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7話 真実
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「依頼者:レイラ・クラーク侯爵令嬢。かけた魔法は三つ。まず一つ目の魔法は……」
アシェルが、依頼の内容を読み進める。
一つ目の魔法:レイラから婚約者であるアイザック・クレメントへ恋心を発生させる。
二つ目の魔法:レイラから義弟であるアシェル・クラークへの恋心を消滅させる。
三つ目の魔法:レイラが魔法使いジョアンナに上記の依頼をした事実、及びアイザックとアシェルへ元々抱いていた想いを記憶から消す。
「……姉上、これは……」
「……ごめんなさい、アシェル。私、全部思い出したわ……」
――十二歳のときにできた義弟のアシェル。アシェルは少し人見知りでクールな子だったが、レイラは仲良くなりたくて事ある毎に構い倒していた。その内に彼もレイラに心を開き、仲良くなることができた。
十三歳のときにレイラとアイザックの婚約が結ばれた。
アイザックは公爵令息の自分は好かれて当然、という態度の傲慢な少年であった。
婚約者候補である令嬢達とのパーティーでは、自分が気に入らない令嬢に対して、冷たい態度を取ったり、他の取り巻きの令嬢たちとターゲットの令嬢の悪口を言ったりしていた。そんな場面を目撃していたレイラは、アイザックのことを好きではなかった。
そして、レイラは本音に反して媚を売るような性格ではなかったため、アイザックもあまりレイラのことを気に入ってはいなかった。
しかし、そんな当人達の思いとは裏腹に、クレメント公爵家からの熱心な打診により、レイラとアイザックの婚約が決まってしまった。
レイラは定期的に行われる公爵家でのアイザックとのお茶会で、アシェルと遊ぶ時間がなくなるのが嫌だった。
「私、アイザック様のことあんまり好きじゃないわ。なんでお父様は私の婚約者をアイザック様に決めてしまったのかしら。ねえアシェル、どうしたら婚約破棄ってできると思う?」
貴族同士の婚姻とは、本人たちの好き嫌いでどうにかなるものではない。そんなことはレイラも重々承知だったが、レイラはアシェルに甘えていて、ただ聞いてほしかったのだ。
アシェルは優しいので、いつもレイラを宥めてくれる。
「……姉上、アイザック殿はかっこいい方ですし、将来の公爵様じゃないですか。この上なく良い相手だと思いますが。もっと歩み寄る努力もするべきでは?」
「嫌よ、私はアシェルと遊んでる方がずっと楽しいし、結婚なんかしないでずっとアシェルと一緒にいたいわ」
「……。そういわれても。俺も将来奥さんをもらうでしょうし、ずっと二人姉弟仲良くというわけにはいかないでしょう」
「……」
そうアシェルに言われたとき、レイラは自分の想いに気付いたのだ。
自分が、この義弟に恋をしている、ということ。そして、まだ見ぬアシェルの『将来の奥さん』に対してたまらず嫉妬してしまうことに。
それからのレイラの行動は早かった。元々噂で聞いていたサルサウ村の魔法使いの元に、幼いときから貯めた全財産を持って一人で向かったのだ。
そして、無事にジョアンナに魔法をかけてもらい、アイザックへの偽の恋心を宿し、アシェルへの恋心を封じ、その記憶を消した。
――その魔法が先ほど解かれてしまった。
「ごめんなさい、アシェル……私あなたにこんな気持ちを持ってしまって……。義理とはいえ姉から想われるなんて気持ち悪いわよね」
「姉上……俺は……」
「私、なるべく早く家を出るから許してちょうだい」
「!? 何を……」
「アシェルにこの気持ちがバレてしまったし、どんな顔して侯爵家にいたら良いか分からないわ。帰ったらお父様に早めに次の嫁ぎ先を探してもらうようお願いするわ」
さきほどまでレイラはアイザックへの気持ちでいっぱいで、次の嫁ぎ先を考えることなど遠い未来に思えていた。しかし、今はアイザックへの恋心は完全に消え去った代わりに、アシェルへの想いで苦しくなっている。
(……アシェルの言ったとおりだわ)
ずっと姉弟二人仲良くというわけにはいかないのだ。
「――姉上!」
アシェルが突然レイラの前に跪いた。
「姉上がアイザック殿への気持ちの整理がつき、父上にも承諾をもらってから、と思っておりましたが、……予定が狂いましたので今お伝えします」
「え……何、アシェル」
「……ずっと貴女をお慕いしておりました。俺と結婚してください」
アシェルはレイラの手を取ると、しっかりと目を見ながら懇願するように言葉を放った。
「……? …………ええ?! え、ななななな何言ってるの、アシェル!?」
アシェルから言われた言葉に、理解が追い付かないレイラは動揺する。
(……アシェルが、私にプ、プロポーズした……?)
