【完結】間違いでしたと言われたい!!〜その傲慢な根性、叩き直してあげましょう〜

のんびり歩く

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幼少期

【過去】お許し、いただきました!!

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長い沈黙の後、母は小さな溜息を吐きだした。

「そう・・・。で、何を言われたのかしら?」

「私に対しては、大した事は言われていませんわ。『お前の家の領地など、俺がお父様に言いつければ、いつでも取り上げる事が出来るんだからな。俺に逆らおうと思うなよ。』とか『こんな使えない使用人達を使っているなんて、お前の両親は間抜けだな。』とか『お前の様なブスと、何故、一緒に過ごさなければならないんだ』とかです。」

「そう・・・」

母の表情に大した変化は見られない。しかし、その手は強く握り込まれ、怒りに震えていた。

「ただ、その後、私の大切なソフィーに対して、『顔が怖い』『この男女』言う暴言を吐き、『お前の様な者が入れた紅茶など、気持ち悪くて飲めるか』と言って紅茶をかけようとしたので・・・。」

ソフィーは、立場で言えばメイドであるが、エレノアにとっては、幼い頃から側に居て、支えてくれた姉の様な存在だ。

そして、エレノアの家では、立場こそ使用人であっても、彼らは家族であり、家族に害する者は、敵であった。
ただ普段であれば、いくら腹立たしくとも、貴族である以上表立って何かする様な事は無かったのだが・・今日は違っていた。

エレノアが言い終わる前に、母は力強い口調で口を挟んだ。

「そうね、躾けは必要ね。」

そうして、エレノアと母は、強く頷き合う。

「待てえええええええぇぇぇぇぇ!!!」

突然、エレノアの下から変声期前の少年の甲高い声が響き渡る。
声の主は、今朝から屋敷の中が慌ただしかった理由・・・・客人である。

「お前達、俺にこんな事をして許されると思っているのか!」

少年が今まで黙っていたのには理由があった。
それは、今まで両手両足を布で縛られ、口元を布で覆われていたから・・・・だけでは無い。
それでも、呻き暴れる事はできる。それをしなかったのは、少年の身分がエレノアよりも上であり、『この状況を見たコイツの親は当然激怒し、酷く叱責するだろう。』『もしかしたら、家から追い出されるかもしれないな。そうなれば、俺のメイドとしてこき使ってやる。』と、考えていたからだ。

しかし、思う様にはならなかった。
様子を見に来たエレノアの母は、怒るどころか何故かエレノアに同調してしまった。その為、黙っている訳にもいかなくなり、慌てて口元を覆っていた布を必死で外したのだ。

「お前達分かっているのか、俺は!!!」

ガン!!!

少年の顔面 数センチの場所へ、エレノアの母の高いヒールが全力で踏み下ろされた。

「お客様、本日は貴族としてこちらに来られたのですよね?ただの貴族として。」

ニヤリと不敵に笑う母の笑顔は、悪女にしか見えない。それはもう、少年が怯えるほどに・・・

「ヒイイイィィィィィ・・・おっ・・・お前達、俺を助けろ!!」

激昂した少年の声が部屋の中に響き渡り、少年の視線が部屋の隅に控えていた、少年と共に屋敷へとやって来た護衛達と、同じく隅に控えていたこの屋敷のメイド達へと移る。
しかし、彼等は部屋に入ってから、一度も少年を助けようとはしていない。それどころか、必死に気配を消していた。

それは、エレノアが少年を縛り上げ、その上に腰を下ろしていても。
それは、彼等の目尻と口元がピクピクと休む事なく動き、身体が微かに震えていても。
出来うる限り気配を消していた。

しかし、護衛対象である少年に声をかけられれば、さすがに何もしない訳にはいかない。護衛の一人が、立っていた場所から一歩前に出て、ゆっくりと少年に言う。

「私は主人より、『命の危険がある場合のみ守れ、それ以外は一切の手出し、口出しを禁じ、本日に限り全てを黙認するように。』と言われております。そして、この屋敷の者達にも同じ命が出ております。」

「なっ!!」

少年の護衛達の主人が誰なのかは、知らない。
知らないが、エレノアの行動は咎められる事は無い様で、エレノアは、内心ホッとしていた。
間違った事をしたとは思っていない・・しかし、怒りに任せて、かなりやり過ぎたとは思っていたし、後でどんなお仕置きをされるのか、むしろお仕置きで済めば良い方だ。と、内心かなりハラハラしていた。

しかし、お咎め無し・・それならば・・

エレノアはゆっくりと少年の上から降りると、少年の顔の前にしゃがみ込む。

「お許しが出ましたので、少しお勉強をしましょうか?」

ニコニコと楽しそうな笑みをうかべるエレノアに、少年は顔を引きつらせた。

「おっ・・・俺に、何をする気だ!!俺に何かすれば、後悔する事になるぞ!!」

「大丈夫です、命の危険がある様な事はしません。少しだけ、他の人の気持ちが分かる様になっていただくだけです。」

可愛らしい笑みのはずなのに、少年には、その笑みが恐ろしく、全力で逃げ出そうともがくが、両手両脚を縛られていては、それは出来ない。出来る事と言えば大声を上げる事だけ。

「放せ!!!お前達、後で覚えていろよ!!絶対許さないからな!!」

そんな少年にエレノアは、呆れた様に大きな溜息を投げつけてから、直ぐそばに立っている母を見上げた。

「はぁぁぁ・・・お母様、私、お客様と日暮れまでお話したいのだけれど、いいでしょうか?」

「そうね、元々日暮れまでの予定だったのだから問題無いわ。お父様には私から言っておくわね。」

「ありがとうございます、お母様。」

母と娘が、よく似た笑顔で小さく頷き合うと共に、部屋の中に居た者達が、部屋の中から出て行く。

「おい、お前達。どこへ行く気だ??待て、俺を置いていくな!!待てと言っている・・・待て!!待ってくれえええぇぇぇ!!」

再び少年の声が部屋の中に響き渡る、しかし、足を止める者は居ない。
ただ、幼くとも未婚の男女という事もあり、部屋の扉は微かに開けられ、直ぐ外には護衛達が立った。

部屋の中には、エレノアと・・・・縛られた少年だけ、中の様子を見る者はいない。

ただ、時おり部屋の中から『うわああぁぁ』や『うぎゃぁぁぁ』や『待て、ちょっと待て!!待てえええぇぇ』などの叫び声が漏れ出していた・・・・
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