不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

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真相編

52話 同じやり方

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 オースティンは大木にくくりつけられ、スコルの斬撃を受け続けていた。彼の体には無数の傷が刻まれ、血がどくどくと地面に落ち、周囲を赤く染め上げていく。

「スコル! 早くオースティンを殺して!」

 エレノアの叫びが響く。

「まあ待て。……オースティン、お前が俺に負けを認め、忠誠を誓うというなら、魔力を回復させてやっても良いぞ」とスコルは冷酷に笑った。

「はぁ? 何を言ってるのスコル……」

「どうせ、お前は魔力がなければ何もできないただの人間だ」

「……誰が誓うか」

 オースティンは激痛に耐えながら、口から血を吐き捨てた。赤い液体が彼の顔を汚し、地面に染み込んでいく。

「フフ……オースティン。貴様は化け物じみた力を持った代わりに、随分あの女……マチルダを慕っていたようだな」

 その瞬間、オースティンの足元に火種が燃え上がった。

「あの女と同じやり方でお前も葬ってあげよう。本望だろう」

「……!」

 マチルダは魔力を封じられ、火炙りにされた。
 炎がオースティンの足元に迫り、彼はその熱に眉を顰めた。炎が肌に触れ、焦げた肉の臭いが漂い始める。

 オースティンは周囲を見回した。正気を失った兵士たちが互いに斬り合い、悲鳴があちこちから上がる。まさに地獄絵図だった。彼はスコルの背後に視線をやった後、すぐに目をそらし、小さく笑みを浮かべた。

「……スコル、お前が死ねば俺の魔力は戻るのか?」

「さぁ、その答えが分かるときはこない。今死ぬのだか……ら……。……?」

 その瞬間、スコルが言葉を最後まで言い切る前に、彼の胴体は縦に真っ二つに割れた。紫色の血しぶきが舞い上がり、近くにいたエレノアとオースティンの体を汚し、彼らの目の前でスコルの内臓が飛び散る。

「スコル!!」

 エレノアが悲鳴を上げ、恐怖と絶望に満ちた目でその光景を見つめる。

「な、馬鹿な……まさか、何故お前が?」




 立っていたのはアンドレアスだった。気配を消して忍び寄り、その愛剣でスコルを真っ二つに切り裂いていた。

 スコルは地面に崩れ落ち、苦しげに息を吐きながらギッとアンドレアスを睨む。

「ゲホッ……魔力を持たない王子が……何故私を攻撃できる……」

 悪魔に攻撃を与えられるのは、魔力を操る魔法使いだけのはずだった。スコルの疑念が渦巻く中、アンドレアスはその問いには答えず、「オースティン殿、悪魔は心臓を刺せば死ぬのでしょうか?」と冷静に尋ねる。

「そうだ」

「! やめっ……」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、アンドレアスはスコルの心臓に剣を突き刺した。

 スコルは「ぎゃあ!」と叫びながら、黒い煙となってゆっくりと消えていく。

「キャアア!! スコル!!」

 エレノアは彼がいた場所に駆け寄り、必死に手を伸ばすが、スコルの形は消え去り、彼女の手は虚しく擦り抜けていく。

「ひどい、ひどいわ……」

 エレノアは両手で顔を覆い、涙を流しながらしくしくと泣き始めた。

「……エレノア。其方にも同情できるところはある。そもそも其方が道を踏み外すきっかけを作ったのは、私の高祖父に当たるリック王だ。マチルダを冤罪で処刑した罪も、これから王家が償って行かなければならない……しかし、其方はやりすぎた。自分の欲望のために一体何人殺したんだ?」

「……ひどいわ。リック様と同じ顔で私を責めて……」

 エレノアは顔から手を放し、アンドレアスを見上げる。
 その瞬間、スコルが死んだことによるものなのか、彼女の体からセレーナの皮膚がバリバリと剥がれ落ち、本来のエレノアが姿を現した。皺だらけの老婆のような容姿が露わになる。


「……どうして、スコルを殺せたの? 殿下が魔力持ちなんて話、聞いたことないわ」

 先程までの涼やかな声とは全く違い、地を這うようなしわがれた声でエレノアが問う。彼女の目には、恐怖と疑念が宿っていた。

「レティシアが、私の剣に魔力を込めてくれたのだ」

 アンドレアスは冷静に答える。先程、レティシアは痛みで息も絶え絶えの中、彼の剣に魔力を施してくれたのだ。彼女の力がなければ、今の状況は訪れなかっただろう。


「オースティン殿、レティシアが今、苦しんでいます! 魔力は戻りましたか? 早くレティシアに麻酔魔法を……!」

 アンドレアスはオースティンの足元に燃え盛る火を消し、彼を木から解放した。

「無理よ……改造動物の魔力を奪うエキスの効果は、朝日が登るまで続くの。そもそも、仮にオースティンが麻酔をかけられたとしても、レティシアはここで死ぬ運命にあるわ」

「……?! どういうことだ……?」

「王家の呪いには、それぞれ決まった死期があるの。時間魔法で止めていた日数を逆算すると……今、レティシアにかけられている呪いは、今日が最終日なの。スコルがそう言っていたわ」

「……ッ?!」

 アンドレアスとオースティンは、驚愕の表情で目を見開いた。

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