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真相編
43話 自業自得
しおりを挟む「結局、その後侯爵家を追い出され田舎に帰りましたが、母はすぐに事故で亡くなり……このヌマイへと辿り着きました」
とビビは言った。
「侯爵様。この通り、レティシアは私を庇ってくれただけなのです。処罰なら私にしてください!」
「……黙れ、そんな話信じられるか」
ジーニー侯爵はぶるぶると震えている。
「あの森での集団自決の怨霊の件は、私も知っている。若いときに観光としてあの地を訪れたこともあるさ。しかし、ちょっと悪寒を感じた、とかその程度だ。今の話のような、裸の女達に襲われる? 聞いた事もない」
それはそうだ。そもそもそんな危ない場所だとしたらオースティンが放置せずとっくに処理していたはずだ。(余談だが、その後カトレア森を去るときにオースティンはあの場所を魔法で焼き払っている)
「狂言はやめろ……!」
「――いえ、狂言ではありません」
見ると、マデリーンが立っている。彼女はシャーロットと共にここへ来ていた。
「エイミス家の娘か……一体いきなり何だ」
エイミス子爵家はジーニー侯爵家とも事業の繋がりがあり面識がある。
「ルーカス様が怨霊に襲われ亡くなったのは、全て彼自身の日頃の行いのせいです」
マデリーンの発言に、ジーニー侯爵がぴくりと眉を上げる。
「マデリーン嬢。日頃の行い、とはどう言う意味だ?」アンドレアスが尋ねる。
「我がエイミス家は色々な事業に手を出しておりまして。仕事柄、よく高位貴族の方とも仲良くさせているのですが……昔からルーカス様の女性関係の噂はそれは酷いものでしたわ。女性を妊娠させて責任も取らず捨てたり、知人の下位貴族の令息の婚約者を無理やり集団で襲ったり等、聞くに耐えないものばかり。全部お父上である侯爵様が被害者に口外しないよう脅していましたが、人の口に戸は立てられませんものよ」
「……フン、だからどうした。カトレア森の怨霊と何の関わりがある」
いきなり、亡き息子の女性関係の酷さを暴露されたジーニー侯爵は鼻白み、マデリーンを睨み付ける。
「……あの日、実は、私もあのカトレア森を訪れていたのです」
「え……?」
マデリーンのその発言に、レティシアとビビは目を見開く。
「ルーカス様とビビの姿を見かけた私は、ルーカス様の噂を知っていたこともあり、ビビが心配になってこっそりと二人の後をつけました。森深くのカトレアが咲く丘で、私は確かに見ました。……ルーカス様の背後にいた無数の女の霊たちと、カトレア森の女の怨霊が混ざり合ったのです。そして、彼は狂い出し、果てはビビを襲い始めました。……私はあまりにもその光景が恐ろしく、逃げ出してしまいました」
「混ざり合った……?」アンドレアスが呟く。
「女に恨まれているルーカス様は常に女の生霊をたくさん連れていました。そして、あのカトレア森の怨霊は、男に憎悪を抱き集団自決した女達です。しかも、ルーカス様は怨霊の女達にとっては憎き敵のジーニー家の人間でもあるのです。カトレア森の怨霊とルーカス様に憑いている生霊――ふたつが互いに混ざり合い、ルーカス様に襲いかかったのです」
「世迷言はやめろ!!」
「……これは私の憶測ではありません。先日のパーティーのとき、オースティン様にこの話をしたらそう説明をしてくれたのです。オースティン様があの場所を焼き払ったとき、あそこには生霊と怨霊の融合した霊がひしめき合い、しきりにルーカス様の名前を呼んでいた、というのです。それほど、彼は恨まれていた、と」
「……っ、勝手な事を!」
ジーニー侯爵が怒鳴り、ビビを拘束するよう侯爵兵に指示した。しかし、それより早く王兵が動き、ビビを救い出す。そんなビビの前に、マデリーンが立った。
「ビビ……あの日貴女を見捨てて逃げ帰ってしまった私は、貴女がどうなってしまったか、想像するだけで怖くて、カトレア森に戻ることが出来なかった。でも数日後、貴女が怪我した状態で発見され、ルーカス様が遺体で発見されたと噂で聞いて驚いたわ。しかも紫魔女が現れて二人を襲ったって。全然意味が分からなくて、私は再びカトレア森に入ったけど、その時はオースティン様の家も、跡形もなくなっていた」
「マデリーン……」
「ごめんね、ビビ、レティシア。すぐに私があの場で逃げずにビビを救い出せていたら。貴族の娘の私が証言していたら、少なくともビビの罪は軽くなったし、レティシアも罪を被る必要はなかった」
ビビは首を振り、涙を流す。レティシアもまた、ジーニー侯爵に捕えられながらも「謝る必要なんてないわ」と言った。若干十四歳だったマデリーンが恐怖で逃げ出してしまうことは、不思議ではない。誰が彼女を責められるだろう。
しかし、ジーニー侯爵は違う。
憤ったように「うるさい!!」と大声を上げる。
「陛下……ビビをこちらへよこしてください。従者が主人を守れないどころか、攻撃をしたとは……。元はうちの人間です。うちで処理をします」
「いや、駄目だ。良いか、通常なら確かに貴族へ傷を負わせるというのは咎められるべきだが……。今回のケースは正当防衛だろう。それに、ルーカスが数々の女性を傷物にしてきた、という話……。それが実ならオースティンが言っていた自業自得とはまさしくその通りなのではないか?」
「……しかし!」
ジーニー侯爵は、狼狽えながらも背後からレティシアの肩に手を回し、その細い首に刃物を向け叫んだ。
「ビビを寄越せ! さもないとレティシアを殺すぞ!」
興奮状態にあったジーニー侯爵だったが、捕まえていたレティシアが何故か自分の腕を掴んで刃物を落としたことに気づき、目を丸くした。
いつの間にかレティシアは、縛られていた縄を解いており、ジーニー侯爵の腕から抜け出すと、一目散に走り出す。
ぽかんとしているジーニー侯爵をよそに、レティシアはアンドレアスの傍まで走る。彼がすかさずレティシアを抱きとめた。
「レティシア、どうして」
アンドレアスは安堵と同時に、縄から抜け出せたレティシアに対し、不思議そうな表情を浮かべる。
「私、昔から縄抜けは得意なもので……」とレティシアは微笑んだ。
「私の命令が聞けないとあらば、しょうがない。申し開きは王宮で聞く。……兵達よ、侯爵を捕らえよ!」 とシャーロットが指示を出す。
「う、うわっ、やめろ……」
ジーニー侯爵達の兵も奮闘するが、鍛えられた王兵達の方が実力は上であり、あっさりとジーニー侯爵は捕まった。
セレーナと、隣にいるスコルが無表情でこの事態を眺めていた。
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