「今まで姉上はアイザック殿に好意を寄せていると思っていましたので、俺は身を引くしかないと思っていました。……しかし、アイザック殿が浮気男ということを知り、そんな相手に嫁がせるくらいなら、婚約破棄させ、あわよくば俺が娶りたく……父上に直談判しようと、計画を練っておりました」
「……そ、そうなの? でもあなた、昔は私とアイザック様とのこと、応援していたじゃない」
「それは……子供でしたから。姉上がアイザック殿より俺と一緒にいることを望んでくれているのを知っていて、何か優越感のようなものを感じていました。しかし、あるとき貴女が突然アイザック殿へ好意を抱いたのを知って、絶望しました。……そのとき、自分の気持ちに気付いたのです」
アシェルの告白に、レイラは驚きを隠せない。レイラがジョアンナにかけてもらった魔法がきっかけで、アシェルはレイラへの想いに気付いたのだ。
(何ということかしら……)
「アシェル……、お父様は許してくれるかしら」
レイラはポツリと言う。
「……俺が説得します。殴られる覚悟です」
「……。私も一緒に説得するわ」
「姉上、……では、」
「ええ、求婚お受けするわ、アシェル」
レイラは顔から火が出そうになるのを堪えながら、アシェルのプロポーズに応えたのだ。
アシェルは心の底から嬉しそうな顔をすると立ち上がり、レイラを力強く抱きしめた。レイラも感極まり、アシェルの背中に手を回す。
「あのー、ここであんまり盛り上がらないでね」
突然ジョアンナの声が割って入った。
完全に二人きりの世界になっていたレイラ達は「すみません……」と謝罪する。
そして二人顔を合わせて笑いあった。
アシェルが、依頼の内容を読み進める。
一つ目の魔法:レイラから婚約者であるアイザック・クレメントへ恋心を発生させる。
二つ目の魔法:レイラから義弟であるアシェル・クラークへの恋心を消滅させる。
三つ目の魔法:レイラが魔法使いジョアンナに上記の依頼をした事実、及びアイザックとアシェルへ元々抱いていた想いを記憶から消す。
「……姉上、これは……」
「……ごめんなさい、アシェル。私、全部思い出したわ……」
――十二歳のときにできた義弟のアシェル。アシェルは少し人見知りでクールな子だったが、レイラは仲良くなりたくて事ある毎に構い倒していた。その内に彼もレイラに心を開き、仲良くなることができた。
十三歳のときにレイラとアイザックの婚約が結ばれた。
アイザックは公爵令息の自分は好かれて当然、という態度の傲慢な少年であった。
婚約者候補である令嬢達とのパーティーでは、自分が気に入らない令嬢に対して、冷たい態度を取ったり、他の取り巻きの令嬢たちとターゲットの令嬢の悪口を言ったりしていた。そんな場面を目撃していたレイラは、アイザックのことを好きではなかった。
そして、レイラは本音に反して媚を売るような性格ではなかったため、アイザックもあまりレイラのことを気に入ってはいなかった。
しかし、そんな当人達の思いとは裏腹に、クレメント公爵家からの熱心な打診により、レイラとアイザックの婚約が決まってしまった。
レイラは定期的に行われる公爵家でのアイザックとのお茶会で、アシェルと遊ぶ時間がなくなるのが嫌だった。
「私、アイザック様のことあんまり好きじゃないわ。なんでお父様は私の婚約者をアイザック様に決めてしまったのかしら。ねえアシェル、どうしたら婚約破棄ってできると思う?」
貴族同士の婚姻とは、本人たちの好き嫌いでどうにかなるものではない。そんなことはレイラも重々承知だったが、レイラはアシェルに甘えていて、ただ聞いてほしかったのだ。
アシェルは優しいので、いつもレイラを宥めてくれる。
「……姉上、アイザック殿はかっこいい方ですし、将来の公爵様じゃないですか。この上なく良い相手だと思いますが。もっと歩み寄る努力もするべきでは?」
「嫌よ、私はアシェルと遊んでる方がずっと楽しいし、結婚なんかしないでずっとアシェルと一緒にいたいわ」
