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聖女登場編
26話 襲撃①
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※残酷な描写注意
レティシアはアンドレアスの隣で、彼に挨拶しに来る貴族たちと歓談していた。
和やかにパーティーは進行している。
ジーニー侯爵がワインを片手に近づき、「殿下。この度は王太子就任と解呪、誠におめでとうございます」と声をかけた。
「ありがとうございます」とアンドレアスが返す。
侯爵は少しの世間話を交わした後、ちらりとレティシアに視線を向け、「レティシア嬢。お父上のこと、大変でございましたなぁ」と言った。
レティシアは何と答えるべきか迷ったが、侯爵は笑みを浮かべながら続けた。
「私にも娘が一人おりますが……自分の大事な大事な娘を捨てるなんて、想像もできません。……手放したくなるほどの、よっぽどの理由があったのではないかと」
「ジーニー侯爵。何が言いたいのですか?」とアンドレアスが制するように問いかけた。
「いえいえ……。ただ、王太子殿下には、人生の先輩として、妃選びには失敗してほしくないだけなのです」と侯爵は微笑んだ。
「……何だと?」
その瞬間、空気が一気に険悪なものとなり、レティシアは慌てて仲裁に入ろうとした。
その時である。
――パリーン!!
ホールの窓が割れ、鋭い音と共に、人ではないものの唸り声が響き渡った。振り向くと、まるで悪夢から這い出てきたかのような、大人三人分の大きさはあろうかという巨大な獣が十体以上、次々と侵入してくる。
(魔獣……!?)
なぜこんな場所に、魔獣が?
(まさか、魔界の穴が開いてしまったの……?)
王都市民街の魔獣巌の封印が解かれてしまったのか。
しかし、昨日、魔獣巌を訪れた際にはオースティンの魔力が満ちていて、封印が解かれる気配は全く感じられなかった。
貴族たちの悲鳴が上がり、シャーロット女王が避難を呼びかける。その場は阿鼻叫喚と化し、恐怖に怯えた者たちが逃げ惑う。
必死になって魔獣に立ち向かう王宮騎士たちだったが、獣たちの鋭い爪が、彼らの鎧を引き裂き、肉をえぐり取る。悲鳴が空気を裂き、血が床に流れ落ちる。倒れた騎士の目は驚愕と苦痛に満ち、彼の喉から漏れる声は、助けを求めるかのように哀れだった。
次々と騎士たちが血を流し、無惨な姿で地面に倒れ込む。魔獣たちはその血に興奮し、さらなる獲物を求めて牙をむき出しにして吠えた。混乱と恐怖に満ちたホールは、瞬く間にまるで地獄のような空間となった。
「レティシア、君は他の者たちと一緒に避難しろ」
そう言い放ち、アンドレアスは剣を抜いた。
彼は瞬時に移動し、鋭い攻撃で魔獣を一体倒した。レティシアがその光景に目を奪われていると、
「キャアアア!!」
と聞き覚えのある女性の悲鳴が耳に飛び込んできた。
振り返ると、クレアがまさに魔獣に襲われそうになっている。
レティシアは、倒れた騎士たちの剣を魔法で浮かび上がらせ、四方八方から勢いよく魔獣に突き刺す。
ズズン……と、魔獣が崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?! お姉様」
「え、ええ……ありがとう、レティシア」
座り込んでしまったクレアに近づき、レティシアは彼女の肩を支えて立ち上がらせた。
「お姉様、ここは危険です。早くあちらから逃げましょう」
そうレティシアは言ったが、会場の外に出る扉をちらりと見て、少し大変そうだと思った。
正面の扉付近にも魔獣がいて近づくことができない。控室から外の廊下に出るしかないが、控室への扉は正面扉と比べて幅が狭く、貴族たちが我先にと押し寄せていた。会場の運営に当たっていた近侍たちが必死になってそれを宥め、誘導している。
無理もない、五十年前の魔獣襲撃事件の際も、被害を受けたのは市民たちばかりで、貴族たちは魔獣の脅威にさらされたことなどなかった。ここにいる誰一人として、魔獣を見たことなどないだろう。それが突然、あろうことか王宮で襲われるなど、到底信じられないことだった。
