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青年期
【過去】兄様は、風邪らしい
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エレノアがプロポーズを受けるよりも更に半年前・・・
その頃、エレノアは焦っていた。
貴族女性の結婚適齢期は16歳から20歳、エレノアは現在16歳になったばかり・・・しかし、両親から結婚どころか、婚約の話すら聞いたことが無い。しかも、本来16歳で社交界デビューするはずなのに、両親から『今年は見送るように』と、言われてしまい、出会いすら無い状態だ。
出会いすらない・・・出会いすら与えられていない・・。
つまり、両親が政略結婚させようとしている、という事ではないだろうか。
と、エレノアは考えていた。
貴族の令嬢である以上、政略結婚は仕方がないと頭では分かっているけれど、素直に受け入れるつもりは無い。それに、政略結婚といっても両親の事だ、ある程度決まった時点でエレノアに話をしてくれるはず。まだ何も聞いていないという事は、まだ確実な事は決まってはおらず、候補が何人かに絞られたという段階だろう。
ならば正式に決まる前に、自身で相手を見つけ『この人と結婚したいのです。』と言って強引にでも自分が選んだ相手と婚約したい。
勿論 勝算はある。
エレノアの家系は恋愛結婚が多く、権力にあまり興味が無い、そして幼い頃に父はエレノアに『この家はお前のお兄ちゃんが継ぐからな、エレノアは好きな者と結婚しなさい。騎士でも、平民でも好きな相手とな。お父様が全力で応援するからな。エレノアは強い男が好きだろう?騎士なんてどうだ?』
と、しきりに騎士を薦めていたからだ。
騎士様ならいける気がする!!
そこでエレノアは、真っ先に兄であるエバンに相談する事にした。
それは、兄を信頼しているからでは無い。
兄が、現在風邪をひいている・・・らしい、からだ。
現在兄は、風邪を他の者にうつさないようにと、客室のベッドの上で生活をしている。エレノアが部屋を訪ねた時も、ベッドの上で眉間に深い皺を寄せ、手紙を片手に紅茶を飲んでいた。
「兄様、お話があるのですが。」
よほど重要な手紙なのか、兄は視線をエレノアに向ける事無く返事をする。
「何だ?」
こちらを向かなくとも、兄が話を聞いているのは知っているし、目を見て言う勇気が無かったから丁度いい。そう思いエレノアは、手紙に視線を向けたままの兄に話しかける。
「兄様、私の嫁ぎ先の事ですが・・・」
「グハッ・・ブホッ・・・グホゴホグホッ・・・。」
兄は飲んでいた紅茶を盛大に撒き散らし・・・咽せた。
咽せるという事は、動揺しているのだろう。という事は・・・
「やはり、お父様とお母様が既に、私の嫁ぎ先の目星をつけているのですね。」
「ゲホッ・・・ゲーッホ・・ま・・・ゴボボ・・・まて・・。」
「分かっております。貴族の娘である以上、政略結婚は当たり前、相手を選ぶ事は出来ないと分かっております。ですが私は、きん・・・愛の無い相手とは結婚したくないのです。」
「ヒーヒー・・待て・・・待てと・・。」
咽せ続けながらも、必死に言葉を絞り出す兄に向かって、力強く宣言する。
「大丈夫です。お兄様の迷惑になる様な相手を選ぶつもりはありません。ですが、私は自分の相手は自分で決めさせていただきます。」
そう言い切ると同時に、兄の枕元にあったクッションが勢いよく飛んできてきた。
バフッ
「待てと言っているだろう。馬鹿者!!!ゲホッ・・・ゲホッ・・・。」
勿論、クッションはエレノアにぶつかる事無く、壁にぶつかり床へと落ちる。
「お兄様、そんなに叫ばれると、お身体にさわりますよ。」
「お前が、叫ばせているのだろう!!」
兄は、2日前から風邪を拗らせている・・・・らしい。
しかし、現在紅茶に咽せているのは別として、寝込んでから一度も咳をしているのを見ておらず、顔色もとても良さそうだ。
しかし、一応風邪をひいているらしい。
「私は思った事を言っただけです。」
「そもそも何故、俺に言う。父と母に言えばいいだろう。」
苛立ち混じりの声で言う兄に、エレノアは急にスッと目を細め、ニヤリとした笑みを浮べながら、その視線を兄の足へと向けた。
「ところでお兄様、風邪のわりに随分と元気ですね。脚の調子はどうですか?」
「なっ!!かっ風邪なのに、脚の調子なんて関係無いだろう。どうしたんだ急に。」
「友人からの情報では3日前、騎士団の練習場で死闘を繰り広げたあげく、ギリギリの所で負け、足を負傷されたと伺ったのですが?」
「なっ何故それを!!」
「騎士団の事に詳しい友人が居ますから。」
「そうだった・・・お前の友人には、騎士団長の娘さんがいたんだったな。しかし、アリアには・・・。」
「言いませんよ、お義姉様は今大事な時期ですから。」
アリアと言うのはエレノアの義姉・・・兄の妻で現在妊娠中、来月にでも産まれるのではないかと言われている。それなのに決闘をするなど、どうかしているとは思うが、義姉に言いつけて、余計な心配をかけるつもりは無い。
