完結 女性に興味が無い侯爵様 私は自由に生きます。

ヴァンドール

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33話

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「あー満足しましたわ。私は帰ります」

 マジで何しに来たんだこいつ……。

 ネコと一緒に居るうちに病んでしまったのだろうか……。

『アルマ……惜しい人亡くしたわね』
 勝手に殺すな。

「おい、俺達の事は気にしなくていい。六竜だとか神に選ばれただとかそんなのは抜きにして話を進めさせてくれ。ここで何か問題が起きていると聞いて来たんだが?」

 爺さんに対して話を促しつつも、小声でジオタリスには「バラすなって言った筈だよな……?」と睨みをきかせておいた。
 別に今更こいつをどうにかする気は無いけれど、約束を破った事に関してのお仕置きはしてやらないと気が済まない。

 ジオタリスは怯えた瞳でプルプルと頭を抱えていた。

「で、では……何から話せばいいものかのう……」

 爺さんは「うーん」と唸って、黙ってしまった。

「なんだ? そんなにややこしい事になってるのか?」

「いや、逆に大した問題ではないのじゃよ。ただし、真偽のほどを確かめる手段も無く……儂としてはどうでもいいんじゃが本人たちが騒ぐのでなぁ」

「全然話が見えてこないんだが」

「とにかく、じゃ。お主等の面接は勿論合格じゃ、後は直接里の中で本人たちに話を聞いてもらうのが早かろう」

 爺さんが「よっこいしょーいち」とか言いながら立ち上がり、俺達に付いて来るように告げて歩き出す。
 爺さんが扉を開けると、突然ユミルが倒れ込んできた。

「あわわわっ!」

 事もあろうに爺さんはそれに驚いてユミルを避けてしまったので、慌てて地面とユミルの間に滑り込んでその身体を受け止める。

 どうやら扉に寄り掛かっていたらしい。内開きの扉だったからとはいえ、こんなお約束展開をやらかしてくるとはこのユミルって子もなかなかやるな。

「おい、大丈夫か?」

「す、すすすすいませんっ!!」

 顔を真っ赤にして俺の上から飛び起き、爺さんをぽかぽか叩く。

「終わったら呼んで下さいって言ったじゃないですかーっ!」
「ほっほっほ、すまんすまん。この人達をあの連中の所へ案内するぞ」

「分かりました。ではこちらへ」

 俺達を爺さんが、爺さんをユミルが先導する形で先程の廊下正面、大きな扉まで移動する。

 爺さんがぼそっと呪文を唱えると、扉がゆっくりと開いていく。
 俺はその呪文をしっかりと聞いていた。どうやら自由に設定できるらしい。
 なぜそう思ったかと言えば、聞き覚えのある言葉だったから。
「開けゴマ」とか……安易というかふざけているというか。

 しかもそれを唱えた瞬間こちらをチラリと見て笑ってたのがなんとも茶目っ気満載である。

 で、だ。
 扉の中は獣人だらけの地下世界。
 天井にはかなり明るい光源が付けられているらしく暗くて困るような事はなさそうだ。
 しかも直接見ても眩しくない。

 建物は地下に元々あった物なのか、この世界の文明レベルよりかなり進んだデザインだった。
 突然現れた俺やジオタリスに驚く事もなく、獣人たちは次々に爺さんに挨拶をして、俺達にもぺこりと頭を下げていく。

 ここに入ったという事は信じられる相手、という事だろうか?
 だとしたら許可を与えている爺さんへの信頼はそれほど厚いという事だろう。

 爺さんたちに連れていかれたのは他の建物よりも小さい家。新入り用とでもいったところか。

「ここじゃよ。なかなかに癖のある奴等じゃから驚くかもしれんが、とにかく話を聞いてやってくれ」

 言われた通り、俺はスライド式の扉を開け中に入る。

 すると……。

「きゃぁぁぁぁっ!! ノックも無く扉を開けるなんてどんな非常識野郎ですの!?」

 ……獣人がお着替えの真っ最中だった。

『らっきーすけべってやつかしら?』
 いやぁ……完全に見た目タヌキだからあまり嬉しくはないかなぁ。

 そう、そこにいたのはタヌキ型の獣人。獣要素が結構多い感じ。全身毛に覆われていて、顔はほんとタヌキ。
 人型をしてるタヌキがお着替えをしていた所に押し入った形になる。

「す、すまん……ちょっとお前らに用事があって来たんだ。後ろ向いてるから着替え済ませちゃってくれよ」
「馬鹿言うんじゃありませんわ! 扉を閉めなさい!」

 それもそうだ。一応レディのようだからこちらも人間と変わらないように対応しないと失礼という物だろう。

 彼女の言う通り外に出て着替えが終わるのを待つ事数分。

 先程のタヌキとは違って今度は白い毛並みの背の低い犬獣人が扉を開けて出てきた。

「……準備ができた。入ってもいいとの事だが……くれぐれも失礼の無いように」

 お前らはどこのお偉いさんだっての。

「む……? き、貴様がなんでこんな所に!?」

 犬が俺達の誰かを見てとても驚いていたが、中から「早くお通しなさいまし!」と催促の声が聞こえてきた為犬獣人は大人しく俺達を中へ導き入れた。

 爺さんとユミルは、また後で合流するとの事でどこかへ行ってしまった。
 きっと面倒そうだから逃げたに違いない。

 タヌキ獣人も俺達のうち一人に釘付けになって固まってしまった。

「じ、ジオタリス……?」

「へ? 俺? 俺獣人の知り合いは居ないと思うが……」
「ジオぉぉぉっ!!」

 どごっ!!
 タヌキ獣人が勢いよくジオタリスに飛びつき、彼は壁に叩きつけられた。

「ぐはっ! こ、この感じ……覚えがあるぞ……!! あんたまさか……!?」

「やっとわたくしを知ってる人間に出会えましたわ! 早くここの皆さまにわたくしが人間だと証明してくださいまし!」

「や、やっぱり……」

 どうやらジオタリスとタヌキは知り合いらしい。でも獣人の知り合いはいないと……。
 いや、人間だって言い張ってるのが事実だとしたら、外見が獣人なだけで人間の知り合いって事か?

「こんな所で何を……というか、そのお姿はどうしてしまったんですか、姫」

 ……ひめ?

 ひめって、あの?
 姫? お姫様? リリア帝国の?

「それはそれはもうとっても大変な事情がてんこもりなのですわ! 詳しくお話しますから中へ入りなさい! そちらの従者の方々もどうぞこちらへ」

 ……おいおい誰が、誰の従者だって?

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