不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

文字の大きさ
上 下
23 / 64
聖女登場編

22話 解呪の後

しおりを挟む
 
『聖女セレーナにより、アンドレアス王子の呪いが解かれた』

 セレーナがアンドレアスの呪いを解いて一週間経った今も、王宮内ではセレーナの話で持ちきりであった。そして、レティシアが通りかかると皆どこか気まずそうにした。

 また、セレーナと比べてレティシアを下げるような陰口を言う者もいた。

(……私の役目は終わったし、そろそろ王宮を去らないと)

 レティシアが王宮に来て二ヶ月半が経過していた。こんな結末は些か予想外であったが、アンドレアスの呪いが解けてレティシアは嬉しかった。

(アンディ様と陛下、良かったわ……)

 あの日、セレーナの魔法により呪痕が消え去り、周囲の貴族たちはどよめいた。
 しかし、まだシャーロットもアンドレアスも冷静であった。以前にレティシアが解呪を試みたときに、消えた呪痕は次の日に復活していたからだ。
 その日の晩、アンドレアスの部屋に関係者が集まり、呪痕がどうなるか見守った。
 結果的に呪痕は復活せず、次の日もその次の日も同様であった。

 セレーナは完璧に呪いを解いたのだ。

 いつも気丈なシャーロットだが、今回ばかりは少しだけ瞳に涙を浮かべ、セレーナに感謝の言葉を述べた。アンドレアスも、セレーナへ「感謝してもしきれない」と喜びを表した。

 セレーナは微笑み、「お役に立てて良かったです」と答えた。

(……セレーナ様はすごいお方だわ。師匠以外にもこんな方がこの国にいるなんて)

 レティシアはその様子をただ見守っていた。

 ――明日、アンドレアスの解呪記念兼王太子就任祝いのパーティーが開催されるという。レティシアはそれを見届けて、王宮を去ることを決めた。


 ♢♢♢♢♢


「レティシア!」

「……アンディ様」

 王宮の廊下に呼び止められ、手を引かれて庭園へと連れていかれる。

「母上から聞いた。パーティーが終わったらここを出ていくと」

「……ええ、はい」

 レティシアは、先ほど女王シャーロットに御目通りを願い王宮を去ることを告げた。シャーロットは「まだゆっくりしていけ」と引き留めたが、レティシアはそれを拒否した。

「何故だ? どうして、いきなり……」

 アンドレアスが眉を寄せる。

「……アンディ様の呪いも解かれましたし、もう私は必要ないかと」

 レティシアはそう淡々と答えた。もともとそういう約束だったはずだ。

「……私は君と結婚したいと伝えていた。君はそんな気はないということか?」

「それは……」

 アンドレアスの事は好きだ。
 呪いが解かれてもこうやってレティシアに結婚の意思を伝えてきてくれるということは、レティシアに対して少なからず好感を持ってくれてるのだろう。 そしてそれはレティシアがアンドレアスの恩人だからに他ならない。 
 
 しかし、今はアンドレアスにとってもっと強大な恩人『セレーナ』という存在が現れてしまった。 レティシアはセレーナに対し、尊敬の念と、劣等感を感じているのを自覚していた。

 清く美しいセレーナと、本当の姿を隠す魔女……。

 アンドレアスは眉を顰め、首を傾げる。

「……この前、君の父親が言っていた、君を疎んでいた理由、に関係あるのか?」

 レティシアの心臓が跳ね上がる。
 そう、自分はまだアンドレアスに秘密を告白していない。
 父の裁判が始まる前までに、自分で打ち明けようと決めていたのに。

 
 レティシアは、息を吐くと勢いよく顔を上げ、アンドレアスの方へ一歩近付いた。

「……アンディ様。明日、パーティーが終わった後、私の秘密を聞いてくれますか? それでも、アンディ様がまだ私と結婚したいと思ってくださるのなら……是非お受けしたいと思っています」

 これは賭けである。アンドレアスはレティシアの本当の姿を知ったら落胆するだろう。しかし、もし。もし受け入れてくれるとしたら。
 レティシアに断る理由などない。

 アンドレアスは目元を少し赤くしつつ、神妙な声で「分かった」と答えた。


「……あら? 殿下とレティシア様、ご機嫌よう。こんなところでお二人で仲睦まじいですわね」

 涼やかな声に、レティシアは振り向く。聖女セレーナだ。後ろにはいつもの従者を連れている。
 
 アンドレアスとレティシアは慌てて至近距離にあった体を離した。

「……セレーナ嬢。王宮での暮らしはどうだ?」

「はい、とても良くしてもらっていて快適でございます」

 セレーナがニコリと微笑む。『褒美』を考えつくまで、彼女はこうして王宮に滞在している。

「殿下……お話が済んだら、レティシア様をお借りしてもよろしいでしょうか? レティシア様、もしよろしければ私と街でショッピングでも行きませんか?」

 ふと、セレーナはそんな提案をした。

「私……ですか?」

「はい」

 突然の誘いに戸惑ったが、アンドレアスも「良いのではないか。楽しんでこい」と言うので、レティシアは頷いた。

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

処理中です...