不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

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番外編

俺たちの特別な女の子②

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「あれ、ロブ村の子……? どうしたの? 何かあった?」と女の子が首を傾げて言った。

「え、えーと……」と俺は緊張で震えつつ口を開いた。

「オースティン様はいる?」

「今出かけてるわ。明日には帰ってくると思うけど」

 と女の子は淡々と答えた。

「そーなんだ……」俺たちは肩を落とした。
 明日じゃ、間に合わない。

「もし私にできることがあるなら、手伝うわよ」

「いや。女の子に手伝ってもらうことじゃない」と俺は答えた。
 なんせ、これからあの悪ガキたち相手に戦争しに行くのだ。こんなか弱そうな女の子に助けてもらうほど、俺たちは落ちぶれてない。

 俺の発言に、周りのやつらもうんうんと頷く。

「まあ、良いわ。とりあえず話聞かせて」

 そう言って女の子は、俺たちを家の中に入れた。

 俺たちは一応この度の事情――ギーヴ村のやつにアビーの妹が誘拐され、誘き出されている、ということを説明した。

 最近、トーマスというギーヴ村の村長の息子が向こうの子どもたちを従えている、ということも話した。

「トーマスは昔は気弱なやつだったんだ」

「多分金で悪ガキたちを従えてるんだと思う」

「そうだ、あんなでかい指輪をして。見せびらかしたいんだろうな」

 俺たちの話を女の子は神妙な面持ちで話を聞いてくれた。
 
 この女の子は、レティシアというらしい。なんとあのオースティン様の弟子で、魔法もちょっと使えると言った。

 
「おい。もうすぐ約束の十九時だぞ」

「行かなくちゃ」

 俺たちが急いでオースティン様の家を飛び出すと、レティシアも後ろからついてきた。

 
 街のはずれの人気にない場所に、タゴタニア城跡はある。

 予想通り二十人はいるギーヴ村のやつらが待っていて、その中央に、トーマスがアビーの妹を片手に抱え、立っていた。妹は瞳を潤ませ「お兄ちゃん……!」とアビーを呼んだが、特に危害を加えられた様子もなく、ひとまず安心する。

「トーマス! 妹がぶつかったのは謝ったじゃないか。だからもう妹を介抱してくれ!」

 とアビーは一歩前に出て言った。

「ふふふ……」とトーマスは不気味に笑った。

「いや、前から思っていたんだ。いつかロブ村の連中とは決着をつけなきゃいけないと」

「はあ……?」
 
「どうだろう、一人ずつ腕のある者が前に出て、決闘をするっていうのは? 先に三勝したほうがこの妹ちゃんを景品として手に入れるってのは?」

 トーマスが意味わからないことを言い出した。しかし、トーマスの周りのギーヴ村の悪ガキたちは「そうだ!」「さすがトーマスさん!」と歓声を挙げている。
 鴉たちがギャアギャアと空中を舞い、辺りは一層不気味な雰囲気に包まれた。

(なんだ、こいつら……?)

 トーマスだけじゃない。他のやつらもどこか目がおかしい。まるで、何かに操られているような、取り憑かれているような……。

 そのとき、突然の悲鳴が響いた。「ぎゃあ!!」

 トーマスがいきなり倒れ込んだ。空中を舞っていた鴉の一羽が、何故かトーマスへ向かって飛び込み、頭に体当たりしたのだ。その衝撃で、アビーの妹はトーマスの腕から抜け出し、一目散にこちらへ駆け寄ってくる。

「待て……!」と、向こうの子どもがアビーの妹の首根っこを掴んだ。しかし、その瞬間、もう一羽の鴉が飛んできて、そいつの手を狙って体当たりをした。アビーの妹は泣きながらこちらへ辿り着き、アビーの元に飛び込んだ。ひとまずそのことにほっとする。

「うっ、一体なんなんだ……?」

 倒れたままのトーマスが呟いた。そのとき、いつの間にかトーマスの横に立っていたレティシアが、彼の指に嵌められていた大きな宝石のついた指輪を取り上げ、足で勢いよく踏み潰した。

「わあ!やめろ!」とトーマスが叫ぶ。

 その瞬間、トーマスのそばにいたギーヴ村の連中の雰囲気が一変した。さっきまでの異様な目つきは消え、普通の表情に戻っている。

「あれ……?俺たち、なんでこんなことしてたんだ?」
「なんで、トーマスなんかについてたんだっけ?」

 と口々に呟く。

「レティシア……これはどういうことなんだ?」と、俺が尋ねた。
 状況がさっぱり飲み込めない。

「この指輪の宝石には魔力が込められていたの。それで村の子どもたちを支配下に置いていたのよ」

 レティシアは説明した。

「そうでしょ? トーマスくん」

「……ちくしょう」

 トーマスは俺たちで押さえつけ身動きが取れない状態にすると、渋々口を開いた。

 話はこうだ。トーマスは元々気弱な子で、ギーヴ村の連中から、いじりを通り越し、ほぼいじめられていた。そんな状況を見かねた彼の父である村長が、数ヶ月前に街で胡散臭い魔道具師と呼ばれる男に相談したらしい。「この指輪を嵌めれば、子どもくらいなら簡単に支配下に置けますよ」とその男は言った。それを父からもらったトーマスは、最初は乗り気ではなかった。しかし、今まで自分を舐めていたやつらが自分の思い通りになる……そのことは彼を変えた。

「げっ、そうだったのかよ、トーマス」「俺たちを操っていたのか」とギーヴ村の連中は口々に文句を言った。

「……だとして、なぜ俺たちを?」

 ギーヴ村の連中に恨みがあるなら、村内で好きに威張れば良いのに。何故違う村の俺たちにわざわざ喧嘩を売って、こんな騒ぎを起こしたのだろうか。

「ふん。別に理由なんてないさ。強いて言うなら、アビー、君が僕を見下したからだよ」

「ええ……? 俺は見下してなんか……」 アビーが戸惑いながら言う。

「大きな体で僕を見下ろして! 僕を馬鹿にしてたんだろ?」

「そんな……」

「ロブ村の奴らも同罪だよ! 僕は昔から君たちのことが嫌いだったんだ! 出会えば喧嘩ばかりして! 覚えてないかもしれないけど、昔何度か君らに殴られたこともあるんだ」

「……」

 確かに。以前からギーヴ村の奴らとは小競り合いという名の軽い殴ったり殴られたりの関係があった。トーマスは弱いので、一方的に殴られるだけだったのだろう。そして、一人で恨みの感情を募らせていたのだ。

「……だとしても、やりすぎだろ。アビーの妹を人質に取ったりさ」

 と俺は言った。

「……うるさい! また父さんに言って、新しい魔導具を買ってきてもらうよ! それで今度こそ君らに復讐してやるからな!」

「……!」

 トーマスがすごい形相でこちらを睨みつけてきて、俺たちは思わず怯んだ。



 つづきます
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