不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

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王宮編

15話 騒動後

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 フローレス家での騒動の二日後、クレアはまだ怪我が完全に治ってはいなかったが、王宮にてフローレス家が人身売買組織と繋がりのあった証拠の帳簿提出や証言を行った。
 そして、クレアは女王に御目通りを願い出ると「気付けなかった私にも、責任はあります。爵位も返上するつもりです」と伝えた。

 シャーロット女王は、その言葉にいたく感心し、「ならば、其方が力を発揮し、フローレス家を品行方正な貴族に戻したら良い。支援ならいくらでもする」と答えた。

 裁判がまだ行われていないため、クレアが本当に父親の罪に関与していないかは分からないが、シャーロットは元々クレアを高く評価していた。貴族院の議会では、フローレス侯爵が力を持ち発言権もあったが、最近はジーニー侯爵に押され気味で、議長の座も奪われていた。かつて貴族の模範とまで言われたフローレス侯爵は、どこかやる気をなくし、投げやりになっているように見受けられた。

 そんな父を他所に、同席していた若手議員のクレアは、まだ弱冠二十二歳でありながら、大人の男たちに混じって積極的に議論をしていた。シャーロットは、彼女のその姿を見てきたのだ。

 シャーロットの言葉に、クレアは涙を堪えながらも、「ありがとうございます。必ずフローレス家を立て直してみせます」と気丈な姿を見せた。その言葉には、彼女の決意が込められていた。



 ♢♢♢♢♢

 
「殿下とレティシアさんはいつ婚約を結ばれるのかしら? 皆、気にしていますよ」

 マルティネス公爵夫人にお茶会に誘われ、出席したアンドレアスとレティシアだったが、にこやかに夫人にそんなことを言われ、レティシアは思いっきり咽せてしまった。

 その隣で、アンドレアスが大きめの咳払いをしている。

「殿下、こういうことはテキパキ進めるべきですよ。レティシアさんの王妃教育だって早く始めないと」

「ちょ、叔母上、分かりましたから……」アンドレアスが慌てて公爵夫人を宥める。

 その時、アンドレアスの顔が少し赤くなっているのに気付き、レティシアの胸の鼓動が早くなった。

 レティシアは、先日アンドレアスへの想いを自覚したばかりである。

 アンドレアスが自分にとても良くしてくれているのは分かっていたが、それは義理堅い彼が、レティシアに恩義を感じているからだ、とレティシアは理解している。

 お茶会から帰るとき、マルティネス公爵夫人がレティシアだけにこっそりと言った。

「レティシアさん、今だから言うけどね。本当は、貴女を私の養女にしようっていう話を、お姉様……女王陛下に打診されてたの。この前の舞踏会は顔合わせも兼ねてたのよ。」

「? 養女ですか? 何故、私を公爵夫人の……?」

「それは勿論、殿下と貴女との結婚をスムーズに進めるためでしょう。いくら聖女と言う触れ込みがあっても、何も後ろ盾のない女性を王家に迎えるのはなかなか大変だもの。……まあ、貴女の本当の身分が分かってこの話は流れたけどね」

 ウフフと笑う夫人に、レティシアは呆気に取られた。

 帰路の馬車の中、レティシアは思い切って向かいに座るアンドレアスに聞いた。

「私を、公爵夫人の養女にするという話があったのは本当ですか?」

「……! どうして……」アンドレアスは驚いた表情を浮かべて目を見開いた。

「叔母上に聞いたのか?」

「……はい」

「……すまない。君の気持ちも確認しないで事を進めてしまっていた。……気を悪くしただろう」

 アンドレアスは眉を下げ、申し訳なさそうに言った。レティシアは気を悪くなどしていない。むしろ、何故アンドレアスが自分との結婚を考えているのか、その真意が知りたかった。

 先日、結婚の打診をアンドレアスから受けたのは、レティシアの本来の身分が分かった時だった。その時は、オースティンが解呪を失敗した時用にレティシアを傍に置くとしても、身分のある令嬢を軽率に繋ぎ止めておくのは難しいと考え、結婚という手段を持ちかけたのだと思っていた。しかし、今の話だと、レティシアの身分が分かる前から結婚の計画が出ていたことになる。

 だとしたら、もしかしたら。

「アンディ様は……」

 私のことが好きなのですか?

 そう問いかけそうになり、レティシアは思わず口をつぐんだ。黙り込んだ彼女に対し、アンドレアスは不安そうな表情を浮かべながら「なんだ?」と尋ねた。

「……何でもありません」とレティシアは答える。

(……呪いが解かれたら、私は用済みよ。また師匠と二人の生活に戻るだけ)

 当初の予定を思い出し、レティシアは冷静になる。もしアンドレアスが自分に好意を持ってくれていたとしても、本当の姿を告白すれば、軽蔑されるまではいかなくても、少なからず落胆されることは目に見えていた。

(……師匠は今どこにいるのだろう)

 心の中で不安が広がる。これ以上、アンドレアスへの思いを募らせないうちに、早めに王宮に来て、呪いを解いてほしい。レティシアは切実にそう思っていた。


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