不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

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番外編

俺たちの特別な女の子①

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 ロブ村の若い男衆の話


「ここの山奥にオースティン様が住み始めたらしい」

「オースティン様?」

 俺はロブ村生まれ、ロブ村育ちの青果店の一人息子だ。この村には俺と同年代の子どもたちが十人弱いて、今も村の空き地に皆で集まって話をしていた。

「知らないのかよ、魔導士オースティンだぞ」

「あ、聞いたことある」

 確か、この国で一番の魔法使いだ。昔から数々の事件を解決してきたという……。

「百年前から生きてるんだろ?」
「ジジイじゃん」
「いや、それが若くてイケメンらしい。不老不死なんだって」
「すげえ!」
「頼めばなんでも願いをかなえてくれるらしいぞ」
「まじで!?」
「依頼料はどのくらい取るんだろう」
「さあ……貴族様も依頼に訪れるっていうし、すごい値段なんじゃね?」
「俺たちには縁のない話だな」

 ――そんなやりとりをした数日後、村内の少年たちに激震が走った。
 
 ロブ村の山を挟んで隣に、ギーヴ村という村がある。
 ロブ村の子どもたちとギーヴ村の子どもたちの仲は、昔から悪かった。いつからそんな関係になったのかはわからないが、俺が物心ついたころにはすでにそうだった。

 仲が悪いとは言っても、にらみ合ったりちょっとした小競り合いをする程度だった。しかし、最近になって事態は深刻化していた。ギーヴ村の村長の息子・トーマスが、村内の悪ガキたちを従えだした。トーマスは村長の息子だけあって金持ちで、この前見かけたときには、これ見よがしに大きな宝石がついた指輪をしていた。

 トーマスがギーヴ村を仕切りだしてからというもの、これまでの小競り合いとはわけが違い、ロブ村の子どもたちはギーヴ村の連中に因縁をつけられ、集団で暴行を受ける事件が頻発していた。二つの村(の子どもたち)は過去最大級に緊張状態にあった。

 そんな中、今日、ロブ村の花屋の息子アビーが妹と一緒に街に買い物に行った際、偶然トーマスを見かけた。関わらないようにしようと思ったが、妹がふとした拍子にトーマスにぶつかり、彼は尻もちをついてしまった。

 トーマスは怒り狂ったが、そのとき彼はひとりだった。トーマスは決して体格が良いとは言えず、アビーは体が大きかった。アビーは「ごめん」とトーマスに謝った。その場はそれで収まったと思ったが、帰り道でふと目を離した隙に、妹がいなくなってしまった。焦って探していると、再び目の前にトーマスと、その手下の子どもたち――ざっと二十人はいた――が現れた。そして、そいつらにアビーの妹が拘束されていたのだ。

「今日、十九時にタゴタニア城跡に来い」
「それまで、妹を預かる」
「絶対親や大人に告げ口するなよ」
「妹を酷い目に合わせたくなかったらな」
 トーマスたちはそう言い残し、逃げていった。

 この話をロブ村に帰ってきたアビーから聞いたとき、俺たちは騒然とした。すぐに村の大人たちに言わなければと思ったが、アビーが止めた。「親に言ったら妹を酷い目に合わせるってトーマスが……」

 アビーの妹はまだ四歳にも満たない小さな子だ。さすがに悪ガキたちと言えど、そんな小さな子に何かするとは思えない。しかし、万が一のことがある。最近のトーマスの目は、どこかおかしい。昔は、普通の子どもだった。むしろおどおどしていて、ギーヴ村の悪ガキたちの金魚のフンのように、後をついて行っている姿を見ていた。

 ――俺たちロブ村の子どもは十人もいない。それに対して、ギーヴ村の子どもたちは二十人以上いる。まさに多勢に無勢という状況だ。

「……オースティン様に助けを求めるっていうのはどうだ?」

 ふと、一人が提案した。

「何言ってんだよ、そんなの無理だろ」

「依頼料なんて払えねえよ」

「いや、皆の小遣いとか貯金を集めれば、なんとかなるんじゃないか?」

 そこで、俺たちは全員の全財産を持ち寄ることに決めた。

「……ど、どうなんだろ、これ……」

 集めた紙幣と硬貨をまじまじと眺める。果たしてこの金額がオースティン様への依頼料金として妥当なのか、まるで見当もつかない。

「……まあ、ダメ元でお願いしてみるか!」

 そう言って、俺たちは意を決して山奥へと足を踏み入れた。

 この山は険しい。確かに山道は申し訳程度には整備されているが、ちょっとした足の置き場をミスれば、簡単に転落してしまう危険があるため、普段は誰も近づかない。暗くなる前に、何とかオースティン様のもとへ辿り着かなくては。

「……あ、あった! あれだ」

 頂上近くに、ひっそりと小屋が佇んでいた。あれが、オースティン様の家なのだろう。

 扉をノックし、「ごめんくださーい」と声をかけると、内部からガタガタと音が聞こえてきた。そして、扉がゆっくりと開かれ、出てきたのは一人の人影だった。

「はーい」

 その人物は、若いイケメンではなく、俺たちと同じ年頃の女の子だった。しかも、ただの女の子ではない。明るい茶髪に、髪と同じの色の目をした、めちゃくちゃ可愛い女の子だった。
 俺も仲間も、思わず言葉を失った。



 つづきます
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