【完結】間違いでしたと言われたい!!〜その傲慢な根性、叩き直してあげましょう〜

のんびり歩く

文字の大きさ
上 下
15 / 22
現在

現在” 嫌なんです

しおりを挟む
暖かな光が降り注ぎ、柔らかな風が頬をなでる。
鳥達は、軽やかに鳴きながら、翼を広げ空へと羽ばたき、暖かな日差しが優しく肌を温める。

穏やかで、心地良い・・・

「エレノア。」

春の陽気・・・

「おい、聞いているのか?」

そんな中で聞こえて来るのは・・・

「また昔を思い出して、ボーッとしてるだろう。」

ここ三ヶ月ほど、毎日聞いている声であり、エレノアの溜息の原因である。

「はあああぁぁぁ・・・どうしてこうなってしまったのでしょう・・・。」

王城の中庭に置かれたベンチで、悲痛な声を上げ、両手で顔を覆うエレノア。
対して背後から聞こえてくるのは、溜息混じりの呆れた声。

「何だ?まだ言ってるのか?」

「ええ、言いますよ。私は、アレが王家の結婚の儀式だったなんて知らなかったんですから。」

苛立ちと共に両手から顔を上げ、振り返れば、白地に煌びやかで細やかな金の刺繍が施された、眩しいほどに煌びやかな正装を身に纏ったブライアンが立っていた。爽やかな笑顔と、自信に満ち溢れた立ち姿・・・何故、今まで王族だと気付かなかったのか、不思議なほどの存在感・・・どうやらその隣に、これから一生立たなければならないらしい。

それも、泉でハルデスと言う名の花を受け取った為に。

プロボーズを受け入れてから、一週間後。家族から祝福されながら屋敷を追い出され、大歓迎されながら城へと連行されてから、数日が過ぎた頃、エレノアは気付いた。城に来るまで普通だと思っていたが、どうやら王族としての振る舞いや、隣接する国々の知識やマナー。この国の法や国内情勢まで、勝手に徹底的に叩き込まれおり、ただのお飾りの王妃としてでは無く、王を支え共に決断していける王妃に、勝手に仕上げられていた。
その事を今更怒る気も、喜ぶ気も、感謝する気も無いが・・・一つだけ気になる事はあった。

王妃教育を受けていたらしいのに、なぜだか肝心の王族に関する事だけが、スッポリと抜けていた・・・それはまるで、誰かがわざとエレノアに学ばせなかったかの様に・・・その誰かは、多分目の前の人物の様な気がするが・・・
とにかく、そのおかげでエレノアは知らなかった。エレノアの薬指の付け根に付いている青い花の模様の意味や、王家の結婚の儀式について何も知らなかった・・・

王族の者は、結婚したい相手をあの泉に連れて行き、泉の底に住まう精霊に伴侶にしたい事を伝える。すると精霊はその相手がふさわしい相手か見定め、精霊が認めれば花を持ち帰り、相手に求婚する事ができ、相手が受け入れれば、結婚成立となる。その証が薬指の付け根に現れた青い花の模様・・・

つまりは、婚約ではなく・・・結婚・・

エレノアは現在、既にブライアンの妻なのである。

「儀式など大した問題では無いだろう。俺が求婚して、エレノアが受け入れた。それだけの話だ。」

「それだけ・・ではありません。私、本当は騎士様に嫁ぎたかったのに・・・知らぬ間に結婚していたなんて・・・」

エレノアは騎士に嫁ぎたかったからこそ、両親に内緒で兄に紹介してほしいと頼んだのだ。

「婚約であれば、破棄する気だったのか?」

「そうではありませんが・・・。」

騎士だと思っていた人が王族で、婚約だと思っていたのに結婚で・・・
全て無かった事にしたい訳では無いが、不満ぐらいは漏らしたい。


「貴族の家に産まれ、貴族として育ち、友人も貴族ばかり。何故騎士に嫁ぎたいと思うのか分からん。」

「それは・・・。」

ブライアンの言いたい事は分かる。騎士の妻となってしまえば、今のまま生活という訳にはいかないだろう。環境だってかなり変わるだろう。それなのに何故、行きたがるのか・・・
理由はきちんとある。しかし、それをブライアンに伝えるには、とても勇気がいる。普通の人であれば、『そんな事?』と言われる様な事だけれど、嫌なものは嫌なのだから仕方がない。

「見ている限り社交界が苦手という風にも見えなかったし、学ぶ事が苦手という風にも見えない。」

「そうですね・・・どちらも大好きというわけではありませんが、嫌いでもありませんね。」

考えながら言えば、何故かブライアンの顔が思い詰めた様に曇っていく。

「ならば・・・俺の事か?」

「え?」

「俺の事が嫌いなのか?」

「違います、そうではありません。私は・・・」

「無理をしなくても良い。かなり強引だった事は自覚している。ただ、エレノアが結婚相手を探していると聞いて、他の者に取られたく無いばっかりに、俺が焦ってしまったのが悪かったのだ。」

悔しそうに、悲しそうに手のひらを強く握り込み、声を絞り出すブライアン。
愚痴をこぼす様な感覚で言ってしまった言葉が、こんなにもブライアンを傷つけてしまった事に罪悪感を感じるが、平民に嫁ぎたかった理由は話したくない。話したくないが、ブライアンに誤解されたままではいたくない。

エレノアは、小さく溜息を吐き出し、渋々話しはじめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

悪役令嬢はデブ専だった

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
恋愛
少女漫画の悪役令嬢に転生したちょっとおバカな女のコ、ヴァネッサ。前世の記憶を思い出し、デブ専であった自分を思い出した彼女は、ヤケになって婚約者である王子殿下にデブ専性癖のことを打ち明ける。 絶対ドン引きされて早めに婚約破棄されるだろう、と思っていたのに、なぜか殿下に気に入られてしまい……。 ※男の肥満化要素あり ※ムチムチ体型のデブはいいぞ、という話です ※真面目に恋愛してるか怪しいコメディ寄りの作品です

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

処理中です...