「……。そういわれても。俺も将来奥さんをもらうでしょうし、ずっと二人姉弟仲良くというわけにはいかないでしょう」
「……」
そうアシェルに言われたとき、レイラは自分の想いに気付いたのだ。
自分が、この義弟に恋をしている、ということ。そして、まだ見ぬアシェルの『将来の奥さん』に対してたまらず嫉妬してしまうことに。
それからのレイラの行動は早かった。元々噂で聞いていたサルサウ村の魔法使いの元に、幼いときから貯めた全財産を持って一人で向かったのだ。
そして、無事にジョアンナに魔法をかけてもらい、アイザックへの偽の恋心を宿し、アシェルへの恋心を封じ、その記憶を消した。
――その魔法が先ほど解かれてしまった。
「ごめんなさい、アシェル……私あなたにこんな気持ちを持ってしまって……。義理とはいえ姉から想われるなんて気持ち悪いわよね」
「姉上……俺は……」
「私、なるべく早く家を出るから許してちょうだい」
「!? 何を……」
「アシェルにこの気持ちがバレてしまったし、どんな顔して侯爵家にいたら良いか分からないわ。帰ったらお父様に早めに次の嫁ぎ先を探してもらうようお願いするわ」
さきほどまでレイラはアイザックへの気持ちでいっぱいで、次の嫁ぎ先を考えることなど遠い未来に思えていた。しかし、今はアイザックへの恋心は完全に消え去った代わりに、アシェルへの想いで苦しくなっている。
(……アシェルの言ったとおりだわ)
ずっと姉弟二人仲良くというわけにはいかないのだ。
「――姉上!」
アシェルが突然レイラの前に跪いた。
「姉上がアイザック殿への気持ちの整理がつき、父上にも承諾をもらってから、と思っておりましたが、……予定が狂いましたので今お伝えします」
「え……何、アシェル」
「……ずっと貴女をお慕いしておりました。俺と結婚してください」
アシェルはレイラの手を取ると、しっかりと目を見ながら懇願するように言葉を放った。
「……? …………ええ?! え、ななななな何言ってるの、アシェル!?」
アシェルから言われた言葉に、理解が追い付かないレイラは動揺する。
(……アシェルが、私にプ、プロポーズした……?)
「今まで姉上はアイザック殿に好意を寄せていると思っていましたので、俺は身を引くしかないと思っていました。……しかし、アイザック殿が浮気男ということを知り、そんな相手に嫁がせるくらいなら、婚約破棄させ、あわよくば俺が娶りたく……父上に直談判しようと、計画を練っておりました」
「……そ、そうなの? でもあなた、昔は私とアイザック様とのこと、応援していたじゃない」
「それは……子供でしたから。姉上がアイザック殿より俺と一緒にいることを望んでくれているのを知っていて、何か優越感のようなものを感じていました。しかし、あるとき貴女が突然アイザック殿へ好意を抱いたのを知って、絶望しました。……そのとき、自分の気持ちに気付いたのです」
アシェルの告白に、レイラは驚きを隠せない。レイラがジョアンナにかけてもらった魔法がきっかけで、アシェルはレイラへの想いに気付いたのだ。
(何ということかしら……)
「アシェル……、お父様は許してくれるかしら」
レイラはポツリと言う。
「……俺が説得します。殴られる覚悟です」
「……。私も一緒に説得するわ」
「姉上、……では、」
「ええ、求婚お受けするわ、アシェル」
レイラは顔から火が出そうになるのを堪えながら、アシェルのプロポーズに応えたのだ。
アシェルは心の底から嬉しそうな顔をすると立ち上がり、レイラを力強く抱きしめた。レイラも感極まり、アシェルの背中に手を回す。
「あのー、ここであんまり盛り上がらないでね」
突然ジョアンナの声が割って入った。
完全に二人きりの世界になっていたレイラ達は「すみません……」と謝罪する。
そして二人顔を合わせて笑いあった。
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