見ると、シャーロット女王は避難せず、護衛に守られながらもミラ婆と共に王の席でこの事態を見守っていた。
グレンもまた、アンドレアスに続いて剣を振るっていた。
アンドレアスはさらに二体ほど魔獣を切り伏せたが、息を切らしている。無理もない、本来ならば兵士が何人も犠牲になってやっと一体倒せるほどの戦力差が、人間と魔獣の間にはあるのだ。
レティシアは会場の出口には向かわず、アンドレアスの方へ踵を返した。
「レ、レティシア、一緒に逃げましょう」
クレアが震える声でレティシアの腕を掴む。レティシアはその手を優しく離した。
「ひっ……!」
魔獣の一体が足を負傷して動けない騎士に襲いかかると、その鋭い爪で顔面を引き裂こうとした。アンドレアスは瞬時に魔獣の背中に飛び乗り、勢いよく剣を突き刺した。魔獣は恐ろしい断末魔を上げながら、地面に崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
「は、はい! ありがとうございます、王太子殿下……」
助けられた騎士は震える声で感謝を述べたが、彼の目には恐怖が色濃く残っていた。
これでアンドレアスは魔獣を五体葬ったはずだが、まだあと半数は残っている。
後方で魔獣たちの断末魔が響き渡り、焦げた肉の匂いが鼻をつく。
振り返ると、レティシアの前に魔獣が二体、崩れ落ちるところであった。
「レティシア、避難してなかったのか……?」
アンドレアスがレティシアの元へ駆け寄ってくる。
彼は黒焦げになって倒れている魔獣たちを見て、「君の魔法か?」と問いかけた。
「……はい。私は火魔法が得意なんです」
そうレティシアは答えた。
その勢いに乗り、他の騎士たちも奮闘し残りの魔獣数体を倒すことに成功した。
これで、この会場に乱入してきた魔獣は、全て討伐できたことになる。
しかし、会場は荒れ果て、騎士の遺体があちらこちらに倒れ、血が床を染めていた。貴族たちも半数以上が会場外に避難していたが、魔獣が全て倒されたことを知ると、恐る恐る戻ってくる者もいた。
彼らはこの惨状に唖然として、言葉を失っていた。
「なんで、ここに魔獣が現れたんだ……?」
アンドレアスが呟く。
魔獣巌の封印が解かれたのだとしたら、市民街や王都全域はどうなってしまっているのだろうか。
「……母上!」
アンドレアスが声を上げる。
「ああ。王都が、魔獣巌がどうなっているのか至急確認しろ!」
シャーロットの命令に、生き残った騎士たちが慌てて会場の外へと駆け出していった。
レティシアはアンドレアスの隣で、彼に挨拶しに来る貴族たちと歓談していた。
和やかにパーティーは進行している。
ジーニー侯爵がワインを片手に近づき、「殿下。この度は王太子就任と解呪、誠におめでとうございます」と声をかけた。
「ありがとうございます」とアンドレアスが返す。
侯爵は少しの世間話を交わした後、ちらりとレティシアに視線を向け、「レティシア嬢。お父上のこと、大変でございましたなぁ」と言った。
レティシアは何と答えるべきか迷ったが、侯爵は笑みを浮かべながら続けた。
「私にも娘が一人おりますが……自分の大事な大事な娘を捨てるなんて、想像もできません。……手放したくなるほどの、よっぽどの理由があったのではないかと」
「ジーニー侯爵。何が言いたいのですか?」とアンドレアスが制するように問いかけた。
「いえいえ……。ただ、王太子殿下には、人生の先輩として、妃選びには失敗してほしくないだけなのです」と侯爵は微笑んだ。
「……何だと?」
その瞬間、空気が一気に険悪なものとなり、レティシアは慌てて仲裁に入ろうとした。
その時である。
――パリーン!!
ホールの窓が割れ、鋭い音と共に、人ではないものの唸り声が響き渡った。振り向くと、まるで悪夢から這い出てきたかのような、大人三人分の大きさはあろうかという巨大な獣が十体以上、次々と侵入してくる。
(魔獣……!?)
なぜこんな場所に、魔獣が?
(まさか、魔界の穴が開いてしまったの……?)
