不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

文字の大きさ
上 下
16 / 64
王宮編

15話 騒動後

しおりを挟む
 
 フローレス家での騒動の二日後、クレアはまだ怪我が完全に治ってはいなかったが、王宮にてフローレス家が人身売買組織と繋がりのあった証拠の帳簿提出や証言を行った。
 そして、クレアは女王に御目通りを願い出ると「気付けなかった私にも、責任はあります。爵位も返上するつもりです」と伝えた。

 シャーロット女王は、その言葉にいたく感心し、「ならば、其方が力を発揮し、フローレス家を品行方正な貴族に戻したら良い。支援ならいくらでもする」と答えた。

 裁判がまだ行われていないため、クレアが本当に父親の罪に関与していないかは分からないが、シャーロットは元々クレアを高く評価していた。貴族院の議会では、フローレス侯爵が力を持ち発言権もあったが、最近はジーニー侯爵に押され気味で、議長の座も奪われていた。かつて貴族の模範とまで言われたフローレス侯爵は、どこかやる気をなくし、投げやりになっているように見受けられた。

 そんな父を他所に、同席していた若手議員のクレアは、まだ弱冠二十二歳でありながら、大人の男たちに混じって積極的に議論をしていた。シャーロットは、彼女のその姿を見てきたのだ。

 シャーロットの言葉に、クレアは涙を堪えながらも、「ありがとうございます。必ずフローレス家を立て直してみせます」と気丈な姿を見せた。その言葉には、彼女の決意が込められていた。



 ♢♢♢♢♢

 
「殿下とレティシアさんはいつ婚約を結ばれるのかしら? 皆、気にしていますよ」

 マルティネス公爵夫人にお茶会に誘われ、出席したアンドレアスとレティシアだったが、にこやかに夫人にそんなことを言われ、レティシアは思いっきり咽せてしまった。

 その隣で、アンドレアスが大きめの咳払いをしている。

「殿下、こういうことはテキパキ進めるべきですよ。レティシアさんの王妃教育だって早く始めないと」

「ちょ、叔母上、分かりましたから……」アンドレアスが慌てて公爵夫人を宥める。

 その時、アンドレアスの顔が少し赤くなっているのに気付き、レティシアの胸の鼓動が早くなった。

 レティシアは、先日アンドレアスへの想いを自覚したばかりである。

 アンドレアスが自分にとても良くしてくれているのは分かっていたが、それは義理堅い彼が、レティシアに恩義を感じているからだ、とレティシアは理解している。

 お茶会から帰るとき、マルティネス公爵夫人がレティシアだけにこっそりと言った。

「レティシアさん、今だから言うけどね。本当は、貴女を私の養女にしようっていう話を、お姉様……女王陛下に打診されてたの。この前の舞踏会は顔合わせも兼ねてたのよ。」

「? 養女ですか? 何故、私を公爵夫人の……?」

「それは勿論、殿下と貴女との結婚をスムーズに進めるためでしょう。いくら聖女と言う触れ込みがあっても、何も後ろ盾のない女性を王家に迎えるのはなかなか大変だもの。……まあ、貴女の本当の身分が分かってこの話は流れたけどね」

 ウフフと笑う夫人に、レティシアは呆気に取られた。

 帰路の馬車の中、レティシアは思い切って向かいに座るアンドレアスに聞いた。

「私を、公爵夫人の養女にするという話があったのは本当ですか?」

「……! どうして……」アンドレアスは驚いた表情を浮かべて目を見開いた。

「叔母上に聞いたのか?」

「……はい」

「……すまない。君の気持ちも確認しないで事を進めてしまっていた。……気を悪くしただろう」

 アンドレアスは眉を下げ、申し訳なさそうに言った。レティシアは気を悪くなどしていない。むしろ、何故アンドレアスが自分との結婚を考えているのか、その真意が知りたかった。

 先日、結婚の打診をアンドレアスから受けたのは、レティシアの本来の身分が分かった時だった。その時は、オースティンが解呪を失敗した時用にレティシアを傍に置くとしても、身分のある令嬢を軽率に繋ぎ止めておくのは難しいと考え、結婚という手段を持ちかけたのだと思っていた。しかし、今の話だと、レティシアの身分が分かる前から結婚の計画が出ていたことになる。

 だとしたら、もしかしたら。

「アンディ様は……」

 私のことが好きなのですか?

 そう問いかけそうになり、レティシアは思わず口をつぐんだ。黙り込んだ彼女に対し、アンドレアスは不安そうな表情を浮かべながら「なんだ?」と尋ねた。

「……何でもありません」とレティシアは答える。

(……呪いが解かれたら、私は用済みよ。また師匠と二人の生活に戻るだけ)

 当初の予定を思い出し、レティシアは冷静になる。もしアンドレアスが自分に好意を持ってくれていたとしても、本当の姿を告白すれば、軽蔑されるまではいかなくても、少なからず落胆されることは目に見えていた。

(……師匠は今どこにいるのだろう)

 心の中で不安が広がる。これ以上、アンドレアスへの思いを募らせないうちに、早めに王宮に来て、呪いを解いてほしい。レティシアは切実にそう思っていた。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...