不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

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真相編

45話 ガワ

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 ※残酷な描写注意




 オースティンは、マチルダの妹エレノアが悪魔を召喚し、王家に呪いをかけたこと、そして、そのエレノアと悪魔が今ここにいるセレーナとその従者スコルであると告げた。

 シャーロットはもちろん、周囲の者たちも、信じられない……と、ただただ驚愕の表情を浮かべている。

「……出鱈目を言わないでくださる?」と、セレーナがオースティンを鋭く睨みつけた。

「師匠、エレノアがどうしてワグナー家の一員になれたのでしょうか。外見もまったく異なるようですし……。これも悪魔の能力ですか?」

 とレティシアが問いかける。

 エレノアは、オースティンによると茶色い髪と瞳を持つ平凡な顔立ち。一方、セレーナは金髪で青い瞳、誰が見ても美しい少女であり、あのカミーラ王妃にそっくりな容姿をしている。彼女は正真正銘、ワグナー伯爵家の一人娘であるはずだ。

「レティ、ジル地区の事件を覚えているか?」

「……あ」

 その言葉を聞き、レティシアは思い出した。ジル地区で起きた美少女連続誘拐殺人事件……。二年前、北の地にあるジル地区で、当時のレティシアと同じくらいの年齢の少女たちが次々と行方不明になり、遺体となって発見された事件だ。

「あぁ、あの悲惨な……」とシャーロットが眉を寄せる。

「確か、ジル地区を領地に持つコスタンツォ伯爵夫人と、その雇われ魔法使いの仕業でしたよね?」この事件は、アンドレアスの記憶にも残っていた。

「そうだ。行方不明になった少女の親の一人が、俺に依頼しに来た。『コスタンツォ家が怪しいと皆言っているが、ジル地区の最大権力者のため手出しができない』と。俺は、レティと共にジル地区に入った。そしてレティを囮にして、魔法使いを誘い出した」

「は……?」

 アンドレアスは目を見開き、「囮……?」と眉を寄せる。

「……レティがやると聞かなかったから、仕方なかったんだ。安全には十分配慮した」オースティンは若干バツが悪そうな表情を浮かべる。

 確かに、当時のレティシアは、同じ年頃の少女たちが狙われていると知り、義憤に駆られて囮役を買って出ていた。

「狙い通り、レティに近づく犯人の魔法使いを捕まえ尋問し、白状させた。……犯行内容や動機については有名だから、知っているだろう」

 そう、あまりにもセンセーショナルであったため、事件が発覚するとこの話は瞬く間に全国で有名になった。

 コスタンツォ伯爵夫人は美容に凝っていた。
 ある時、彼女は美しい侍女に嫉妬し、その侍女を殺した。そしてその血を浴びてみると、とても肌の調子がよくなった。そのことがきっかけで今回の一連の事件を起こしたらしい。伯爵夫人の命により、魔法使いは街で美少女を見つけては連れ去り夫人に献上した。少女たちは、魔法使いの手により化粧品に精製され、夫人はそれを愛用した――

