【完結】間違いでしたと言われたい!!〜その傲慢な根性、叩き直してあげましょう〜

のんびり歩く

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青年期

【過去】兄様は行きたくない

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兄に紹介されて半年、二人はひっそりと逢瀬を重ねていた。
屋敷で会う時は、兄に頼み友人としてブライアンを招いてもらい、外で会う時は、人目のつかない森や草原へとピクニックに出かけていた。

その間、両親から一度も結婚や婚約の話は無く、ブライアンに関しても特に何も言われる事は無かった。後々考えれば一応兄の友人とはいえ、年頃の男性が頻繁に屋敷に出入りし、エレノアと親しげに話している。その事に対して、両親が何も言わないのは変なのだが、その時は、両親の口から結婚や婚約の話が出て来ない事に安堵するばかりで、変だとは思う事は無かった。

「おや、その様な姿で遠乗りをするおつもりですか?もしかして、私に抱えられて乗りたいと、敢えてその様な姿で来られたのですか?」

現在 エレノアとブライアンは、エレノアが暮らしている屋敷の馬小屋に居る。
今日は、馬で遠乗りに出かける予定で、丁度 馬に鞍を付けてもらっている所へブライアンがやって来たのだ。

「あら、乗馬には横乗りと言われる乗り方がある事を知らないのですか?」

今日エレノアが着ているのは、紺色のドレスで、何時もとは違い、ワイヤー入りのパニエは身に付けていないものの、ふんわりとしていて、一見すると乗馬には向きそうに無い。

「知っておりますが、横乗りではゆっくりとしか走れないでしょう?今日の目的地は少し遠いので、私と共に乗った方が早く着きますよ。」

「あら、ゆっくりと馬に乗りながら、会話と景色を楽しむのも良いかと思ったのですが。」

半年の間に、二人の距離は随分と近くなった。もちろん物理的な距離では無く、心の距離だ。
物理的な距離で言えば、二人はいまだに寄り添う事も無ければ、腕を組んで歩く事も無く、馬車や階段などでエスコートをする時以外、手を触れず、互いに一定の距離を保っている。
それでも、二人の心の距離が近づいていると言えるのは、互いを見つめる時の温かな眼差しと、皮肉を込めた話し方だ。一見すると仲が悪い様にも見えるのだが、エレノアには、まるで気の置けない関係の様に感じられ、心地良かった。

「それは、とても魅力的なお誘いですが、今日はどうしても行きたい所があるんです。」

勿論、婚約もしていない男女が二人だけで外出する事は無い。
馬小屋の入り口では、メイド達と共に、今日の付き添い役として連行されたエレノアの兄が立っている。

「 どうして・・・どうして、私が付き添いなのだ・・・行きたくない。何故せっかくの休日に、付き添いなど・・ハァ・・リリーちゃん・・。」

リリーとは、半年ほど前に産まれた、兄の娘ローリエの愛称だ。
義姉は、跡取となる男子が産めなかった事を、申し訳無く思っていた様だが、兄の方は産まれたばかりの娘を見た瞬間、涙を流して喜び、現在進行形で溺愛している。そんな、娘と引き離された事が不満らしく、ずっと小声で文句を言っていたのだ。

「森の中へ、今の時期しか咲かない珍しいハルデスという花を、一緒に見に行きたいのです。」

ブライアンは、あくまでエレノアに向かって言っているが、その言葉に反応したのは、エレノアの兄だった。

「ハルデス・・?」

「その花を贈られた相手は、必ず幸せになれるという花なのですよ。しかし、確かに貴女とゆっくり話をしながら、のんびりとするのも良いですね。」

ブライアンはあくまでエレノアに向かって言っているが・・・・・

「行こう!!早く行こう!!エレノアお前は、滅多に横乗りなんてしないし、何時もは男性用の乗馬服を着ているだろう。早く着替えて、早く行こう!!」

先程まで、全身で行きたくないと言っていた人とは、別人の様に目を輝かせている兄に、思わず溜息交じりの声が漏れる。

「お兄様は付き添いのはずですが・・・。」

「何を言っている。ブライアンさ・・・君がせっかくお前の為にと計画してくれたのだから、行くべきだろう。」

兄の言葉は力強いが、その目が泳いでいる様に見えるのは、多分気のせいでは無いだろう。

「お兄様は、リリーと義姉様にその花をプレゼントしたいだけではないですか?」

「えっと・・・・・勿論だ!!他の目的が無ければ、付き添いなどしていられん。俺・・・私は、本当は、家から・・・リリーとアリアから離れたく無い。」

何故か一瞬戸惑っている様にも見えたが、それでも全力で言い切った兄に、ブライアンは苦笑いを浮かべ、エレノアは大きな溜息を吐き出した。

「兄様・・・分かりました。分かりましたよ。」

そう言い、エレノアはもう一度大きな溜息を吐き出してから、自分のスカートの端を掴むと、力一杯 引っ張った。
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