不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

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番外編

俺たちの特別な女の子③

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「反省してないわね」

 ぼそりとレティシアが呟いた。

 その瞬間、シュルシュルと城跡に絡んでいた蔦がトーマスの体に絡みついていく。

「え! うわあああ!」

 あっという間に、トーマスは遥か高い城跡の壁に磔にされてしまった。

「そこでしばらく頭冷やした方がいいわ」とレティシアが告げた。

 これはレティシアの魔法か…?!
 もしかして、先程の鴉も彼女の仕業なのだろうか。俺たちは驚愕した。

「あ、そうそう。街の魔導具師とかいうの、最近悪質なものばっかり売ってるらしくてね、私の師匠オースティンの元にどうにかしてくれって被害者複数から依頼が入ったのよ。今頃その人師匠にこてんぱんにされてるはずよ。もう新しく買いに行くのは無理だと思う」

 とレティシアが続けた。

「……そんな……」

 その言葉を聞いて、トーマスはがっくりと項垂れた。
 沈黙が辺りを包む。


 そのとき。

「……悪かった! トーマス!」

 ギーヴ村の一人が声を上げた。

「俺、別にお前をいじめてたつもりじゃねえけど……嫌だったんだよな、謝る!」

「お、俺も! ごめん!」

 と、次々に謝罪の声が上がる。

「俺らも悪かった!」と、俺たちも声を張り上げた。

「……」

 その言葉をどう受け止めたのか、トーマスはポロポロと涙を流した。

 

 この一件で、ロブ村とギーヴ村の対立関係は解消された。……そもそも対立している意味もよく分からなかったのだけど。

 あの後、依頼料(俺たちのなけなしの全財産)を払おうとしたけど、「いらないわよ。私は磔にしただけだし……。解決できたのは貴方たちの力でしょ」とレティシアは笑っていた。


 レティシアは可愛いけど、怖い。でも優しい。
 
 それからいろんなことがあったけど、レティシアが度々問題を解決してくれて、皆レティシアのことが好きだった。
 レティシアは俺たちと対等に話すけど、でもどこか別次元の存在のように思えていた。外見もそうだが、オーラとかそういうものが。
 レティシアは俺らのヒロイン……いや、ヒーロー的存在だったのだ。
 
 中にはレティシアに恋をして、本気で落とそうとした奴もいたが、それは少数派だった。
 それに、レティシアの背後にはあのオースティン様がいる。以前、レティシアをデートに誘った奴がいて、そいつがレティシアにキスしそうになったことがバレた結果、オースティン様にボコボコにされてしまった。(そいつは反省し、二度とレティシアのそばには近寄らなかった)
 そんなことがあったため、俺たちの間には「レティシア不可侵条約」が結ばれていたのだ。

 そんなこんなで、レティシアがロブ村の山奥に来てから三年が経った頃、彼女が王宮に上がることになった。レティシアなら不思議でも何でもない。だって彼女は俺たちとは次元が違う存在だから。
 別れの挨拶をしていると、明らかに高貴な身分であろう男がレティシアを強引に馬車へと連れていった。なんだよ、と思いながらも「レティシア、王宮でも頑張れよ!」と、俺たちは心底応援した。

 それから数ヶ月が経ち、前回レティシアを強引に連れて行った高貴な男――なんと王太子殿下だった――が、レティシアを探しに再びロブ村に来た。
 村の大人たちによると、レティシアはどうやら「紫魔女」と呼ばれる存在だったらしい。大人たちが次々とレティシアを悪く言うので、俺たちは怒りが湧き上がった。彼女が紫魔女だろうと何だろうと、関係ないだろう。

 

 しばらくして、あの魔女マチルダの冤罪が王家から発表された。
 それを受けて、大人たちは一転、レティシアに謝りたいと嘆き始めた。俺はまたもやもやと不快な思いが胸を圧迫した。

「あのな! マチルダが冤罪だろうと冤罪じゃなかろうと、そもそもレティシアに何の関係もないだろう!」と、その日も村の大通りで、ぶつくさ嘆く自分の親に向かって、苛立った声を出した。

「その通りだ」

 そのとき、聞き覚えのある声が背後から響いた。

 振り向くと、あの王太子だった。そして、その横には、

「れ、レティシア!」

 記憶とは違う紫の髪と瞳だったが、レティシアが立っていた。

「久しぶり」とレティシアは笑顔を浮かべた。

「レティシア……元気そうで良かった」

 不覚にも、少し泣きそうになる。

「戻ってきたのか? 寂しかったぞ」

 と俺はレティシアに駆け寄り、言った。

「私、ここには戻らないわ。今日は皆にお世話になったことのお礼を言いに来たの」とレティシアは返した。

「え? そうなのか……」

  確かに、オースティン様は数年単位で居を転々としている。寂しい思いを抱えながらも、俺は尋ねた。「次はどこへ行くんだ?」

「王宮よ。アンドレアス殿下に嫁ぐの」
 
 と、レティシアは微笑んだ。

「……え?」

 見ると、今まで気付かなかったが、王太子の手がレティシアの腰に回っているのが目に入った。

 村人たちが集まってきて、レティシアにわいわいと話しかける。

 俺はその様子を、離れたところでぼんやりと見つめながら、やがて笑みを浮かべた。

 ――やはり、レティシアは次元が違う存在だ。
 
 俺たちの特別な女の子。

 絶対幸せになれよ。


 
 番外編 俺たちの特別な女の子 おわり
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