来る言葉では無い。
気恥ずかしさから、ブライアンの顔を直視する事が出来ず視線をそらし、顔に熱が集まるのを感じながら、ボソリと呟く様に言葉を絞り出した。
「・・あ・・・愛してます・・・。」
「俺も愛しているよ。だから、今日だけは我慢してくれるね。」
エレノアが照れながら言った言葉を、ブライアンはさらりと返す。しかしその声には、喜びと愛しさが滲んでいる気がした。
「・・・はい。」
だから、エレノアは気恥ずかしさと喜びに頬を染め、ゆっくりと頷いた・・・
ゆっくりと頷いた・・・・のだが・・
その瞬間、パンパンと手を叩く音が響き渡る。
それは、互いの気持ちを確かめ合った事への、祝福の拍手では無い。むしろ甘ったるい雰囲気を消し去る合図。
「だそうだ。全員全力で準備だ!!」
ブライアンの大声が響き渡り、柱の陰からお揃いのメイド服に身を包んだ女性達が、わらわらと現れ、エレノアを取り囲む。
「だっ騙された。」
どうやら、女性達はブライアンの合図があるのを、ずっと柱の影から見ていたらしい。
つまり全ては、ブライアンの計画通りだったのだろう。女性達に半ば引きずられながら、連行されていくエレノアに、ブライアンは満面の笑みを向ける。
「嘘はついておらん、エレノアの事は本当に愛しているよ。だが、それはそれ、これはこれだ。結婚式を開き、国の内外にこの婚姻を周知させる事は王族の務め、嫌だから逃げるなど出来るわけが無いだろう。それとも何か?エレノアは、俺に嘘を言ったのか?俺の事を愛しているから、今日だけは我慢するのでは無かったのか?」
結婚式は今日であり、あと数時間後まで迫っていた。
それなのに、エレノアはドレスを着付ける最中に、城の中庭まで逃げ出していたのだ。
「それは・・・。」
「まあ嫌いなものは仕方がないな・・・それならば、皆の視線が気にならない様にこんな物を付けるのはどうだ?」
どこから取り出したのか、透けるように薄く白い、大きな布がふわりと風に揺れる。布の端を細やかで美しい刺繍が囲い、溜息が出そうなほどに美しい。
「これは??」
「ベールだ。こうやって被せれば、エレノアからは見えるが、客からはエレノアの顔が見えなくなる。遠い異国では、邪悪なものから花嫁を守るために、身に付けるらしいぞ。」
頭からスッポリとベールを被せられ、視界が薄っすらと白く染まる。
「なんて素晴らしい!!!これがあるなら、私、結婚式に出ます。」
美しいベールに気を取られているエレノアは気付かなかった。
見えないだけで、根本的な解決にはなっていない事を・・・
そして、ずっとベールを被ったままではいられない事を・・・
誓いのキスの後・・・
「あの、ブライアン様?ベール元に戻して下さい。」
「戻す訳が無いだろう。花嫁の顔が見えない結婚式などありえん。」
「でも・・・。」
「ずっとつけて良いなど、言っておらん。」
「騙された!!」
「何とでも言え、まだパレードに、パーティーが残っている。途中退場など出来ないからな。」
「うう・・・誰か、この結婚は間違いでしたと・・。」
「言って良いのか?」
「良くない。」
「なら我慢だな。」
「うぅぅ・・・はい。」
その日、花嫁は国中の人々に祝福され、嬉しさに、終始涙を流しながら喜んでいたそうだ。
「違うのに・・・羞恥心で、泣いていたのに・・・みんな、勝手に勘違いして・・・。」
「皆が喜んでくれたのだから、良かったではないか。なんなら、もう一度やるか?」
「いや!!絶対嫌!!!」
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