 彼女たちは、身体の中身を取り出され、綺麗にガワだけが残ったまま、魔法使いの作業場に保管されていた。

「それが、セレーナと何か関係あるのか? オースティン」シャーロットが尋ねる。

「犠牲になった少女のうちの一人が、ワグナー伯爵家の娘セレーナだ」

「! なんだと……!」

「……待ってください。あの事件の被害者は二十六名。全員平民の娘だったはず」

 アンドレアスの言う通り、ワグナー伯爵家の娘が被害にあったという記録はない。

 犯人二人が処刑され、夫人の夫である当主も見て見ぬふりをしていたと責任を問われた。コスタンツォ家が取り潰しされ、この事件は幕を閉じている。

「らしいな。しかし、俺たちが現場に踏み込んだ時、少女の遺体はあった」

「確かに……そうでしたね」レティシアが頷く。

「一体、どういうことだ……?」

「俺の魔法に、人の記憶を覗く魔法がある。俺は捕まえた魔法使いにその能力を使った。そして、二十七人分の殺人の記憶を見た」

 そうだ、レティシアは断固としてその記憶を見させてもらえなかったが、そんなやりとりがあったことを思い出した。

「記憶の中で確かに、魔法使いはそこのセレーナ……と同じ容姿の少女を殺害していた。そしてそれらしき遺体もあの地下室で発見した」

「……!」

「――セレーナの遺体を盗み、ガワをかぶったな。エレノア」

 オースティンがそう言ってセレーナを睨みつけた。

(ガワをかぶる……?)

 レティシアは驚愕する。そんなことが出来るなんて、まさしく人外……悪魔の所業だ!

「俺は、コスタンツォ家の魔法使いを役人に引き渡すときに記憶魔法を結晶にしたものを渡した。しかし、どうやらその後の処理を見ると、あの役人はそれを国に提出してないようだな。殺されたか、元々息のかかった者だったのか……」

 セレーナは無言で俯いていたが、すぐに「ふふふ……」と静かに笑った。

「確かに私は、行方不明になった時期があったわ。……でも、変な勘違いしないで。ただ命からがらコスタンツォ家から逃げ出した。それだけよ」

 レティシアは、以前セレーナと共に王都の街へ出かけたとき、彼女が過去自分が行方不明になったと言う話をしていたことを思い出した。
 あの時、セレーナは行方不明の間のことは覚えていない、と確かに言っていた。今のセレーナの発言と、話が噛み合わない。

「俺は昨日、隣国リンズベルへセツナ病の特効薬を取りに行った帰りにワグナー家を訪ねた。伯爵によると、二年前、確かにジル地区へ遊びに行くと出ていったきり一年ほどセレーナが行方不明になったことがある、と言っていた」

「一年も……? 何故、伯爵はその時騒がなかった」

「どうやらセレーナにはジル地区に平民の恋人がいたようだな。醜聞にならないよう何処にも報告せず、独自に探していたとのことだ」

 馬鹿らしい、とオースティンは吐き捨てるように言った。

「帰ってきたセレーナは、見た目はまったく同じだったが、伯爵は雰囲気に違和感を感じたらしい。好物や服の趣味等も変わり、娘が別人になったように感じたが記憶を失ったから仕方ないと思いこもうとしていた。……しかし、セレーナが北の地を魔法で救ったという話を聞いたとき、自分の娘ではないと確信したのだそうだ」

「何故だ?」シャーロットが聞く。

「セレーナはからだ。その事実が恐ろしく、伯爵は王宮へ参じることが出来なかった」

「それが……? 後天的に魔力持ちになることもあるわ」

 セレーナの言う通り、レアケースだが、確かに後天的に魔力が開花することもあるにはある。

「……本物のセレーナは幼いときに不慮の事故で体内の魔力臓器を損傷していた、とのことだ。彼女が魔力持ちになる可能性はない」

「……!!」

 ざわり、と周囲の人間たちの空気が変わった。レティシアもまた、息を飲む。

「――何故、わざわざワグナー伯爵の娘の遺体を狙った?」

 オースティンがそう聞くと、セレーナは黙り込んだ。オースティンは舌打ちすると、呪文を唱えセレーナに放った。ジル地区のときも使った、記憶を覗く魔法だ。

「キャアア!!」

 セレーナが叫んだ。記憶を読まれるとはどんな感覚なのかは分からないが、耐え難いものなのだろう。暫く叫んだ後、セレーナはガクンと脱力した。

 記憶を読み取ったらしいオースティンが不快な表情を浮かべ舌打ちをした。そして、彼の掌に結晶が現れ、それが光り出した。

「……ちょうど良い、この場の全員で見ろ。これが、この女の記憶で、一連の事件の動機だ」




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