不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

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聖女登場編

22話 解呪の後

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『聖女セレーナにより、アンドレアス王子の呪いが解かれた』

 セレーナがアンドレアスの呪いを解いて一週間経った今も、王宮内ではセレーナの話で持ちきりであった。そして、レティシアが通りかかると皆どこか気まずそうにした。

 また、セレーナと比べてレティシアを下げるような陰口を言う者もいた。

(……私の役目は終わったし、そろそろ王宮を去らないと)

 レティシアが王宮に来て二ヶ月半が経過していた。こんな結末は些か予想外であったが、アンドレアスの呪いが解けてレティシアは嬉しかった。

(アンディ様と陛下、良かったわ……)

 あの日、セレーナの魔法により呪痕が消え去り、周囲の貴族たちはどよめいた。
 しかし、まだシャーロットもアンドレアスも冷静であった。以前にレティシアが解呪を試みたときに、消えた呪痕は次の日に復活していたからだ。
 その日の晩、アンドレアスの部屋に関係者が集まり、呪痕がどうなるか見守った。
 結果的に呪痕は復活せず、次の日もその次の日も同様であった。

 セレーナは完璧に呪いを解いたのだ。

 いつも気丈なシャーロットだが、今回ばかりは少しだけ瞳に涙を浮かべ、セレーナに感謝の言葉を述べた。アンドレアスも、セレーナへ「感謝してもしきれない」と喜びを表した。

 セレーナは微笑み、「お役に立てて良かったです」と答えた。

(……セレーナ様はすごいお方だわ。師匠以外にもこんな方がこの国にいるなんて)

 レティシアはその様子をただ見守っていた。

 ――明日、アンドレアスの解呪記念兼王太子就任祝いのパーティーが開催されるという。レティシアはそれを見届けて、王宮を去ることを決めた。


 ♢♢♢♢♢


「レティシア!」

「……アンディ様」

 王宮の廊下に呼び止められ、手を引かれて庭園へと連れていかれる。

「母上から聞いた。パーティーが終わったらここを出ていくと」

「……ええ、はい」

 レティシアは、先ほど女王シャーロットに御目通りを願い王宮を去ることを告げた。シャーロットは「まだゆっくりしていけ」と引き留めたが、レティシアはそれを拒否した。

「何故だ? どうして、いきなり……」

 アンドレアスが眉を寄せる。

「……アンディ様の呪いも解かれましたし、もう私は必要ないかと」

 レティシアはそう淡々と答えた。もともとそういう約束だったはずだ。

「……私は君と結婚したいと伝えていた。君はそんな気はないということか?」

「それは……」

 アンドレアスの事は好きだ。
 呪いが解かれてもこうやってレティシアに結婚の意思を伝えてきてくれるということは、レティシアに対して少なからず好感を持ってくれてるのだろう。 そしてそれはレティシアがアンドレアスの恩人だからに他ならない。 
 
 しかし、今はアンドレアスにとってもっと強大な恩人『セレーナ』という存在が現れてしまった。 レティシアはセレーナに対し、尊敬の念と、劣等感を感じているのを自覚していた。

 清く美しいセレーナと、本当の姿を隠す魔女……。

 アンドレアスは眉を顰め、首を傾げる。

「……この前、君の父親が言っていた、君を疎んでいた理由、に関係あるのか?」

 レティシアの心臓が跳ね上がる。
 そう、自分はまだアンドレアスに秘密を告白していない。
 父の裁判が始まる前までに、自分で打ち明けようと決めていたのに。

 
 レティシアは、息を吐くと勢いよく顔を上げ、アンドレアスの方へ一歩近付いた。

「……アンディ様。明日、パーティーが終わった後、私の秘密を聞いてくれますか? それでも、アンディ様がまだ私と結婚したいと思ってくださるのなら……是非お受けしたいと思っています」

 これは賭けである。アンドレアスはレティシアの本当の姿を知ったら落胆するだろう。しかし、もし。もし受け入れてくれるとしたら。
 レティシアに断る理由などない。

 アンドレアスは目元を少し赤くしつつ、神妙な声で「分かった」と答えた。


「……あら? 殿下とレティシア様、ご機嫌よう。こんなところでお二人で仲睦まじいですわね」

 涼やかな声に、レティシアは振り向く。聖女セレーナだ。後ろにはいつもの従者を連れている。
 
 アンドレアスとレティシアは慌てて至近距離にあった体を離した。

「……セレーナ嬢。王宮での暮らしはどうだ?」

「はい、とても良くしてもらっていて快適でございます」

 セレーナがニコリと微笑む。『褒美』を考えつくまで、彼女はこうして王宮に滞在している。

「殿下……お話が済んだら、レティシア様をお借りしてもよろしいでしょうか? レティシア様、もしよろしければ私と街でショッピングでも行きませんか?」

 ふと、セレーナはそんな提案をした。

「私……ですか?」

「はい」

 突然の誘いに戸惑ったが、アンドレアスも「良いのではないか。楽しんでこい」と言うので、レティシアは頷いた。

 
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