つもりは無いのだが、利用はさせてもらう。
その頃、エレノアは焦っていた。
貴族女性の結婚適齢期は16歳から20歳、エレノアは現在16歳になったばかり・・・しかし、両親から結婚どころか、婚約の話すら聞いたことが無い。しかも、本来16歳で社交界デビューするはずなのに、両親から『今年は見送るように』と、言われてしまい、出会いすら無い状態だ。
出会いすらない・・・出会いすら与えられていない・・。
つまり、両親が政略結婚させようとしている、という事ではないだろうか。
と、エレノアは考えていた。
貴族の令嬢である以上、政略結婚は仕方がないと頭では分かっているけれど、素直に受け入れるつもりは無い。それに、政略結婚といっても両親の事だ、ある程度決まった時点でエレノアに話をしてくれるはず。まだ何も聞いていないという事は、まだ確実な事は決まってはおらず、候補が何人かに絞られたという段階だろう。
ならば正式に決まる前に、自身で相手を見つけ『この人と結婚したいのです。』と言って強引にでも自分が選んだ相手と婚約したい。
勿論 勝算はある。
エレノアの家系は恋愛結婚が多く、権力にあまり興味が無い、そして幼い頃に父はエレノアに『この家はお前のお兄ちゃんが継ぐからな、エレノアは好きな者と結婚しなさい。騎士でも、平民でも好きな相手とな。お父様が全力で応援するからな。エレノアは強い男が好きだろう?騎士なんてどうだ?』
と、しきりに騎士を薦めていたからだ。
騎士様ならいける気がする!!
そこでエレノアは、真っ先に兄であるエバンに相談する事にした。
それは、兄を信頼しているからでは無い。
兄が、現在風邪をひいている・・・らしい、からだ。
現在兄は、風邪を他の者にうつさないようにと、客室のベッドの上で生活をしている。エレノアが部屋を訪ねた時も、ベッドの上で眉間に深い皺を寄せ、手紙を片手に紅茶を飲んでいた。
「兄様、お話があるのですが。」
よほど重要な手紙なのか、兄は視線をエレノアに向ける事無く返事をする。
「何だ?」
こちらを向かなくとも、兄が話を聞いているのは知っているし、目を見て言う勇気が無かったから丁度いい。そう思いエレノアは、手紙に視線を向けたままの兄に話しかける。
「兄様、私の嫁ぎ先の事ですが・・・」
「グハッ・・ブホッ・・・グホゴホグホッ・・・。」
兄は飲んでいた紅茶を盛大に撒き散らし・・・咽せた。
咽せるという事は、動揺しているのだろう。という事は・・・
「やはり、お父様とお母様が既に、私の嫁ぎ先の目星をつけているのですね。」
「ゲホッ・・・ゲーッホ・・ま・・・ゴボボ・・・まて・・。」
「分かっております。貴族の娘である以上、政略結婚は当たり前、相手を選ぶ事は出来ないと分かっております。ですが私は、きん・・・愛の無い相手とは結婚したくないのです。」
「ヒーヒー・・待て・・・待てと・・。」
咽せ続けながらも、必死に言葉を絞り出す兄に向かって、力強く宣言する。
「大丈夫です。お兄様の迷惑になる様な相手を選ぶつもりはありません。ですが、私は自分の相手は自分で決めさせていただきます。」
そう言い切ると同時に、兄の枕元にあったクッションが勢いよく飛んできてきた。
バフッ
「待てと言っているだろう。馬鹿者!!!ゲホッ・・・ゲホッ・・・。」
勿論、クッションはエレノアにぶつかる事無く、壁にぶつかり床へと落ちる。
「お兄様、そんなに叫ばれると、お身体にさわりますよ。」
「お前が、叫ばせているのだろう!!」
兄は、2日前から風邪を拗らせている・・・・らしい。
しかし、現在紅茶に咽せているのは別として、寝込んでから一度も咳をしているのを見ておらず、顔色もとても良さそうだ。
しかし、一応風邪をひいているらしい。
「私は思った事を言っただけです。」
「そもそも何故、俺に言う。父と母に言えばいいだろう。」
苛立ち混じりの声で言う兄に、エレノアは急にスッと目を細め、ニヤリとした笑みを浮べながら、その視線を兄の足へと向けた。
「ところでお兄様、風邪のわりに随分と元気ですね。脚の調子はどうですか?」
「なっ!!かっ風邪なのに、脚の調子なんて関係無いだろう。どうしたんだ急に。」
「友人からの情報では3日前、騎士団の練習場で死闘を繰り広げたあげく、ギリギリの所で負け、足を負傷されたと伺ったのですが?」
「なっ何故それを!!」
「騎士団の事に詳しい友人が居ますから。」
「そうだった・・・お前の友人には、騎士団長の娘さんがいたんだったな。しかし、アリアには・・・。」
「言いませんよ、お義姉様は今大事な時期ですから。」
アリアと言うのはエレノアの義姉・・・兄の妻で現在妊娠中、来月にでも産まれるのではないかと言われている。それなのに決闘をするなど、どうかしているとは思うが、義姉に言いつけて、余計な心配をかけるつもりは無い。
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