王都市民街の魔獣巌の封印が解かれてしまったのか。
しかし、昨日、魔獣巌を訪れた際にはオースティンの魔力が満ちていて、封印が解かれる気配は全く感じられなかった。
貴族たちの悲鳴が上がり、シャーロット女王が避難を呼びかける。その場は阿鼻叫喚と化し、恐怖に怯えた者たちが逃げ惑う。
必死になって魔獣に立ち向かう王宮騎士たちだったが、獣たちの鋭い爪が、彼らの鎧を引き裂き、肉をえぐり取る。悲鳴が空気を裂き、血が床に流れ落ちる。倒れた騎士の目は驚愕と苦痛に満ち、彼の喉から漏れる声は、助けを求めるかのように哀れだった。
次々と騎士たちが血を流し、無惨な姿で地面に倒れ込む。魔獣たちはその血に興奮し、さらなる獲物を求めて牙をむき出しにして吠えた。混乱と恐怖に満ちたホールは、瞬く間にまるで地獄のような空間となった。
「レティシア、君は他の者たちと一緒に避難しろ」
そう言い放ち、アンドレアスは剣を抜いた。
彼は瞬時に移動し、鋭い攻撃で魔獣を一体倒した。レティシアがその光景に目を奪われていると、
「キャアアア!!」
と聞き覚えのある女性の悲鳴が耳に飛び込んできた。
振り返ると、クレアがまさに魔獣に襲われそうになっている。
レティシアは、倒れた騎士たちの剣を魔法で浮かび上がらせ、四方八方から勢いよく魔獣に突き刺す。
ズズン……と、魔獣が崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?! お姉様」
「え、ええ……ありがとう、レティシア」
座り込んでしまったクレアに近づき、レティシアは彼女の肩を支えて立ち上がらせた。
「お姉様、ここは危険です。早くあちらから逃げましょう」
そうレティシアは言ったが、会場の外に出る扉をちらりと見て、少し大変そうだと思った。
正面の扉付近にも魔獣がいて近づくことができない。控室から外の廊下に出るしかないが、控室への扉は正面扉と比べて幅が狭く、貴族たちが我先にと押し寄せていた。会場の運営に当たっていた近侍たちが必死になってそれを宥め、誘導している。
無理もない、五十年前の魔獣襲撃事件の際も、被害を受けたのは市民たちばかりで、貴族たちは魔獣の脅威にさらされたことなどなかった。ここにいる誰一人として、魔獣を見たことなどないだろう。それが突然、あろうことか王宮で襲われるなど、到底信じられないことだった。
見ると、シャーロット女王は避難せず、護衛に守られながらもミラ婆と共に王の席でこの事態を見守っていた。
グレンもまた、アンドレアスに続いて剣を振るっていた。
アンドレアスはさらに二体ほど魔獣を切り伏せたが、息を切らしている。無理もない、本来ならば兵士が何人も犠牲になってやっと一体倒せるほどの戦力差が、人間と魔獣の間にはあるのだ。
レティシアは会場の出口には向かわず、アンドレアスの方へ踵を返した。
「レ、レティシア、一緒に逃げましょう」
クレアが震える声でレティシアの腕を掴む。レティシアはその手を優しく離した。
「ひっ……!」
魔獣の一体が足を負傷して動けない騎士に襲いかかると、その鋭い爪で顔面を引き裂こうとした。アンドレアスは瞬時に魔獣の背中に飛び乗り、勢いよく剣を突き刺した。魔獣は恐ろしい断末魔を上げながら、地面に崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
「は、はい! ありがとうございます、王太子殿下……」
助けられた騎士は震える声で感謝を述べたが、彼の目には恐怖が色濃く残っていた。
これでアンドレアスは魔獣を五体葬ったはずだが、まだあと半数は残っている。
後方で魔獣たちの断末魔が響き渡り、焦げた肉の匂いが鼻をつく。
振り返ると、レティシアの前に魔獣が二体、崩れ落ちるところであった。
「レティシア、避難してなかったのか……?」
アンドレアスがレティシアの元へ駆け寄ってくる。
彼は黒焦げになって倒れている魔獣たちを見て、「君の魔法か?」と問いかけた。
「……はい。私は火魔法が得意なんです」
そうレティシアは答えた。
その勢いに乗り、他の騎士たちも奮闘し残りの魔獣数体を倒すことに成功した。
これで、この会場に乱入してきた魔獣は、全て討伐できたことになる。
しかし、会場は荒れ果て、騎士の遺体があちらこちらに倒れ、血が床を染めていた。貴族たちも半数以上が会場外に避難していたが、魔獣が全て倒されたことを知ると、恐る恐る戻ってくる者もいた。
彼らはこの惨状に唖然として、言葉を失っていた。
「なんで、ここに魔獣が現れたんだ……?」
アンドレアスが呟く。
魔獣巌の封印が解かれたのだとしたら、市民街や王都全域はどうなってしまっているのだろうか。
「……母上!」
アンドレアスが声を上げる。
「ああ。王都が、魔獣巌がどうなっているのか至急確認しろ!」
シャーロットの命令に、生き残った騎士たちが慌てて会場の外へと駆け出していった。
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