不吉だと捨てられた令嬢が拾ったのは、呪われた王子殿下でした ~正体を隠し王宮に上がります~

長井よる

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出会い編

6話 王宮からの迎え②

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 次にアンドレアスがレティシアの元を訪ねてきたのは、五日後だった。

 玄関のドアをノックされて出ると、正装に身を包んだアンドレアスが立っていた。一瞬レティシアは眩しさで目が潰れるかと思い、仰け反った。家の前には、前回アンドレアスを迎えに来たときよりもたくさんの従者が居た。その中にはグレンの顔も見える。

 レティシアは当然、アンドレアスが時間魔法をかけてもらいに来たと思い、家の中に案内しようとした。しかし。

「レティシア、私と王宮にきてくれないだろうか」

 そう、開口一番アンドレアスに言われ、レティシアは目が点になった。

「君の存在を女王陛下に報告したら、ぜひ王宮に呼び褒美を授けたい、と。そう申されている」

「え……」

 レティシアは面食らった。

「……いや、でも、私は一時的に進行を止めているだけで、師匠が帰ってこない限り解呪できたわけでは……」

 変な汗をかきながら、そう言った。このような中途半端な状態で女王の褒美を受け取ることなどおかしいだろう。レティシアは断ろうとした。


「……私の姉イザベラ王女が次期王位を拒否した。本来、呪われている身の私に王位の座が回ってくることはなかったが、君が呪いの進行を止めてくれたことで、私に次期王位継承権が回ってきた」

「!」

「女王陛下の命により、私は離宮を去り王宮で暮らし、王太子としての教育を受ける。しかし、王宮とロブ村までの距離は遠く、週一という頻度になると中々難しい……」

「つまり、手っ取り早く私を王宮に滞在させれば、通う手間もなく時間魔法をかけられる、ということですね」

 褒美どうこうというのは、レティシアを王宮に呼ぶためのただの口実だろう。

「……すまない。どうか、私と来てもらえないか?」

 アンドレアスは頭を下げ、懇願するように言った。

「で、殿下……王子の貴方があまり簡単に頭を下げないでください! ……レティシア嬢、まさか断るなんてことはないだろうな、これは女王陛下の命令だぞ!!」

 アンドレアスの後ろにいるグレンが騒ぐ。
 レティシアは考えた。王命だとかは置いておいて、別に協力するのはやぶさかではない。数日間だがアンドレアスと一緒に過ごして情も湧いていた。

 しかし、レティシアの脳裏にひっかかっているのはフローレス侯爵家のことだった。万が一王宮で父と鉢合わせることになったら……。

(いや、そもそも気づかないか……)

 七年も会っていないし、髪色と瞳色も違う。もし気づいたとしても、向こうも今更レティシアと関わりたくはないだろう。

 オースティンのいない間の采配はレティシアに任されている。この家を留守にし、オースティンが戻ってきたら王宮に来てもらい、アンドレアスの呪いを解いてもらおう。

「……分かりました。王宮に行きます」

 レティシアがそう答えると、アンドレアスはパッと顔を上げ、レティシアの手を取り、「ありがとう!」と微笑んだ。

「い、いえ……」

 レティシアは思わず視線を落とす。グレンは面白くなさそうにそのやりとりを見ていた。

 オースティン宛に、この度の経緯と、帰宅次第王宮に来てほしいという旨の手紙を書き、オースティンの部屋の机に置いた。そして、オースティン以外には入られないよう、家自体に結界を張った。一応、玄関のドアには「休業中」と書いた貼り紙を貼っておいた。

 生活で必要な物は全て王宮で用意するという話だったので、魔法薬と着替えをいくつか持っていくだけで、ほぼ身一つで家を出ることになった。

 山を下ると、ここまで乗ってきたのであろう王家の馬車がいくつも並んでいて、それをロブ村の者たちが興味津々に眺めていた。
 挨拶をするためにロブ村に寄りたいとアンドレアスに言うと、彼は頷いた。

 アンドレアス一行がロブ村に入ると、村人たちは騒然とする。
 レティシアは集まってきた村人たちに、王命でしばらく家を開けることを説明した。そして、不在の間に必要になったときのために、と持ってきた魔法薬のほとんどを村長に渡した。

「わざわざありがとな~レティシア」

「寂しいけど、王命ならしょうがないね。しっかりお勤めしてくるんだよ!!」

 村人達が、次々にレティシアに声をかける。
 その光景を馬車の中から見ていたグレンは向かいに座っていたアンドレアスに言った。

「随分、人気があるんですね。あの娘」

「……ああ」


 村の若い男子数人がレティシアに声をかけてくる。

「レティシア、王宮に迎えられるなんてまたすごい出世だな」

「報酬たんまりもらってこいよ」

「戻ったらデートしよーな。お前の奢りで」

「何それ」

「ばかお前、オースティン様にぶっ飛ばされるぞ」

 この村にきて、もう数年来の付き合いである。
 彼らはアハハと口々に冗談を言い合い、レティシアとの別れを惜しんでくれる。その内の一人が、テンションが上がったのかレティシアの肩に手を回し、ぎゅうぎゅうと体重をかけてくる。

 レティシアは重いと感じたものの、そのまま笑顔で会話を続けた。



「レティシア」

 突然背後から、強い力で体を引き離される。
 振り返ると、いつの間にかアンドレアスがいた。彼はレティシアの肩と腕を後ろから引き寄せている。

「あ、え……? ア、アンディ様……?」

 その抱きしめられているかのような格好にレティシアは顔を赤く染めた。

 若い男達は、明らかに高貴な身分の出立であるアンドレアスの登場に、慌てて腰を落とし、跪いた。

「名残惜しいのはわかるが……早く行くぞ」

 そういうと、レティシアの手を引き、馬車へと連れていく。

 その腕に引かれながら、レティシアは「……じゃあ皆さん、またー!」と村人達に声をかける。

「頑張れー!」

「バイバイー!」

 村人達からの声援を浴びながら、馬車は出発した。

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