佐藤君のおませな冒険

円マリ子

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12. 友達ごっこ①

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 ぽーーん、ぽーん、ぽん、ぽん、ぽん……

 俺が投げた石ころが軽快に水の上を走っていく。ここは××橋付近の川縁、西田と待ち合わせをしているが、手持ち無沙汰で水切りをしてみたのだ。彼は来てくれるだろうか。
 何故、待ち合わせをしているのかというと、事の起こりは昨日のことだった。

 廊下を歩いていると、橘先生に呼び止められた。
「おーい、佐藤君。ちょっと、ちょっと。」
 どきりとする。先生には肛門まで見られてしまったのだ。側から見ればそんなこと分かるわけないのだが、意識してしまう。努めて平静にしなければ。
 先生は俺を化学準備室に連れていった。今日は約束もしていないし、なんだろう。
「佐藤君、西田君と友達になってくれないかな?」
 突然何を言うのだろう。よく話が飲み込めない。
「西田君いつも一人でいるだろ。ずっと気になっていたんだよ。同年代の友人の一人でもいるほうがいいだろう。私には話しにくいこともあるだろうし。」
 教師らしい発言に驚いてしまった。
「こんなこと頼めるの君しか思いつかなくて、頼むよ、ね!」
「まあ、いいですけど……要件はそれだけですか?」
「ひょっとして別のこと期待していたかな?」
「いえ、そんなことありません。」
 顔が熱くなる。
「もうすぐ中間考査だから忙しいんだよ、ごめんね。」
「いえ、それじゃあ失礼します。」
 えらいことを頼まれてしまった。
 西田のことは気になっていた。先生との関係や俺のことをどう思っているか(仮に先生と恋人だとしたら当然俺のことは嫌だろうし、でも、西田だって俺にあんなことしたくらいだから嫌ではないのか?)。しかし、接点もないし先生にも聞きづらい。避けてきた話題だった。それを友達になってほしいなんて、先生はどうかしていると思う。
 どうやって西田に声をかけようか。話しかけるなオーラがすごいから学校で声をかけるのはハードルが高い。かといって、電話番号も知らない。ここは、古典的な方法、下駄箱に手紙だろうか。それしか思いつかないな。

 そんなこんなで、西田の下駄箱に手紙を入れた。今日の17時に××橋付近の川辺で会いたいという伝言、読んでくれたとは思うけれど、来てくれる自信はなかった。この場所は時おり犬の散歩の人が通るだけでひとけが少ない。学校の奴らに見られる心配もないだろう。
 水切りに適した石を拾っていると、離れた場所から俺を呼ぶ声がした。堤防のほうに目をやるとこちらに向かって降りてくる西田の姿があった。来てくれたんだ、嬉しいけれど緊張する。
「僕を呼び出すなんて、なんの用事?もしかして、また僕にしゃぶってほしくなっちゃった?ふふふ。」
 いきなりなんてこと言うんだろう。
「えっと……あの……、橘先生が俺に西田の友達になってほしいって。」
「あははは……先生、佐藤君にも言ったんだ!僕も言われたよ、しかも、恋人になってもいいんじゃないかとまで。あの人、ちょっと頭おかしいよね。」
 恋人と聞いてどきりとした。
「君と先生は恋人じゃないの?」
「違うよ。」
 即答だった。
「恋人でもない人とあんなことするの?」
「はあ?君だって同じだろ。」
 言われてハッとした。確かにそうなのだ。西田はにやりとした笑みを浮かべて言った。
「佐藤君は先生のおちんちん入れてもらった?」
 何故今そんなことを聞くのだろう。俺はぶんぶんと首を横に振った。
「そうなんだぁ。かわいそう。僕は先生のおちんちんが一番好きなんだ、入れられると、ああ、僕はこの人のものなんだって実感できる。それで一緒に舌でも吸われたら、幸せでたまらない。何も考えられなくなる。君も早く入れてもらえるといいね。」
 話しながらだんだんと陶酔していくのが分かった。俺は恥ずかしさのあまり下を向いて尋ねた。
「君は先生のことが好きなんだろう?」
「そうだよ、好きだよ。」
「恋愛感情として?」
「分からない。はじめは恋だと思ったけれど、今は違う気がする。うまく言えないけどもっと違うだと思う。」
 言い終わると、西田は小さくため息をついた。
「僕にばっかりしゃべらせてずるいよ。君こそどうなんだよ。」
「俺は……俺もよく分からない。恋愛は対等な関係だと思うから、その理屈でいくと、恋愛とは違うと思う。あの人の言うことに従ってなすがままになるのが心地良い。」
 西田は不思議なものを見つけたような顔をして俺を見た。
「先生が君と僕は似てると言うんだ。ある意味ではそうかもね。優等生らしくない返事だからびっくりした。」
「俺は優等生じゃないよ。」
「佐藤君、生徒会やってるし部活だって運動部だったでしょ。優等生じゃん。僕は友達いないし万年帰宅部だし劣等生、ハハ。」
「違うよ、俺はしたくてやってるわけじゃないんだ。人から何か注意されたりするのが嫌だから真面目にしているだけで、本心から真面目なわけじゃない。だから、本当はみんなを騙しているだけなのかも。」
「そっか、優等生も大変だね。」
「だから優等生じゃないんだって!」
「ふふ、ふふふ。」
 西田が無邪気に笑うのを初めて見た。こんな顔ができるんだ。
「じゃあ、先生から言われて真面目なふりをするために本意じゃないけど僕と友達になろうとしてるんだ。」
「それは違う……君に興味がある。だから友達になりたい。」
「僕、友達なんてよく分からない。」
「うーん、そうだな……じゃあ、友達ごっこをしよう。」
「友達ごっこ?」
「友達がしそうなことを一緒にしてみる。」
「例えば?」
「例えば……西田は水切り得意?」
「何それ。」
「えっ、知らないの。こうするんだよ。」
 俺は持っていた石を水面に向かって投げた。石は何回か水面を跳ねて沈んでいった。
「これが水切り。小学生のころはよく友達とやったよ。西田もやってみろよ。」
 石を一つ手渡した。
「水面の近くから平行に近くなるようにサイドスローで投げる。石はなるべく平べったいのがいい。」
 説明しながら俺はもう一度投げた。今度も数回跳ねて沈んだ。それを見届けると西田も見よう見まねで投げた。石は一回だけ跳ねて沈んだ。
「難しいね。」
「初めてで一回跳ねたら上出来だよ。」
「でもこれ小学生なんでしょ。高校生なら?」
「うーん、そうだ俺たち受験生だし一緒に勉強しようよ。もうすぐ中間考査だし。」
「まあ、それくらいなら……僕、塾とか行ってないから、教えてもらえるなら助かるかも。」
「じゃあ、そうしようぜ。明日から。場所は図書室でいいかな?」
「僕、学校は嫌だ。急に一緒にいたら誤解されそう。」
「え?」
「自分がどう言われてるか知ってるから。孤独なホモだと思われてる。僕なんかと一緒にいたら、佐藤君もホモだと思われちゃうよ、ハハ。僕の家で勉強しよ。明日なら母さん夜勤だし気兼ねないよ。」
「じゃあ、そうするか。」
 こうして俺たちは電話番号と住所を交換して別れた。
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